地中送電線路までで、送電線が何でできているか(電線、がいし、鉄塔、ケーブル)を見てきました。この記事は、その線路に電流を流したときの話です。受電端の電圧は、送電端よりどれだけ下がるのか。途中でどれだけの電力が熱になるのか。1つの線路で、どこまでの電力を送れるのか。3つとも、線路を「抵抗とリアクタンスの直列回路」に置きかえて、1相分で計算します。事故のときに流れる電流は変電所の保護装置で扱ったので、ここで計算するのは、事故のない平常時の電圧と損失です。
この記事で押さえること
- 送電線は、1相分を取り出すと、抵抗 R とリアクタンス X の直列で表せる。R と X は、1 km あたりの値(線路定数)にこう長を掛けて求める。
- 電圧降下の近似式は √3 I(R cos θ+X sin θ)。フェーザ図で、受電端電圧と同じ向きの成分だけを残した式で、送電端と受電端の位相差が小さいときに使える。
- 同じ式は (PR+QX)/Vr とも書ける。送電線は X が R より大きいので、電圧は無効電力の流れ方で大きく動く。
- 送電損失は 3I2R。電力と電圧と力率で書くと P2R/(Vr2 cos2θ) で、電圧の2乗と力率の2乗に反比例する。
- 電圧降下率の分母は受電端電圧。送電効率の分母は送電端電力。
- 進み電流が流れているときは、電圧の高低が逆になり、受電端のほうが高くなる場合がある(フェランチ効果)。
- 抵抗を無視した線路で送れる電力は (VsVr/X) sin δ。δ が90°のときの値が、定態安定極限電力。
記号と前提。送電端の線間電圧を Vs、受電端の線間電圧を Vr[V]、それぞれの相電圧(線間電圧の 1/√3)を Es・Er、線電流を I[A]、電線1条あたりの抵抗を R、リアクタンスを X[Ω]、受電端の力率を cos θ、受電端の三相分の有効電力を P[W]、無効電力を Q[var]、送電端電圧と受電端電圧の位相差(相差角)を δ と書きます。線路は三相3線式で、3つの相がそろっている(平衡している)とします。力率は、断りがなければ遅れです。当サイトのミニテストでは送電損失の記号に別の添字を使っていますが、この記事の PL と同じものです。例題の電圧・こう長・線路定数は、計算の流れを追うために当サイトで置いた値で、実在の線路の値ではありません。
線路定数と、1相分の回路
送電線の電気的な性質は、抵抗、インダクタンス、静電容量、漏れコンダクタンスの4つで表します。これが線路定数です。抵抗は、導体の材料と断面積と温度で決まります。インダクタンスと静電容量は、電線の太さと、電線どうしの間隔で決まります。どれも、かけた電圧や流した電流の大きさでは変わりません。漏れコンダクタンスは、がいしの表面を伝って逃げる電流などを表すもので、小さいので計算では無視するのがふつうです。
3つの相がそろっているときは、3相の電流を足すと0になるので、電源と負荷の中性点を結ぶ線があっても電流は流れません。そこで1相分だけを取り出し、電圧を相電圧に直して、単相の回路として解きます(三相交流回路で使った、1相分の等価回路です)。このとき線路に入れるのは、電線1条の抵抗とリアクタンスです。行きと帰りの2条分にはしません。帰りの電線があるのは単相2線式で、そちらは配電方式と配電計算で扱います。
架空送電線の、1条あたりの定数
L=0.05+0.4605 log10(D/r)
[mH/km]
C=0.02413/log10(D/r)
[µF/km]
D:電線どうしの間隔、r:電線の半径
(同じ単位で入れる。3条の間隔が
違うときは、3つの積の3乗根)
数字には出どころがあります。0.05 は、電線の内側を通る磁束による分で、真空の透磁率 4π×10−7 H/m を 8π で割って mH/km に直した値です。0.4605 は、同じ透磁率を 2π で割り、自然対数を常用対数に直す2.3026を掛けた値です。0.02413 は、真空の誘電率を 1/(36π×109) F/m と丸め、2π 倍して2.3026で割った値です。
間隔と半径は対数の中に入っているので、値を大きく変えても定数はあまり動きません。半径12 mm の電線で、間隔を2 m、4 m、8 m と広げたときのインダクタンスは、1.07、1.21、1.35 mH/km です。4 m のときの静電容量は約0.0096 µF/km になります。1相を何本かの電線の束にする多導体は、束の全体が太い1本の電線のように働くので、インダクタンスが下がり、静電容量が上がります(架空送電線路)。ケーブルは導体どうしが近く、あいだに絶縁体が詰まっているので、静電容量が架空線の数十倍になります(地中送電線路)。
