全熱交換器は空気をきれいにする装置ではなく、排気から熱と水分を回収して換気負荷を減らす装置です。一方、粒子、ガス、微生物は同じ方法では処理できません。方式名より「何を、どれだけ、どの風量で処理するか」を先に確認します。
この記事では、外気35℃・還気27℃・温度交換効率70%から給気を29.4℃、風量2,000m³/hの回収顕熱を約3.75kWと計算。熱交換効率と有効換気量率の違い、活性炭・電気集じん器・UV-C・光触媒の限界まで整理します。
資料確認日:2026年8月2日。日本冷凍空調工業会のJIS解説、米国環境保護庁(EPA)と米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の空気浄化資料を照合しています。
熱回収・捕集・吸着・不活化は役割が違う
| 目的 | 代表方式 | 結果 |
|---|---|---|
| 換気負荷を減らす | 全熱・顕熱交換器 | 熱・水分を移す |
| 粒子を減らす | ろ材・電気集じん | 粒子を捕集する |
| ガスを減らす | 活性炭等の吸着材 | 対象ガスを保持する |
| 微生物を不活化 | 適切に設計したUV-C | 感染性を失わせる |
UV-Cで不活化された粒子が、その場で消えるわけではありません。活性炭は通常、粉じん用ろ材の代わりになりません。全熱交換器を通しても必要換気量そのものは確保します。発生源対策、換気、粒子捕集、ガス処理を重ねて考えます。
OA・SA・RA・EAの4点を間違えない
屋外から入る外気
室内へ送る給気
室内から戻る還気
屋外へ出す排気
夏は高温多湿のOAからRA側へ熱と水分を渡し、SAを予冷・予除湿します。冬はRAからOA側へ熱と水分を戻し、SAを予熱・加湿方向へ近づけます。ただし、SAを室温まで仕上げる装置ではありません。通常は下流のコイルや加湿器が残りの負荷を処理します。
外気量そのものの決め方は「換気量の計算と第1〜3種換気」、コイル・加湿器との並びは「空気調和機(AHU)とFCUの構造」で分けて解説しています。
顕熱交換器と全熱交換器は回収する量で分ける
| 方式 | 主に交換する量 | 選定時の確認 |
|---|---|---|
| 顕熱交換 | 温度 | 結露、凍結、漏れ、圧力差 |
| 全熱交換 | 温度+水分 | 透湿膜・ローター、移行、排気質 |
固定式プレート、透湿膜式、回転ローター式等があり、構造と材料で挙動が変わります。「全熱式は必ず臭いが移る」「顕熱式なら汚染物質が絶対に移らない」という断定はできません。膜を通る成分、ローターの持ち越し、シール部の内部漏れ、ケーシングの外部漏れ、給排気の圧力差を分けます。
トイレ、厨房、喫煙、薬品等の排気を熱回収へ使えるかは、名称ではなくメーカーの適用範囲と設計基準で判断します。汚染側から清浄側へ漏れない圧力関係、パージ部、シール、専用排気の要否を確認します。
温度交換効率70%なら給気は29.4℃
夏のOA=35℃、RA=27℃、温度交換効率ηt=70%とします。給気側の温度交換効率は「OAとRAの差のうち、SAがどれだけRAへ近づいたか」です。
給気温度の計算
SA=OA-ηt×(OA-RA)
=35-0.70×(35-27)=29.4℃
8Kの外気・還気差の70%、5.6Kを回収した結果です。
「効率70%だから給気は室温の70%」ではありません。基準になるのはOAとRAの差です。暖房時も同じ考え方で、OA=5℃、RA=20℃ならSA=5+0.70×15=15.5℃です。
風量2,000m³/hなら回収顕熱は約3.75kW
夏の風量を2,000m³/h、回収温度差を5.6Kとします。空気密度1.2kg/m³、定圧比熱1.005kJ/(kg・K)で概算します。
回収顕熱量の計算
Q=1.2×1.005×(2,000÷3,600)×5.6
=3.75kW
ファン動力、漏れ、ダクト放熱、風量不均衡は含めない顕熱の概算です。
全熱式の評価では潜熱も含めます。OAの比エンタルピー85kJ/kg(DA)、RA=55kJ/kg(DA)、エンタルピー交換効率60%なら、SA=85-0.60×(85-55)=67kJ/kg(DA)です。温度効率とエンタルピー効率を同じ数値として扱いません。
熱交換効率と有効換気量率は別の性能値
熱交換効率は熱・水分をどれだけ回収したか、有効換気量率は室内へ供給された空気に外気成分がどれだけ含まれるかを表します。高い熱交換効率でも、排気の漏れ込みが大きければ新鮮外気の割合は下がります。
JIS B 8628:2017の解説では、有効換気量率の測定に内部漏れだけでなく外部漏れも考慮します。現場ではカタログ効率だけを見ず、OA・SA・RA・EAの各風量、機内圧力、シール、ダクト接続、給排気短絡を確認します。
熱交換運転が常に省エネとは限らない
中間期に外気の方が室内より冷たく、直接取り入れれば冷房へ使える状況で熱回収すると、排気の熱を外気へ戻してしまう場合があります。外気冷房やバイパス制御は、温度だけでなく湿度・比エンタルピー、室内負荷、下流コイルの状態で判定します。
寒冷時は排気側の結露・着霜、寒冷地仕様、予熱、間欠運転、デフロストを確認します。夏も高湿度外気と低温部の組合せで結露します。結露水の排水、エレメントの濡れ、凍結、ドレン封水を「効率低下」だけでなく衛生・漏水リスクとして扱います。
全熱交換器は4温度・2風量・差圧で診断する
| 症状 | 主な候補 | 確認値 |
|---|---|---|
| SAがOAとほぼ同じ | バイパス、停止、汚れ | 4温度、運転信号 |
