フィードバック制御は、結果を測り、目標との差に応じて操作を変える仕組みです。
計算では「どの信号を引くのか」、PIDでは「どの偏差に反応するのか」を押さえます。負帰還だから必ず安定する、P制御だから必ずずれが残る、という覚え方では条件を見落としてしまいます。
この記事では、電験三種・機械の自動制御を、室温調節、ブロック線図、伝達関数、PIDの順で学びます。計算例は信号の関係から解き、最後の4問では全選択肢の理由を確認できます。
1.室温調節で考える|目標値・制御量・操作量
暖房中の部屋で、設定が22℃、センサで測った室温が20℃だったとします。温度差は2℃です。この差を見て暖房の出力を増やし、室温をもう一度測る。その繰り返しがフィードバック制御です。ここでは温度を測るセンサの誤差はないものとします。
| 用語 | 意味 | 暖房の例 |
|---|---|---|
| 目標値 | 合わせたい値 | 設定温度22℃ |
| 制御量 | 調整したい実際の量 | 室温 |
| 検出量 | センサで測って戻す値 | 測定した室温20℃ |
| 偏差 | 目標と検出量との差 | 22−20=2℃ |
| 操作量 | 調節器から対象へ加える量 | ヒーターの電力など |
| 外乱 | 制御量を変える外部の要因 | 窓を開けて冷気が入ること |
「出力」という言葉だけだと、調節器の出力である操作量と、制御対象の出力である制御量を取り違えがちです。室温を変えたいのか、ヒーターへ送る電力を変えるのか、具体物に置き換えましょう。
開ループと閉ループは「結果を戻すか」で分ける
- 開ループ制御:例えば、室温を測らず、ヒーターを決めた電力で10分間動かす運転です。窓を開けて室温が下がっても、その室温を見て加熱量を修正することはありません。
- 閉ループ制御:室温を測り、目標との差に応じて加熱量を調節します。結果が入力側へ戻る輪(ループ)があるため、この名前が付きます。
電子レンジや洗濯機にも、温度・重量・水位などを検出する機種があります。機器名だけで開ループと決めず、何を制御し、その量を測って戻しているかで判断します。また、決めた順序や条件で動かす「シーケンス制御」は、開閉ループとは分類の観点が異なります。順序制御の一工程に、温度のフィードバック制御が入る場合もあります。
2.伝達関数|入力と出力の「時間変化の関係」を表す
ブロック線図の四角い箱は、入力を受けて出力を生む要素です。箱の中の伝達関数は、倍率だけでなく、応答の遅れなども表します。ここでは、入出力の関係が線形で、特性が時間によって変わらない系を扱います。実際の設備では、ある運転状態の近くでの小さな変化として近似することがあります。
G(s)=Y(s)/X(s)
つまり Y(s)=G(s)X(s)
X(s)、Y(s)は、時間とともに変わる入力・出力をラプラス変換したものです。微分方程式を掛け算・割り算で扱いやすくする変換で、sはその変数です。時間を秒で表すなら、sの次元は秒の逆数になります。
この入出力関係は初期状態を0として扱うことが前提です。すでにコンデンサに電荷がある、物体が動いている、といった初期状態の影響は別に加える必要があります。「伝達関数=どの瞬間でも出力値を入力値で割った値」ではありません。初期条件の扱いは日本機械学会誌「ラプラス変換と伝達関数」でも確認できます。
比例・積分・一次遅れの形
| 要素 | 伝達関数 | 入力を一定にしたとき |
|---|---|---|
| 比例 | K | 理想的には、入力のK倍へ直ちに変化 |
| 積分 | K/s | 0でない一定入力が続くと、出力が一定の傾きで変化 |
| 一次遅れ | K/(τs+1) | τ>0なら、最終値へ徐々に近づく |