リアクタンスは X=2πfL です。1.21 mH/km の線路は、50 Hz で 2π×50×1.21×10−3≒0.38 Ω/km、60 Hz ではその1.2倍の約0.46 Ω/km になります。同じ線路でも、周波数が違えばリアクタンスが変わります。四則演算と √ だけの電卓では対数を計算できないので、上の2つの式は、数値を入れるためというより、何を変えるとインダクタンスや静電容量がどちらへ動くかを読むために使います。
こう長と回路の扱い方
線路の長さ(こう長)によって、静電容量をどう扱うかが変わります。
| 線路 | 回路の扱い方 |
|---|---|
| 短い線路 | 抵抗とリアクタンスの 直列だけで表す。 静電容量は無視する。 |
| 中くらい の線路 |
静電容量を1か所か 2か所にまとめる。 中央に置くのがT形回路、 半分ずつ両端に置くのが π形回路。 |
| 長い線路 | 定数が線路に沿って 一様に分布している 回路として扱う (分布定数回路)。 |
境目が何 km と決まっているわけではありません。静電容量を無視してよいかどうかは、静電容量に流れる充電電流が、負荷の電流に比べて十分小さいかどうかで決まります。電圧が高い線路やケーブルでは、短い距離でも無視できなくなります。問題文に「静電容量は無視する」と書かれているか、静電容量の値が与えられているかを見て、どの回路で解くかを決めます。この記事の計算の大半は、いちばん上の、直列だけの回路です。
電圧降下の式はどこから来るか|フェーザ図の横の成分
1相分の回路では、送電端の相電圧は、受電端の相電圧に、線路のインピーダンスでの電圧降下を足したものです。フェーザ(大きさと位相をもつ量)で書くと Es=Er+(R+jX)I です。大きさだけを足し算することはできないので、向きをそろえて成分に分けます。
受電端の相電圧 Er を基準にして、右向きの矢印で描きます。力率が遅れなので、電流 I は Er より角度 θ だけ遅れています。抵抗での電圧降下 RI は電流と同じ向き、リアクタンスでの電圧降下 XI は電流より90°進んだ向きです。この2つを、Er と同じ向き(横)と、Er より90°進んだ向き(縦)に分けて足します。
送電端の相電圧の、2つの成分
横:Er+I(R cos θ+X sin θ)
縦:I(X cos θ−R sin θ)
Es の大きさは、横と縦をそれぞれ2乗して足し、平方根をとった値です。ところが、縦の成分は横の成分に比べてずっと小さいので、2乗して足しても大きさにはほとんど効きません。そこで縦を捨てると、Es≒Er+I(R cos θ+X sin θ) です。相電圧の差を √3 倍すると、線間電圧の差になります。
電圧降下の近似式(三相3線式)
v=Vs−Vr
≒√3 I(R cos θ+X sin θ)[V]
R・X:電線1条あたり[Ω]
cos θ:受電端の力率(遅れ)
R に cos θ、X に sin θ がつくのは、図の向きから決まります。抵抗での降下は電流と同じ向きなので、Er の向きの成分は cos θ 倍です。リアクタンスでの降下は電流より90°進んでいるので、Er の向きの成分は sin θ 倍になります。力率が1なら sin θ は0で、リアクタンスの項が消えて √3 IR だけが残ります。sin θ は √(1−cos2θ) で、√ のキーがあれば出せます(力率ごとの sin と tan の値は交流電力と力率改善の表にあります)。
捨てた縦の成分は、送電端の電圧が受電端の電圧よりどれだけ位相が進んでいるか、つまり相差角 δ を決めています。近似式は、δ が小さいときの式です。日本電気技術者協会の解説講座も、縦の成分が横の成分に比べて極めて小さいのでこれを無視する、という順でこの式を出しています。縦を捨てた分だけ、近似式の値は本当の値より少し小さくなります。
有効電力と無効電力で書き直す
受電端の有効電力は P=√3 VrI cos θ、無効電力は Q=√3 VrI sin θ です。近似式の I cos θ と I sin θ をこれで置きかえると、電流が消えます。
v≒(PR+QX)/Vr
P[W]・Q[var]は受電端の三相分
Vr は受電端の線間電圧[V]
有効電力は抵抗と、無効電力はリアクタンスと掛け合わさって、電圧を下げます。架空送電線では、リアクタンスが抵抗の数倍あります。そのため送電線の電圧は、有効電力よりも、無効電力がどれだけ流れているかで大きく変わります。変電所の調相設備が、無効電力を出し入れすることで電圧を調整できるのは、この式の QX の項を動かしているからです(変電所の設備)。電線が細くてこう長の短い配電線や、リアクタンスの小さいケーブルでは、抵抗の項の割合が大きくなります。
