冷凍設備の「技術上の基準」って何? — 設備と運転の2つのルール
冷凍設備は内部に高圧のガスが循環しています。もし設備に欠陥があったり、使い方を間違えたりすれば、冷媒ガスの漏えいや装置の破裂といった大事故につながりかねません。
そこで冷凍保安規則では、「技術上の基準」という形で冷凍設備に守るべきルールを定めています。このルールは大きく2種類あります。
| 基準の種類 | ひとことで言うと |
|---|---|
| 定置式製造設備の技術上の基準 | 設備そのものが満たすべき安全要件 (=「こういう設備でなければダメ」) |
| 製造の方法に係る技術上の基準 | 運転するときに守るべきルール (=「こうやって運転しなさい」) |
車で例えると、イメージしやすくなります。
- 設備の基準 =「ブレーキが付いている」「エアバッグが装備されている」「衝突安全基準をクリアしている」
- 運転の基準 =「スピード制限を守る」「シートベルトを締める」「飲酒運転をしない」
どんなに安全装置が揃った車でも、運転ルールを無視すれば事故を起こします。逆に、いくら慎重に運転しても、ブレーキが壊れた車では止まれません。冷凍設備も同じで、設備と運転の両方にルールがあるのです。
試験のポイント
試験では「これは設備の基準か?運転の基準か?」を問う出題があります。たとえば「安全弁を設けること」は設備の基準、「安全弁の止め弁を常時全開にすること」は運転の基準です。どちらに分類されるか、一つひとつ整理して覚えましょう。
定置式製造設備の技術上の基準 — 設備が守るべきルール
「定置式(ていちしき)」とは、固定されて動かない設備のことです。ビルの地下にある冷凍機や、工場に設置された大型冷凍装置など、その場に据え付けられている設備がこれにあたります。トラックに積んで移動する「移動式」とは区別されます。
定置式製造設備が守るべき主な基準を、順番に見ていきましょう。
① 耐圧性能と気密性能 — 「壊れない・漏れない」の証明
冷凍装置は内部に高圧のガスが入っています。だから設備は、高い圧力に耐えられること(耐圧性能)と、ガスが外に漏れないこと(気密性能)が大前提です。
これを確認するのが耐圧試験と気密試験です。
| 試験の種類 | 何を確認するか | 試験圧力 |
|---|---|---|
| 耐圧試験 | 設備が圧力に耐えられるか | 設計圧力の1.5倍以上 |
| 気密試験 | ガス漏れがないか | 設計圧力以上 |
耐圧試験は「壊れないか?」を確かめる試験で、通常の1.5倍という非常に高い圧力をかけます。これに耐えられれば、普段の運転中に壊れる心配はありません。
気密試験は「漏れないか?」を確かめる試験で、設計圧力以上の圧力をかけてガス漏れがないことを確認します。
現場イメージ
新しく設置した冷凍装置を使い始める前に、まず配管や容器に水を入れて高い圧力をかけ(耐圧試験)、次に窒素ガスで圧力をかけて漏れがないか確認する(気密試験)。この2つの試験に合格して初めて冷媒を充填し、運転を開始できます。人間でいえば「健康診断をクリアしないと仕事に就けない」のと同じです。
※ 耐圧試験と気密試験の詳しい手順は「安全装置と圧力試験(安全弁・溶栓・破裂板・耐圧試験・気密試験)」の記事で解説しています。
② 安全弁の設置 — 圧力を逃がす「最後の砦」
冷凍装置の運転中に何かの異常で圧力が上がりすぎると、最悪の場合容器が破裂します。これを防ぐのが安全弁です。
安全弁は圧力が設定値を超えると自動的に開いてガスを逃がす装置で、冷凍装置の「最後の砦(とりで)」と言えます。
技術上の基準では、安全弁を次の場所に設置することが定められています。
| 設置場所 | なぜそこに必要? |
|---|---|
| 圧縮機の吐出し側 | 冷凍装置で最も圧力が高くなる場所だから |
| 凝縮器 | 圧縮機と凝縮器の間に止め弁がある場合、止め弁を閉じると凝縮器側の圧力が逃げられなくなるため |
| 受液器 | 液冷媒を貯めるタンクで、温度上昇時に圧力が上がるため |
超重要!止め弁のルール
安全弁に付帯して止め弁を設けることは、修理や交換のために認められています。ただし、その止め弁は常時全開にしておかなければなりません。もし止め弁が閉まっていたら、いくら安全弁があっても作動できず、大事故につながります。「設けてOK、ただし常時全開」がルールです。
