空調の水系統は「必要流量を、必要揚程で、気泡を発生させずに届けられるか」で読みます。建物が高いから揚程も同じだけ必要、弁を絞れば流量調整は完了、異音がすればすべてキャビテーション――という見方では原因を外します。
この記事では、流量180m³/h・全揚程32m・ポンプ効率75%・電動機等効率92%から入力を約22.7kWと計算。閉回路の揚程、弁の使い分け、回転数70%時の相似則、NPSH(有効吸込ヘッド)まで整理します。
資料確認日:2026年8月2日。国土交通省「建築設備設計基準 令和6年版」「公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)令和7年版」と米国エネルギー省のポンプ資料を照合しています。
水系統は熱源・搬送・末端・戻りで一周する
冷水・温水を作る
流量と圧力を与える
室内側と熱交換する
熱源へ循環する
国土交通省の建築設備設計基準は、ポンプ形式を吐出量と揚程から選び、台数分割を施設規模と負荷傾向から決める考え方を示しています。ポンプ単体ではなく、熱源、配管、弁、コイルを含む系統で運転点を読みます。
冷水温度差から熱量を求める方法は「冷凍機・ヒートポンプの運転診断」、コイル側の切り分けは「空気調和機(AHU)とFCUの構造」で扱っています。
熱量700kW・温度差7Kなら流量は約86m³/h
水の比熱を4.186kJ/(kg・K)、密度を1,000kg/m³とし、熱量700kW、往還温度差7Kの流量を概算します。
必要水量の計算
質量流量=700÷(4.186×7)=23.89kg/s
体積流量=23.89×3,600÷1,000=86.0m³/h
温度差が小さくなると、同じ熱量を運ぶために流量は増えます。
冷水温度差が設計7Kから3Kへ縮み、負荷が同じなら必要流量は約2.33倍です。実機ではコイル二方弁、バイパス、差圧設定、流量計、温度計の誤差も確認します。「温度差が小さい=ポンプ能力不足」とは限りません。
開放回路と閉回路では静水頭の扱いが違う
| 系統 | 例 | 揚程の考え方 |
|---|---|---|
| 開放回路 | 開放式冷却塔、揚水 | 水面差・必要圧力+摩擦損失 |
| 閉回路 | 密閉冷温水循環 | 一周の摩擦・機器損失が中心 |
満水の密閉循環回路では、上り管で必要な位置エネルギーを下り管が戻すため、建物高さをそのまま循環ポンプ全揚程へ足しません。一方、充水圧、最高点の必要圧力、膨張タンク位置、ポンプ吸込圧は別に設計します。高層建物でも「循環揚程に高さを足さない」ことと「静水圧を無視する」ことは同じではありません。
開放式冷却塔では、水面から散水部までの実揚程や出口で失われる速度・圧力も含めます。系統図上で開放端と圧力基準点を先に探してください。
圧力300kPaは水頭約30.6m
水頭Hと圧力差ΔPは、ΔP=ρgHで結びます。水密度1,000kg/m³、重力加速度9.80665m/s²なら、300kPaに相当する水頭は次のとおりです。
H=300,000÷(1,000×9.80665)=30.59m
水では1mAq≒9.81kPaです。液密度が変われば同じ圧力差に対する水頭も変わります。
圧力計の吐出-吸込差を揚程へ直すときは、圧力取出口の高さ差と流速差も必要に応じて補正します。ゲージ圧と絶対圧も、NPSH計算では混同できません。
運転点はポンプ曲線と系統曲線の交点で決まる
ポンプ曲線は流量に対してポンプが与えられる揚程、系統曲線は配管が要求する揚程を示します。交点が運転点です。弁を絞ると系統抵抗が増えて低流量側へ移り、回転数を下げるとポンプ曲線自体が低流量・低揚程側へ移ります。
- 締切点付近:低流量、内部循環、温度上昇、振動のリスク
- 過大流量側:軸動力、NPSH、振動、モーター余裕を確認
- 最高効率点付近:一般に振動・損失を抑えやすい運転域
- 並列運転:台数を増やしても単純に流量2倍とは限らない
台数制御は各ポンプ曲線と系統曲線の組合せで評価します。既設ポンプが過大でも、吐出弁を常時絞るだけでは圧力損失としてエネルギーを捨てます。インペラ径、回転数、台数、差圧設定を負荷に合わせます。
流量180m³/h・揚程32mなら入力は約22.7kW
流量Q=180m³/h=0.050m³/s、全揚程H=32m、ポンプ効率ηp=75%、電動機・インバータ等の効率ηm=92%とします。
水動力と入力の計算
水動力=ρgQH=1,000×9.80665×0.050×32=15.69kW
入力=15.69÷(0.75×0.92)=22.74kW≒22.7kW
実測では流量、吸込・吐出圧、液温、電力を同じ運転時刻で記録します。
モーター銘板30kWは定格であり、実入力が常に30kWという意味ではありません。逆に、電流低下だけを「省エネ」と判断すると、必要流量を失った異常運転を見逃します。