電圧降下率と電圧変動率
電圧降下率
ε=(Vs−Vr)/Vr×100[%]
分母は受電端の電圧です。よく似た言葉に、電圧変動率があります。こちらは、負荷をつないでいるときの受電端電圧 Vr と、送電端電圧をそのままにして負荷を切り離したときの受電端電圧との差を、Vr で割ったものです。静電容量を無視できる短い線路では、負荷を切り離すと電流が0になり、受電端電圧は送電端電圧と同じになるので、2つの値は一致します。静電容量が効く線路では、あとで見るように、無負荷の受電端電圧が送電端電圧より高くなるので、一致しません。
近似式の両辺を Vr で割って百分率にすると、「抵抗による降下の割合× cos θ+リアクタンスによる降下の割合× sin θ」という形になります。変圧器の電圧変動率の近似式と同じ形で、導き方も同じです(変圧器の等価回路と計算)。
家庭などに届く低圧の電圧には、法令で決められた幅があります(変電所の設備で扱いました)。高圧や特別高圧の系統には法令上の幅はありませんが、日本電気技術者協会の解説講座によれば、変動の幅がおおむね5%以内に収まるように運用されています。
計算例1|線路定数から電圧降下率へ
設定。周波数50 Hz、こう長25 km の三相3線式1回線の架空送電線がある。電線1条あたりの抵抗は0.13 Ω/km、インダクタンスは1.2 mH/km で、静電容量は無視する。受電端の線間電圧は77 kV、負荷は三相で36 MW、力率は0.9(遅れ)である。電圧降下と電圧降下率を、近似式で求める。
① 抵抗:0.13×25=3.25 Ω
② リアクタンス:
2π×50×1.2×10−3×25≒9.42 Ω
(1 km あたり約0.377 Ω)
③ 電流:36×106/(√3×77×103×0.9)≒300 A
④ sin θ=√(1−0.92)≒0.4359
⑤ 電圧降下:√3×300×(3.25×0.9+9.42×0.4359)
=√3×300×(2.925+4.106)≒3,653 V
⑥ 電圧降下率:3,653/77,000≒4.74%
送電端の電圧は約80.65 kV
検算:無効電力は 36×0.4359/0.9≒17.4 Mvar。(36×3.25+17.4×9.42)/77=(117+164)/77≒3.65 kV で、同じ値になります。MW と Mvar と kV で入れると、答えは kV で出ます。
読み取り。力率が0.9あっても、括弧の中の7.03 Ω のうち4.11 Ω はリアクタンスの項です。縦の成分を捨てずにフェーザで計算すると、電圧降下は約3,737 V(4.85%)、相差角は約2.6°です。近似式との差は約84 V で、77 kV の0.1% ほどでした。
同じ線路に同じ300 A を流し、受電端の力率だけを変えると、次のようになります。受電端の線間電圧は77 kV です。
| 受電端の 力率 |
近似式 | フェーザで 計算 |
|---|---|---|
| 遅れ0.8 | 4,288 V | 4,340 V |
| 遅れ0.9 | 3,653 V | 3,737 V |
| 1.0 | 1,689 V | 1,841 V |
| 進み0.9 | −614 V | −441 V |
| 進み0.8 | −1,586 V | −1,425 V |
遅れの力率が低いほど、電圧降下は大きくなります。力率が1でも、抵抗の分は残ります。進み力率では、電流が電圧より進むので、sin θ の項の符号がマイナスになり、式は √3 I(R cos θ−X sin θ) です。リアクタンスの項が抵抗の項を上回ると、電圧降下がマイナスになります。受電端の電圧のほうが高い、ということです。
近似式とフェーザの計算との差は 52〜173 V で、どの行も線間電圧の0.25%以下です。ただし、電圧降下そのものが小さい行では、この差が降下の値に対して目立ちます。近似式は、電圧が何%下がるかを見積もるための式で、小さな値どうしの差を比べるのには向きません。
送電損失|電力・電圧・力率で書き直す
電線に電流が流れると、抵抗で I2R の電力が熱になります。三相3線式では電線が3条あるので、3倍します。ここでも R は電線1条あたりの値です。
送電損失
PL=3I2R[W]
=P2R/(Vr2 cos2θ)
P:受電端の三相電力[W]
Vr:受電端の線間電圧[V]
2行目は、I=P/(√3 Vr cos θ) を1行目に入れたものです。√3 を2乗した3が、電線3条分の3と打ち消し合って消えます。この形にすると、損失が何で決まるかが読めます。
