建築物環境衛生管理技術者 空気環境の調整

熱伝導・対流・放射とU値|壁の熱損失・熱橋・表面結露の計算

建物の熱問題は、伝導・対流・放射を分け、最後に熱抵抗でつなぐと解けます。壁のU値が分かれば定常時の貫流熱損失を計算できますが、熱橋、すき間風、日射、蓄熱まではU値一つで表せません。

この記事では、壁のU値0.67W/(m²·K)、熱損失201Wを実際に算出し、室内20℃・相対湿度70%で熱橋部の表面結露が起こり得るところまで一つの例で追います。

確認日:2026年8月2日。建築研究所の熱貫流率計算資料、米国エネルギー省のBuilding Science Education、NISTの建材熱伝導データベースを照合しています。

正味の熱移動は高温側から低温側へ進む

外部から仕事を加えないとき、正味の熱は温度の高い側から低い側へ移ります。ヒートポンプは圧縮機へ仕事を与えることで、低温側からくみ上げた熱を高温側へ放出します。したがって「熱は低温側から高温側へ絶対に動かない」という説明は正確ではありません。

形態 起こる場所 建物の例
熱伝導 物質内部 壁・配管・金属部材
対流熱伝達 固体表面と流体 壁面と空気、コイルと水
熱放射 電磁波による面間 窓・壁・人体の放射交換

実際の壁では3形態が同時に関わります。室内空気から壁表面へ対流と放射で熱が移り、壁内部を伝導し、外表面から外気・周囲へ対流と放射で移ります。

熱伝導は厚さと熱伝導率で決まる

平板を通る定常一次元の熱流率

Φ=λAΔT÷d

Φ:熱流率[W]、λ:熱伝導率[W/(m·K)]、A:面積[m²]、d:厚さ[m]

同じ材料なら厚いほど熱を通しにくく、同じ厚さならλが小さいほど熱を通しにくくなります。熱伝導率は材料名だけで一定とは限らず、密度、温度、含水状態、製品仕様で変わります。計算では根拠のある設計値・製品値を使い、単に「空気が最良の断熱材」と断定しません。空気層も厚さや向きによって対流と放射が生じるためです。

対流熱伝達は表面と流体の温度差を扱う

表面と流体の熱流率

Φ=hA(Ts-Tf

h:対流熱伝達率[W/(m²·K)]、Ts:表面温度、Tf:流体温度

温度差による浮力で流れる自然対流と、ファン・ポンプで流す強制対流があります。流速が上がるとhが増えることは多いものの、「強制対流なら必ず特定の値」「自然対流より常に大きい」と固定はできません。形状、流体、流れ方、温度差で変わります。

体感温度が送風で下がるのは、対流だけでなく皮膚からの蒸発も関係します。伝熱式一つで人体の温冷感を説明し切らず、温湿度・放射・風速・着衣・代謝を合わせて見る必要があります。

熱放射は絶対温度の4乗差で決まる

周囲との正味の放射熱流率の基本形

Φ=εσA(T14-T24

ε:放射率、σ:ステファン・ボルツマン定数、温度TはK(絶対温度)

物体は絶対零度でない限り放射します。重要なのは一方が出す量ではなく、相手から受ける放射を差し引いた正味の交換です。また、4乗へ入れる温度は℃ではなくKです。室内では、冷たい窓面の近くで空気温度以上に寒く感じる現象を放射温度の低下が説明します。

放射式は、面の向きや見え方を表す形態係数、表面の放射率も必要です。低放射膜は放射交換を抑えますが、壁内部の伝導やすき間風をなくすものではありません。

熱抵抗Rを足し、逆数でU値を求める

材料層の熱抵抗はR=d÷λ[m²·K/W]です。多層壁では、室内外の表面熱伝達抵抗と各層の熱抵抗を直列に足します。

多層壁の熱貫流率

Rtotal=Rsi+Σ(di÷λi)+Rse
U=1÷Rtotal

U:熱貫流率[W/(m²·K)]。小さいほど同じ面積・温度差で通す熱が少ない。

Uは旧来Kと書かれることもありますが、ここではUに統一します。表面熱伝達抵抗は向きや境界条件で異なります。以下は建築研究所の壁計算例と同じRsi=0.11、Rse=0.04を採用した例であり、あらゆる部位へ固定して使う値ではありません。

多層壁のU値を単位付きで計算する

厚さ・λ 熱抵抗
室内表面 所定値 0.110
コンクリート 0.15m、1.6 0.094
断熱材 0.05m、0.040 1.250
室外表面 所定値 0.040

Rtotal=0.110+0.15÷1.6+0.05÷0.040+0.040=1.494m²·K/W。したがって、U=1÷1.494=0.67W/(m²·K)です。

断熱材を厚くするとRが増え、Uは下がります。ただし、断熱材を通らない柱・金物や施工欠損があれば、壁全体はこの一次元計算どおりになりません。

壁を通る熱損失はΦ=UAΔTで求める

U=0.67W/(m²·K)、面積20m²、室内外温度差15Kなら、Φ=0.67×20×15=201Wです。これはその条件での熱移動の速さなので、単位はJではなくWです。1時間続いたエネルギー量なら201Wh、SI単位では約724kJになります。

