ねずみ、昆虫等の防除 建築物環境衛生管理技術者

蚊・ハエの防除|チカイエカ指数3・ハエとコバエ指数5の判定

ビル内の蚊・ハエは、「いた/いない」だけでは管理できません。厚生労働省「建築物における維持管理マニュアル」の目安では、屋内のチカイエカは捕獲指数3以上、ハエとコバエ類は5以上で措置水準です。ただし、平均の指数が低くても、1個のトラップに集中的に捕れた数や目撃状況によって措置水準になります。

また、アカイエカとコガタアカイエカは別の蚊です。日本脳炎の代表的な媒介蚊として覚えるのは、水田・沼地から発生するコガタアカイエカ。ビル地下の水槽で冬も問題になるのはチカイエカです。似た名前を発生源と一緒に切り分けましょう。

制度・資料確認日:2026年8月8日。調査法と目標水準は、厚生労働省「建築物における維持管理マニュアル」(平成20年1月、現在も厚生労働省の建築物衛生ページから案内されている管理方法の一例)で確認しました。蚊の生態は東京都健康安全研究センターと千葉市保健所、感染症の類型は厚生労働省と感染症法の現行情報で照合しています。

結論|チカイエカは3、ハエ・コバエは5が措置水準

最初に、この記事で使う数字を一覧にします。捕獲指数は、1日・1トラップ当たりの捕獲数です。

対象 指数の許容/措置 1トラップの措置条件
チカイエカ 1未満/3以上 3匹以上
ハエ 1未満/5以上 5匹以上
コバエ類 3未満/5以上 10匹以上

「指数」と「1個のトラップ」は別の判定軸です。指数は区域全体の密度を見ます。1個のトラップは、局所的な発生源を見逃さないための条件です。平均が低いから安全、とは限りません。

なお、ここでいう数値は法律の条文そのものではありません。法令に基づく生息状況調査を、現場でどう評価するかについて厚生労働省のマニュアルが示した標準的な目標水準です。建物の用途や区域に応じて、関係者が個別の水準を設定することも想定されています。

4種類の蚊は「発生する水」で見分ける

蚊の名前だけを暗記すると、アカイエカとコガタアカイエカを取り違えます。発生源、活動、感染症をひとまとまりにして覚えます。

種類 主な発生源・特徴 押さえる関係
チカイエカ ビル地下の湧水槽・排水槽など。冬も休眠せず、初回は無吸血産卵が可能 屋内管理の主対象
ヒトスジシマカ 空き容器、古タイヤ、植木鉢皿などの小水域。昼間吸血 デング熱・ジカ・チクングニア熱
コガタアカイエカ 水田・沼地。ブタから好んで吸血 日本脳炎の代表的媒介蚊
アカイエカ ドブ・下水・家畜舎の汚水など。家屋へ入り夜間吸血 コガタアカイエカと混同しない

ビル管理の現場では、発見場所から発生源を逆算します。地下機械室で冬に苦情が出たなら、屋外の植木鉢よりも湧水槽・雑排水槽・汚水槽と、その連通管を先に疑います。昼間に屋外の植栽付近で刺されるなら、小さな人工容器や雨水ますを確認します。

地下・冬・水槽
チカイエカを疑う
水槽図面とマンホールを確認
連通管・通気管・隙間を見る
屋外・昼・小水域
ヒトスジシマカを疑う
植木鉢皿・空き容器を確認
まず水たまりをなくす

法定調査が2か月ごとでも、夏の水たまりは週単位で見る

建築物衛生法施行規則は、ねずみ等の生息状況を6月以内ごとに1回調査することを求めています。さらに、厚生労働省告示第119号は、食料取扱区域、排水槽、阻集器、廃棄物保管設備の周辺など発生しやすい場所を2月以内ごとに1回調査するよう定めています。

ただし、これは「2か月に1回見れば、蚊は十分に防げる」という意味ではありません。千葉市保健所が示す夏季の生活史は、卵が約2日でふ化し、幼虫がおよそ1週間、さなぎが約2日で羽化します。単純に足すと、卵から成虫まで約11日です。

卵 約2日 + 幼虫 約7日 + さなぎ 約2日 = 約11日で成虫

60日 ÷ 11日 = 約5.5。2か月の間には、卵から成虫になる期間が5回分以上あります。

したがって、法定の定期調査とは別に、夏の屋外巡回では週1回を目安に容器の水を捨てる運用が合理的です。週ごとに水をなくせば、約11日の羽化までに幼虫の生息場所を断てます。地下水槽は日常巡回でマンホール周辺の成虫や苦情を拾い、異常があれば定期日を待たずにトラップ調査へ進みます。