- 電圧:同じ電力を、同じ力率、同じ電線で送るなら、損失は電圧の2乗に反比例する。電圧を2倍にすれば4分の1、3倍にすれば9分の1。
- 力率:損失は力率の2乗に反比例する。力率が低いと、同じ有効電力を送るための電流が増える。
- 電力:損失は送る電力の2乗に比例する。損失を電力で割った損失率は、電力に比例する。送る電力を2倍にすると、損失は4倍、損失率は2倍になる。
「電圧を上げると損失が減る」は、送る電力を変えない、という条件がついた話です。電圧を上げた分だけ電流が減るので、損失が減ります。負荷をそのままにして電圧だけを上げれば電流は増えるので、条件を落とすと逆の結論になってしまいます。
電圧は、高ければ高いほどよいわけでもありません。電圧が高くなると、がいしの数、電線どうしの間隔、鉄塔の高さ、変圧器や遮断器の絶縁がすべて大きくなり、建設費が上がります。電線の表面の電界が強くなって、コロナ放電も起こりやすくなります(架空送電線路)。送電電圧は、送る電力と距離に合わせて選ばれます。電気事業連合会の説明では、発電所でつくった電気は27万5000 V から50万 V に上げて送り出され、15万4000 V、6万6000 V と、需要地に近づくにつれて段階的に下げられます。
線路の損失には、ここで計算した抵抗損のほかに、コロナ放電による損失、ケーブルの絶縁体やシースで生じる損失(地中送電線路)などがあります。問題文で「送電損失」と言われたときは、断りがなければ抵抗損を指します。
送電効率
送電効率
η=Pr/Ps×100
=Pr/(Pr+PL)×100[%]
Pr:受電端の電力、Ps:送電端の電力
送電端から送り出した電力のうち、受電端に届いた割合です。分母は送電端の電力で、受電端の電力に損失を足したものです。効率と受電端の電力が分かっていれば、送電端の電力は Pr/η で求まります。損失率は、送電端の電力に対する割合で言うときと、受電端の電力に対する割合で言うときとがあり、値が少し違います。どちらを分母にしているかを問題文で確かめます。
計算例2|損失と効率、電圧と力率を変えたとき
設定。計算例1の線路(1条あたり3.25 Ω、9.42 Ω)で、受電端が77 kV、36 MW、力率0.9(遅れ)、線電流300 A のときの送電損失と送電効率を求める。次に、受電端の電力を変えずに、電圧を154 kV にしたとき、力率を1.0にしたときの損失を、それぞれ求める。
① 送電損失:3×3002×3.25=877,500 W(約878 kW)
② 受電端の電力に対する損失率:
878/36,000≒2.4%
③ 送電端の電力:36,000+878=36,878 kW
送電効率:36,000/36,878≒97.6%
④ 154 kV にすると電流は150 A
損失:3×1502×3.25≒219 kW
⑤ 77 kV で力率を1.0にすると、
電流は 300×0.9=270 A
損失:3×2702×3.25≒711 kW
⑥ 線路が消費する無効電力:
3×3002×9.42≒2,543 kvar
検算:362×3.25/(772×0.92)≒0.877 MW で、①とほぼ同じです。3桁目の違いは、電流を300 A に丸めたためです。MW と kV と Ω で入れると、答えは MW で出ます。
読み取り。電圧を2倍にすると損失は4分の1、力率を0.9から1.0にすると0.81倍(0.9の2乗)になりました。⑥は、線路が熱にする有効電力とは別に、線路のリアクタンスが使う無効電力です。送電端から見ると、有効電力は36,878 kW、無効電力は 17,436+2,543=19,979 kvar で、力率は約0.88です。送電端の力率は、受電端の力率より低くなります。
受電端のコンデンサで、電圧降下と損失を同時に減らす
電圧降下の式 (PR+QX)/Vr のうち、有効電力 P は負荷が必要としている電力なので、減らせません。減らせるのは、線路を流れる無効電力のほうです。受電端に電力用コンデンサ(容量 Qc)を負荷と並列に入れると、負荷が必要とする遅れの無効電力の一部をコンデンサがその場で供給するので、線路を流れる無効電力は Q−Qc に減ります。
v≒{PR+(Q−Qc)X}/Vr
無効電力が減れば電流も減るので、損失も一緒に減ります。Qc を Q より大きくすると、線路を流れる無効電力が進みに変わり、括弧の中がマイナスになります。入れすぎると、今度は受電端の電圧が上がりすぎるということです。負荷が軽くなる時間帯にコンデンサを入れたままにしておくと、この状態になります。
計算例3|電圧降下率を3%にするコンデンサの容量