τ(タウ)は時定数で、応答の速さを表す時間です。τsは無次元なので、τには秒などの時間の単位が必要です。Kの単位も常に無次元とは限りません。入力がV、出力が回転速度なら、比例要素Kには「回転速度/V」の単位があります。積分要素のKなら、さらに時間の単位も関係します。
一次遅れを G(s)=3/(6s+1) とし、時間を秒、入出力を無次元とします。初期状態0で入力を0から1へ変えると、出力は次の式になります。ここではτ=6秒、最終値は3です。
y(t)=3(1−exp(−t/6))
expは指数関数です。6秒後は 3×(1−exp(−1))≒1.90、最終値の約63.2%。18秒後は 3×(1−exp(−3))≒2.85、約95.0%になります。時定数は「応答が終わる時間」ではありません。これは遅れ方を説明する学習用のモデルで、すべての温度制御が同じ式になるわけではありません。
3.ブロック線図|直列は積、並列は合流の符号を見る
箱のほかに、信号を足し引きする加え合わせ点と、同じ信号を別の経路へ送る引き出し点を使います。引き出し点では信号の値は変わりません。回路の電流のように、分岐した数で割るわけではないのです。
| 接続 | 信号の関係 | 合成 |
|---|---|---|
| 直列 | X→G₁→G₂→Y | G1G2 |
| 並列・加算 | 同じ入力を2経路へ分け、両出力を足す | G1+G2 |
| 並列・減算 | 同じ入力を分け、第1経路から第2経路の出力を引く | G1−G2 |
直列では Y=G2(G1X) なので積です。並列・加算では Y=G1X+G2X
=(G1+G2)X なので和になります。加減算する信号は、温度なら温度、電圧なら電圧と、同じ単位・基準へそろえます。線が交差していても、接続点がなければ信号は混ざりません。
4.負帰還の式|なぜ分母が1+GHになるのか
目標入力をR(s)、出力をY(s)、偏差をE(s)とします。G(s)は偏差から出力までの前向き経路全体で、調節器と制御対象をまとめたものです。H(s)は出力を検出して戻す経路です。以下の導出では外乱を0とします。
前向き:目標R → 比較 → 偏差E → G → 出力Y
戻り:出力Y → H → 検出量B
比較では E=R−B とする
式を見やすくするため、以下は(s)を省略します。戻す信号は B=HY なので、
- 比較する:E=R−HY
- 前向きの箱を通す:Y=GE
- Eを代入する:Y=G(R−HY)
=GR−GHY - Yを左へまとめる:(1+GH)Y=GR
負帰還の全体伝達関数
W=Y/R=G/(1+GH)
偏差と目標入力の比
E/R=1/(1+GH)
比較点で引いた項を左辺へ移すから、分母は「+」になります。正帰還なら E=R+HY と置くので、W=G/(1−GH) です。単位帰還H=1なら、負帰還は G/(1+G) に簡略化できます。ブロック線図の合成と定常偏差は北海道大学の講義資料(合成伝達関数・定常偏差、PDF)を参照できます。
H≠1のときは、出力YをそのままRから引かず、R−HYを使います。例えば、回転速度をセンサで電圧へ変える系なら、比較するのは指令電圧と検出電圧です。GHは無次元ですが、G単体や全体伝達関数Wには、入出力に応じた単位が付く場合があります。
練習問題|G=10、H=0.1の負帰還
入出力を無次元とした比例要素G=10、H=0.1の負帰還系で、全体伝達関数Wを求めてください。さらに入力R=2のときのY、戻る信号B、偏差Eを計算して確かめましょう。
負帰還と安定性は別に確認する
負帰還はずれを減らす向きの構成ですが、設備の反応や計測に遅れがあると、修正が行き過ぎて振動することがあります。ゲインの大きさと遅れ方を含めた系全体の安定性を調べる必要があります。GとHはsを含む関数なので、分母に「+」が見えるだけでは安定と判定できません。
