建築物環境衛生管理技術者 給水及び排水の管理

給水方式の選び方と圧力計算|直結・増圧・高置・ポンプ直送

給水方式は階数だけでは決まりません。配水管の利用可能圧力、瞬時最大流量、最上部器具の必要圧力、損失水頭、断水時に必要な貯留量、衛生管理、非常電源を合わせて選びます。「4~10階なら直結増圧」「高置水槽なら圧力は全階一定」という覚え方では、地域条件と設備の実際を外します。

この記事では、最上部器具まで30m、器具必要圧100kPa、配管損失70kPa、配水管利用圧180kPaの例から、増圧ポンプの必要揚程29.0m、理想化した入力1.75kWを計算します。高置水槽との比較では、落差8mから損失を引いた末端圧53.5kPaを確認します。

制度・資料確認日:2026年8月2日。国土交通省の建築設備設計基準、東京都水道局、横浜市水道局の現行資料を照合しています。直結給水の適用範囲、事前協議、逆流防止器、点検周期は水道事業者ごとに異なります。個別設計は指定給水装置工事事業者と所管水道事業者へ確認してください。

給水方式は「直結」と「貯水」に分ける

直結給水方式
直結直圧・直結増圧
配水管の圧力を利用
貯水槽水道方式
高置水槽・ポンプ直送・圧力水槽
いったん受水して給水

直結方式は受水槽を介さず、配水管の圧力をそのまま、または増圧して利用します。水の滞留と水槽管理を減らせる一方、配水管断水時の貯留がありません。

貯水槽方式は、受水槽で配水管と建物内給水を縁切りします。ピーク使用や配水管圧力の影響を緩和し、残水を非常用に活用できる場合がありますが、水槽以降の水質・設備管理は設置者側の責任です。法的区分は「水道の分類と52項目の水質基準」で整理しています。

5方式を同じ4軸で比較する

方式 圧力のつくり方 主な留意点
直結直圧 配水管圧力 圧力・流量の変動
直結増圧 配水管+増圧ポンプ 協議・逆流防止・点検
高置水槽 水面との高低差 末端圧・下層過圧・水質
ポンプ直送 加圧給水ポンプ 停電・故障・圧力制御
圧力水槽 圧縮空気+ポンプ 起動頻度・圧力変動

方式名は機器の有無を表すだけです。給水性能は、水源側圧力と器具側要求を水理計算でつないで初めて決まります。高層建物では、一方式で全階を賄わず、低層・中層・高層にゾーニングして、直結と受水槽方式を組み合わせることもあります。

直結直圧方式|「3階まで」は全国共通ではない

直結直圧方式は、配水管の圧力だけで器具へ給水します。ポンプと受水槽がないため構成が簡潔で、配水管が持つ圧力エネルギーを利用できます。ただし、同時使用流量、道路面から器具までの高さ、給水管径、メーター・弁・配管の損失を差し引いても、末端に必要圧力を残せることが条件です。

適用階数は水道事業者の基準と地域の配水圧で変わります。東京都では一般の直圧給水を3階までとしつつ、水理計算上可能な地域では4階以上への特例直圧も認めています。したがって「直圧は全国一律2~3階まで」と断定しません。

配水管事故・工事で圧力がなくなれば断水します。一方、建物内に電動ポンプがないので、配水管圧力が保たれていれば建物停電だけで直ちに止まるとは限りません。

直結増圧方式|階数ではなく水理計算と事業者基準

直結増圧方式は、配水管から受けた圧力に増圧ポンプの圧力を加え、受水槽なしで中高層階へ送ります。東京都では標準型に加え、直列多段型や並列型を案内し、建物階高は水理計算上可能な範囲としています。「4~10階専用」という全国共通の上限はありません。

増圧ポンプの吸込側圧力を下げ過ぎると、配水管や近隣給水へ影響します。そのため、吸込圧力低下時の停止、逆流防止、吐出圧力制御、異常警報等が必要です。採用可否、引込口径、メーター、ポンプ構成、逆流防止器の形式・位置、年次点検は所管水道事業者の基準で決めます。

直結増圧を受水槽より常に「衛生的」と断定するのも避けます。水槽由来の滞留・侵入リスクは減りますが、建物内配管の滞留、逆流防止器の不良、使われない末端、工事時の汚染は残ります。