この式は定常状態の貫流分を見積もるものです。建物全体の空調負荷には、換気・すき間風、日射、照明・機器・人体の発熱、蓄熱、運転時間なども加わります。U値だけで電力量やピーク負荷を断定しません。

熱橋は面積が小さくても熱損失を増やす

柱、梁、スラブ端部、金属下地、サッシ周囲など、断熱層を横切る熱の通り道が熱橋です。実務の詳細計算では二次元・三次元の熱流や線熱貫流率ψを扱います。

単純化して、面積の90%がU=0.67、10%がU=3.0の並列経路だとします。面積加重した実効U値は、0.9×0.67+0.1×3.0=0.90W/(m²·K)です。均一壁の0.67より約35%増えます。これは熱橋の影響を理解する教材上の近似で、線状熱橋の正式計算ではありません。

室内表面温度と露点で結露リスクを読む

室内20℃・相対湿度70%の露点温度は約14.4℃です。外気0℃として、先ほどの均一壁なら熱流束q=UΔT=0.67×20=13.4W/m²。室内表面温度の一次元近似は、20-q×Rsi=20-13.4×0.11=18.5℃で、露点より高くなります。

一方、局部をU=3.0と仮定すると、表面温度は20-3.0×20×0.11=13.4℃です。露点14.4℃を下回るため、表面結露のリスクがあります。実際の熱橋は二次元熱流、室内の空気流、表面放射、吸放湿の影響を受けるため、この式はスクリーニングに使い、詳細は専門計算や実測で確認します。

結露対策は断熱の連続、熱橋低減、適切な換気・除湿、室内発湿の管理を組み合わせます。暖房設定を上げるだけでは、壁内結露や局所の空気停滞を見落とします。

赤外線カメラは温度計ではなく診断の入口

  1. 結露・カビの場所、時刻、外気、室温、湿度、運転状態を記録する
  2. 接触温度計や適切に設定した放射温度計で表面温度を確認する
  3. 赤外線画像で断熱欠損・熱橋らしい分布を探す
  4. 雨水、配管漏水、空気漏れを別の経路として切り分ける
  5. 補修前後を近い外気・空調条件で再測定する

赤外線カメラの表示温度は、放射率、反射、撮影角度、距離、風雨の影響を受けます。金属やガラスの反射像を内部温度と誤認しないようにします。温度差が小さい日には欠損が見えにくいため、撮影条件を結果と一緒に保存します。

理解度チェック

【問1】熱放射の基本式へ入れる温度として適切なものはどれですか。

  1. 相対湿度
  2. 露点温度だけ
  3. セルシウス温度の2乗
  4. 絶対温度Kの4乗
  5. 室温と同じ固定値
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正解:4
ステファン・ボルツマンの関係では、絶対温度Kの4乗差を使います。℃のまま4乗してはいけません。

【問2】Rtotal=1.494m²·K/Wの壁のU値に最も近いものはどれですか。

  1. 0.15W/(m²·K)
  2. 0.67W/(m²·K)
  3. 1.49W/(m²·K)
  4. 6.70W/(m²·K)
  5. 14.94W/(m²·K)
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正解:2
U=1÷Rtotal=1÷1.494=0.67W/(m²·K)です。Rが大きいほどUは小さくなります。

【問3】U=0.67W/(m²·K)、面積20m²、温度差15Kの壁を通る定常熱流率はどれですか。

  1. 20W
  2. 67W
  3. 134W
  4. 201W
  5. 1,005W
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正解:4
Φ=UAΔT=0.67×20×15=201Wです。Wは熱移動の速さであり、1時間分のエネルギーなら201Whです。

【問4】室内20℃、露点14.4℃のとき、熱橋部の表面温度が13.4℃でした。適切な判断はどれですか。

  1. 露点より低いため表面結露のリスクがある
  2. U値が小さいほど必ず結露する
  3. 湿度を確認する必要はない
  4. 赤外線画像だけで漏水と断定する
  5. 室内外温度差は関係しない
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正解:1
表面温度が室内空気の露点を下回ると表面結露のリスクがあります。熱橋、湿度、空気流、漏水を分けて確認します。

公式の確認先

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まとめ|U値の計算を熱橋・結露診断へつなぐ

伝導はλと厚さ、対流は熱伝達率、放射は絶対温度の4乗差で扱います。多層壁は熱抵抗を足してU=1/Rを求め、定常の熱流率をΦ=UAΔTで計算します。単位を追えば、WとWhの取り違えも防げます。

建物では、均一な壁だけでなく熱橋、空気漏れ、日射、湿気が性能を左右します。U値の計算を入口に、表面温度と露点、赤外線画像、漏水・運転記録を重ねると、結露や熱損失を原因別に診断できます。

資料確認日/最終更新日:2026年8月2日

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