建築物の環境衛生 建築物環境衛生管理技術者

熱中症の初動と脱水対策|2025年義務化・WBGT・水分補給

熱中症が疑われたら、体温や病名を現場で確定しようとせず、作業を止めて冷却を始めます。返事がおかしい、ぼーっとする、自力で飲めない場合は救急要請の対象です。水分を無理に飲ませず、一人にしないでください。

2025年6月1日から、一定の暑熱作業では「報告体制」と「悪化防止手順」の整備・周知が事業者の義務です。機械室、ボイラー室、屋上巡回などを、「気をつける」ではなく手順と記録で管理しましょう。

確認日:2026年8月1日。厚生労働省の改正労働安全衛生規則・施行通達、日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」、環境省2025年7月版マニュアル、消費者庁の経口補水液資料を照合しています。

ビル管理では屋内の熱中症も想定する

熱中症は日射の強い屋外だけの問題ではありません。屋上の冷却塔点検、熱源機械室、ボイラー室、停電・空調停止中の室内、通風の悪い天井裏などでも発生します。

暑さによって熱放散が追いつかず、体内に熱がたまると、めまい、こむら返り、頭痛、吐き気、倦怠感、判断力低下などが現れます。「人体の体温調節と温熱環境」で扱う熱収支が、健康障害側へ崩れた状態と考えるとつながります。

2025年改正|対象はWBGT 28度以上等の長時間作業

改正労働安全衛生規則第612条の2の対象は、原則として次の環境と時間を両方満たすと見込まれる作業です。

判定軸 対象条件 現場の注意
環境 WBGT 28度以上、または気温31度以上 原則は作業場所で実測
時間 継続1時間以上、または1日4時間超 非定常・臨時作業も含む
場所 屋内外、出張先、移動中を含む 事業場内だけではない

WBGT 28度は一律の作業中止線ではありません。ここでは改正規則の義務対象を判断する線です。実際の作業管理は、作業強度別のWBGT基準値、着衣補正値、暑熱順化、健康状態も併せて判断します。

事業者が作業前に整える2つの仕組み

義務 決める内容 周知例
報告体制 疑いを誰に、どう報告するか 連絡先の掲示、朝礼、メール
悪化防止手順 作業離脱、冷却、受診・搬送 連絡網と搬送先を明記

報告は本人の自己申告待ちにしません。責任者の巡視、バディ制、定期連絡などを組み合わせます。ウェアラブル機器は補助にはなりますが、それだけで人の状態を正確に把握できるわけではありません。

上の措置義務の主体は作業者を使用する事業者です。ビル管理技術者に自動的にすべての法的責任が移るわけではないため、自社、オーナー、元方、協力会社の役割を作業前に明確にします。

旧称の4病型より、症状と初動で判断する

熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病という名称は現在も用いられます。ただし、病型名を現場で当てるより、日本救急医学会の重症度分類に沿って初動を決める方が安全です。

重症度 主なサイン 基本対応
I度 めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量の発汗 作業離脱・冷却・水と電解質
II度 頭痛、嘔吐、倦怠感、集中力・判断力低下 医療機関で診療
III~IV度 意識障害、臓器障害、著しい高体温など 救急要請・迅速な冷却

2024年版では、深部体温40.0℃以上かつGCS 8以下をIV度とする最重症群が追加されました。これは医療者が深部体温と意識レベルを用いて判定する基準です。現場では「返事がおかしい」「ぼーっとしている」も意識の異常として扱います。

発汗の有無だけで重症度を決めない:旧稿の「熱射病なら発汗が止まる」という一律の見分け方は使いません。重症でも発汗していることがあり、発汗していなくてもそれだけで診断はできません。意識、呼吸、体の熱さ、症状の進行を見ます。

現場の初動は「離脱→連絡→冷却→搬送判断」

  1. 作業から離脱:冷房のある部屋、または風通しのよい日陰へ移す。
  2. 連絡:事前に決めた責任者へ報告し、一人にしない。
  3. 冷却:衣服を緩め、水で皮膚を濡らして風を当てる。冷房・氷・冷たいタオルも利用する。
  4. 搬送判断:呼びかけへの反応がない、返事がおかしい、自力で飲めない場合は119番。
  5. 経過確認:改善してもすぐ作業へ戻さず、帰宅後の急変に備えた連絡手順を運用する。

意識のある・なしだけではなく、普段と反応が違うかを確認します。判断に迷う場合は放置せず、#7119などの救急相談窓口や医療機関に相談します。対応中も冷却を続けます。

脱水は「水だけ」ではなく電解質も関わる

大量に汗をかくと、水とともにナトリウムなどの電解質を失います。熱中症では熱蓄積と脱水が同時に進むことがあるため、「水を飲んだから安全」とは言えません。

医学的には水とナトリウムの失われ方から、高張性、等張性、低張性といった脱水の分け方があります。ただし、現場で口渇の強さだけを見て分類し、塩分量を自己判断するのは危険です。症状、意識、摂取可否を優先します。

