この記事で分かること
- 吸入管・吐出し管・液管で設計目標が違う理由
- 圧力損失と油戻し速度を両立させる考え方
- 液管の立上がりで失う圧力の計算方法
- 材料・継手、設計圧力、肉厚、腐れしろの正しい関係
結論:冷媒配管は「太いほどよい」でも「傾斜だけ守ればよい」でもない
冷媒配管では、許容できる圧力損失、圧縮機へ油を戻せる流速、液冷媒を膨張弁まで単相で届けることを同時に満たします。配管径を大きくすれば圧力損失は減りますが、ガス流速が下がって油が戻りにくくなる場合があります。逆に細すぎる管は圧力損失、騒音、能力低下を招きます。
勾配、トラップ、二重立上がり管の要否は、圧縮機と熱交換器の高低差、最低負荷時の流量、冷媒と油、メーカー基準で決めます。一本の暗記ルールをすべての設備へ当てはめないことが重要です。
公式・技術資料の確認先
- e-Gov:冷凍保安規則(第64条)
- 高圧ガス保安協会:冷凍保安検査マニュアル
- 高圧ガス保安協会:保安検査基準(冷凍保安規則関係)
- Copeland:Refrigeration System Design
- Trane:Refrigerant Piping Design Guide
確認日:2026年7月28日。実際の配管径・許容長・高低差は、使用機器の最新設計資料を優先してください。
冷凍サイクル上の3本の配管を整理する
圧縮機 → 凝縮器
高温・高圧ガス。油戻し、振動、熱伸縮に注意
凝縮器・受液器 → 膨張弁
高圧液。膨張弁入口まで単相液を保つ
蒸発器 → 圧縮機
低温・低圧の過熱蒸気。圧力損失と油戻しに注意
膨張弁の下流では圧力が急低下し、液の一部が意図的にフラッシュして低温の気液二相になります。問題となる「液管のフラッシュガス」は、膨張弁へ着く前に液の一部が蒸発する現象です。両者を混同しないでください。
吸入ガス管は能力低下を抑えながら油を戻す
吸入管の圧力損失は、圧縮機が吸い込む圧力を下げ、圧縮比を増やして能力・効率を悪化させます。一方、管径を過大にしてガス速度が不足すると、油が蒸発器や立上がり管に滞留します。
- 水平管は一般に圧縮機方向へ緩い下り勾配を設け、油の流れを助ける
- 上向き立上がり管は、最低負荷でも油を持ち上げる速度を確保する
- 負荷変動が大きい長い立上がりでは、メーカー基準により二重立上がり管を検討する
- 吸入管は外部からの熱侵入と結露を抑えるため、通常は適切に断熱する
トラップを増やせば必ず安全になるわけではありません。余分なトラップは油や液の滞留、圧力損失の原因になります。停止時に液冷媒が圧縮機へ移動する問題は、配管だけでなくポンプダウン、クランクケースヒータ、電磁弁など「自動制御機器」と合わせて防ぎます。
吐出しガス管は高温・振動・油戻しを考える
吐出し管には高温高圧の冷媒ガスと油が流れます。立上がり管では最低負荷時の油戻しを確認し、圧縮機より上に凝縮器がある構成では停止時の液・油の逆流を防ぐ配置を検討します。
また、圧縮機振動を建物配管へ伝えない支持、熱伸縮を吸収する曲がりやループ、配管重量を圧縮機ノズルへ掛けない支持が必要です。可とう管だけに振動吸収を任せず、配管支持と共振防止を一体で設計します。圧縮機の液圧縮については「圧縮機の構造と特徴」も参照してください。
液管は膨張弁入口までサブクール液を保つ
液管の目標は、膨張弁入口で気泡を含まない液冷媒を確保することです。配管・ストレーナ・電磁弁の圧力損失、上向き配管の静水頭、周囲からの熱侵入が大きいほど、液の圧力またはサブクール度の余裕を消費します。
液管が8m立ち上がる独自計算例
液密度を1,000kg/m³、重力加速度を9.81m/s²とすると、上昇で失う圧力は
Δp=ρgh=1,000×9.81×8=78,480Pa≒0.078MPaです。
実際には、この静水頭に管・継手・弁の摩擦損失を加えます。その圧力低下に対応する飽和温度の変化と、外部からの熱侵入を上回るサブクール余裕が必要です。冷媒ごとに物性が違うため、0.078MPaを一律に「何K」と換算してはいけません。
フラッシュガスの原因と症状を切り分ける
| 原因 | 確認点 | 対策の方向 |
|---|---|---|
| 液管の圧力損失 | 管径・長さ・弁・詰まり | 設計流量で再計算 |
| 上向き高低差 | 受液器と膨張弁の高さ | 静水頭を加味 |
| 熱侵入・不足冷却 | 液温・サブクール度・周囲温度 | 凝縮・過冷却と断熱を確認 |
| 冷媒不足・供給不良 | 受液量・漏えい・ストレーナ | 原因を直して適正充塡 |
フラッシュガスが発生すると膨張弁へ届く液量が減り、蒸発器が不足供給になって過熱度が増えることがあります。ただし、膨張弁のハンチングには弁容量過大、感温筒取付け、外部均圧など別の原因もあります。サイトグラスの気泡だけで冷媒不足と断定せず、圧力、温度、過冷却度、過熱度を同時に測ります。
