電気材料の種類と特性で電力科目が終わり、ここから機械科目です。最初に取り上げるのは直流機。鉄心と巻線に、整流子とブラシという独特の部品が加わった回転機で、軸を外から回せば発電機になり、電気を入れれば電動機になります。この記事では、部品の役目、起電力とトルクの式がどこから出てくるのか、発電機と電動機で式の符号が変わるわけ、電機子反作用とその対策までを、順に確かめます。電気技術者試験センターが公開している機械科目の問題を、令和4年度上期から令和8年度上期までの9回分読んだところ、9回とも問1は直流機の問いで、そのうち7回は問2も直流機の計算でした。
この記事で押さえること
- 直流機は、界磁(固定子)がつくる磁束の中で、電機子(回転子)を回す機械。電機子巻線の中の起電力と電流は交流で、整流子とブラシが外の直流とつなぐ。
- 電機子鉄心は、回るたびに磁束の向きが入れかわるので、電磁鋼板を重ねた積層鉄心にする。
- 誘導起電力は E=pZΦN/(60a)。導体1本の起電力を、ブラシのあいだで直列になる Z/a 本ぶん足したもの。
- 並列回路数 a は、重ね巻なら極数 p と同じ、波巻なら2。同じ機械なら、波巻のほうが電圧は高く、電流は小さい。
- トルクは T=pZΦIa/(2πa)。起電力の式と同じ定数でつながっていて、EIa=ωT が成り立つ。
- 電機子回路は「起電力+内部抵抗」。発電機は V=E−RaIa、電動機は V=E+RaIa。止まっている電動機は逆起電力が0なので、始動のときに大きな電流が流れる。
- 電機子電流のつくる磁束が、界磁の磁束をゆがめる(電機子反作用)。電気的中性軸がずれて、ブラシに火花が出る。対策は補極と補償巻線で、どちらにも電機子電流を流す。
記号と前提。p は極数(N 極と S 極を合わせた数)、Z は電機子の導体の総数、a は並列回路数、Φ は1極あたりの磁束[Wb]、N は回転速度[min−1]です。n は同じ速さを1秒あたりの回転で表したもので、n=N/60。ω は角速度[rad/s]です。E は誘導起電力(電動機では逆起電力と呼ぶ)、V は端子電圧、Ia は電機子電流、Ra は電機子回路の抵抗、T はトルクです。当サイトのミニテストは、磁束を φ、始動を「起動」と書いていますが、同じものです。計算例や確認問題の寸法・電圧・電流は、解き方を示すために選んだ仮の値で、実際の機械の銘板から取ったものではありません。とくに断らないかぎり、界磁は別の電源から一定の電流を流す他励とし、ブラシの電圧降下と電機子反作用は考えません。
直流機のつくり
直流機は、回らない固定子と、回る回転子でできています。磁束をつくる側を界磁、起電力が生まれて負荷の電流が流れる側を電機子といいます。直流機では、界磁が固定子に、電機子と整流子が回転子にあります。
| 部品 | 役目 |
|---|---|
| 継鉄 | 固定子の外わく。 磁束の帰り道になる。 |
| 界磁鉄心 主磁極 |
磁束を、電機子との すき間へ導く。 |
| 界磁巻線 | 直流の界磁電流を流して、 磁束をつくる。 |
| 電機子 鉄心 |
回転子の鉄心。 表面の溝(スロット)に 巻線を納める。 電磁鋼板を重ねてつくる。 |
| 電機子 巻線 |
起電力が生まれ、 電機子電流が流れる。 |
| 整流子 | 銅の片を円筒に並べたもの。 電機子巻線につながり、 回転子と一緒に回る。 |
| ブラシ | 固定子の側にある。 整流子の表面をすべって、 外の回路とつなぐ。 |
固定子と回転子のあいだには、せまいすき間(ギャップ)があります。磁束は、N 極の界磁鉄心からギャップを渡って電機子鉄心に入り、となりの S 極へ抜けて、継鉄を通って戻ります。
積層にするのは電機子鉄心
電機子鉄心のある一点から見ると、回転につれて N 極の前と S 極の前を交互に通るので、磁束の向きが入れかわります。向きの変わる磁束(交番磁束)が通る鉄心には、渦電流が流れて損失が出ます。そこで電機子鉄心は、薄い電磁鋼板を重ねた積層鉄心にします。板を薄くすると渦電流損が減る理由は、電気材料の種類と特性の「鉄心材料と鉄損」に書きました。
界磁の側を通るのは、直流の界磁電流がつくる、向きの変わらない磁束です。交流でも使える整流子電動機になると、界磁の磁束も交番するので、界磁鉄心と継鉄まで積層にします。どの鉄心を、なぜ積層にするのかは、試験センターの公開問題でも問われています。
整流子とブラシの役目
