結論:貯水槽は「安全な水を溜めて届けるための容器」であり管理がすべて
結論から言います。貯水槽(受水槽・高置水槽)は、建物に安全な水を安定供給するための「水の保管庫」です。そして、その保管庫を適切に管理できるかどうかが、入居者の健康を左右します。
どれだけ水道局がきれいな水を送ってくれても、貯水槽の管理がずさんだと意味がありません。水槽の中にサビや藻が発生すれば、蛇口から出る水は汚染されてしまいます。
ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)試験では、貯水槽の構造・材質・容量の基準と簡易専用水道の管理義務が繰り返し出題されます。特に「受水槽の有効容量10m³超=簡易専用水道」は、ほぼ毎回登場する超頻出知識です。
この記事では、貯水槽の構造から管理方法まで、現場で役立つ実務知識と試験対策をセットで解説します。
貯水槽の種類と役割
建物の給水システムで使われる貯水槽は、主に受水槽と高置水槽の2種類です。
| 種類 | 設置場所 | 役割 |
|---|---|---|
| 受水槽 | 地下1階・1階の機械室 | 水道本管から供給された水を一時的に貯留 |
| 高置水槽 | 屋上 | 揚水ポンプで汲み上げた水を溜め、重力で各階に配水 |
給水方式と給水設備の記事で解説したように、高置水槽方式では受水槽と高置水槽の2つが必要です。ポンプ直送方式では受水槽のみ使用します。
貯水槽の材質(★試験頻出★)
貯水槽にどんな材料を使うかは、水質と耐久性に直結する重要なポイントです。
FRP(繊維強化プラスチック)製
現在最も広く使われている材質です。ガラス繊維で補強されたプラスチックで、軽くて丈夫、さびないのが特長です。
FRP製水槽はパネルを組み合わせて現場で組み立てるのが一般的です。搬入口が狭い地下でも、パネル単位で運べるため設置しやすいというメリットがあります。
ただし、光を通しやすいという弱点があります。太陽光が水槽内に入ると藻(もう)が繁殖する原因になるため、遮光対策が必須です。特に屋上に設置する高置水槽では、遮光パネル付きのFRP水槽を選定するか、外側に遮光カバーを取り付けます。
ステンレス鋼板製
耐食性に優れ、衛生的で長寿命の材質です。FRPと並んで主流の選択肢です。
表面が滑らかでスライム(微生物の膜)が付着しにくく、光を通さないため藻の繁殖リスクがありません。価格はFRPより高めですが、衛生面を重視する病院やホテルではステンレス製が選ばれることが多いです。
鋼板製(鉄製)
古い建物で見かける材質です。内面に防錆塗装を施して使いますが、経年劣化で塗膜が剥がれるとさびが発生します。
赤水(蛇口から赤茶色の水が出る現象)のトラブルの多くは、鋼板製受水槽のサビが原因です。現在の新設ではほとんど使われませんが、古いビルでは今でも残っています。リニューアル時にFRP製やステンレス製に交換するのが望ましいとされています。
コンクリート製
建物の構造体と一体化して作られる受水槽です。地下ピット型の大容量水槽で使われることがあります。
耐久性は高いですが、内面の防水処理が劣化するとコンクリートからアルカリ成分が溶出し、水のpHが上昇する可能性があります。また、構造上6面点検が難しいケースがあり、現在の新設では推奨されていません。
| 材質 | 特徴 |
|---|---|
| FRP製 | 軽量・安価・現場組立可。光を通すため遮光対策が必要 |
| ステンレス製 | 衛生的・長寿命・遮光性あり。高価 |
| 鋼板製 | 安価だが錆びやすい。古いビルに残存。赤水の原因になる |
| コンクリート製 | 大容量可。アルカリ溶出リスクあり。6面点検が困難な場合も |
貯水槽の構造と設置基準
貯水槽は「水を溜めるだけの箱」ではありません。安全で衛生的な水を供給するために、構造や設置方法にさまざまな基準があります。
6面点検の確保(★超頻出★)
受水槽は、上・下・左・右・前・後ろの6面すべてから点検できるように設置しなければなりません。壁や床との間に60cm以上の間隔(保守点検スペース)を確保することが求められます。
なぜ6面点検が必要かというと、水漏れ・ひび割れ・外部からの汚染がないかを確認するためです。もし壁に密着して設置してしまうと、裏側にひび割れがあっても発見できず、そこから汚水が侵入するリスクがあります。
実務では、古いビルで受水槽が壁にぴったりくっついているケースに遭遇することがあります。これは建築当時の基準が緩かった名残で、リニューアル時に改善が求められます。
マンホール(点検口)
水槽の上部には直径60cm以上の円形マンホール(または同等の面積の角型マンホール)を設けます。清掃作業員が水槽内に入って作業するための出入口です。