回転数70%の理想相似は流量70%・揚程49%・動力34.3%
同一の遠心ポンプ、同じインペラ径、相似な運転を仮定すると、流量は回転数Nに比例、揚程はN²、軸動力はN³に比例します。
N₂/N₁=0.70 → Q₂=0.70Q₁、H₂=0.49H₁、P₂=0.343P₁
全速180m³/h・32m・軸動力20.9kWなら、理想相似では126m³/h・15.7m・約7.17kWです。ただし、開放回路の実揚程等、流量の2乗で下がらない固定成分が大きい系統では、この関係だけで運転点や省エネ量を決められません。送風機側の相似則は「ダクト・吹出口・送風機の診断」で比較できます。
配管材料は流体・温度・圧力・腐食で決める
| 材料群 | 長所の例 | 必ず確認する条件 |
|---|---|---|
| 炭素鋼管 | 強度、規格・継手の選択肢 | 腐食、肉厚、流体、施工法 |
| ステンレス鋼管 | 耐食性、衛生性 | 塩化物、異種金属、溶接 |
| 銅管 | 加工性、冷媒用の実績 | 冷媒適合、設計圧力、肉厚 |
| 樹脂管 | 耐食、軽量 | 温度、圧力、紫外線、支持 |
旧稿の「冷媒配管には必ず銅管」は撤回します。フルオロカーボン冷媒の小・中規模設備では銅管が広く使われますが、設計圧力、管径、冷媒・油との適合、法令、メーカー仕様で材料を決めます。大型設備やアンモニア系等では鋼管が使われ、銅系材料を避ける条件もあります。
同じ「冷温水管」でも、開放・密閉、水処理、酸素流入、流速、温度で腐食挙動が変わります。材料名だけで寿命を決めず、肉厚測定、腐食生成物、水質、支持・伸縮、保温下腐食を確認します。
弁は遮断・調整・逆流防止を分ける
| 目的 | 代表例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 遮断 | 仕切弁、ボール弁 | 全開・全閉、閉止性能 |
| 流量調整 | 玉形、調節形ボール・バタフライ | 弁特性、権度、キャビテーション |
| 逆流防止 | スイング・リフト等の逆止弁 | 流向、最低流速、ウォーターハンマー |
| 圧力保護 | 安全弁、逃し弁 | 設定圧、排出先、封印 |
仕切弁を中間開度で常用すると、振動、偏流、弁体・弁座の損傷につながりやすいため、通常は遮断用途です。ただし「玉形弁なら何でも自動調整に最適」「ボール弁は調整不可」とも言い切れません。調節弁は、固有流量特性、レンジアビリティ、許容差圧、アクチュエータを含めて選びます。
ポンプ周りの逆止弁と遮断弁の配置は、保守範囲、逆止弁形式、圧力、メーカー図、設計標準で確認します。旧稿のように順序を一通りだけ暗記せず、各弁を「逆流防止」「機器隔離」「試運転・調整」のどの目的で置くか読みます。
二方弁系統は差圧と弁権度を確認する
末端の二方弁が閉じると系統流量は減り、ポンプの差圧が上がりやすくなります。末端差圧制御や回転数制御で必要圧力へ追従させます。差圧設定が高すぎると、弁がわずかに開いただけで流れすぎ、制御が不安定になり、ポンプ電力も増えます。
制御弁の権度は、設計流量時の弁圧力損失が、弁を含む制御対象区間の圧力損失に占める割合です。小さすぎると弁開度と流量の関係が崩れます。弁だけを交換せず、ポンプ差圧と配管抵抗を同時に見ます。PID制御は「自動制御と流体力学」で詳しく扱います。
膨張タンクは膨張吸収と圧力基準点を担う
密閉式膨張タンクは温度変化による水の体積変化を受け、系統圧力を許容範囲に保ちます。接続点はポンプ運転によって圧力がほぼ変わらない基準点となるため、ポンプとの位置関係が系統各部の圧力へ影響します。
- 圧力不足:最高点で空気を吸込み、流量低下・腐食・騒音の原因
- 予圧不適切:有効容積が不足し、温度変化で圧力が大きく振れる
- 隔膜破損:タンクが水で満たされ、膨張を吸収できない
- 空気分離不良:ポンプ異音、コイル流量不足、腐食を招く
自動空気抜き弁を最高点へ付けるだけで解決するとは限りません。補給水、膨張タンク予圧、空気分離器、配管勾配、局部の負圧を一緒に確認します。
NPSHa 10.1mを絶対圧から計算する
キャビテーション判定では、ポンプ入口で液体が沸騰しない余裕をNPSHで見ます。海面付近の開放水槽、40℃の水、ポンプが水面より2.0m低い位置、吸込損失1.5mと仮定します。大気圧水頭10.33m、40℃の蒸気圧水頭を約0.75mとします。
利用可能NPSHの概算
NPSHa=10.33+2.0-1.5-0.75=10.08m≒10.1m
標高、気圧、液温、槽内圧力、流量による吸込損失で変わります。
メーカー曲線のNPSHrが3.0mなら数値差は7.1mですが、必要余裕は用途・規格・運転変動で決めます。「NPSHa>NPSHrだから条件を問わず安全」とはしません。水温上昇、ストレーナ閉塞、槽水位低下、流量増加はNPSHaの余裕を減らします。
キャビテーションと空気混入を見分ける
