建築物の構造概論 建築物環境衛生管理技術者

建築構造と荷重経路|柱10MPa・梁54kN·m・重量物診断

建物の構造は「RCだから強い」の一言では判定できません。材料、架構形式、部材寸法、接合部、荷重、地盤までが一つの荷重経路をつくります。ビル管理者が最初に確認するのは、構造種別の呼び名より「力がどこを通って地盤へ流れるか」です。

この記事では、柱の平均圧縮応力度10MPa、単純梁の最大曲げモーメント54kN·m、質量3tの機器による平均荷重9.8kN/m²を計算し、壁撤去・開口・重量物設置を自己判断しないための確認順序まで整理します。

制度・資料確認日:2026年8月2日。e-Govの建築基準法・同施行令、国土交通省の既存建築物資料、建築研究所資料、日本建築衛生管理教育センターの公表資料を照合しています。

試験は15問・科目基準6点だが、丸暗記で終わらせない

日本建築衛生管理教育センターが公表した令和7年度の合格基準では、「建築物の構造概論」は15問、科目基準は6点以上です。ただし、材料名と特徴を一対一で暗記すると、「SRCは常に最強」「S造は耐火性がない」といった誤解につながります。

試験対策では、材料→架構→荷重→内力・応力度→変形・破壊形式の順につなげます。実務では、その先に図面照合、現況調査、構造設計者への確認が続きます。

材料・架構形式・荷重経路は別の軸

主な例 確認すること
構造材料 RC・S・SRC・木質 強度、剛性、靱性、耐久・耐火
架構形式 ラーメン・ブレース・壁・トラス 鉛直力・水平力への抵抗方法
荷重経路 床→梁→柱・壁→基礎→地盤 途中の欠損、変更、偏り

RC造でもラーメン構造と壁式構造があり、S造でもラーメン架構とブレース架構があります。「何でできているか」と「どう抵抗するか」は別です。用途や階数だけから構造種別を決めつけず、確認済証、構造図、構造計算書、竣工図で確認します。

RC・S・SRCは順位ではなく、成立条件で比較する

構造 力の負担 維持管理の着眼点
RC造 コンクリートと鉄筋を一体化 ひび割れ、漏水、浮き、鉄筋腐食
S造 鋼材の軸力・曲げ・せん断 腐食、座屈、接合部、耐火被覆
SRC造 鉄骨を内蔵したRC部材が複合 RC部と鋼材・接合部の両方
木質構造 製材・集成材・CLT等と接合部 水分、腐朽、蟻害、接合部

RCでは、コンクリートが圧縮を、鉄筋が引張を主に負担するという説明が入口です。しかし実際の柱・梁・壁では、鉄筋も圧縮やせん断抵抗へ関与し、付着、ひび割れ、拘束、接合部まで含めて性能が決まります。

S造は軽量化や大スパンに適用しやすい一方、細長い部材や薄板の座屈、接合部、腐食、高温時の強度・剛性低下を検討します。「鋼は火に弱いからS造に耐火性はない」ではなく、建物に要求される耐火性能を部材寸法、耐火被覆、認定仕様等で成立させます。

SRCは鋼材とRCを組み合わせた構造ですが、無条件に「最も強い」「高層はSRC」とは言えません。S・RC・SRC・各種複合構造のどれでも、設計条件に応じた性能を実現できます。

ラーメン・ブレース・耐力壁・トラスの違い

ラーメン架構は柱・梁とその接合部が主に曲げとせん断で抵抗します。ブレース架構は斜材の引張・圧縮軸力を使って水平力を伝えます。耐力壁は壁面内のせん断や曲げで抵抗し、トラスは三角形を基本に、理想化すれば各部材が主に軸力を負担します。

実建物ではラーメンと耐力壁、ラーメンとブレースを併用できます。床・屋根も、水平力を各架構へ配る面材として働きます。非構造壁に見えても、架構の変形、避難、防火、遮音、設備に影響するため、ラーメン構造という理由だけで撤去してはいけません。

荷重経路を床から地盤まで追う

床上の人・什器・設備の荷重は、床スラブから小梁・大梁、柱または耐力壁、基礎を経て地盤へ伝わります。水平力は床・屋根を介してラーメン、ブレース、耐力壁へ分配され、基礎・地盤へ流れます。


面荷重を集める

曲げ・せん断で渡す
柱・壁
下階へ伝える
基礎・地盤
建物全体を支持

途中の壁・ブレース・柱を撤去する、梁や床に大きな開口を設ける、基礎周辺を掘削する行為は、経路そのものを変えます。設備工事の「小さな穴」でも、鉄筋、PC鋼材、鉄骨フランジ、スタッド、接合部を損傷する可能性があるため、構造図と探査・設計確認なしに施工しません。