設定。計算例1の受電端(77 kV、36 MW、遅れ力率0.9、無効電力17.44 Mvar)にコンデンサを入れて、近似式で求めた電圧降下率を3.0%にしたい。必要なコンデンサの容量を求める。受電端の電圧は77 kV に保たれるとする。
① 目標の電圧降下:77,000×0.030=2,310 V
② 有効電力による分:36×3.25/77≒1.519 kV
この1,519 V は、コンデンサでは変えられない
③ 無効電力に許される分:
2,310−1,519=791 V
④ 線路に流してよい無効電力:
0.791×77/9.42≒6.47 Mvar
⑤ コンデンサの容量:17.44−6.47≒11.0 Mvar
⑥ 入れたあとの力率:36/√(362+6.472)≒0.984
電流は約274 A、損失は約733 kW
読み取り。電圧降下は3,653 V から2,310 V に、損失は878 kW から733 kW に減りました。コンデンサをさらに増やして力率を1にしても、有効電力による1,519 V(約2.0%)は残ります。電圧降下を0にするには、線路に約12.4 Mvar の進みの無効電力を流すことになります。線路から見た力率は約0.95まで下がり、損失は力率が1のときより増えます。なお、3.0%は近似式での値です。フェーザで計算すると約2,418 V(3.1%)で、ここでも近似式のほうが小さめです。
フェランチ効果|電圧の高低が逆になる
計算例1の表で、進み力率のときに電圧降下がマイナスになりました。進み電流が流れる原因は、負荷の側にあるとは限りません。線路そのものがもっている静電容量も、進み電流を流します。負荷が軽いときや、受電端を開いて無負荷にしたときは、この充電電流が線路を流れる電流の大部分になり、受電端の電圧が送電端の電圧を上回ります。この現象を、フェランチ効果と呼びます。
しくみは、フェーザの向きで説明できます。静電容量に流れる電流は、電圧より90°進みます。その電流がリアクタンスを流れると、リアクタンスでの電圧降下は、電流よりさらに90°進んだ向きになります。合わせて180°で、受電端の電圧とちょうど逆向きです。送電端の電圧は「受電端の電圧+線路での電圧降下」なので、逆向きの降下を足すと、送電端の電圧のほうが小さくなります。日本電気技術者協会の解説講座は、直流回路では電流が流れると電圧は必ず下がるが、交流回路では上がる場合がある、とこの現象を説明しています。
静電容量を半分ずつ両端に置いたπ形回路で、受電端を無負荷にして、抵抗を無視します。受電端側の静電容量に流れる電流は ω(C/2)Er で、これがリアクタンス ωL を流れるので、次の式になります。
無負荷のときの受電端電圧
(π形回路、抵抗を無視)
Es=Er(1−ω2LC/2)
ω=2πf
L・C:線路全体の値(1相分)
L も C も、こう長に比例します。したがって ω2LC は、こう長の2乗に比例します。こう長が2倍になると、電圧の上がりはおよそ4倍です。
| 線路とこう長 | 無負荷のときの 電圧の上がり |
|---|---|
| 架空線 50 km | 0.14% |
| 架空線 100 km | 0.57% |
| 架空線 200 km | 2.3% |
| 架空線 400 km | 10% |
| ケーブル 20 km | 0.20% |
| ケーブル 40 km | 0.80% |
| ケーブル 80 km | 3.3% |
この表は、50 Hz で、架空線を1.2 mH/km と0.0096 µF/km、ケーブルを0.4 mH/km と0.25 µF/km として、上の式で計算したものです。定数は当サイトで置いた値です。分布定数回路として計算すると、架空線400 km の行が9.8%、ケーブル80 km の行が3.2%になり、ほかの行はこの桁では同じ値です。ケーブルは静電容量が大きいので、この定数では、架空線の約3分の1のこう長で同じ上がり方です。
フェランチ効果が現れやすいのは、こう長が長いとき、ケーブルの区間が多いとき、深夜などで負荷が軽いとき、受電端の側で電力用コンデンサが入ったままになっているときです。抑えるには、進みの無効電力を打ち消す方向に調相設備を使います。分路リアクトルを入れる、電力用コンデンサを切り離す、同期調相機の励磁を弱めて遅れの無効電力を消費させる、といった方法です。機器ごとの働きは変電所の設備の調相設備の表にまとめてあります。
計算例4|進み力率の軽い負荷と、無負荷の長い線路
設定。(a) 計算例1の線路で、深夜に負荷が6 MW まで減り、コンデンサが入ったままだったので、受電端の力率が進み0.8になった。受電端の電圧は77 kV で、線路の静電容量は無視する。(b) これとは別の、50 Hz、こう長200 km、1条あたり1.2 mH/km、0.0096 µF/km の線路がある。送電端を154 kV にして受電端を開いたときの、受電端の電圧を求める。抵抗は無視する。
