建築物環境衛生管理技術者 空気環境の調整

PID制御と流体計算|偏差2K・Re74,700・損失22.5kPa

自動制御は「何を測り、何を目標に、どの機器を動かすか」を1ループずつ追います。流体力学は、その操作が風量・水量・圧力へどう効くかを説明する土台です。PIDの文字だけ、ベルヌーイの式だけを暗記しても不具合は切り分けられません。

この記事では、偏差2K・比例帯5KでP出力を40ポイント、積分時間300秒なら60秒後のI寄与を8ポイントと計算。水配管のReを約74,700、直管損失を22.5kPaと求めます。

資料確認日:2026年8月2日。国土交通省「建築設備設計基準 令和6年版」、NISTの建物制御技術資料、米国エネルギー省のEMIS資料、NASAの流体資料を照合しています。

制御ループはSP・PV・MV・外乱で読む

記号 意味 給気温度制御の例
SP 設定値 給気14.0℃
PV 測定値 給気16.0℃
MV 操作量 冷水弁開度
外乱 制御外の変化 還気温度・水温・風量

センサー→調節器→アクチュエータ→コイル→センサーが一周のループです。SPとPVの差を偏差eとし、ここでは「PVがSPより高いほど冷却要求が大きい」向きにe=PV-SPと定義します。制御器によって符号・正逆動作の表現が異なるため、実機画面の定義を確認します。

国土交通省の建築設備設計基準は、施設規模と設備システムに応じ、省力化・最適化・省エネルギー化等を考慮して制御方法を選ぶ考え方を示しています。「設備があるからPID」ではなく、対象の応答と運用目的から選びます。

二位置制御はデッドバンドで短周期発停を抑える

二位置制御はONかOFFで操作します。冷房の設定24℃、ON点25℃、OFF点23℃なら、2Kの動作すき間があります。24℃を横切るたびに発停させず、機器寿命と安定性を確保します。

温度は設定値の周囲で周期的に変動しますが、それ自体を直ちに異常なハンチングとは呼びません。周期が機器の許容最短運転時間より短い、室温振幅が大きい、接点が頻繁に動作する場合に、センサー位置、動作すき間、負荷に対する能力過大を確認します。

偏差2K・比例帯5KならP出力は40ポイント

比例帯5Kを、偏差5Kで出力が0→100%変化する設定とします。比例ゲインは100÷5=20%/Kです。SP14℃、PV16℃なら偏差は2Kです。

P動作の計算

比例出力変化=20%/K×2K=40ポイント

バイアス30%なら、単純化した出力は70%です。実機では出力上下限・正逆動作を確認します。

比例ゲインを上げる(比例帯を狭くする)と反応は強くなりますが、遅れのあるコイルやセンサーではオーバーシュート・振動を招きます。小さすぎれば安定しても応答が鈍く、Pだけでは負荷を支える定常偏差が残る場合があります。

積分時間300秒なら60秒後のI寄与は8ポイント

理想形PIDの一例を u=Kp[e+(1/Ti)∫e dt+Td・de/dt] とします。Kp=20%/K、積分時間Ti=300秒、偏差2Kが60秒続いたと仮定します。

I動作の増分

I寄与=20×(2×60÷300)=8ポイント

PIDの実装形式は並列形・直列形等があり、同じ表示値でも式が異なる場合があります。

I動作は偏差が続く限り操作量を積み上げ、定常偏差を小さくします。ただし、弁が100%でも能力不足の間に積分値がたまると、負荷が戻った後も出力が下がらない「積分飽和」が起こります。出力制限、積分停止・追従等のアンチワインドアップを確認します。

D動作は変化を抑えるが測定ノイズも拾う

動作 主な役割 注意点
P 現在の偏差に応じる 大きすぎると振動
I 偏差の累積を戻す 遅れ・積分飽和
D 変化率に応じて制動する ノイズ・設定値キック

D動作を入れれば常に速く・高精度になるわけではありません。温度信号の微小な揺れや量子化を増幅しやすいため、フィルタ、サンプリング周期、微分をPV側へ掛ける実装等が重要です。空調では対象によってPIだけを使う例も多く、P・PI・PIDは目的に合わせます。