1巻きのコイルを磁極のあいだで回すと、コイルの辺は N 極の前と S 極の前を交互に通ります。起電力の向きは、半回転ごとに逆になります。コイルの中に生まれるのは交流です。これを、外から見て向きの変わらない直流にするのが、整流子とブラシです。
| 見る場所 | 起きていること |
|---|---|
| コイルの 中 |
起電力の向きが、 半回転ごとに入れかわる。 |
| 整流子 | コイルの端につながり、 一緒に回る。 ブラシに触れる片が、 半回転ごとに入れかわる。 |
| ブラシの 外 |
プラスのブラシには、 いつも同じ極の前にいる 辺がつながる。 向きのそろった、 山の連なる波形になる。 |
実際の電機子は、たくさんのコイルを少しずつずらして溝に納め、整流子の片も細かく分けます。ずれた山を直列に足し合わせるので、ブラシのあいだの電圧は、ほぼ一定の直流になります。
電動機として使うときは、働きが逆になります。ブラシから入れた直流を、整流子が半回転ごとに入れかえて導体に流します。すると、N 極の前を通る導体の電流は、いつも同じ向きになります。だから、トルクの向きが変わりません。
整流子の片の材料は、JIS C 2801(整流子片、1995年版)では銅か銀入銅です。ブラシは、炭素や黒鉛をもとにした材料でつくります。JIS C 2820(電気機械用ブラシ材料の物理特性試験方法、2008年版)は炭素協会が原案をつくった規格で、ブラシ材料を、一般にもろくて細かい穴の多い材料だと説明しています。ブラシは整流子の表面をすべり続けるので、すり減ります。
日本電気技術者協会が公開している講座では、直流電動機は、整流子とブラシの保守が必要で、大形で高価になる反面、広い範囲で精密な速度制御ができる、とまとめられています。整流子とブラシを使わない電動機は誘導電動機の原理と構造で扱います。ブラシレス DC モータは、ブラシと整流子が機械的な接触でしている切りかえを、半導体のスイッチに置きかえたものです。
起電力の式を組み立てる
磁界の中で導体を動かすと、導体に起電力が生まれます。磁束密度 B[T]の磁界の中で、長さ l[m]の導体を、磁界にも導体にも直角な向きへ速さ v[m/s]で動かすと、起電力は e=Blv[V]です(導き方は電磁誘導とインダクタンスの「運動起電力」)。向きはフレミングの右手の法則で決まります。右手の親指を導体の動く向き、人差し指を磁界の向きに合わせると、中指が起電力の向きです。
直流機の起電力の式は、この1本ぶんを積み上げたものです。電機子の直径を D[m]、導体の有効な長さを l[m]として、順に組み立てます。
① 導体の速さ=円周×毎秒の回転:
v=πDn
② ギャップの平均の磁束密度は、
全部の磁束 pΦ ÷電機子の表面積:
B=pΦ/(πDl)
③ 導体1本の起電力(平均):
e=Blv=pΦn
④ ブラシのあいだの直列の導体は
Z/a 本:
E=(Z/a)×pΦn
③で、直径 D と長さ l が消えます。導体1本の起電力は、1秒間に横切る磁束の量 pΦn だけで決まります。あとは、何本が直列につながっているかを掛けるだけです。n=N/60 を入れると、よく見る形になります。
直流機の誘導起電力
E=pZΦN/(60a)[V]
N は min−1。60は1秒あたりに直す数
n[s−1]で書けば E=pZΦn/a
機械ができあがれば、p・Z・a は変わりません。動かせるのは磁束と回転速度だけなので、起電力は Φ×N に比例します。界磁電流を増やして磁束を増やすか、速く回すかすれば、起電力は上がります。電機子電流は、この式に出てきません。
計算例1|導体1本から積み上げる
設定。4極の直流機がある。電機子の直径は0.24 m、導体の有効な長さは0.20 m、導体の総数は360本、1極あたりの磁束は0.015 Wb、回転速度は1,200 min−1。導体1本の起電力(平均)を求め、重ね巻(a=4)と波巻(a=2)のそれぞれについて、ブラシのあいだの起電力を求める。
① 1秒あたりの回転:
n=1,200/60=20 s−1
② 導体の速さ:
v=π×0.24×20≒15.08 m/s
③ 電機子の表面積:
π×0.24×0.20≒0.1508 m2
④ 全部の磁束は 4×0.015=0.060 Wb。
B=0.060/0.1508≒0.3979 T
⑤ 導体1本:
e=0.3979×0.20×15.08≒1.20 V
⑥ 重ね巻:直列は 360/4=90 本。
E=90×1.20=108 V
⑦ 波巻:直列は 360/2=180 本。
E=180×1.20=216 V