マンホールのふたは防水密閉型で、施錠できる構造にします。雨水やほこり、虫の侵入を防ぐためです。また、ふたの面は水槽の上面より10cm以上立ち上げた位置に設けます。これは、屋上に溜まった雨水がマンホールの隙間から水槽内に流れ込むのを防ぐためです。
オーバーフロー管と通気管
- オーバーフロー管:水位が異常に上昇したとき、水を排水するための管。先端には防虫網を取り付ける
- 通気管:水槽内の空気を入れ替えるための管。水の出し入れに伴う気圧変化を調整する役割も果たす。先端には防虫網を取り付ける
オーバーフロー管も通気管も、先端に防虫網(メッシュ)を取り付けることが義務付けられています。ネズミや虫が管を通って水槽内に侵入するのを防ぐためです。
水槽内部の構造
- 水抜き管:清掃時に水を完全に排出するための管。水槽の最低部に設ける
- バッフルプレート(整流板):水槽内の水の流れを整え、滞留水(デッドウォーター)を防ぐための板。流入口から流出口まで水が均一に入れ替わるように設置する
バッフルプレートがないと、流入口と流出口が近い場合に一部の水だけが循環し、残りの水が長時間滞留してしまいます。滞留水は残留塩素が消失し、細菌が繁殖しやすくなる原因です。
受水槽の容量設計
受水槽と高置水槽の容量は、建物の使用水量に基づいて決めます。
| 水槽 | 容量の目安 |
|---|---|
| 受水槽 | 1日使用水量の 4/10〜6/10 |
| 高置水槽 | 1日使用水量の 1/10 程度 |
たとえば、1日使用水量が100m³のオフィスビルなら、受水槽の容量は40〜60m³、高置水槽は約10m³が目安です。
ここで重要なのは、容量は大きすぎてもダメということです。容量が過大だと水の滞留時間が長くなり、残留塩素が消失して水質が悪化します。「安心のために大きめのタンク」ではなく、適切なサイズの選定が水質管理の第一歩です。
簡易専用水道の管理(★超頻出★)
水道の分類と水質基準の記事でも解説しましたが、ビル管理士にとって最も重要な水道区分が簡易専用水道です。ここでは管理義務をさらに深掘りします。
簡易専用水道とは?
水道事業者から供給を受ける水のみを水源とし、受水槽の有効容量が10m³を超えるものです。ほとんどのオフィスビル・マンション・商業施設がこれに該当します。
管理基準(水道法施行規則 第55条)
簡易専用水道の設置者は、以下の管理を行わなければなりません。
| 管理項目 | 内容 |
|---|---|
| 受水槽の清掃 | 毎年1回以上 |
| 法定検査 | 厚生労働大臣の登録を受けた検査機関による検査を毎年1回以上 |
| 日常点検 | 有害物・汚水の混入防止、水槽の状態確認 |
| 汚染時の対応 | 直ちに給水停止→利用者への周知→保健所へ報告 |
清掃の実際
受水槽の清掃はどのように行われるのでしょうか。実務の流れを見てみましょう。
- 断水の告知:入居者に清掃日と断水時間を事前に通知
- 水抜き:水抜き管から水を排出し、水槽内を空にする
- 高圧洗浄:壁面・底面に付着した汚れ・スライムを高圧洗浄機で洗い落とす
- 消毒:次亜塩素酸ナトリウム溶液で水槽内面を消毒
- 水張り:きれいな水道水を注入し、残留塩素が基準値以上あることを確認
- 水質検査:色・濁り・臭い・味・残留塩素を検査
清掃には通常2〜4時間かかります。その間は断水になるため、日曜日の早朝など使用者の少ない時間帯に実施するのが一般的です。
法定検査の内容
法定検査では、登録検査機関の検査員が建物を訪問し、以下の3項目を検査します。
- 施設の外観検査:水槽の状態、マンホールの密閉状態、周辺の清潔さ
- 水質検査:色度・濁度・臭気・味・残留塩素
- 書類検査:清掃記録・水質検査記録・設備の図面
建築物衛生法による管理基準
建築物環境衛生管理基準(建築物衛生法)では、特定建築物の給水管理について追加の基準を定めています。これはビル管理士の本業に直結する基準です。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 遊離残留塩素 | 0.1 mg/L以上(結合残留塩素の場合0.4 mg/L以上) |
| 水質検査(残留塩素等) | 7日以内ごとに1回 |
| 水質検査(一般項目16項目) | 6ヶ月以内ごとに1回 |
| 受水槽の清掃 | 1年以内ごとに1回 |
「残留塩素は7日に1回測定」というのは、つまり週に1回は蛇口の水で残留塩素を測定しなさいという意味です。ビル管理の現場では、この検査はルーティンワークとして決まった曜日に行っています。
よくある疑問・間違い
Q1: 受水槽の有効容量が10m³ぴったりだと簡易専用水道になる?