NISTの建物制御資料も、Pが大きすぎるとPVがSPを越えて振動し、小さければ安定でも遅くなることを説明しています。「PID=最も高精度」という順位付けではなく、安定性・応答・外乱・ノイズの折合いです。

フィードバック・フィードフォワード・カスケードを分ける

方式 使う信号 空調例
フィードバック 制御結果PV 給気温度で冷水弁を修正
フィードフォワード 測定した外乱 風量変化から弁出力を先に補正
カスケード 主ループが副SPを変更 室温が給気温度SPを変更
リセット 負荷指標 末端要求で差圧SPを変更

フィードフォワードは単なる予報ではなく、外乱を測り、その影響モデルに基づいて先に操作します。モデル誤差や未測定外乱を補うため、通常はフィードバックと組み合わせます。カスケード制御では、内側ループが十分速くなければ安定性を損ないます。

シーケンス・インターロック・PIDは役割が違う

PIDは連続量を目標へ近づける調節です。起動順序、許可条件、故障時停止はシーケンスやインターロックです。国土交通省基準では、冷熱源機器を附属ポンプ・冷却塔ファンの起動後、一定時間をおいて起動し、原則連動・インターロックする考え方が示されています。

  • 起動許可:流量確立、弁開、ポンプ運転、故障なし
  • 停止遅延:残熱・凍結・希釈運転等の機器条件
  • 安全停止:火災、凍結、高圧、低流量等
  • 手動モード:自動復帰条件、時間制限、警報を管理

安全インターロックをPID調整で回避しません。バイパス・強制運転は承認された試験手順と復旧確認が必要です。

トレンドはSP・PV・MV・運転状態を同じ時刻で見る

トレンド 主な候補 現場確認
MV100%・PV届かず 能力不足、弁不動、流量不足 弁実開度、水温・流量、コイル
MVとPVが周期振動 ゲイン過大、遅れ、弁過大 周期、弁権度、センサー位置
PVだけ瞬時に飛ぶ センサー・通信 携帯計比較、端子、単位
SPが頻繁に変わる 上位リセット、スケジュール 制御ロジック、優先順位
MV固定・表示は自動 手動上書き、出力故障 優先配列、アクチュエータ

BEMS画面の「弁80%」が、指令値かフィードバック値かを確認します。指令80%でも軸が動いていない、リンク機構が外れている、弁特性上ほとんど流れない場合があります。米国エネルギー省のEMIS資料も、スケジュール改善、温度依存負荷との散布図、設備最適化等を用途として示しています。

センサー誤差と時間軸を先に確認する

PIDを再調整する前に、センサーの校正、取付位置、応答遅れ、単位、サンプリング周期を確認します。給気温度センサーがコイル直後の偏った流れにある、室温センサーが日射やOA機器の発熱を受ける、CO₂計の時刻がずれると、正常な制御器でも誤った操作をします。

制御周期1秒のデータと、BEMSへ15分平均されたトレンドでは見える現象が違います。ハンチング調査では、現象周期より十分短い記録間隔を使います。測定器の選定・校正は「環境測定機器と測定法」で分けて解説します。

連続の式では断面が1/4なら流速は4倍

密度一定の定常流では、体積流量Q=A×vです。直径0.20mの管を2.0m/sで流れる水が、直径0.10mへ滑らかに縮小すると仮定します。

連続の式の計算

A₁=π×0.20²÷4=0.03142m²

Q=0.03142×2.0=0.06283m³/s≒226m³/h

v₂=Q÷(π×0.10²÷4)=8.0m/s

直径が半分なら面積は1/4となり、同じ流量を通す流速は4倍です。実際には8m/sは水配管として大きな損失・騒音・侵食等を招き得るため、この例は式の関係を示すものです。