また、外乱をどの程度抑えられるかも、外乱が入る位置・変化の速さ・ゲインによります。目標温度を超えるオーバーシュート、上下に揺れる応答、落ち着くまでの時間は、いずれも設計で確認する項目です。
5.PID制御|現在の偏差・蓄積・変化速度を使う
PIDは調節器の動作です。前節のGが「前向き経路全体」だったのに対し、ここでは調節器単体をCと呼びます。Cの後ろに制御対象が続く構成です。時間領域での偏差をe(t)、操作量をu(t)と書きます。
| 動作 | 使う情報 | 主な役割と注意 |
|---|---|---|
| P:比例 | いまの偏差 | 偏差に応じて操作する。ゲインを上げると、対象によっては振動や不安定化につながる |
| I:積分 | 偏差が続いた量 | 一定のずれを残さないために使う。安定性や操作量の上限も確認する |
| D:微分 | 偏差の変化速度 | 適切な調整で行き過ぎを抑える。速いノイズにも反応しやすい |
P制御で偏差が残る条件
まず、単位帰還、外乱なし、安定な閉ループを考えます。制御対象の直流ゲイン(一定入力に対する定常的な倍率)を有限の正数K₀、比例ゲインを有限の正数Kₚとします。基準の運転状態から目標をAだけ変え、そのまま一定に保つステップ入力なら、定常偏差は
e∞=A/(1+KpK0)
となります。∞は時間が十分に経った極限を表します。入出力を無次元の目盛りにそろえ、例えば A=9、Kp=2、K0=4 なら、e∞=9/(1+2×4)=1。定常出力の変化は 9−1=8 で、目標まで1だけ届きません。この条件では、偏差が操作を続けるために必要なのです。
ただし、制御対象自体に積分特性がある場合などは、P制御でもステップ目標に対する定常偏差を0にできることがあります。例えば、時間を秒とする理想モデルで制御対象が1/s、比例ゲインが2、単位帰還なら、全体は 2/(s+2)。単位ステップ入力に対して y(t)=1−exp(−2t) となり、出力は1へ近づきます。「Pなら必ず偏差が残る」という一般化はできません。
実機には操作量の基準値(バイアス)もあります。偏差0ならヒーターへの出力が必ず0になる、という説明も一般には成り立ちません。基準の出力に、偏差に応じた増減分を加える場合があるためです。
I動作は「偏差が0になったら蓄積を止める」
偏差が同じ符号で残り続ける間、積分項は蓄積されます。偏差が0になっても、それまでに蓄積した値は0へ戻らず、必要な操作量を支えます。これが定常偏差をなくす仕組みです。
一定目標に対して、閉ループが安定で、積分動作が有効に働き、操作量の上限などに妨げられないことが前提です。暖房能力の上限でも設定温度に届かない場合、Iを加えるだけでは解消しません。上限に張り付いたまま積分が蓄積する現象をワインドアップと呼び、実機では対策が必要になります。目標がずっと増え続けるランプ入力についても、Iが1つあるだけで偏差が必ず0になるわけではありません。
Iを強くすれば無条件に良くなるわけではなく、行き過ぎや振動を増やすことがあります。P・I・Dの動作と温度制御の例は理化工業「PID制御の仕組み」で確認できます。
D動作は変化速度に反応する
D動作は、偏差が急に変わるほど大きく反応します。「先読み」と呼ばれますが、未来の値を知るのではなく、現在の変化の傾きを使っています。適切な調整で行き過ぎや振動を抑える効果が期待できますが、常に改善する保証はありません。
一定の偏差は変化速度が0なので、Dだけではそのずれを取り除けません。計測ノイズのような細かな急変も増幅しやすいため、実機ではフィルタ付きの微分などを使います。目標値を急に変えたときの大きな微分出力を避けるため、測定値側に微分を掛ける方式もあります。基本的な動作と構成は理化工業「PID制御の仕組み」も参照してください。
積分時間が短いほど、同じ偏差を速く積み上げる