また、安全弁とあわせて高圧遮断装置も設置します。高圧遮断装置は圧力が上がりすぎたとき圧縮機を自動停止させる装置です。安全弁が「圧力を逃がす」のに対し、高圧遮断装置は「圧力の元(圧縮機)を止める」という違いがあり、二重の安全対策になっています。
※ 安全弁・溶栓・破裂板の詳しい仕組みは「安全装置と圧力試験」の記事で解説しています。
③ 圧力計・液面計・自動制御装置 — 監視と自動制御の仕組み
安全弁は「最後の砦」ですが、本当に大切なのは異常を早く発見して、事前に対処することです。そのために、次の計器・装置の設置が義務付けられています。
| 装置 | 設置場所・役割 |
|---|---|
| 圧力計 | 圧縮機の吐出し側に設置し、高圧側の圧力を常時監視 |
| 液面計 | 受液器に設置し、液冷媒の量を確認(冷媒の過充填や不足を防ぐ) |
| 自動制御装置 | 冷媒設備全体に設置し、異常時に自動で安全側に制御(例:異常高圧で圧縮機を停止) |
現場イメージ
ビルの地下にある冷凍機室に入ると、冷凍機の前面に大きな丸い圧力計がいくつも並んでいるのが見えます。高圧側と低圧側の2つの圧力計があり、運転員はこれを定期的に読み取って日誌に記録します。正常範囲(緑色のゾーン)から外れていたら、すぐに原因を調べます。
自動制御装置の詳しい仕組みは「自動制御機器の種類と役割(温度自動膨張弁・キャピラリチューブ・電磁弁・圧力スイッチ)」の記事も参考にしてください。
④ 冷媒の種類による追加基準 — フルオロカーボン・可燃性・毒性で違うルール
冷媒ガスの性質(毒性があるか?燃えるか?温室効果が大きいか?)によって、追加の安全対策が求められます。
| 冷媒の種類 | 追加で必要な基準 |
|---|---|
| フルオロカーボン (R410A、R32など) |
溶栓(可溶栓)の使用禁止 → 温室効果ガスの全量放出を防ぐため |
| 可燃性ガス | ガス漏えい検知警報設備の設置 → 漏えいを早期に検知して火災・爆発を防ぐ |
| 毒性ガス (アンモニアなど) |
ガス漏えい検知警報設備 + 除害設備(漏えいガスを無害化する装置)+ 防液堤(大容量の受液器の場合) |
なぜフルオロカーボンに溶栓を使わないの?
溶栓は温度上昇で金属が溶けて冷媒を放出する装置ですが、一度作動すると冷媒が全量大気中に放出されてしまいます。フルオロカーボンは強力な温室効果ガス(CO2の数百〜数千倍の温室効果)なので、大量放出は地球環境に大きな悪影響を与えます。だから安全弁(圧力が下がれば自動で閉じる)を使い、必要最小限の放出に抑えるのです。
⑤ 防液堤(ぼうえきてい)— 漏えい冷媒を閉じ込める壁
「防液堤」とは、受液器の周りに設けるコンクリートの囲い壁のことです。もし受液器から大量の液冷媒が漏れ出した場合、冷媒が周囲に広がるのを防ぎます。
現場イメージ
大きな工場の冷凍機室にある受液器(液冷媒を貯めるタンク)の周りに、高さ数十cmのコンクリートの壁が設けられています。これが防液堤です。灯油タンクの下に設ける「防油堤」と同じ発想で、万が一漏れても液体を堤の中に閉じ込めて、被害を最小限に抑えます。
防液堤が必要になるのは、一定容量以上の受液器があり、特に毒性のある冷媒(アンモニアなど)を使っている場合です。フルオロカーボンのみの小規模な設備では、通常は必要ありません。
製造の方法に係る技術上の基準 — 運転するときの5つのルール
ここからは「設備」ではなく「運転」のルールです。どんなに立派な設備でも、使い方を間違えれば事故は起きます。冷凍設備を運転するときに守るべき基準の主なポイントは5つです。
ルール① 安全弁の止め弁は常時全開
安全弁に付帯して設けた止め弁は、常に全開の状態にしておかなければなりません。
「設備の基準でも同じことを言っていなかった?」と思うかもしれません。区別のポイントはこうです。
- 設備の基準:止め弁を設けるなら「常時全開にできる構造」にせよ → 設備の仕様
- 運転の基準:日々の運転で止め弁を「常時全開にしておけ」 → 日常の運用
実際にあるヒヤリ事例