| 外気量が不足 | フィルタ閉塞、ファン、ダンパ | OA/SA風量、差圧 |
| 臭気が給気へ出る | 短絡、漏れ、持ち越し | 圧力差、シール、風向 |
| 冬に風量が落ちる | 結露・着霜 | 外気温湿度、差圧 |
| ローターが回らない | ベルト、モーター、制御 | 回転、電流、警報 |
点検時はフィルタを外したまま能力を判定せず、通常運転条件で測ります。給気と排気の風量が不均衡なら交換効率も変わるため、カタログ条件との差を記録します。熱交換素子の洗浄可否は材質ごとに異なり、透湿紙等へ安易に水や溶剤を使いません。
粒子用は「捕集効率」だけでなく処理風量を見る
機械式フィルタは粒子をろ材で捕集します。電気集じん器は粒子を帯電させ、集じん部へ引き付けます。どちらもガス状VOCを同じ原理で除去する装置ではありません。
一過捕集効率65%、実風量2,000m³/hの装置なら、単純化した清浄空気量は2,000×0.65=1,300m³/hです。効率を上げても圧力損失で風量が大きく落ちれば、空間へ供給できる清浄空気量が増えない場合があります。差圧、実風量、バイパス漏れ、運転時間を一緒に見ます。
活性炭は対象ガスと破過を管理する
活性炭等の吸着材は、表面へ対象ガスを保持します。性能は物質の種類、濃度、温湿度、接触時間、吸着材量、前段粉じん、競合するガスで変わります。「においが弱くなった」だけで、すべてのVOCが除去されたとは判断できません。
交換時期を暦だけで固定せず、対象物質の入口・出口濃度、破過曲線、使用時間、圧力損失、メーカー容量から決めます。飽和した吸着材は回復しない製品が多く、脱着や廃棄方法も仕様に従います。発生源を止められる場合は、吸着装置を増やす前に源対策を優先します。
電気集じん器は集じん板と高電圧部を点検する
電気集じん器は圧力損失を比較的小さく設計できる一方、集じん板の汚れ、放電極、碍子、高圧電源、スパークで性能が変わります。清掃前に停電・残留電荷の安全手順を守り、洗浄後は十分に乾燥させます。
すべての電気式装置が同じ量のオゾンを出すわけではありませんが、電気集じん、イオン、プラズマ、コーティングされていない一部UVランプ等はオゾンを生じる可能性があります。旧稿の「0.1ppm以下ならよい」という一律判定は使わず、製品試験値、対象空間の基準、実測、異臭・健康訴えを確認します。オゾン発生器を人のいる室内の空気清浄目的で安易に使いません。
UV-Cと光触媒は換気・ろ過の代替ではない
UV-C(GUV/UVGI)は、十分な照度と照射時間が得られれば微生物を不活化できます。効果は「照度×曝露時間」で決まり、風速、空気混合、遮蔽、ランプ汚れ・経年、対象微生物で変わります。人への直射・反射を避け、インターロック、保護具、停止確認を含む専門設計が必要です。
光触媒酸化は、光と触媒の条件下で一部のガス状物質を酸化する技術です。しかし、粉じん捕集用ではなく、実機の処理風量・反応時間・副生成物・オゾンを確認せずに「VOCや菌を完全分解」とは言えません。UV-Cも光触媒も、法定外気量、発生源対策、粒子用フィルタの代わりにはしません。
理解度チェック
【問1】OA=35℃、RA=27℃、温度交換効率70%です。SAとして最も近いものはどれですか。
- 24.5℃
- 27.0℃
- 29.4℃
- 32.6℃
- 35.0℃
【問2】OA=85kJ/kg(DA)、RA=55kJ/kg(DA)、エンタルピー交換効率60%です。SAとして最も近いものはどれですか。
- 18kJ/kg(DA)
- 33kJ/kg(DA)
- 55kJ/kg(DA)
- 67kJ/kg(DA)
- 76kJ/kg(DA)
【問3】有効換気量率について最も適切な説明はどれですか。
- 投入電力のうち回収熱へ変わる割合
- 給気中に含まれる新鮮外気成分の割合
- 活性炭がVOCを吸着する割合
- フィルタが粒子を捕集する割合
- 室温が外気温へ近づく割合
【問4】空気浄化装置の運用として最も適切なものはどれですか。
- 活性炭で粒子と全VOCを同じ効率で除去する
- UV-Cを設置すれば必要外気量を減らせる
- 電気集じん器はオゾンを生じる可能性がない
- 光触媒は処理風量や副生成物を確認しなくてよい
- 対象汚染物質、効率、実風量、圧力損失、交換・清掃時期を対応させる
公式の確認先
- 日本冷凍空調工業会「全熱交換器のJISの概要」
- 日本冷凍空調工業会「全熱交換器とは」
- 米国環境保護庁「Guide to Air Cleaners in the Home」
- 米国NIOSH「About Germicidal Ultraviolet」
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まとめ|熱・外気・汚染物質を別々に測る
全熱交換器は顕熱と潜熱を回収しますが、熱交換効率が高いことと、新鮮外気の割合が高いことは同じではありません。OA・SA・RA・EAの4状態、給排気風量、差圧、漏れ、バイパス、結露をそろえて診断します。
計算例では給気29.4℃、回収顕熱3.75kW、給気エンタルピー67kJ/kg(DA)でした。空気浄化は、粒子ならろ過・集じん、ガスなら対象に合う吸着材、微生物なら条件を満たしたUV-C等と役割を分け、発生源対策と換気を土台にしてください。
資料確認日/最終更新日:2026年8月2日
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