| 現象 | 発生の中心 | 確認項目 |
|---|---|---|
| キャビテーション | 羽根車入口等の局部低圧 | NPSH、液温、吸込損失、流量 |
| 空気吸込み | 継手・軸封・低水位渦 | 漏れ、槽水位、渦防止、負圧 |
| 溶存空気の分離 | 減圧・加熱部 | 系統圧、膨張タンク、空気分離 |
いずれも騒音、振動、流量低下を起こし得ます。音だけで断定せず、吸込絶対圧、液温、流量、槽水位、気泡、振動周波数を確認します。キャビテーションを長く続けると、羽根車表面の壊食や性能低下につながります。
軸封はグランドパッキンとメカニカルシールで扱いが違う
グランドパッキンは、潤滑・冷却のため管理された滴下を必要とする構造があります。締めすぎると発熱・軸損傷、緩すぎると漏水過多になります。一方、メカニカルシールは通常、目視できる連続漏れを正常扱いしません。製品仕様と保全基準を区別します。
国土交通省の令和7年版標準仕様書は、ポンプ本体が結露する場合や軸封がグランドパッキンの場合の基礎周囲の排水を規定しています。漏れを放置してよいという意味ではなく、安全な排水経路を確保した上で軸封状態を管理します。
異常は流量・差圧・温度・電力を同時に見る
| 症状 | 主な候補 | 次の実測 |
|---|---|---|
| 全系統で流量不足 | 回転数、詰まり、空気 | 吸吐圧、回転、流量、ストレーナ |
| 末端だけ不足 | 弁、差圧、バランス | 末端差圧、弁開度、枝流量 |
| 電力が高い | 過大流量、効率低下 | 運転点、電力、インペラ、弁 |
| 圧力が周期変動 | 制御ハンチング、空気 | PID、弁開度、差圧トレンド |
| 異音・振動 | NPSH、軸受、芯ずれ | 吸込圧、液温、振動、軸心 |
停止・分解を伴う点検は、電源遮断、残圧・高温流体、弁の隔離、ロックアウト等の現場手順に従います。運転中の回転体やカップリングへ触れて確認しません。
理解度チェック
【問1】流量180m³/h、全揚程32m、ポンプ効率75%、電動機等効率92%です。入力として最も近いものはどれですか。
- 11.8kW
- 15.7kW
- 20.9kW
- 22.7kW
- 32.0kW
【問2】満水の密閉冷温水回路の循環ポンプ揚程について、最も適切なものはどれですか。
- 建物高さを必ずそのまま加える
- 建物高さだけで決める
- 一周の摩擦・機器損失を中心に求め、静水圧と充水圧は別に確認する
- 最高点の圧力は確認しなくてよい
- 膨張タンク位置は系統圧へ影響しない
【問3】同一遠心ポンプを相似な条件で回転数70%にした理想関係はどれですか。
- 流量70%・揚程49%・軸動力34.3%
- 流量49%・揚程70%・軸動力34.3%
- 流量70%・揚程34.3%・軸動力49%
- すべて70%
- 流量と揚程は変わらない
【問4】ポンプで騒音と流量低下が生じました。判断として最も適切なものはどれですか。
- 音だけでキャビテーションと断定する
- NPSHrだけを確認しNPSHaは不要とする
- 吸込絶対圧、液温、流量、槽水位、空気混入を確認する
- 吸込弁をさらに絞って様子を見る
- メカニカルシールの連続漏水を正常とする
公式の確認先
- 国土交通省「建築設備設計基準 令和6年版」
- 国土交通省「公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)令和7年版」
- 国土交通省「公共建築設備工事標準図(機械設備工事編)令和7年版」
- 米国エネルギー省「Pump Systems」
- 米国エネルギー省「MEASUR」
次に読む記事
まとめ|流量・揚程・NPSHを同じ運転点で測る
空調水系統は、必要熱量から流量を求め、開放・閉回路を区別し、配管・弁・機器損失から全揚程を決めます。例では180m³/h・32mに対する水動力15.69kW、入力約22.7kWでした。
キャビテーションはNPSHaとNPSHr、液温、吸込損失を数値で確認し、空気混入と分けます。材料や弁は名前だけで固定せず、流体、温度、圧力、制御目的を確認してください。診断記録では流量、吸込・吐出圧、温度、回転数、電力を同じ時刻にそろえることが重要です。
資料確認日/最終更新日:2026年8月2日
※当サイトの画像にはAI生成のものが含まれており、実際の機器・器具とは外観が異なる場合があります。問題・解答の内容には細心の注意を払っておりますが、誤りが含まれる可能性があります。学習の参考としてご活用いただき、最終的な確認は公式テキスト・法令等で行ってください。当サイトの情報に基づく判断によって生じた損害について、一切の責任を負いかねます。
内容の誤りやお気づきの点がございましたら、お問い合わせフォームよりご連絡いただけますと幸いです。正確な情報をお届けできるよう、随時修正してまいります。