安全弁の修理のために止め弁を閉めた後、修理が終わったのに全開に戻すのを忘れたまま運転を再開…。この状態で異常圧力が発生しても安全弁は作動できません。「修理したら全開に戻す」を忘れないための仕組みとして、法律で「常時全開」が義務付けられているのです。
ルール② 冷媒設備は密閉状態で運転すること
高圧ガスの製造(=冷凍機の運転)は、冷媒設備を密閉した状態で行うのが原則です。配管や容器を開放したまま運転してはいけません。
ただし、修理のときは例外です。修理に必要な部分を開放することは認められています。
冷媒ガスを密閉系統の中だけで循環させることで、作業者への健康被害や環境への冷媒放出を防ぐのがこのルールの目的です。
ルール③ 漏えいしたときは直ちに応急措置
冷媒ガスの漏えいを発見したら、直ちに漏えいを防止するための応急措置を講じなければなりません。具体的には、漏えい箇所の特定と応急処置(弁を閉めて漏えい部分を隔離する、パッキンを締め直すなど)、周囲の安全確認、換気の実施などです。
特にアンモニアのような毒性ガスの場合は、吸い込むと人体に深刻な影響があるため、防毒マスクの着用や関係者の避難など、迅速な対応が求められます。
ルール④ 運転中は異常の有無を点検すること
冷凍設備の運転中は、運転状態について異常がないかを点検しなければなりません。圧力計の値、温度、異音、振動、冷媒漏えいの有無など、五感を使って異常がないかを確認します。
ルール⑤ 1日1回以上、製造施設全体を点検すること
運転中の点検とは別に、1日に1回以上、製造設備が設置されている製造施設全体の異常の有無を点検しなければなりません。「運転状態のチェック」だけでなく、建物や周辺環境も含めた巡回点検です。
現場イメージ
ビルの設備管理員が毎日の巡回で地下の冷凍機室に入り、圧力計の数値を読み取って日誌に記録し、機器周りに異常な音や臭いがないか五感で確認する。床に油のシミがないか、配管に結露や腐食がないかも目視でチェック。この巡回点検は法律で義務付けられた行為で、「面倒だからサボる」は法令違反になるのです。
製造方法の5つのルールまとめ
| ルール | 内容 |
|---|---|
| ① 止め弁 | 安全弁の止め弁は常時全開 |
| ② 密閉製造 | 冷媒設備は密閉状態で運転(修理時は例外) |
| ③ 漏えい対応 | 漏えい時は直ちに応急措置 |
| ④ 運転中点検 | 運転中は異常の有無を点検 |
| ⑤ 1日1回点検 | 1日1回以上、製造施設全体を点検 |
試験で狙われるポイント — よくある間違い・ひっかけ
第三種冷凍機械責任者の試験では、技術上の基準に関する問題が毎年出題されます。特に引っかかりやすいポイントを5つ整理します。
ひっかけ① 安全弁の止め弁は「禁止」ではなく「常時全開」
「安全弁に止め弁を設けてはならない」という選択肢が出ることがあります。しかし正しくは、止め弁を設けること自体は認められています。修理や交換のために止め弁があると便利だからです。ただし、常時全開にしておくことが条件です。
ひっかけ② フルオロカーボンに溶栓を使わない理由
「フルオロカーボンは毒性があるから溶栓を使わない」は誤りです。フルオロカーボンは基本的に不燃性・低毒性のガスです。使わない本当の理由は、強力な温室効果ガスが全量放出されるのを防ぐためです。
ひっかけ③ 耐圧試験と気密試験の圧力の混同
耐圧試験は「設計圧力の1.5倍」、気密試験は「設計圧力以上」です。この2つを逆にしたり、「2倍」「1.25倍」などの間違い選択肢に引っかからないように注意しましょう。
ひっかけ④ 「定期自主検査」は技術上の基準ではない
「定期自主検査・保安検査・完成検査」は「技術上の基準」ではなく、別の条文で定められた検査に関する義務です。「技術上の基準に定期自主検査が含まれる」という選択肢は誤りです。
ひっかけ⑤ 設備の基準と運転の基準の区別
どちらの基準に当てはまるかを正しく判断することが大切です。
| 基準の内容 | 分類 |
|---|---|
| 安全弁を設けること | 設備の基準 |
| 止め弁を常時全開にすること | 運転の基準 |
| 圧力計を設置すること | 設備の基準 |
| 1日1回以上点検すること | 運転の基準 |
| 密閉状態で運転すること | 運転の基準 |
理解度チェック — 4問で最終確認!
