建築物環境衛生管理技術者 空気環境の調整

環境測定器の選び方|CO₂補正861ppm・応答69秒・校正

環境測定器は、原理名ではなく「測りたい量・必要範囲・許容誤差・応答時間・校正状態」で選びます。CO₂なら必ずNDIR、温湿度なら必ずアスマン、校正済みならどこで測っても正しい――という1対1の暗記では、法定測定にも設備診断にも足りません。

この記事では、CO₂計の2点確認値から850ppm表示を約861ppmへ補正する例と、時定数30秒のセンサーが90%応答するまでを約69秒と計算。測定原理、ゼロ・スパン、トレーサビリティ、不確かさ、設置条件まで整理します。

制度・資料確認日:2026年8月2日。厚生労働省の建築物衛生法施行規則と測定資料、NITEのJCSS資料、NISTの計量トレーサビリティ資料を照合しています。

法定測定器は「代表原理1つ」だけではない

測定項目 施行規則の基準機器 同等性能の扱い
CO 検知管方式CO検定器 同程度以上も可
CO₂ 検知管方式CO₂検定器 同程度以上も可
温度 0.5度目盛の温度計 同程度以上も可
相対湿度 0.5度目盛の乾湿球湿度計 同程度以上も可
気流 0.2m/s以上を測れる風速計 同程度以上も可

したがって、NDIR式CO₂計や定電位電解式CO計は代表的な実用機器ですが、原理名だけで法定測定へ自動的に適合するとは限りません。必要範囲、最小目盛・分解能、許容誤差、校正、使用条件が施行規則の要求と同程度以上かを確認します。

浮遊粉じんとホルムアルデヒドは別の指定があります。管理基準値、測定点、頻度、粉じん計の法定較正は「空気環境測定の基準と実務」で扱い、この記事では測定器の信頼性へ絞ります。

測定値はセンサーだけでなく測定系全体で決まる

採取
位置・高さ・流量
検出
原理・干渉・範囲
変換
補正・平均・単位
記録
時刻・条件・判定

たとえばCO₂センサー自体が正しくても、人の呼気が直接当たる、チューブが漏れる、ポンプ流量が不足する、安定前に読む、単位をppmと%で取り違えると結果はずれます。校正証明書は重要ですが、その後の採取・補正・使用条件まで自動的に保証しません。

分解能・正確さ・繰返し性・応答時間を混ぜない

性能 意味 誤解しやすい点
分解能 表示できる最小変化 1ppm表示=±1ppm精度ではない
測定誤差 指示と参照値の差 範囲・温湿度で変わる
繰返し性 同条件でのばらつき 偏りが小さい保証ではない
応答時間 変化へ追従する速さ 精度とは別性能
ドリフト 時間経過による指示変化 ゼロ・スパン両方に起こる

仕様が「±50ppm±指示値の3%」なら、1,000ppm付近の許容差は単純計算で±80ppmです。表示が999ppmでも真値が必ず基準内とは限りません。基準付近では、仕様、校正結果、繰返し、採取条件を含めて再測定や別法照合を行います。

校正・調整・使用前確認は別の作業

  • 校正:標準が示す値と機器指示の関係を、条件と不確かさ付きで求める
  • 調整:機器の指示が所定関係へ近づくよう内部設定を変える
  • 検証:要求性能を満たすか確認する
  • 使用前確認:ゼロ、電池、流量、破損、期限、時刻等を点検する

「校正したから表示を調整した」とは限りません。校正前後の値、補正値の適用方法、証明書の条件を確認します。現場担当者が法定測定器の内部係数を独自に書き換えず、メーカー手順と品質管理ルールに従います。

トレーサビリティは測定結果の性質

計量トレーサビリティは、文書化された切れ目のない校正の連鎖で、測定結果を国家・国際標準等へ関連付けられる性質です。各校正は測定不確かさへ寄与します。NITEのJCSSでは、登録事業者の技術能力と国家計量標準へのつながりを校正証明書で確認できます。

「JCSS校正済みの機器を持つ」だけで、あらゆる現場結果が自動的にトレーサブルになるわけではありません。測定範囲、校正点、使用環境、機器の輸送・保管、測定手順、結果の不確かさをつなげます。NISTも、トレーサビリティは機器そのものではなく測定結果の性質だと説明しています。

CO₂計の2点確認から表示850ppmを861ppmへ補正する

説明用の例として、認証値400ppmの標準で機器表示420ppm、認証値1,000ppmで表示980ppmだったとします。この2点間だけ線形と仮定し、表示xから補正値Cを求めます。

