冷媒配管と圧力容器 — 冷凍装置の「血管」と「心臓の殻」
冷凍装置の中を冷媒がぐるぐる回っていることは、これまでの記事で学びましたよね。でも、その冷媒が流れる「道」=冷媒配管の設計を間違えると、冷凍装置は能力を発揮できません。
人間の体に例えれば、冷媒は「血液」、配管は「血管」、圧力容器は「心臓や内臓を守る骨格」です。血管が細すぎたり詰まったりすれば体は不調になりますよね。冷凍装置も同じです。
第三種冷凍機械責任者の試験では、フラッシュガスの発生原因と防止策、吸込み管の油戻し勾配、設計圧力と最高使用圧力の関係、腐れしろの数値が頻出です。数値問題はゴロ合わせで覚えましょう!
冷媒配管の設計 — 3つの配管それぞれの注意点
冷凍装置の配管は、大きく分けて3種類あります。それぞれ通る冷媒の状態が違うので、設計のポイントも異なります。
| 配管の名前 | 通る冷媒の状態 | 設計の最重要ポイント |
|---|---|---|
| 吸込み管 | 低温・低圧の蒸気 | 油戻しの勾配、圧力降下を小さく |
| 吐出し管 | 高温・高圧の蒸気 | 油戻しの勾配、振動対策 |
| 液管 | 常温・高圧の液体 | フラッシュガス防止 |
冷凍サイクルと3つの配管
―吐出し管―→
凝縮器
―液管―→
膨張弁
→
蒸発器
―吸込み管―→
圧縮機へ
■ 液管(高圧の液体)
■ 吸込み管(低温・低圧ガス)
吸込み管(きゅうこみかん)
吸込み管は、蒸発器から圧縮機に向かって低温・低圧のガス冷媒が流れる配管です。
最大のポイントは「油戻し」です。圧縮機から出た潤滑油は冷媒と一緒に装置を回り、最終的に吸込み管を通って圧縮機に戻ってきます。ところが、吸込み管はガス冷媒が低速で流れるため、油が配管の底に溜まりやすいのです。
吸込み管は、圧縮機に向かって下り勾配(1/200〜1/150程度)をつけて、油が自然に圧縮機へ戻るようにします。立ち上がり管(上向きの管)がある場合は、ガス冷媒の流速を十分に確保して油を押し上げる必要があります。
また、吸込み管は低温なので周囲の熱を吸収しやすく、断熱材で保温することが重要です。保温しないと、冷媒が余計な熱を吸って冷凍能力が低下します。
吐出し管(としゅつかん)
吐出し管は、圧縮機から凝縮器に向かって高温・高圧のガス冷媒が流れる配管です。
圧縮直後のガスは非常に高温(80〜150℃にもなることがあります)なので、配管の熱膨張や振動に注意が必要です。吐出し管も吸込み管と同様に、油が戻れるような勾配をつけます。凝縮器に向かって下り勾配にするのが基本です。
液管(えきかん)
液管は、凝縮器から膨張弁に向かって高圧の液冷媒が流れる配管です。
液管で最も注意すべきはフラッシュガスの問題です。
フラッシュガス — 液管の大敵!
フラッシュガスとは?