液管の断熱は運転条件で判断する
吸入管は原則として断熱が重要ですが、液管を常に厚く断熱するという一律のルールはありません。高温場所や長距離配管で熱侵入を抑える場合、低温液管で結露を防ぐ場合などは断熱が有効です。一方、周囲へ放熱してサブクールが増える条件もあります。冷媒温度、周囲温湿度、日射、配管経路から判断します。
現場では管の太さや断熱材の厚さだけで「液管」と決めつけず、冷凍サイクル図と流れ方向を確認してください。
材料と継手は冷媒・圧力・温度に合わせる
| 論点 | 判断の要点 | 注意例 |
|---|---|---|
| 材料 | 冷媒・油との適合、設計圧力・温度、強度 | アンモニアに銅・銅合金を安易に使わない |
| 継手 | 規格、管径、施工法、気密性 | フレアを鋼管一般の接続法としない |
| 施工 | ろう付け時の酸化防止、清浄・乾燥 | 異物・水分を系内へ入れない |
「フルオロカーボンなら必ず銅管、アンモニアなら必ず鋼管」と材質名だけで暗記するのは危険です。CO₂のような高圧冷媒や微燃性冷媒では、圧力、接合方法、設置場所を含む専用基準を確認します。冷媒変更時は、材料適合性だけでなく設計圧力、逃し装置、潤滑油、電気防爆性、法令手続を再評価します。
圧力容器は設計圧力・許容圧力・実測肉厚を分ける
冷凍保安規則第64条は、設計圧力を「使用することができる最高の圧力として設計された適切な圧力」とし、材料、形状・寸法、設計圧力、設計温度、許容応力、溶接効率などに応じた強度・厚さを求めています。
設計の基準とする最高圧力。使用冷媒と想定温度・停止時も考える
設計値と、現在の肉厚等から評価した値の低い側で管理
腐食・減肉を測定し、必要最小厚さに余裕があるか確認
腐れしろ(腐食代)は鋼製容器すべて一律1mmではありません。材料、冷媒、腐食環境、適用する技術基準により要否と値が決まります。腐食代が必要な設備は、検査時の残存厚さにも必要な最小腐食代を含めて評価します。銅だから腐食を考えなくてよい、とも限りません。
現場で異常を見つける確認順序
- 運転条件:外気・負荷・冷媒流量が通常範囲か
- 圧力と温度:飽和温度を求め、過熱度・過冷却度を算出
- 配管状態:結露、霜、油染み、異常振動、支持、弁開度を確認
- 系統要因:ストレーナ詰まり、電磁弁、膨張弁、冷媒量を切り分け
- 機械的健全性:腐食、減肉、漏えい、逃し装置を手順どおり確認
配管の油染みは漏えいの手掛かりですが、手で増締めする前に設備を安全な状態へ移し、定められた漏えい検査と修理手順に従います。日常点検と記録は「定期自主検査・保安検査・完成検査」で解説しています。
理解度チェック
【問1】吸入ガス管の管径を決める考え方として最も適切なものはどれですか。
(1) 圧力損失だけを小さくするため最大径にする
(2) 油戻しだけを優先して最小径にする
(3) 冷媒液が満管になる径にする
(4) 圧力損失と最低負荷時の油戻し速度を両方確認する
(5) 吐出し管と必ず同じ径にする
【問2】密度1,000kg/m³の液冷媒が5m立ち上がるとき、静水頭による圧力低下に最も近い値はどれですか。
(1) 0.0049MPa
(2) 0.049MPa
(3) 0.49MPa
(4) 4.9MPa
(5) 高さと無関係
【問3】液管のフラッシュガスについて適切なものはどれですか。
(1) 膨張弁通過後の正常なフラッシュと同じ意味だけを指す
(2) 液管の上向き高低差は発生条件に影響しない
(3) 圧力損失・熱侵入・不足冷却などで膨張弁前に発生し得る
(4) サイトグラスに気泡があれば必ず冷媒を追加する
(5) 吸入管の断熱を厚くすれば必ず解消する
【問4】圧力容器の腐れしろについて最も適切なものはどれですか。
(1) すべての鋼製容器で一律1mmである
(2) 銅製なら検討不要である
(3) 設計圧力とは関係がない
(4) 材料・腐食環境・適用基準により要否と値を確認する
(5) 腐食後の肉厚を測る必要はない
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まとめ
吸入・吐出しガス管は、圧力損失を抑えながら最低負荷でも油を戻せる径と配置にします。液管は摩擦損失、立上がりの静水頭、熱侵入を見込み、膨張弁入口までサブクール液を保ちます。
材料・継手は冷媒名だけで決めず、設計圧力・温度と適合性を確認します。圧力容器では設計圧力、許容圧力、実測肉厚を分け、腐れしろを一律1mmと暗記しないことが大切です。
最終更新日:2026年7月28日
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