この記事の内容が身についたか、チェックしてみましょう。
【問題1】冷凍設備の技術上の基準に関する記述として、正しいものはどれか。
(1)技術上の基準とは、定置式製造設備の技術上の基準のみを指す。
(2)技術上の基準には、設備の基準と運転の基準の2種類がある。
(3)技術上の基準には、定期自主検査の義務が含まれる。
(4)運転の基準に違反しても、設備の基準を満たしていれば問題ない。
(5)設備の基準と運転の基準は同じ内容である。
【問題2】フルオロカーボンを冷媒とする冷凍設備には溶栓(可溶栓)を設けてはならないとされている。その理由として最も適切なものはどれか。
(1)フルオロカーボンは毒性が強く、溶栓が作動すると人体に危険だから。
(2)フルオロカーボンは温室効果ガスであり、全量放出を防ぐため。
(3)溶栓は高温では作動しないため。
(4)フルオロカーボンは可燃性があるため。
(5)溶栓は設計圧力の1.5倍以上の圧力に耐えられないため。
【問題3】製造の方法に係る技術上の基準に関する記述として、誤っているものはどれか。
(1)安全弁に付帯して設けた止め弁は、常時全開にしておかなければならない。
(2)冷媒設備は密閉した状態で運転しなければならない(修理時を除く)。
(3)冷媒ガスが漏えいしたときは、直ちに応急措置を講じなければならない。
(4)製造施設の異常の有無を1週間に1回以上点検しなければならない。
(5)運転中は、運転状態の異常の有無を点検しなければならない。
【問題4】定置式製造設備の技術上の基準に関する記述として、誤っているものはどれか。
(1)冷媒設備は、設計圧力の1.5倍以上の圧力で行う耐圧試験に合格したものであること。
(2)冷媒設備は、設計圧力以上の圧力で行う気密試験に合格したものであること。
(3)圧縮機の吐出し側に安全弁を設けること。
(4)圧縮機の吐出し側に圧力計を設けること。
(5)安全弁に付帯して止め弁を設けることは禁止されている。
まとめ
この記事で学んだこと
- 技術上の基準には設備の基準と運転の基準の2種類がある
- 設備の基準:耐圧性能・気密性能・安全弁の設置・圧力計・液面計・自動制御装置など
- 耐圧試験は設計圧力の1.5倍以上、気密試験は設計圧力以上
- フルオロカーボンには溶栓を使わない(温室効果ガスの全量放出防止のため)
- 毒性ガスには除害設備・防液堤が追加で必要
- 運転の基準:止め弁は常時全開・密閉製造・漏えい時の応急措置・1日1回以上の施設点検
前の記事 → 高圧ガス保安法の目的と用語の定義
次は「高圧ガスの貯蔵・運搬(移動)・廃棄の基準」に進みましょう。冷媒ガスが工場や建物の外へ出て移動するときのルールを見ていきます。
安全弁や圧力試験の詳しい仕組みは「安全装置と圧力試験」、配管や圧力容器の設計基準は「冷媒配管と圧力容器」の記事で復習できます。
試験頻出ポイント
- 技術上の基準は設備の基準と運転(製造方法)の基準の2種類
- 耐圧試験:設計圧力の1.5倍以上、気密試験:設計圧力以上
- フルオロカーボン設備には溶栓を使わない(温室効果ガスの全量放出防止)
- 毒性ガス(アンモニア等)→ 除害設備・防液堤が追加で必要
- 止め弁は常時全開(弁が閉じたまま圧縮機を運転すると圧力異常上昇)
- 製造施設は1日1回以上点検
※当サイトの画像にはAI生成のものが含まれており、実際の機器・器具とは外観が異なる場合があります。問題・解答の内容には細心の注意を払っておりますが、誤りが含まれる可能性があります。学習の参考としてご活用いただき、最終的な確認は公式テキスト・法令等で行ってください。当サイトの情報に基づく判断によって生じた損害について、一切の責任を負いかねます。
内容の誤りやお気づきの点がございましたら、お問い合わせフォームよりご連絡いただけますと幸いです。正確な情報をお届けできるよう、随時修正してまいります。