① (a) 無効電力:6×0.6/0.8=4.5 Mvar
進みなので、Q は−4.5 Mvar
② 電圧降下:(6×3.25−4.5×9.42)/77
=(19.5−42.4)/77≒−0.297 kV
③ 送電端は約76.70 kV。受電端のほうが約297 V 高い
④ (b) L=1.2×200=240 mH
C=0.0096×200=1.92 µF
⑤ ω2LC=(2π×50)2×0.24
×1.92×10−6≒0.0455
⑥ Er/Es=1/(1−0.0455/2)
≒1.0233
受電端:154×1.0233≒157.6 kV
検算:(b) の受電端側の静電容量0.96 µF に流れる電流は、2π×50×0.96×10−6×(157,600/√3)≒27.4 A。線路のリアクタンスは 2π×50×0.24≒75.4 Ω なので、相電圧の差は 75.4×27.4≒2,070 V、線間電圧では約3.6 kV で、⑥と合います。
読み取り。(a) では、6 MW という小さな負荷でも、進みの無効電力が4.5 Mvar あるだけで電圧の高低が逆になりました。(b) では、負荷が0でも、線路が自分の静電容量を充電する電流だけで、受電端が約3.6 kV 高くなっています。
送れる電力の上限|相差角と安定度
ここまでは、電圧がどれだけ下がるかを見てきました。最後は、1つの線路でどこまでの電力を送れるか、です。送電線はリアクタンスが抵抗よりずっと大きいので、抵抗を無視して考えます。
電圧降下の式を出したときの縦の成分は、I(X cos θ−R sin θ) でした。抵抗を0にすると XI cos θ です。一方、縦の成分は、送電端の相電圧 Es が Er より δ だけ進んでいることから、Es sin δ とも書けます。2つを等しいと置くと I cos θ=Es sin δ/X で、これを受電端の電力 3ErI cos θ に入れます。相電圧を線間電圧に直すと、3が消えます。
送電電力(抵抗を無視)
P=(VsVr/X) sin δ
Vs・Vr:線間電圧。三相分の電力が出る
kV と Ω で入れると、MW で出る
電圧の大きさが決まっているとき、送る電力を決めているのは相差角 δ です。電力を増やすと、δ が開いていきます。sin δ は δ が90°のときに最大の1になるので、それ以上の電力は送れません。この上限 Pm=VsVr/X が、定態安定極限電力です。
電気学会の用語解説は、系統事故などのじょう乱が起きたときに、発電機が同期運転を保って安定に運転できる度合いを、電力系統の安定度と説明しています。δ が90°より小さい範囲では、何かのはずみで δ が少し開くと、送電電力が増えます。発電機から見ると出ていく電力が増えるので回転にブレーキがかかり、δ は元に戻ります。90°を超えると、δ が開くほど送電電力が減るので、発電機は加速し、δ はさらに開いていきます。同期運転を保てなくなったこの状態が、脱調です。
- 定態安定度:負荷をゆっくり増やしていったときに、同期を保ったまま送電を続けられる度合い。その限界が定態安定極限電力。
- 過渡安定度:事故や線路の切り離しのような急な変化のあと、相差角が揺れても同期運転を続けられる度合い。限界の電力は、定態安定極限電力より小さい。
実際の線路は、急な変化があっても持ちこたえられるように、上限よりずっと小さい電力、つまり小さい相差角で運転します。式に抵抗が出てこないのは、抵抗を無視して導いたからです。送電線ではリアクタンスに比べて抵抗が小さいので、抵抗をさらに下げても、送れる電力の上限はほとんど変わりません。抵抗を下げて減るのは、送電損失のほうです。
| 方法 | 式のどこが変わるか |
|---|---|
| 電圧を 上げる |
分子が大きくなる。 送電端と受電端を 同じ割合で上げれば、 上限は2乗で増える。 |
| 回線数を 増やす |
線路が並列になり、 リアクタンスが減る。 2回線なら半分。 |
| 多導体に する |
1条あたりの インダクタンスが下がり、 リアクタンスが減る。 |
| 直列 コンデンサ |
線路と直列に入れて、 リアクタンスの一部を 打ち消す。 |
| 途中で電圧 を支える |
中間の変電所や開閉所の 調相設備で電圧を保つ。 区間ごとのリアクタンスが 小さくなる。 |