水、スポーツドリンク、経口補水液を混同しない

飲料 主な使い方 注意
水・麦茶等 日常のこまめな水分補給 大量発汗時は電解質も考える
スポーツドリンク 運動・作業時の水分と塩分 商品ごとに糖質・ナトリウム量が異なる
経口補水液 表示された脱水状態で使用 普段の水分補給用ではない

経口補水液は、スポーツドリンクよりナトリウムやカリウムが多い病者用の飲料です。熱中症による脱水に使える製品かは表示を確認します。ナトリウム、カリウム、糖質の摂取制限を指示されている人は、事前に医師などへ確認します。

飲ませてはいけない場面:呼びかけへの反応がおかしい、意識がない、嘔吐がある、自力で安全に飲めないときは、誤嚥の危険があるため無理に口から与えません。救急要請と冷却を優先します。

湿度40~70%と熱中症リスクは別の軸で読む

建築物環境衛生管理基準の相対湿度は40%以上70%以下です。これは空気調和設備を設けた特定建築物で維持すべき管理基準であり、その範囲内なら熱中症が起きないという安全保証ではありません。

湿度が高いと汗が蒸発しにくく、同じ気温でも体熱を逃がしにくくなります。熱中症の危険度は湿度単独ではなく、気温、輻射熱、気流を反映するWBGTと作業条件で評価します。法定の温湿度と測定頻度は「建築物環境衛生管理基準」で確認できます。

屋上点検90分の計画例

冷却塔の屋上点検を1名で計画し、作業場のWBGTが29度、予定時間が90分だったとします。WBGT 28度以上かつ1時間以上なので、改正規則の対象に該当すると見込まれます。

  1. 時間帯の変更、遮熱、作業分割でまず暴露を減らす
  2. 着衣と作業強度を含めてWBGT基準値と比較する
  3. バディまたは定時連絡を設け、単独放置を防ぐ
  4. 冷却場所、飲料、報告先、搬送先を作業前に確認する
  5. WBGT、作業時間、休憩、健康確認、是正内容を記録する

「飲み物を置いた」だけでは、異常を発見し、冷却し、搬送するまでの空白が残ります。予防と緊急対応を同じ手順書につなげることがポイントです。

理解度チェック

【問1】WBGT 29度の屋上で90分の点検を行う予定です。2025年改正規則の対応として適切なものはどれですか。

  1. 31度未満なので何も不要
  2. 水だけ置いて単独作業
  3. 報告体制と悪化防止手順を整備・周知
  4. 作業後にだけWBGTを測定
  5. 体調不良は本人の責任とする
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正解:3
WBGT 28度以上かつ継続1時間以上と見込まれるため対象です。作業者の着衣・強度も含め、暴露低減も先に検討します。

【問2】屋上作業中の同僚の返事がかみ合わず、自力で飲料を飲めません。最も適切な初動はどれですか。

  1. 水を無理に飲ませる
  2. ひとりで休ませる
  3. 発汗があるから経過観察だけ
  4. 119番し、一人にせず冷却する
  5. 歩かせて涼しい場所へ移動させる
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正解:4
返事の異常と自力摂取不能は危険なサインです。誤嚥を避けるため口から無理に飲ませず、救急車を要請して冷却を開始します。

【問3】熱中症の重症度判断に関する記述として正しいものはどれですか。

  1. 発汗していれば重症ではない
  2. 発汗が止まれば必ず熱射病である
  3. 普段と違う反応も意識の異常として扱う
  4. 表面体温だけでIV度を確定できる
  5. 病型名が分かるまで冷却しない
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正解:3
「返事がおかしい」「ぼーっとしている」も異常として扱います。発汗の有無だけで重症度は決められません。

【問4】経口補水液の説明として正しいものはどれですか。

  1. 健康な人が水代わりに毎日大量に飲む
  2. 全製品が熱中症に使える
  3. 意識障害がある人へ強制的に飲ませる
  4. 商品表示と食事制限を確認して使う
  5. スポーツドリンクより電解質が少ない
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正解:4
経口補水液は脱水時の病者用食品です。熱中症用の表示と、ナトリウム・カリウム・糖質の制限を確認します。

公式の確認先

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まとめ|予防と救急対応を一枚の手順にする

ビル管理現場の熱中症対策は、WBGTの測定だけで終わりません。2025年改正規則の対象作業では、報告先、作業離脱、冷却、受診・搬送、見守りの手順を事前に決めて周知します。

異常が起きたら、発汗や病型名で安全を決めず、反応と自力摂取の可否を見ます。作業から離し、冷却を開始し、一人にしない。この初動を迷わず実行できることが、設備管理と同じくらい重要な安全管理です。

制度・資料確認日/最終更新日:2026年8月1日

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