ベルヌーイ式はポンプ仕事と損失を加えて使う

理想的な非圧縮・定常流では、圧力水頭p/(ρg)、速度水頭v²/(2g)、位置水頭zの和を考えます。実配管ではポンプが加える水頭Hpと、摩擦・弁・曲り等で失う水頭hLを含めます。

p₁/(ρg)+v₁²/(2g)+z₁+Hp = p₂/(ρg)+v₂²/(2g)+z₂+hL

同じ高さで速度が2→8m/sへ増える理想縮小なら、速度圧の増加は0.5×1,000×(8²-2²)=30kPaです。損失がなければ同じ分だけ静圧が下がりますが、実際は縮小損失もあるため全圧も低下します。「細くなれば静圧低下、全圧は常に一定」という説明は損失と機器仕事を省いた限定条件です。

ダクトの静圧・速度圧とピトー管は「ダクト・吹出口・送風機の診断」で数値例を扱っています。

水配管のReは約74,700で乱流域

レイノルズ数Re=vD/νです。20℃付近の水の動粘度をν=1.004×10−6m²/s、平均流速v=1.5m/s、内径D=0.050mとします。

レイノルズ数の計算

Re=1.5×0.050÷(1.004×10−6)=74,701≒74,700

十分発達した円管流の目安では、Reが約2,300未満は層流、約4,000超は乱流、その間は遷移域とされます。ただし、入口乱れ、粗さ、形状で遷移は変わります。ダクト・配管を一つの境界値だけで機械的に判定しません。

40mの直管損失は22.5kPa

Darcyの摩擦係数f=0.025、長さL=40m、内径D=0.050m、水密度ρ=1,000kg/m³、流速v=1.5m/sとします。Darcy–Weisbach式で直管摩擦損失を求めます。

直管圧力損失

ΔP=f×(L/D)×ρv²/2

=0.025×(40/0.050)×1,000×1.5²/2=22,500Pa=22.5kPa

乱流の損失を単純に「必ずv²比例」とするのは近似です。fもReと相対粗さで変わります。さらに弁・エルボ・ストレーナ・コイルの局部損失を足し、ポンプ揚程と照合します。水系統全体は「配管・弁・ポンプの診断」で扱っています。

理解度チェック

【問1】比例帯5K、偏差2Kです。0〜100%の比例出力変化として最も近いものはどれですか。

  1. 10ポイント
  2. 20ポイント
  3. 40ポイント
  4. 50ポイント
  5. 100ポイント
解答を見る

正解:3
ゲインは100÷5=20%/K、偏差2Kなので40ポイントです。正逆動作とバイアスは別に確認します。

【問2】弁出力が100%に張り付いたまま偏差が続き、積分値が増えました。この現象はどれですか。

  1. デッドバンド
  2. 積分飽和
  3. 静圧再取得
  4. キャビテーション
  5. 層流化
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正解:2
出力限界でも積分がたまる積分飽和です。アンチワインドアップと能力不足の原因を確認します。

【問3】水のν=1.004×10−6m²/s、v=1.5m/s、D=0.050mです。Reとして最も近いものはどれですか。

  1. 747
  2. 2,300
  3. 7,470
  4. 74,700
  5. 747,000
解答を見る

正解:4
1.5×0.050÷(1.004×10−6)=約74,700で、円管の目安では乱流域です。

【問4】実配管へベルヌーイの考え方を適用する説明として最も適切なものはどれですか。

  1. 摩擦があっても全圧は必ず一定
  2. ポンプ前後でも加えた仕事を無視する
  3. 圧力・速度・位置に、ポンプ水頭と損失水頭を加えて収支を取る
  4. 管径が細くなれば流量は必ず増える
  5. 弁の圧力損失はゼロである
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正解:3
実系統では機器が加える仕事と、摩擦・局部損失を含めます。理想式の成立条件を外して使いません。

公式の確認先

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まとめ|制御信号と物理量を同じ時刻で結ぶ

PIDはSP・PV・MV・外乱を一つのループとして読みます。例では偏差2Kに対するP出力40ポイント、積分時間300秒で60秒後のI寄与8ポイントでした。PIDの種類より、センサー、遅れ、出力限界、アクチュエータ実動作が重要です。

流体側は連続の式、損失を含むベルヌーイ式、Re、Darcy–Weisbach式をつなぎます。例ではRe約74,700、40m直管の損失22.5kPaでした。BEMSトレンドだけで判断せず、制御指令と現場の温度・流量・圧力を同じ時刻で照合してください。

資料確認日/最終更新日:2026年8月2日

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