コンデンサには、入れ方が2つあります。負荷と並列に入れる電力用コンデンサは、無効電力をその場で供給して、線路の電流、電圧降下、損失を減らします。線路と直列に入れる直列コンデンサは、コンデンサのリアクタンス Xc で線路のリアクタンスを X−Xc に減らします。送れる電力の上限が上がり、電圧降下の式の X sin θ の項も小さくなります。目的が違うので、並列か直列かを先に読みます。
過渡安定度を上げる方法として、電気学会の用語解説は、事故点の高速遮断、高速度再閉路、制動抵抗による制御、発電機の速応励磁方式による制御を挙げています。事故を切り離す側の話は、電力系統の保護と安定で扱います。同期発電機の出力も、発電機の中の起電力と端子電圧と同期リアクタンスを使って、同じ形の式で書けます(同期機の計算)。
計算例5|2回線の送電線で、1回線が止まったとき
設定。送電端の線間電圧が285 kV、受電端の線間電圧が275 kV で、どちらも一定に保たれている。1回線あたりのリアクタンスが50 Ω の線路が、2回線並列になっている。抵抗と静電容量は無視する。この線路で1,000 MW を送っている。(a) 送れる電力の上限と sin δ、(b) 1回線が止まったあとの上限と sin δ、(c) 残った1回線に、リアクタンスの40%を打ち消す直列コンデンサを入れたときの上限と sin δ を求める。
① (a) 2回線のリアクタンス:50/2=25 Ω
② 上限:285×275/25=3,135 MW
③ sin δ=1,000/3,135≒0.319
(δ は約18.6°)
④ (b) リアクタンスは50 Ω
上限:285×275/50≒1,568 MW
sin δ≒0.638(δ は約39.6°)
⑤ (c) リアクタンスは 50−20=30 Ω
上限:285×275/30≒2,613 MW
sin δ≒0.383(δ は約22.5°)
検算:V で入れると 285×103×275×103/25=3.135×109 W で、②と同じです。
読み取り。1,000 MW は、1回線になっても上限の1,568 MW より小さいので、ゆっくり移れば送り続けられます。ただし、相差角は約2倍に開きます。実際には線路が切り離された瞬間に相差角が揺れるので、それでも同期を保てるかどうかは、過渡安定度の問題です。角度そのものは √ だけの電卓では出せませんが、sin δ の値を比べれば、上限までの余裕がどれだけ減ったかは分かります。
取り違えやすいところを、表で確かめる
| 確かめる点 | 取り違えやすいところ |
|---|---|
| 電圧の 種類 |
降下の式の √3 は、 線間電圧の差にするため。 相電圧で計算したら、 最後に √3 倍する。 |
| 抵抗と リアクタンス |
電線1条あたりの値。 1 km あたりの値に、 こう長を掛ける。 往復の2倍にはしない。 |
| sin θ の 符号 |
遅れ力率はプラス。 進み力率はマイナス。 力率が1なら0。 |
| 降下率の 分母 |
受電端の電圧。 送電端の電圧ではない。 |
| 効率の 分母 |
送電端の電力。 受電端の電力に 損失を足したもの。 |
| 損失と 電圧 |
2乗に反比例するのは、 電力・力率・電線が 同じときだけ。 |
| 送電電力 の式 |
線間電圧を入れれば、 三相分が出る。 抵抗を無視した式。 |
理解度チェック
最後に3問あります。3問とも当サイトのオリジナルで、公表された試験問題の引き写しではありません。解答の欄では、外れの選択肢がどんな計算違いから出てくる値なのかも説明しています。
確認1|無効電力まで入れて、電圧降下率を出す
三相3線式の送電線がある。電線1条あたりの抵抗は1.2 Ω、リアクタンスは2.0 Ω で、静電容量は無視する。受電端の線間電圧が22 kV、負荷が6,000 kW、力率が0.8(遅れ)のとき、近似式で求めた電圧降下率[%]はいくらか。最も近い値を選べ。
- (1)1.49
- (2)1.93
- (3)3.24
- (4)3.35
- (5)3.60
確認2|電圧と力率を同時に変えたときの損失
ある三相3線式の送電線で、受電端の電圧を66 kV から77 kV に上げ、同時に、受電端の力率を0.85から0.95に改善した。受電端の有効電力と電線は変えていない。送電損失は、変更前の何倍になるか。最も近い値を選べ。
- (1)0.588
- (2)0.735
- (3)0.767
- (4)0.801
- (5)0.918
確認3|正しい説明を選ぶ
次の(1)から(5)は、送電線の電気的な性質についての説明である。正しいものを1つ選べ。
- (1)フェランチ効果は、負荷が重いときに、遅れの電流が線路のリアクタンスを流れることで、受電端の電圧が送電端の電圧より高くなる現象である。