フラッシュガスとは、液管の中で液冷媒の一部が蒸発してしまう現象で発生するガスです。
炭酸飲料で例えましょう。冷蔵庫で冷やしてある炭酸水のペットボトルを開けても、あまり泡は出ませんよね。でも、常温で温まった炭酸水を開けると、シュワーッと大量の泡が出ます。これと同じで、液冷媒も温度が上がったり圧力が下がったりすると、液の中からガスが発生してしまうのです。
フラッシュガスが発生する原因
- 液管が長い・管径が小さい:配管の摩擦抵抗で圧力が下がる
- 液管が立ち上がっている:液柱の重さで下部の圧力が下がる
- 液管が高温の場所を通る:周囲の熱で液冷媒が温まる
- 過冷却度が不足:凝縮器で十分に冷やされていない
フラッシュガスの悪影響と防止策
・膨張弁にガスが入ると、冷媒の流量が不安定になる
・冷凍能力が低下する
・膨張弁が「ハンチング」(開閉を繰り返す不安定動作)を起こす
| 原因 | 防止策 |
|---|---|
| 圧力降下 | 液管をできるだけ短く、管径を十分に確保する |
| 液柱による圧力降下 | 凝縮器を蒸発器より高い位置に設置する(液ヘッドを確保) |
| 外部からの加熱 | 液管を断熱する、高温配管から離す |
| 過冷却不足 | 凝縮器で十分な過冷却をとる、液ガス熱交換器を設置する |
配管材料 — 銅管と鋼管の使い分け
銅管(どうかん)
冷凍装置の配管には銅管が広く使われます。銅管は加工しやすく、ろう付け(はんだ付けに似た接合方法)で配管を接続できます。フルオロカーボン冷媒の冷凍装置に最適です。
ただし、アンモニア冷媒の装置には銅管は使えません。アンモニアは銅を腐食させる性質があるからです(冷媒の記事で解説)。
鋼管(こうかん)
アンモニア冷媒の装置や、大型の冷凍装置では鋼管(鉄の管)を使います。鋼管は強度が高く、溶接で接合します。小口径の配管ではフレア継手(管の先端をラッパ状に広げて接続する方法)も使われます。
ビルの空調設備を見ると、室外機と室内機をつなぐ銅管に断熱材が巻かれているのがわかります。あの白やグレーの保温材の中にあるのが銅管です。一方、大型の冷凍倉庫でアンモニア冷凍機を使っている現場では、銅色の管は一切なく、すべて鉄パイプ(鋼管)になっています。
圧力容器の設計圧力と腐れしろ
設計圧力(せっけいあつりょく)とは?
圧力容器(凝縮器・受液器・蒸発器など、冷媒を貯めたり通したりする容器)を作るとき、どれくらいの圧力に耐えられるように設計するかを決める必要があります。これが設計圧力です。
設計圧力 ≧ 最高使用圧力
設計圧力は、その容器に加わる可能性がある最も高い圧力(最高使用圧力)以上でなければなりません。安全のために「最悪の場合」を想定して設計するということです。
高圧部(圧縮機から膨張弁まで)と低圧部(膨張弁から圧縮機まで)で最高使用圧力が異なるため、それぞれの部分ごとに設計圧力を決めます。
腐れしろ(くされしろ)とは?
「腐れしろ」は、長年使っているうちに腐食(さび)で薄くなる分をあらかじめ見込んで、板を厚めにしておくことです。正式には「腐食しろ」とも言います。
木造住宅のシロアリ対策に似ています。「いずれ虫に食われるかもしれないから、柱を少し太めにしておこう」という発想です。
・鋼製の圧力容器:腐れしろは1mm以上
・ただし、冷媒に触れる側が腐食のおそれがない場合(例:銅やステンレスの内面)は腐れしろを取らなくてよい
圧力容器の板厚
圧力容器の板(胴板・鏡板)の厚さは、以下の3つから決まります。
- 設計圧力に耐えられる厚さ(強度計算で求める)
- 腐れしろを加えた厚さ
- 最小板厚の規定(薄すぎると製造時に変形する)
実務・日常での具体例
エアコンの取り付け工事で業者さんが銅管を曲げたり接続したりしているのを見たことはありませんか?あのとき使っているのが「フレア加工」です。銅管の先端をラッパ状に広げて、ナットで締めて接続します。フレア面にゴミが入ると冷媒漏れの原因になるため、業者さんは管端を丁寧に仕上げています。
ビルの屋上に設置された大型チラー(冷凍機)を見ると、配管に太い断熱材が巻かれているのがわかります。これは冷水配管だけでなく、冷媒の液管にも断熱処理をして、フラッシュガスを防いでいるのです。特に夏場、屋上は40℃を超えることもあるため、断熱は欠かせません。
大型の冷凍倉庫ではアンモニア冷凍機がよく使われます。この場合、配管はすべて鋼管(鉄管)です。アンモニアは銅を腐食させるので、銅管は一切使えません。現場に入ると、配管が鉄色(グレーや錆止め塗装の色)をしているのですぐにわかります。