読み取り。⑤は、pΦn=4×0.015×20=1.20 V と同じ値です。直径と長さは②から⑤で使いましたが、掛けて割るので消えます。式にまとめて 4×360×0.015×1,200/(60×4)=108 V としても合います。
1.20 V は平均の値です。導体が磁極の正面にいるときはこれより高く、磁極と磁極のあいだにいるときは0に近くなります。それでも、90本や180本を直列に足せば、ブラシのあいだにはならされた電圧が出ます。
重ね巻と波巻
電機子巻線は、六角形に成形したコイルの辺を、電機子鉄心の溝に納めてつくります。コイルどうしのつなぎ方には、重ね巻と波巻があります。つなぎ方が変わると、ブラシのあいだにできる並列の道の数(並列回路数 a)が変わります。
| 巻き方 | 並列回路数と、性格 |
|---|---|
| 重ね巻 | a=p(極数と同じ)。 並列の道が多い。 電流を大きく取れるが、 電圧は低い。 |
| 波巻 | a=2(極数によらない)。 直列になる導体が多い。 電圧を高く取れるが、 電流は小さい。 |
導体の総数 Z は、どちらの巻き方でも同じです。Z/a 本が直列になった列が、a 列並ぶと考えます。電圧は1列ぶんで決まり、電流は列の数だけ足されます。
計算例2|巻き方で変わるもの
設定。計算例1の機械で、導体1本に流せる電流を仮に10 A とする。重ね巻と波巻で、取り出せる電機子電流と、起電力×電流を比べる。
① 重ね巻(4列):
Ia=4×10=40 A
108 V×40 A=4,320 W
② 波巻(2列):
Ia=2×10=20 A
216 V×20 A=4,320 W
読み取り。起電力×電流は、どちらも4,320 W です。巻き方が変えるのは、電圧と電流の配分です。機械が変換できる電力は変わりません。360本の導体を、90本ずつ4列に並べるか、180本ずつ2列に並べるかの違いです。
極数が増えると、差が開きます。波巻の起電力は、重ね巻の p/2 倍です。4極なら2倍、6極なら3倍、8極なら4倍になります。
トルクの式と出力
磁界の中に置いた導体へ電流を流すと、導体に力がはたらきます。磁束密度 B の磁界と直角に置いた長さ l の導体に、電流 I を流したときの力は F=BIl[N]です(磁気の基礎と電磁力)。向きはフレミングの左手の法則で決まります。左手の人差し指を磁界、中指を電流に合わせると、親指が力の向きです。右手でも左手でも、親指が力や動き、人差し指が磁界、中指が電気(起電力か電流)で、指の役目は共通です。発電機は右手で起電力の向きを、電動機は左手で力の向きを求めます。
トルクの式も、導体1本ぶんの積み上げです。導体1本に流れる電流は、電機子電流を並列の数で割った Ia/a。力に半径 D/2 を掛けるとトルクになり、それが Z 本ぶんあります。起電力のときと同じ B=pΦ/(πDl) を入れると、ここでも直径と長さが消えます。
直流機のトルクと、電力との関係
T=pZΦIa/(2πa)[N·m]
EIa=ωT[W]
ω は角速度。ω=2πN/60[rad/s]
トルクは Φ×Ia に比例します。回転速度は、式に出てきません。
起電力の式とトルクの式は、同じ定数でつながっています。K=pZ/(2πa) と置くと、E=KΦω、T=KΦIa です。両方から KΦ を消すと、EIa=ωT になります。左辺は電気の電力、右辺は機械の動力です。電機子の中で、この2つが入れかわっています。
計算例3|トルクを3通りで出す
設定。計算例1の機械を重ね巻(a=4)にして、電機子電流40 A を流す。回転速度は1,200 min−1 のままとする。トルクを、式・導体1本の力・電力の3通りで求める。
① 式から:
4×360×0.015×40/(2π×4)
=864/25.13≒34.38 N·m
② 導体1本の電流は 40/4=10 A。
力:0.3979×10×0.20≒0.7958 N
③ 半径は0.12 m、導体は360本:
0.7958×0.12×360≒34.38 N·m
④ 電力から:
EIa=108×40=4,320 W
ω=2π×20≒125.66 rad/s
4,320/125.66≒34.38 N·m
読み取り。3通りとも同じ値になります。①の式は、③の積み上げを文字でまとめたものです。④が合うのは、電機子の中で、電力 EIa が機械の動力 ωT にそのまま変わっているからです。