ここでの「週1回」は、法令に書かれた一律義務ではなく、公開されている生活史から導いた実務上の管理間隔です。法定の最大間隔と、発生速度に合わせた現場の点検間隔を混同しないでください。

チカイエカの調査|水槽図面からトラップまで

厚生労働省のマニュアルは、いきなり薬剤を使うのではなく、次の順で発生源と侵入経路を調べます。

  1. 水槽図面で湧水槽・雑排水槽・汚水槽・冷却槽・中水槽とマンホールの位置を確認する
  2. マンホール蓋の周囲に隙間がないか、通気管に防虫ネットがあるかを確認する
  3. 出入口・窓の網戸、換気口、ドアの隙間を調べる
  4. 建物全体を目視し、壁面・机の下・地下機械室などの成虫と水域を確認する
  5. ライトトラップまたは粘着トラップで捕集し、種類と密度を調べる
  6. 区域の管理者・利用者から、発生時期・刺咬被害・目撃場所を聞き取る

大切なのは、捕れた数だけでなく蚊の種類を同定することです。屋内の標準的な目標水準は、主にチカイエカに対して示されています。屋外から迷入した別種の1匹と、地下水槽から継続発生するチカイエカを同じように扱うと、対策場所を誤ります。

チカイエカの3水準|指数が低くても吸血被害で措置

水準 数値 目撃・被害
許容 指数1未満、1トラップ1匹以下 屋内で生体を目撃しない
警戒 指数1以上3未満、1トラップ2匹以下 わずかに目撃。許容にも措置にも当たらない場合
措置 指数3以上、または1トラップ3匹以上 屋内で吸血被害がある場合も該当

措置水準は「いずれか1つ以上」で該当します。つまり、トラップに捕れなくても屋内で吸血されれば措置水準です。逆に、平均指数が警戒域でも、1個に3匹以上集まれば措置水準です。

【計算1】8個を2日置いて28匹|平均は警戒でも実は措置

条件:地下機械室に8個のトラップを2日間設置。チカイエカを合計28匹捕獲。最多の1個には5匹

捕獲指数 = 28匹 ÷ 8個 ÷ 2日 = 1.75 → 指数だけなら警戒域

最多トラップ = 5匹 → 3匹以上なので措置水準

28÷8=3.5で止めると、日数で割り忘れています。しかし正しく1.75と出しても、まだ判定は終わりません。1個の最大捕獲数と吸血被害まで見る必要があります。

最多のトラップが水槽マンホールの近くなら、単に「地下全体へ薬剤をまく」のではなく、蓋の隙間、通気管、連通管、水槽内の幼虫を確認できます。数値を出す目的は、薬剤の量を決めることではなく、発生源へ近づくことです。

蚊の防除|幼虫の水域を先に止める

チカイエカ対策の優先順位は、発生水域を断つことです。成虫だけを駆除しても、水槽内の幼虫が羽化すれば元に戻ります。

段階 実施内容 理由
1 調査 水槽容量・実水量・連通部・侵入経路を確認 薬量と発生源を推測で決めないため
2 環境対策 水抜き・清掃、防虫ネット、網戸、隙間補修 羽化と再侵入を構造的に止めるため
3 幼虫対策 必要時に承認された有機リン剤・IGRを用法どおり処理 成虫になる前の水中段階を抑えるため
4 成虫対策 必要時にULV処理、適切な水槽内で樹脂蒸散剤 既に羽化した個体を減らすため
5 効果判定 事前調査と同じ方法で再測定 方法を変えると前後比較できないため

水槽内部には有毒ガスが発生しているおそれがあります。防虫ネットの取付けなど槽内作業は、安易に入槽せず工事業者へ依頼します。また、中水槽など誤飲・接触の可能性がある水域へ薬剤を使う判断は、一般の排水槽と同じにしてはいけません。東京都の講習資料は、中水で発生した場合は薬剤使用を推奨せず、早急な清掃と侵入防止を求めています。

空間噴霧を行った場所に人が出入りする場合、マニュアルは処理後に窓などを開放し、少なくとも3時間は立入禁止としています。薬剤処理の掲示は、少なくとも実施3日前から実施3日後までです。薬剤全般の選定と安全管理は「殺虫剤・殺鼠剤の分類と安全管理」で詳しく扱います。