なりません。簡易専用水道の要件は「有効容量が10m³を超えるもの」です。10m³ちょうどは「超える」に該当しないため、簡易専用水道ではなく「小規模貯水槽水道」に分類されます。試験ではこの境界を突いた問題が出ます。
Q2: 受水槽を大きくすれば断水時に安心?
一見そう思えますが、容量が大きすぎると水の滞留時間が長くなり水質が悪化します。残留塩素が消失し、細菌やレジオネラ属菌が繁殖するリスクが高まります。適切なサイズの選定が重要です。
Q3: 高置水槽がなぜ減少傾向にあるの?
主な理由は3つです。
- 衛生面:屋上に露出しているため水温上昇・残留塩素の消失が起きやすい
- スペース:屋上面積を占有する(ソーラーパネル等に使いたい)
- コスト:受水槽と高置水槽の2つを管理する必要がある
このため、新築ビルではポンプ直送方式や直結増圧方式への移行が進んでいます。
理解度チェック
【第1問】貯水槽の材質
貯水槽の材質に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
(1) FRP製水槽は、光を通しやすいため遮光対策が必要である。
(2) ステンレス鋼板製水槽は、耐食性に優れ衛生的である。
(3) 鋼板製水槽は、内面の防錆塗装が劣化すると赤水の原因になる。
(4) コンクリート製水槽は、6面からの点検が容易である。
(5) FRP製水槽は、パネル組立式のため搬入が容易である。
【第2問】受水槽の設置基準
受水槽の設置に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1) 受水槽は壁から30cm以上離して設置する。
(2) マンホールの直径は30cm以上とする。
(3) マンホールのふたは水槽上面と同じ高さに設ける。
(4) オーバーフロー管の先端には防虫網を取り付ける。
(5) 受水槽の有効容量は1日使用水量と同量以上とする。
【第3問】簡易専用水道
簡易専用水道の管理に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1) 受水槽の清掃を毎年1回以上行わなければならない。
(2) 厚生労働大臣の登録を受けた検査機関による検査を毎年1回以上受けなければならない。
(3) 水の色・濁り・臭い・味に異常があった場合は水質検査を行う。
(4) 受水槽の有効容量が10m³以下のものも簡易専用水道に含まれる。
(5) 汚染が判明した場合は、直ちに給水を停止し利用者に周知する。
【第4問】水質管理の頻度
特定建築物における給水の管理に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1) 残留塩素の検査は1ヶ月以内ごとに1回行う。
(2) 飲料水の一般項目の水質検査は1年以内ごとに1回行う。
(3) 残留塩素の検査は7日以内ごとに1回行う。
(4) 受水槽の清掃は6ヶ月以内ごとに1回行う。
(5) 飲料水の一般項目の水質検査は3ヶ月以内ごとに1回行う。
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まとめ
この記事では、貯水槽の構造・材質・管理方法について解説しました。最後に重要ポイントを振り返りましょう。
| テーマ | 暗記ポイント |
|---|---|
| FRP製水槽の弱点 | 光を通す→遮光対策が必要 |
| 6面点検 | 壁・床から60cm以上の間隔 |
| マンホール | 直径60cm以上、上面より10cm以上立ち上げ |
| 受水槽の容量 | 1日使用水量の4/10〜6/10 |
| 簡易専用水道 | 受水槽の有効容量10m³超(10m³ちょうどは含まない) |
| 清掃・検査の頻度 | 残留塩素=7日、一般項目=6ヶ月、清掃=1年 |
貯水槽の管理は、ビル管理士の実務で最も重要な業務の一つです。試験でも繰り返し出題されるテーマですので、数値と管理基準を正確に覚えておきましょう。
給水方式の全体像については給水方式と給水設備(直結直圧・直結増圧・高置水槽・ポンプ直送方式)を、水質基準については水道の分類と水質基準をあわせて確認してください。
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