PIDの標準形の一つは、初期状態0で次のように表せます。Kₚは比例ゲイン、Tᵢは積分時間、Tᴅは微分時間です。
C(s)=Kp
×(1+1/(Tis)+Tds)
積分項の係数は Kp/Ti なので、Kₚが同じならTᵢを短くすると積分動作が強まります。Tᵢ、Tᴅは時間の単位です。並列形 C(s)=Kp+Ki/s+Kds では、Ki=Kp/Ti、Kd=KpTd という対応になります。機器のパラメータを比べるときは、どちらの定義かを確認します。
この時間の定義はチノー「調節計ガイドライン」で確認できます。
計算例|一定の偏差が8秒続いたら
PI調節器の比例ゲインを4%/℃、積分時間を24秒とします。偏差1.5℃が8秒間一定に続いたとき、比例項と、その8秒間の積分項の増加分を求めてください。操作量の制限は考えず、%は0〜100%の操作量目盛りで扱います。
6.確認問題|公式と条件を使い分ける4問
各問で答えを考えてから解答を開きましょう。問題は学習用に構成したもので、公式過去問の転載ではありません。
第1問|単位帰還の全体伝達関数
無次元の比例要素G=20、H=1を負帰還接続したとき、全体伝達関数Wに最も近いものはどれですか。
- (1)0.95
- (2)1.0
- (3)10
- (4)19
- (5)20
第2問|P制御の定常偏差
単位帰還、外乱なし、安定な閉ループを考えます。積分を含まない制御対象の直流ゲインK₀と比例ゲインKₚは、いずれも有限の正数です。目標値を基準からA(A>0)だけ変えて一定に保つとき、正しい記述はどれですか。
- (1)P制御なら、制御対象によらず必ず振動する。
- (2)定常偏差は A/(1+KpK0) となり、0にはならない。
- (3)比例ゲインを2倍にすれば、定常偏差は必ず0になる。
- (4)偏差が一定のまま続くと、P動作の操作量は時間に比例して増え続ける。
- (5)D動作だけを加えれば、一定の偏差を必ず除去できる。
第3問|直列接続の計算
無次元の比例要素G₁=5、G₂=4を直列に接続します。途中の分岐や帰還がないとき、合成伝達関数はいくらですか。
- (1)1
- (2)4
- (3)5
- (4)9
- (5)20
第4問|負帰還について正しい説明
目標入力R、前向き伝達関数G、帰還伝達関数Hを持ち、E=R−HYで比較する制御系について、正しいものはどれですか。
- (1)出力Yを検出して戻す経路がない。
- (2)どの位置に入る外乱も、どんな速さの変化でも完全に消せる。
- (3)目標入力と、出力から得た検出量との差に基づいて修正する。
- (4)負帰還というだけで、系は必ず安定になる。
- (5)Hの値にかかわらず、偏差は常にR−Yである。
7.次の学習と公式確認先
ブロック線図は、まず各信号の式を書きます。負帰還ならE=R−HYとY=GEから出発すれば、分母の符号を確かめられます。PIDでは、Pは現在の偏差、Iはその蓄積、Dは変化速度。定常偏差や安定性は、制御対象と入力、操作量の制限を含めて判断しましょう。
- 自動制御の基礎 ミニテスト第1回:伝達関数と制御方式を復習。
- 同ミニテスト第2回・第3回:正帰還・PID・ブロック線図の追加演習。
- 自動制御装置と燃焼安全装置:ボイラーの制御と安全装置の役割へ。
- 前テーマ:電動力応用/次テーマ:電気事業法の目的と電気工作物
試験の原問題と公表解答は電気技術者試験センター「第三種電気主任技術者試験の問題と解答」で確認できます。本文は各節に示した技術資料を確認して独自に構成しており、資料の文章・図表や過去問を転載していません。
2026年10月28日確認・改訂。初期条件、帰還の符号、PIDと定常偏差の成立条件、式と計算例を確認しました。運営者は資格を独学中の個人です。
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