ハエとコバエは指数5が同じでも、局所条件が違う

厚生労働省の標準的な目標水準では、ハエとコバエ類は指数の措置境界がどちらも5です。しかし、1個のトラップに集中した場合の境界は違います。

数値条件 ハエ コバエ類
許容の指数 1未満 3未満
警戒の指数 1以上5未満 3以上5未満
措置の指数 5以上 5以上
許容の1個捕獲数 3匹未満 4匹未満
警戒の1個捕獲数 3以上5匹未満 4以上10匹未満
措置の1個捕獲数 5匹以上 10匹以上

なぜ差があるのでしょうか。小型のコバエ類は、排水管のぬめりや少量の腐敗物など局所的な発生源からまとまって捕れることがあります。そのため、同じ1個5匹でも、ハエなら措置条件、コバエなら警戒条件です。「小さいハエ」と一括せず、少なくともハエかコバエ類かを分ける必要があります。

【計算2】同じ捕獲記録でも、ハエとコバエで指標が変わる

条件:6個のトラップを2日間設置。合計24匹、最多の1個に6匹

捕獲指数 = 24 ÷ 6 ÷ 2 = 2.0

ハエとして判定:指数は警戒域、1個6匹は措置条件

コバエ類として判定:指数は許容域、1個6匹は警戒域

この例は、数値指標だけを比較したものです。最終判定では生体の目撃数も合わせます。それでも、虫種を誤るだけで指標上は許容から措置まで差が開くことが分かります。報告書に「小バエ24匹」としか書かれていなければ、同定と捕獲内訳を確認してください。

発生源の探索では、虫の名前よりも幼虫が育つ有機物を追います。ごみ集積所、厨房残渣、排水溝、排水トラップ、グリストラップ、床下の漏水などを区画ごとに確認します。成虫へ噴霧して数を一時的に減らしても、ぬめりや腐敗物が残れば再発します。

トコジラミ|清潔さではなく「持込み」と隙間を見る

トコジラミは名前に「シラミ」とありますが、カメムシの仲間です。千葉市保健所によると、成虫は5〜8mmで扁平、昼はベッドや家具、壁・床、コンセントなどの隙間に潜み、暗くなると人の二酸化炭素を感知して吸血します。

  • 清潔な部屋でも、荷物や衣類に付着して持ち込まれれば発生する
  • 黒褐色の血糞(トコジラミサイン)が潜伏場所を探す手掛かりになる
  • ピレスロイド系殺虫剤に抵抗性を持つ個体が増えている
  • くん煙剤は、別室へ拡散させるおそれがある
  • 卵には成虫用殺虫剤が効かないため、1回の処理で終わらせない

一方、旧稿にあった「媒介疾病の表」へトコジラミを無理に加える必要はありません。千葉市保健所は、吸血によって感染症が媒介された報告はないと案内しています。被害は強いかゆみ、睡眠不足、掻き壊しなどであり、感染症ベクターとしての説明とは分けます。

感染症との組み合わせ|媒介生物と感染症法の類型は別軸

媒介生物 代表的な感染症 感染症法
ヒトスジシマカ デング熱、ジカ、チクングニア熱 四類
コガタアカイエカ 日本脳炎 四類
ハマダラカ マラリア 四類
ツツガムシ つつが虫病 四類
マダニ SFTS、日本紅斑熱、ライム病 四類
ノミ ペスト 一類

「虫や動物が媒介する感染症はすべて四類」ではありません。ペストは一類感染症です。また、四類は「動物、飲食物等の物件を介して人に感染する感染症」であり、蚊・ダニだけの分類ではありません。A型肝炎、E型肝炎、レジオネラ症なども含みます。

旧稿の「四類は人から人へ直接感染しない」という一括説明も削除しました。法の類型は、個々の疾病の全感染経路を一文で否定するためのものではありません。試験では、媒介生物との組み合わせ法定類型を別々に確認するのが安全です。四類感染症を診断した医師は、感染症法第12条に基づき直ちに届け出ます。

現場で使う判定手順|平均→最大→被害→発生源

  1. 同定:チカイエカか、ハエか、コバエ類かを確認する
  2. 指数:総捕獲数÷トラップ数÷設置日数を計算する
  3. 最大値:1個のトラップの最多捕獲数を見る
  4. 目撃・被害:生体の目撃、吸血、苦情を照合する
  5. 位置:最多捕獲地点から水域・有機物・侵入経路を探す
  6. 措置:清掃、除水、閉鎖を先に行い、必要範囲だけ薬剤処理する
  7. 再調査:同じトラップ数・日数・位置で効果判定する