- (2)線路に直列コンデンサを入れるおもな目的は、負荷に無効電力を供給して力率を改善し、線路の電流を減らすことである。
- (3)抵抗を無視できる送電線で、送電端と受電端の電圧の大きさが一定のとき、送電電力は相差角 δ の正弦に比例し、δ が90°のときに最大になる。
- (4)電圧降下率は、送電端の電圧と受電端の電圧との差を、送電端の電圧で割って百分率で表したものである。
- (5)送る電力と力率が同じなら、送電電圧を2倍にすると線電流は半分になり、送電損失も半分になる。
まとめ
- 線路は、1相分を取り出して、抵抗とリアクタンスの直列で表す。値は電線1条あたりで、1 km あたりの線路定数にこう長を掛ける。
- 電圧降下は √3 I(R cos θ+X sin θ)。フェーザ図の横の成分だけを残した近似で、進み力率では sin θ の項がマイナスになる。
- 電力で書くと (PR+QX)/Vr。無効電力が減れば、降下も損失も減る。
- 電圧降下率の分母は受電端。式は (Vs−Vr)/Vr。
- 送電損失は 3I2R=P2R/(Vr2 cos2θ)。同じ電力なら、電圧の2乗と力率の2乗に反比例する。
- 送電効率の分母は送電端。式は Pr/(Pr+PL)。
- フェランチ効果は、軽負荷や無負荷のときに進み電流で受電端の電圧が上がる現象。こう長の2乗に比例して大きくなり、ケーブルで起こりやすい。
- 送電電力は (VsVr/X) sin δ。上限を上げるには、電圧を上げるか、リアクタンスを減らす。
演習と、前後のテーマ
- 送電の電気的計算ミニテスト第1回:電圧降下、送電損失、送電効率、送れる電力の上限を5問で確かめる。
- ミニテスト第2回・第3回:効率から送電端の電力を逆算する問題、力率と損失、並行2回線、力率が1のときの電圧降下、直列コンデンサの目的など。
- 地中送電線路:前のテーマ。ケーブルの静電容量と充電電流。
- 配電方式と配電計算:次のテーマ。単相2線式や単相3線式では、電圧降下と損失の式の係数がどう変わるか。
- 架空送電線路:多導体にするとインダクタンスと静電容量がどう変わるか。コロナ放電の条件。
- 変電所の設備:電力用コンデンサ、分路リアクトル、同期調相機の使い分け。負荷時タップ切換も扱う。
- 電力系統の保護と安定:中性点の接地のしかたと、事故が起きたあとの安定度。
- 三相交流回路:1相分の等価回路に直す手順と、線間電圧と相電圧の √3 の関係。
- 交流電力と力率改善:有効電力・無効電力・皮相電力の関係と、力率改善に必要なコンデンサ容量。
- 電験三種の日程と科目合格のしくみ:4科目の試験時間と解答数、申込みの流れ。
- 電気技術者試験センターによる、電験三種の試験概要:送電線路の設計と運用が、電力科目の範囲に入っている。使える電卓の条件もここにある。
- 電験三種の過去の問題と解答(同センターの公開ページ):送電線の電圧降下や損失が、実際にどんな形で問われているかを確かめられる。
- %インピーダンスと電圧降下、短絡電流の計算(日本電気技術者協会):電圧降下のベクトル図と、近似式の導き方。
- 電力系統の電圧・無効電力制御(日本電気技術者協会):電圧を保つ目的、フェランチ効果、調相設備の比較。
- 用語解説「同期・脱調・系統安定度」(電気学会 電力・エネルギー部門):同期運転と脱調、安定度の意味。
- 用語解説「過渡安定度」(電気学会 電力・エネルギー部門):過渡安定度の意味と、向上策。
- 電気が伝わる経路(電気事業連合会):発電所から家庭までの、電圧の段階。
外部の資料は2026年10月1日に内容を確かめました。電力科目に含まれる範囲と、使える電卓については電気技術者試験センターの試験概要、電圧降下のベクトル図と近似式の導き方、高圧・特別高圧の系統の電圧がおおむね5%以内に運用されていること、フェランチ効果と調相設備の働きは日本電気技術者協会の音声付き電気技術解説講座、安定度・脱調・過渡安定度の意味と過渡安定度の向上策は電気学会電力・エネルギー部門の用語解説、送電電圧の段階は電気事業連合会の説明によります。線路定数の式、π形回路・T形回路、送電損失と送電電力の式、定態安定度の説明は、送配電工学の教科書に広く載っている内容を、当サイトで導き直して書いたものです。式の係数(0.05、0.4605、0.02413)は、真空の透磁率と誘電率から計算して確かめました。計算例と確認問題に出てくる数値は、当サイトが置いた仮の値で、実在の送電線とは関係がありません。書き手は電験三種を独学している個人で、送電線の設計や運用に携わった経験をもとにした記事ではありません。
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