2点間の線形補正例

傾き=(1,000-400)÷(980-420)=1.07143

C=400+1.07143×(850-420)=860.7ppm≒861ppm

2点の間だけを直線近似した教材例です。実機への適用は校正証明書・取扱説明書に従います。

補正後の値にも、標準ガス、校正、再現性、温湿度、圧力、サンプリング等の不確かさが残ります。2点を通るから全測定範囲で正しいとも限りません。基準判定に使う範囲を挟む校正点を選ぶことが重要です。

時定数30秒なら90%応答まで約69秒

一次遅れで近似できるセンサーが、ステップ変化の63.2%へ達する時間を時定数τとします。90%応答時間t90は約2.303τです。

応答時間の計算

t90=2.303×30=69.1秒≒69秒

表示が動いた瞬間に読まず、機器仕様のウォームアップ時間と応答時間を確保します。サンプリングチューブが長い、吸引流量が小さい、保護フィルタが詰まると、測定場所の空気がセンサーへ届く輸送遅れも加わります。

NDIR式CO₂計は光学系と基準点を管理する

NDIR(非分散型赤外線吸収法)は、CO₂が特定波長の赤外線を吸収する性質を利用します。赤外光源、測定セル、光学フィルタ、検出器、補正演算で濃度を求めます。

  • ゼロ点:CO₂を含まない基準ガス等で指示の基点を確認
  • スパン:既知濃度の標準ガスで感度を確認
  • 圧力・温度:気体密度と光学応答への補正条件を確認
  • 結露・粉じん:セル汚れ、散乱、サンプル流量低下を防ぐ
  • 自動基線補正:常時高濃度の空間では前提が合うか確認

厚生労働省の作業環境測定資料でも、NDIRの測定前にゼロ点確認と標準ガスによるスパン調整、共存ガスの影響確認が挙げられています。屋外濃度へ自動的に合わせる機能は便利ですが、24時間在室等で定期的に低濃度へ戻らない場所では偏り得ます。

CO計は電気化学式と検知管を条件で使い分ける

定電位電解式COセンサーは、電極での酸化還元反応による電流から濃度を求めます。小形で連続測定に向く一方、センサー寿命、温湿度、酸素条件、共存ガスの交差感度、ゼロドリフトを確認します。

検知管は、所定量の空気を通して反応層の変色長等を読みます。採取器の気密、吸引回数、温湿度補正、読み取り時刻、管の期限、対象ガスを確認します。「使い捨てだから校正不要で必ず正確」「連続計だから検知管より常に正確」という優劣ではありません。

アスマン通風乾湿計は湿球条件が結果を左右する

アスマン通風乾湿計は、乾球温度と、湿らせた感温部の蒸発冷却で得る湿球温度を測ります。強制通風と放射遮蔽を備え、乾湿球湿度計の代表例です。ただし、施行規則がアスマンという製品形式だけを唯一の法定機器にしているわけではありません。

  • 湿球ガーゼの汚れ・油分・巻き方
  • 使用水とガーゼ全体の湿り
  • 取扱説明書どおりの通風と安定時間
  • 乾球・湿球温度計の器差
  • 氷結、低湿度、周囲放射の条件

電気式湿度計も、同等以上の性能が確認できれば活用できます。容量式・抵抗式等で原理と汚染感度が違います。「電気式は必ずアスマンで年1回校正」という一律の法定周期ではなく、用途、仕様、履歴、品質計画で周期を設定します。

グローブ温度計は空気温度だけを測る機器ではない

黒球温度は、放射、対流、空気温度の影響を受けた球の平衡温度です。平均放射温度やWBGT等の評価に用いますが、建築物衛生法の定期6項目そのものではありません。適用する温熱指標の規格に合う球径・放射特性と計算式を使います。

黒球は熱容量があり、気流でも応答が変わります。固定の「10分待てば必ずよい」ではなく、機器の応答仕様と表示の安定を確認します。日射のある屋外値と、室内の長波放射環境も同じ条件として扱いません。PMV・WBGT・SET*の違いは「人体の体温調節と温熱環境」で解説しています。

熱線・ベーン・ピトー管は風速域と流れで選ぶ

方式 得意な測定 主な注意
熱線・熱式 室内微風、変動 方向、温度補正、汚れ
ベーン式 吹出口・大開口平均 始動風速、面内偏り
ピトー静圧管 ダクト内比較的高速流 直管、角度、密度、差圧
キャプチャーフード 制気口の体積風量 背圧、漏れ、器具寸法