よくある疑問・間違い
Q. フラッシュガスと「フラッシュ蒸発」は同じ意味?
はい、ほぼ同じです。液体が急激に圧力を下げられて蒸発する現象を「フラッシュ蒸発」と呼び、そのときに発生するガスが「フラッシュガス」です。膨張弁で意図的にフラッシュ蒸発を起こすのは正常ですが、液管の中で起きてしまうのが問題です。
Q. 設計圧力は「最高使用圧力と同じ」でいい?
同じでもOKです。ルールは「設計圧力 ≧ 最高使用圧力」なので、「以上」であれば問題ありません。実務では安全余裕を持って少し高めに設定することが多いです。
Q. 腐れしろ1mmは鋼製だけ?銅製は?
腐れしろ1mm以上の規定は鋼製(鉄製)の圧力容器に適用されます。銅は鉄に比べて腐食しにくいため、冷媒に接する面が銅の場合は腐れしろを取らなくてよいとされています。
理解度チェック(4問)
五肢択一で実力を確認しましょう!
【第1問】冷媒配管に関する記述として、正しいものはどれか。
(1)吸込み管は圧縮機から遠ざかる方向に下り勾配をつける。
(2)液管の中でフラッシュガスが発生しても冷凍能力に影響はない。
(3)吸込み管は低温のため、断熱材で保温する必要がある。
(4)吐出し管は低温・低圧のガスが流れる配管である。
(5)液管には常にガス冷媒が流れている。
【第2問】フラッシュガスの発生防止策として、誤っているものはどれか。
(1)液管をできるだけ短くし、管径を十分に確保する。
(2)凝縮器で十分な過冷却をとる。
(3)液管を高温の配管のそばに配置する。
(4)受液器や凝縮器を蒸発器より高い位置に設置する。
(5)液ガス熱交換器を設置して過冷却度を大きくする。
【第3問】圧力容器の設計に関する記述として、正しいものはどれか。
(1)設計圧力は最高使用圧力より低くてもよい。
(2)鋼製の圧力容器の腐れしろは0.5mm以上とする。
(3)設計圧力は最高使用圧力以上でなければならない。
(4)腐れしろは銅製の圧力容器にのみ適用される。
(5)圧力容器の板厚は腐れしろを含めずに決定する。
【第4問】冷媒配管の材料に関する記述として、誤っているものはどれか。
(1)フルオロカーボン冷媒の装置には銅管が広く使われる。
(2)アンモニア冷媒の装置には銅管を使用できない。
(3)鋼管はアンモニア冷媒の装置に使用される。
(4)フレア継手は管の先端をラッパ状に広げて接続する方法である。
(5)アンモニア冷媒の装置には銅管が最も適している。
まとめ
この記事で学んだこと
- 吸込み管:低温のガス冷媒が流れる。圧縮機に向かって下り勾配をつけて油を戻す。断熱が必要
- 吐出し管:高温・高圧のガス冷媒が流れる。振動対策と油戻しの勾配が重要
- 液管:高圧の液冷媒が流れる。フラッシュガスの防止が最重要
- フラッシュガス:液管で液冷媒が蒸発してしまう現象。過冷却・断熱・液ヘッドの確保で防ぐ
- 配管材料:フルオロカーボンは銅管、アンモニアは鋼管
- 設計圧力:最高使用圧力以上にする
- 腐れしろ:鋼製は1mm以上。銅製で腐食のおそれがなければ不要
前の記事 → 自動制御機器の種類と役割
次回は「安全装置と圧力試験(安全弁・溶栓・破裂板・耐圧試験・気密試験)」を解説します。
試験頻出ポイント
- 吸込み管の勾配 → 圧縮機に向かって下り勾配(油戻しのため)。断熱も必要
- フラッシュガスの原因 → 液管の圧力降下・外部加熱・過冷却不足。防止策は配管短縮・断熱・液ヘッド確保
- 配管材料:フルオロカーボン=銅管、アンモニア=鋼管(銅はアンモニアに腐食される)
- 設計圧力 ≧ 最高使用圧力(絶対に下回ってはならない)
- 腐れしろ:鋼製圧力容器は1mm以上。腐食のおそれがなければ不要
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