「薬剤を散布した」だけでは効果判定になりません。同じ方法で指数を取り直し、許容水準に戻ったかを確認します。防除計画、記録、役割分担の全体像は「IPMと防除計画・調査法」、関連生物は「ねずみの生態と防除」「ゴキブリ・ダニの防除」で分担して解説します。

理解度チェック|5択4問

Q1. 地下機械室に8個のトラップを2日設置し、チカイエカを合計28匹捕獲した。最多の1個には5匹が捕獲された。標準的な目標水準の判定として最も適当なものはどれか。

(1) 指数3.5なので措置水準 (2) 指数1.75なので警戒水準で確定 (3) 指数1.75だが1個5匹のため措置水準 (4) 指数0.57なので許容水準 (5) 吸血被害がなければ必ず許容水準

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正解:(3)
指数は28÷8÷2=1.75です。しかしチカイエカは、1個のトラップに3匹以上捕獲されれば措置水準です。指数、1個の最大値、吸血被害のいずれも確認します。

Q2. 蚊の種類と発生源・感染症の組み合わせとして、最も不適当なものはどれか。

(1) チカイエカ―地下の湧水槽 (2) ヒトスジシマカ―小型容器のたまり水とデング熱 (3) コガタアカイエカ―水田と日本脳炎 (4) アカイエカ―ドブや下水 (5) チカイエカ―水田で発生し日本脳炎の代表的媒介蚊

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正解:(5)
水田・沼地から発生し、日本脳炎の代表的な媒介蚊となるのはコガタアカイエカです。チカイエカは主にビル地下の水槽で発生し、初回の無吸血産卵と冬季活動が重要です。

Q3. 6個のトラップを2日間設置し、合計24匹、最多の1個に6匹が捕獲された。この記録に関する説明として最も適当なものはどれか。

(1) 捕獲指数は4.0である (2) ハエでもコバエでも1個6匹は必ず措置条件である (3) ハエなら1個6匹は措置条件、コバエ類なら警戒域である (4) コバエ類の指数2.0は措置条件である (5) 虫種の同定は判定に影響しない

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正解:(3)
指数は24÷6÷2=2.0です。1個の措置条件は、ハエが5匹以上、コバエ類が10匹以上。したがって1個6匹は、ハエなら措置条件、コバエ類なら警戒域です。

Q4. 害虫と感染症法の関係に関する記述として、最も適当なものはどれか。

(1) 媒介動物がいる感染症はすべて四類である (2) ペストはノミが媒介するので四類である (3) 四類感染症は蚊・ダニ媒介感染症だけで構成される (4) デング熱、日本脳炎、SFTSは四類だが、ペストは一類である (5) トコジラミは感染症の代表的媒介昆虫である

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正解:(4)
デング熱、日本脳炎、SFTSは四類感染症ですが、ペストは一類感染症です。四類には動物や飲食物等の物件を介する感染症が含まれ、A型肝炎やレジオネラ症などもあるため、虫媒介だけの分類ではありません。

公式の確認先

まとめ|数えるだけでなく、発生源へ戻る

屋内のチカイエカは、捕獲指数1未満が許容、1以上3未満が警戒、3以上が措置の目安です。ただし、1トラップ3匹以上、または屋内で吸血被害があれば措置水準。8個を2日置いて28匹なら指数1.75ですが、1個に5匹なら措置です。

ハエは指数1未満、コバエ類は3未満が許容の目安で、措置の指数はいずれも5以上です。1個の措置条件はハエ5匹、コバエ10匹。虫種、指数、1個の最大値、目撃状況をそろえて判断します。

蚊は発生する水で切り分けます。地下水槽ならチカイエカ、小さな屋外容器ならヒトスジシマカ、水田ならコガタアカイエカ。防除は、成虫への噴霧より先に水抜き・清掃・防虫ネット・隙間補修で発生源と侵入経路を止めます。

理解を問題で定着させるなら「蚊・ハエ・その他の害虫と媒介疾病 ミニテスト第1回」、科目全体の位置づけは「ビル管理士 科目4・5・6・7の出題傾向と攻略法」へ進んでください。

制度・資料確認日/最終更新日:2026年8月8日

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-ねずみ、昆虫等の防除, 建築物環境衛生管理技術者