ピトー管で全圧-静圧=18Pa、空気密度1.2kg/m³なら、理想式v=√(2ΔP/ρ)より√(36/1.2)=5.48m/sです。低風速では差圧が非常に小さくなるため、差圧計の分解能とゼロ誤差が支配的になります。

ダクト断面の1点を測って総風量とせず、適切な直管部で多点トラバースして平均します。送風機・ダクト診断は「ダクト・吹出口・送風機の診断」につなげてください。

測定点は「法定代表点」と「原因診断点」を分ける

法定測定は、通常使用中、各階の適当な居室中央部、床上75〜150cm等の条件に従います。一方、苦情原因を探す追加測定では、吹出口、窓際、会議室、外気取入口、機械室等も測ります。

両者を同じ欄で平均すると、代表性が崩れます。「法定判定用」「設備診断用」「外気参照」を記録上分け、位置図と測定高さを残します。人の呼気、日射、PC排熱、扉開閉、清掃作業等の一時影響も記録します。

基準付近の値は丸める前の生データから確認する

基準1,000ppmに対し表示999ppmだから、測定誤差を無視して確実に適合とは言えません。逆に1,001ppmの一表示だけで設備不良を断定もしません。ウォームアップ、ゼロ、標準比較、繰返し、採取位置、在室人数を確認し、丸める前の値と時系列を残します。

不確かさを法定基準へどう適用するかは、所管、測定手順、契約・品質ルールに従います。現場判断では安全側のガードバンドや再測定条件を事前に決めておくと、都合のよい丸めを防げます。

現場へ出る前・測定中・終了後の確認

時点 確認内容 残す記録
出発前 期限、電池、ゼロ材、付属品 機器ID、校正証明、係数
設置時 位置、高さ、向き、安定 平面図、写真、開始時刻
測定中 流量、警報、表示変動 生値、平均、運転・在室
終了後 ゼロ再確認、破損、汚れ 終了時刻、逸脱、再測定

前後のゼロ確認が大きくずれた場合、その間の全データを無条件で有効にしません。輸送衝撃、結露、センサー劣化、バッテリー低下を確認し、影響範囲を評価します。

理解度チェック

【問1】CO₂計が標準400ppmで420ppm、標準1,000ppmで980ppmを示しました。2点間を線形補正すると表示850ppmは約いくらですか。

  1. 820ppm
  2. 839ppm
  3. 850ppm
  4. 861ppm
  5. 900ppm
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正解:4
400+(600/560)×(850-420)=約860.7ppmです。実機は校正証明書と取扱手順に従います。

【問2】時定数30秒の一次遅れセンサーが90%応答する時間として最も近いものはどれですか。

  1. 21秒
  2. 30秒
  3. 45秒
  4. 69秒
  5. 90秒
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正解:4
t90≒2.303τ=69.1秒です。輸送遅れや機器のウォームアップは別に加わります。

【問3】計量トレーサビリティの説明として最も適切なものはどれですか。

  1. 高価な測定器を使うこと
  2. 表示桁数が多いこと
  3. 測定結果を不確かさを伴う切れ目のない校正連鎖で参照標準へ関連付けられること
  4. 一度校正すれば永久に正しいこと
  5. 機器名だけで法定適合が決まること
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正解:3
トレーサビリティは測定結果の性質です。校正後の使用条件と測定不確かさもつなげます。

【問4】建築物衛生法のCO₂測定器について最も適切な説明はどれですか。

  1. NDIR式だけが法定機器である
  2. 検知管方式が規則に示され、同程度以上の性能を持つ機器も対象になり得る
  3. 原理に関係なく家庭用表示器ならよい
  4. 一度校正すれば設置場所は問わない
  5. CO用電気化学センサーを無条件で流用できる
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正解:2
施行規則は検知管方式CO₂検定器を示し、同程度以上の性能を持つ機器も含めます。NDIRという原理名だけで適否を決めません。

公式の確認先

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まとめ|測定値に原理・条件・不確かさを添える

測定器は、原理名ではなく範囲、誤差、繰返し、応答、校正状態と使用条件で選びます。例では2点確認から表示850ppmを約861ppmへ補正し、時定数30秒の90%応答を約69秒と求めました。

法定測定では施行規則の機器・同等性能、測定点、頻度を確認します。設備診断では追加点を分け、ゼロ・スパン、採取流量、温湿度、在室・運転条件まで記録してください。表示値だけでなく、再現できる測定過程が結果の信頼性を作ります。

制度・資料確認日/最終更新日:2026年8月2日

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