施行令第83条の5種類と実況に応じた外力

建築基準法施行令第83条は、固定荷重、積載荷重、積雪荷重、風圧力、地震力を採用すべき荷重・外力として挙げています。さらに、実況に応じて土圧、水圧、振動、衝撃も採用します。

  • 固定荷重:構造体、仕上げ、固定設備等の継続的な重量
  • 積載荷重:人、家具、可動物、用途に伴う物品等
  • 積雪荷重:地域、屋根形状、積雪の偏り等を考慮する荷重
  • 風圧力:外壁・屋根・骨組へ作用する圧力・吸引
  • 地震力:建物質量、周期、高さ方向分布、地盤等に関係する慣性力

「鉛直は固定・積載・積雪、水平は風・地震」という分類は入門用の整理にすぎません。風は屋根に吸引力を生じ、地震動にも上下成分があります。また、最大の荷重をすべて同時に足すのではなく、法令・設計法に定める荷重組合せと継続時間で検討します。

柱900kN・300mm角の平均圧縮応力度は10MPa

断面300mm×300mmの柱に、中心軸方向の圧縮力900kNだけが作用する単純化した例です。面積は0.30×0.30=0.090m²です。

平均圧縮応力度 σ=N÷A

σ=900,000÷0.090=10,000,000Pa=10MPa

これは断面全体へ一様に力がかかるとした平均値で、許容耐力や終局耐力の判定ではありません。実柱には曲げ、偏心、初期不整、細長さ、座屈、材料強度、配筋・接合条件が関係します。軸力を面積で割っただけで「安全」と判断しません。

6m単純梁・12kN/mの最大曲げは54kN·m

支間6mの単純梁全体へ、等分布荷重12kN/mが作用すると仮定します。総荷重は72kN、左右反力は対称なので各36kNです。

単純梁の最大値

最大せん断力 V=wL÷2=12×6÷2=36kN

最大曲げモーメント M=wL²÷8=12×6²÷8=54kN·m

さらに、幅0.30m・せい0.60mの均一な長方形断面を弾性体として扱うと、断面係数Z=bh²÷6=0.018m³、縁応力度はM÷Z=3MPaです。ただし、RC梁のひび割れ、鉄筋、連続端の負曲げ、S梁の局部座屈等を無視した教材用計算です。

単純梁の下向き荷重では中央部の上側が圧縮、下側が引張になります。一方、連続梁や片持梁では支点付近の曲げが逆向きになる部分があります。「RC梁は下面だけに主筋を置く」と覚えるのは誤りです。

3t機器は平均9.8kN/m²でも、床判定は終わらない

機器本体2.4t、架台0.6t、合計質量3.0tを2.0m×1.5mの範囲に置くとします。重力加速度を9.80665m/s²とすると、重量は約29.4kNです。

見掛けの平均面荷重

W=3,000×9.80665=29.4kN

q=29.4÷(2.0×1.5)=9.8kN/m²

実際の床には脚部・アンカー位置で集中荷重が生じます。スラブの局部曲げ・パンチング、梁への載り方、振動、搬入経路、一時仮置き、架台の荷重分散、地震時の転倒・移動まで確認します。面積で割った平均値だけを積載荷重表と比べて設置可否を決めてはいけません。

偏心・剛性の偏りはねじれと局部集中を生む

建物の質量中心と剛性中心が離れると、水平力で平面的なねじれが生じやすくなります。開放的な1階、片側に偏った耐力壁、大きな吹抜け、不連続な柱・壁は、力と変形の集中を考える手掛かりです。

ただし、外観だけで「危険な偏心」「軟弱階」と断定できません。構造図、部材断面、接合、床の面内剛性、解析結果を構造設計者が確認します。耐震・免震・制震の違いは「耐震・免震・制震と建築材料」で分けて扱います。

ひび割れ幅だけで安全・危険を決めない

観察対象 記録する情報 主なエスカレーション
RCのひび割れ 位置、方向、幅、長さ、段差、漏水、経時変化 急な拡大、剝落、鉄筋露出
S部材・接合部 腐食、変形、ボルト、溶接部、耐火被覆 断面欠損、座屈、接合部異常
建物全体 傾斜、不同沈下、扉不具合、振動、周辺工事 地震・工事後の新規変状
改修・設備工事 開口、撤去、重量、アンカー、搬入経路 図面不明、主要部材への干渉

