この記事で分かること
- スケールとスラッジを「付着性」で区別する方法
- 酸素孔食・炭酸腐食・苛性脆化・アルカリ腐食の違い
- わずかな硬度漏れが1か月で持ち込む量の計算
- 低温腐食を水側腐食と混同しない判断手順
結論:白い付着物を見て「軟化装置が悪い」、穴を見て「酸素腐食」と即断してはいけません。発生した側、形、場所、水質・運転記録を組み合わせて原因を絞ります。スケールは伝熱を妨げ、腐食は肉厚を奪いますが、堆積物の下で局部腐食が進むこともあり、二つは別々とは限りません。
また、旧本文の「pHは一律11〜11.8」「アルカリ腐食は粒界割れ」という表現は修正しました。適正pHは設備条件で異なり、粒界割れを生じる苛性脆化と、保護皮膜を溶かして減肉させるアルカリ腐食は区別します。
公式資料の確認先
- 安全衛生技術試験協会:スケール・溶存O₂/CO₂を扱う二級公表問題(PDF)
- 安全衛生技術試験協会:令和7年10月掲載 二級公表問題(PDF)
- 安全衛生技術試験協会:腐食・劣化・損傷を扱う一級公表問題(PDF)
- 安全衛生技術試験協会:令和8年4月掲載 二級公表問題(PDF)
- 日本ボイラ協会:水管理委員会
公式資料確認日:2026年7月28日。実機の異常では運転を続けて自己判断せず、製造者・検査担当者・水処理会社の手順と、設備に適用される水質基準を優先してください。
最初に「付着」と「減肉」を分ける
| 見え方 | 主な候補 | 次に確認 |
|---|---|---|
| 硬く固着 | スケール | 硬度・シリカ・付着分析 |
| 泥状・軟質 | スラッジ | 吹出し・薬注・滞留部 |
| 点状の深い穴 | 孔食 | 溶存酸素・停止履歴 |
| 溝・割れ・広い減肉 | 応力・濃縮・酸性水など | 位置・応力・pH・肉厚 |
外観は入口にすぎません。付着物を除去した下に孔食が隠れることもあります。停缶・冷却・開放の手順を守り、写真、採取位置、付着物、肉厚測定値を対応させて記録します。
スケールとスラッジの決定的な違い
スケールは伝熱面などへ硬く固着した付着物、スラッジは缶水中の懸濁物や底部へ沈む泥状沈殿物です。公表問題では「スケールをドラム底部の軟質沈殿物とする説明」が誤りとして出題されています。
スケール障害の連鎖
硬度漏れ・濃縮
Ca・Mg・シリカ等を持込む
加熱・析出・固着
伝熱面へ熱抵抗を作る
伝熱低下
燃料増加・金属温度上昇
強度低下
膨出・割れ・漏れの危険
スケールの熱伝導率は炭素鋼より低いため、熱が水へ逃げにくくなります。「水が沸きにくい」だけではなく、火側の金属温度が上がって強度が低下することが安全上の本質です。
原因成分だけで名称を決めない
| 主な成分・状態 | 起こり得ること | 管理の入口 |
|---|---|---|
| Ca・Mg硬度 | 析出・付着、スラッジ | 軟化出口硬度 |
| シリカ | 硬質な付着、蒸気汚染 | 補給水・缶水分析 |
| 鉄酸化物・油 | 堆積、局部濃縮の起点 | 復水・給水汚染 |
化学組成だけでなく、結晶構造、温度、圧力、薬品、流れで付着性は変わります。「炭酸カルシウムなら必ず軟らかい」「シリカなら高圧だけ」と固定して覚えず、分析結果と運転条件を照合します。
小さな硬度漏れを量で見る
軟化装置出口の残留硬度が2mgCaCO₃/L、1日の補給水が10m³だったとします。
1日:2mg/L × 10,000L = 20,000mg = 20g
30日:20g/日 × 30日 = 600gCaCO₃相当
これは補給水から持ち込まれる硬度の換算量であり、600g全てがスケールになるという意味ではありません。
一回の測定値が小さく見えても、連続運転では積算されます。出口硬度が立ち上がる貫流点、再生時刻、補給水量を一緒に記録すると、持込み量を減らせます。軟化処理の計算は「ボイラー用水処理(軟化・脱気・清缶剤)」で詳しく解説しています。
水側腐食は「原因・形・場所」で覚える
| 現象 | 機構・見分け方 | 主な抑制 |
|---|---|---|
| 酸素孔食 | O₂と局部電池で深い点状腐食 | 脱気、脱酸素、空気漏入防止 |
| 炭酸腐食 | CO₂が復水で炭酸となり減肉 | 脱気、復水pH・鉄の監視 |
| 苛性脆化 | 高濃度アルカリ・引張応力・すき間で粒界割れ | 局部濃縮と遊離NaOHを避ける |