必要揚程29.0m|直結増圧の圧力を積み上げる

最上部の給水器具が引込基準点より30m高く、器具必要圧力100kPa、設計流量時の配管・メーター等の損失70kPa、利用できる配水管圧力180kPaと仮定します。水頭への換算はH=P÷(ρg)です。

  • 高さ:30.0m
  • 器具必要水頭:100,000÷(1,000×9.80665)=10.20m
  • 損失水頭:70,000÷(1,000×9.80665)=7.14m
  • 全必要水頭:30.0+10.20+7.14=47.34m
  • 配水管の利用可能水頭:180,000÷(1,000×9.80665)=18.35m

増圧ポンプ必要揚程=47.34-18.35

28.99m≒29.0m

29.0mはこの仮定の運転点です。安全率を無条件に上乗せすると過圧・騒音・消費電力を増やします。最小・最大配水圧、時間最大流量、同時使用、低層側の許容圧、ポンプ曲線、並列運転を確認して選定します。

流量4L/s・効率65%なら理想化入力1.75kW

増圧ポンプの流量を4L/s=0.004m³/s、必要揚程29.0m、ポンプ効率65%と仮定します。

入力=ρgQH÷η

1,000×9.80665×0.004×29.0÷0.65=1.75kW

これはポンプ効率だけを使った単純例です。実際の電動機入力にはモーター・インバータ効率、実運転点、待機機器、制御盤等が影響します。配水管圧力を利用できる直結増圧は、受水槽でいったん大気開放して同じ高さまで全量を揚げ直す方式より、必要動力を抑えられる場合があります。

高置水槽方式|静水圧は水面との高さで変わる

高置水槽方式は、受水槽から揚水ポンプで高置水槽へ送り、水面との高低差で自然流下させます。停電して揚水ポンプが止まっても、高置水槽に使用可能な水があり、配管・弁が正常なら一定時間は給水できます。

ただし給水圧力は全階で一定ではありません。水面から低い階ほど静水圧が高く、最上部器具は低くなります。下層階は減圧弁や系統分けが必要になり、最上部では水槽設置高さが不足することがあります。

高置水槽の最低水位が最上部器具より8m高く、配管損失を25kPaと仮定します。

末端圧=1,000×9.80665×8-25,000

53,453Pa≒53.5kPa

器具が70kPaを必要とするなら、この条件では不足です。水槽を上げる、配管損失を減らす、局部増圧するなどを検討します。国土交通省の建築設備設計基準も、高置タンクの設置高さは給水される全器具の必要最小圧力を満たすことを原則としています。

ポンプ直送方式|受水槽の水と給水能力は別

ポンプ直送方式は、受水槽から加圧給水ポンプで器具へ直接送ります。高置水槽が不要で、インバータや台数制御により使用量へ追従しやすい方式です。大規模建物では圧力ゾーンを分け、低層過圧を避けます。

停電時に受水槽へ水が残っていても、ポンプを動かせなければ通常系統へ送れません。ただし「必ず即時に全館断水」とも限りません。非常電源、重力利用できる別系統、圧力保持水槽、手動取水口等の設計で挙動が変わります。BCPでは貯留量だけでなく、ポンプ電源、燃料、取水方法、衛生保持を一体で確認します。

国土交通省の設計基準は、揚水用ポンプを原則2台、自動交互運転としています。実施設では、加圧給水ポンプも故障時に必要能力を保てる台数構成、逆止弁、圧力センサー、制御盤、非常電源を確認します。

圧力水槽方式|残圧を非常用貯水とみなさない

圧力水槽方式は、ポンプで水槽内の空気を圧縮し、その圧力で給水します。小規模設備や旧来設備で見られます。ダイヤフラム式の小形圧力タンクは、現代の加圧給水ユニットでも圧力変動の緩和やポンプ頻繁起動の抑制に使われます。

空気が水へ溶け込む、空気量が変わる、起動・停止圧の幅で圧力が変動するなどの管理点があります。タンクの残圧で少量の水が出る場合はあっても、停電時の必要人数・必要時間を満たす非常用給水とは別に評価します。