仕上げだけの収縮ひび割れと構造部材の変状は意味が違います。同じ幅でも、位置、方向、段差、漏水、錆汁、反復、拡大速度、地震・掘削との時間関係で評価が変わります。写真にはスケールと撮影位置を残し、監視点を再現できるようにします。

剝落・落下のおそれ、顕著な傾斜、急な拡大、柱・梁・接合部の変形を認めた場合は、立入規制等の安全措置と管理責任者への報告を優先し、建築士・構造設計者等へつなぎます。

壁撤去・コア抜き・重量物設置の確認順序

  1. 変更内容を数値化:位置、寸法、重量、支持点、振動、施工荷重を図面へ記す
  2. 資料を照合:確認図、構造図、計算書、竣工図、過去改修、現況を比べる
  3. 荷重経路を確認:床・梁・柱・壁・ブレース・基礎への影響を洗い出す
  4. 専門判断を得る:必要な調査・構造検討・申請を建築士等と決める
  5. 施工後も残す:隠蔽前写真、探査結果、アンカー、補強、検査記録を保管する

国土交通省は既存建築物の改修について、現況調査ガイドラインや法適合の確認資料を公開しています。既存不適格、増改築、大規模の修繕・模様替、用途変更の扱いは条件で変わるため、「小規模だから確認不要」と自己判断しません。法令の用語と手続は「建築基準法の用語・建築確認」、図面と改修計画は「建築計画・設計図面」で確認してください。

ビル設備も構造体から独立していない

受変電設備、非常用発電機、蓄電池、水槽、冷凍機、エレベーター等は、重量だけでなく、運転振動、地震時慣性力、アンカー、配管反力、保守交換時の搬出入荷重を構造体へ伝えます。設備概要は「受変電・非常用電源・昇降機」、振動の伝達率は「騒音・振動の診断」へつなげています。

設備台帳には型式・能力だけでなく、本体質量、満水・満油質量、重心、支持点、基礎・架台、アンカー、更新時の搬入経路を残すと、構造側との協議が速くなります。

理解度チェック

【問1】構造材料と架構形式の説明として最も適切なものはどれですか。

  1. RC造は必ず壁式構造である
  2. S造は必ずブレース構造である
  3. SRC造はすべての条件で最も強い
  4. RC・S・SRCは材料の区分で、ラーメン・ブレース等とは別の軸である
  5. ラーメン構造ならすべての壁を撤去できる
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正解:4
材料と抵抗形式を分けて考えます。異なる形式の併用もあり、壁撤去は構造・防火・設備等の確認が必要です。

【問2】支間6mの単純梁全体に12kN/mの等分布荷重が作用します。最大曲げモーメントはどれですか。

  1. 18kN·m
  2. 36kN·m
  3. 54kN·m
  4. 72kN·m
  5. 432kN·m
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正解:3
M=wL²÷8=12×6²÷8=54kN·mです。これは単純梁・等分布荷重という条件の値です。

【問3】300mm角の柱へ中心圧縮力900kNが作用する単純化した場合、平均圧縮応力度はどれですか。

  1. 0.1MPa
  2. 1MPa
  3. 3MPa
  4. 10MPa
  5. 100MPa
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正解:4
900,000N÷0.090m²=10,000,000Pa=10MPaです。偏心や座屈等を無視した平均値で、安全判定値ではありません。

【問4】テナントから間仕切壁撤去の要望を受けたとき、最も適切な初動はどれですか。

  1. ラーメン構造なら直ちに撤去する
  2. 壁を叩いた音だけで耐力壁か決める
  3. 壁厚が100mm未満なら撤去する
  4. 仕上げ図だけを見て撤去する
  5. 構造図・竣工図・現況と影響範囲を照合し、必要な専門判断を得る
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正解:5
構造上非耐力でも、防火・避難・設備・遮音へ影響する場合があります。資料と現況を照合し、建築士等へつなぎます。

公式の確認先

まとめ|構造名より荷重経路を確認する

構造材料、架構形式、荷重経路を分けると、RC・S・SRCの単純な優劣ではなく、各部材がどの力をどう伝えるかを読めます。施行令が挙げる5種類に加え、実況に応じた土圧・水圧・振動・衝撃も忘れません。

単純化した例では、柱の平均圧縮応力度10MPa、梁の最大曲げモーメント54kN·m、3t機器の平均面荷重9.8kN/m²でした。どれも設計可否を単独で決める数値ではありません。変更箇所と荷重を数値化し、図面・現況・荷重経路を照合して専門判断へつなげてください。

構造分野の演習は「建築構造の種類と力学 ミニテスト」、午後科目全体の学習順は「科目4〜7の出題傾向と攻略法」で確認できます。

制度・資料確認日/最終更新日:2026年8月2日

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