| アルカリ腐食 | 濃縮NaOHが保護皮膜を溶かし減肉 | 堆積防止、pH・薬注管理 |
| 接触腐食 | 異種金属と電解質で卑な側が腐食 | 材料選定、絶縁、面積比配慮 |
孔食は「酸素だけ見れば確定」ではない
公表問題では、ピッチング(孔食)は主として水中の溶存酸素の作用で生じると整理されます。ただし実機では、保護皮膜の傷、堆積物、水線、停止中の空気流入などが局部電池を作ります。給水の溶存酸素だけでなく、脱気器出口、薬剤残留、休止保存、空気漏入を追います。
O₂とCO₂は腐食する場所が違う
O₂は深い点食につながりやすく、CO₂は蒸気とともに移動して復水へ溶け、炭酸を作って復水配管を減肉させます。復水のpH低下や鉄増加は、戻り配管側の異常を探す手掛かりです。復水は硬度が低くても「腐食性がない水」とは限りません。
苛性脆化とアルカリ腐食を混同しない
試験の識別ポイント
苛性脆化:すき間への浸入 → 蒸発濃縮 → 引張応力下で結晶粒界に沿う割れ
アルカリ腐食:堆積物下などで濃縮したNaOH → マグネタイト保護皮膜が溶解 → 局部減肉
どちらもアルカリの局部濃縮が関わりますが、損傷形態が異なります。公表問題で「アルカリ腐食が結晶粒界割れを起こす」と書かれていたら、苛性脆化との取り違えを疑います。
低温腐食は煙側で起こる
低温腐食は、ここまでの水側腐食とは別です。重油などの硫黄分から生じたSO₂の一部がSO₃となり、水蒸気と化合して硫酸蒸気になります。これが酸露点以下の伝熱面へ凝縮すると、エコノマイザや空気予熱器など煙道の低温部を腐食します。
硫黄分 → SO₂ → 一部がSO₃ → H₂SO₄蒸気
金属表面温度が酸露点を下回る → 硫酸が凝縮 → 低温腐食
防止の方向は、硫黄分の少ない燃料、空気漏入の防止、過剰空気の適正化、給水温度を上げてエコノマイザ伝熱面を冷やし過ぎないこと、添加剤や耐食材料などです。給水温度を下げる対策は逆であり、最新の二級公表問題でも誤りとして問われています。
異常を見つけたときの原因切分け
- 発生側:水側か、燃焼ガス側か、復水系かを特定する。
- 形と位置:硬質付着、泥状、点、溝、割れ、全面減肉を写真と図面へ残す。
- 直前の変化:硬度、pH、電気伝導率、溶存酸素、鉄、薬注、吹出し、補給水量、燃料と排ガスを時系列で並べる。
- 確認分析:付着物分析、肉厚測定、割れ検査で仮説を確かめる。
- 再発防止:原因となる装置・運用を直し、再開後の監視頻度を一時的に上げる。
酸洗浄は材質、薬品、濃度、温度、腐食抑制剤、排水処理を誤ると母材を傷めます。付着物を見ただけで薬品を選ばず、専門業者の洗浄計画と製造者の指示に従ってください。清掃・検査の流れは「ボイラーの清掃・整備」で整理しています。
理解度チェック
【問1】スケールとスラッジの説明として適切なものはどれですか。
(1) どちらも必ず硬く固着する
(2) スケールは軟質沈殿物だけをいう
(3) スラッジは吹出しで排出できない
(4) スケールは伝熱面などへ固着し、スラッジは泥状沈殿物である
(5) 成分が同じなら付着状態も必ず同じである
【問2】残留硬度2mgCaCO₃/Lの補給水を1日10m³、30日使ったときの持込み量はどれですか。
(1) 6g
(2) 20g
(3) 60g
(4) 600g
(5) 6,000g
【問3】苛性脆化に特徴的な説明はどれですか。
(1) SO₃による煙側低温部の腐食
(2) CO₂による復水配管の全面減肉
(3) 局部濃縮したアルカリと引張応力による粒界割れ
(4) 異種金属を使わなくても必ず起きる接触腐食
(5) 硬度成分が泥状になる現象
【問4】重油燃焼ボイラーの低温腐食を抑える方向として不適切なものはどれですか。
(1) 硫黄分の少ない燃料を選ぶ
(2) 煙道への空気漏入を抑える
(3) 給水温度を上げる
(4) 過剰空気を適正化する
(5) 給水温度を下げてエコノマイザ金属面を冷やす
関連学習とまとめ
スケールは付着による熱抵抗、腐食は化学・電気化学反応による減肉や割れです。硬度漏れ、濃縮、溶存気体、不適切な薬注、停止中の空気流入を測定点ごとに管理し、外観だけで原因を決めないことが再発防止につながります。
最終更新日:2026年7月28日
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