停電時は「水・圧力・電源・取出口」を分ける

方式 停電時の条件 事前確認
直結直圧 配水圧があれば継続可 断水・減圧情報
直結増圧 増圧分は失われる バイパス・低層給水
高置水槽 使用可能水まで自然流下 残量・末端圧
ポンプ直送 電源なしでは送水困難 非常電源・取水口
圧力水槽 残圧分のみの場合 実使用可能量

直結増圧でポンプ停止時に低層へ給水できるかは、配水管圧力、バイパス経路、逆流防止器、制御、所管水道事業者の仕様によります。「必ず低層階だけ出る」とは断定しません。高置水槽も、最低水位、断水時の流入、揚水ポンプ停止、給水制限を考慮すると、名目容量すべてを自由に使えるわけではありません。

方式選定は8項目で比較する

  1. 水源側:最小・最大配水圧、配水管口径、断水履歴を確認する
  2. 需要側:用途、人員、器具数、瞬時・時間・日使用量を算定する
  3. 高さ:最上部器具と低層器具の必要圧力を確認する
  4. 衛生:滞留時間、清掃、採水、死水域、逆流防止を確認する
  5. 継続性:断水・停電・地震時の必要水量と取水方法を決める
  6. 保守:ポンプ・逆流防止器・水槽・弁を点検できる配置にする
  7. エネルギー:配水圧利用、ゾーニング、過剰圧、制御を比較する
  8. 手続:水道事業者との事前協議、申請、検査、届出を行う

一時に多量の水を使う施設、危険な薬品を扱う施設、常時一定の水量・水圧が不可欠な施設は、直結給水の対象外または貯留を推奨される場合があります。病院や防災拠点だから方式が一意に決まるのではなく、必要機能を仕様化して選びます。

理解度チェック

【問1】給水方式の説明として最も適切なものはどれですか。

  1. 直結直圧は全国一律3階までである
  2. 直結増圧は全国一律10階までである
  3. 高置水槽は全階の圧力を同じにする
  4. 方式は配水圧・流量・必要圧・継続性等で選ぶ
  5. 受水槽があれば停電時も必ず通常給水できる
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正解:4
適用階数は水道事業者と水理条件で変わります。水源側と需要側の条件を計算して方式を選びます。

【問2】全必要水頭47.34m、配水管の利用可能水頭18.35mのとき、増圧ポンプの必要揚程はどれですか。

  1. 18.35m
  2. 28.99m
  3. 47.34m
  4. 65.69m
  5. 86.99m
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正解:2
47.34-18.35=28.99mです。配水管が持つ圧力を差し引きます。

【問3】高置水槽の最低水位が器具より8m高く、配管損失25kPaのとき、末端圧力に最も近い値はどれですか。

  1. 25.0kPa
  2. 53.5kPa
  3. 78.5kPa
  4. 103.5kPa
  5. 250kPa
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正解:2
静水圧は約78.5kPa。ここから損失25kPaを引き、約53.5kPaです。

【問4】停電時の判断として最も適切なものはどれですか。

  1. 直結直圧は建物停電だけで必ず断水する
  2. 直結増圧は必ず低層階へ給水できる
  3. ポンプ直送は受水槽に水があれば電源なしで通常給水できる
  4. 圧力水槽の残圧は必ず非常用必要量を満たす
  5. 水の残量だけでなく圧力・電源・取出口を確認する
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正解:5
貯水があっても送水圧力や取水経路がなければ使えません。非常電源と実際の操作も確認します。

公式の確認先

まとめ|方式名より利用可能圧力を読む

直結直圧は配水管圧力、直結増圧は配水管圧力とポンプ、高置水槽は水面との高低差、ポンプ直送は加圧給水ポンプ、圧力水槽は圧縮空気で圧力をつくります。適用階数や停電時の挙動を一律に決めず、水理計算と実設備で判定します。

例では、全必要水頭47.34mから配水管の18.35mを差し引き、必要増圧29.0m、流量4L/s・効率65%で入力1.75kWでした。高置水槽の落差8mでも、損失25kPaを引くと末端は53.5kPaです。必要圧力を満たすか、低層側が過圧にならないかを同時に確認しましょう。

水槽の容量・構造・清掃は「貯水槽の構造と管理」、水撃・赤水・クロスコネクションは「給水設備の保守管理」、演習は「給水方式と給水設備ミニテスト第1回」へ進んでください。

制度・資料確認日/最終更新日:2026年8月2日

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