EIa は、電機子の中で変換される電力です。電動機の軸から取り出せる出力は、ここから鉄損と機械損を引いたものになります。損失と効率は、次のテーマの直流機の特性と計算で扱います。
発電機と電動機の式
電機子回路は、起電力 E に内部抵抗 Ra が直列についた電源と同じ形です(直流回路の基礎の「電源の内部抵抗と端子電圧」)。違うのは、電流がどちらへ流れるかだけです。
| 運転 | 式と、向き |
|---|---|
| 発電機 | V=E−RaIa E が V より大きい。 電流は、起電力の向きに 流れ出る。 トルクは回転を妨げる向き。 |
| 電動機 | V=E+RaIa V が E より大きい。 電流は、起電力に逆らって 流れ込む。 トルクは回転と同じ向き。 |
電動機でも、回っていれば導体は磁束を横切るので、発電機と同じ起電力が生まれます。この起電力は、外から加えた電圧に逆らう向きなので、逆起電力と呼びます。大きさは、発電機と同じ式 E=pZΦN/(60a) で決まります。
実際の機械では、端子電圧はこの式より少し下がります。日本電気技術者協会の講座「発電機と電動機(2)」は、発電機の回路で考えるものとして、電機子巻線の抵抗のほかに、ブラシによる電圧降下と、電機子反作用による電圧降下を挙げ、大きな値ではないので問題によっては無視することもある、としています。試験センターの公開問題でも、計算の問いには、ブラシによる電圧降下と電機子反作用を無視できるものとする、という断り書きが多く見られます。問題文に値が与えられたときだけ、式に入れます。
界磁巻線を電機子と並列につなぐ分巻や、直列につなぐ直巻では、界磁の電流や界磁巻線の抵抗が式に加わります。つなぎ方ごとの式と特性は、直流機の特性と計算で扱います。
計算例4|同じ機械を両方に使う
設定。電機子回路の抵抗が0.25 Ω の他励直流機を、220 V の直流の母線につなぐ。界磁電流は一定に保つ。発電機として母線へ40 A を送り出しているとき、回転速度は1,150 min−1 だった。同じ機械が、電動機として母線から40 A を受け取るときの、逆起電力と回転速度を求める。
① 発電機の起電力:
220+0.25×40=230 V
② 電動機の逆起電力:
220−0.25×40=210 V
③ 起電力は回転速度に比例する:
1,150×210/230=1,050 min−1
④ 電流が0になる速さ(E=220 V):
1,150×220/230=1,100 min−1
⑤ 発電機の電力:
変換 230×40=9,200 W
銅損 0.25×40×40=400 W
母線へ 220×40=8,800 W
⑥ 電動機の電力:
母線から 220×40=8,800 W
銅損 400 W
変換 210×40=8,400 W
読み取り。分かれ目は1,100 min−1 です。それより速く回されると、E が V を上回って発電機になります。遅ければ、V が E を上回って電動機になります。機械にも配線にも手を加えず、速さだけで入れかわります。回っている電動機を、この分かれ目より速い状態にして電力を電源へ返し、ブレーキに使うのが回生制動です。
トルクは、発電機のとき 9,200/120.43≒76.39 N·m、電動機のとき 8,400/109.96≒76.39 N·m です(120.43と109.96は、それぞれの速さの角速度)。磁束と電機子電流が同じなので、大きさは同じです。向きは逆で、発電機では回転を妨げ、電動機では回転を助けます。発電機を回す側は、この76.39 N·m に逆らって回し続けていることになります。
始動のときの電流
止まっている電動機は、回転速度が0なので、逆起電力も0です。計算例4の機械に、止まったまま220 V を加えると、電機子電流は 220/0.25=880 A。40 A を定格の電流とすれば、その22倍です。JIS C 4034-1(回転電気機械の定格及び特性、1999年版)が直流機に求めているのは、定格電流の1.5倍を1分間加えても機械的に耐えられる構造です。22倍は、その範囲をはるかに超えます。
そこで、始動のときだけ、電機子回路に直列に抵抗を入れます(始動抵抗)。始動の電流を60 A に抑えるなら、220/60−0.25≒3.42 Ω です。回り始めると逆起電力が育って電流が減るので、抵抗を少しずつ減らし、最後は0にします。
電機子反作用とは
ここまでは、ギャップの磁束を界磁だけがつくるものとしてきました。負荷がかかって電機子巻線に電流が流れると、その電流も磁束をつくります。日本電気技術者協会の講座「発電機と電動機(4)」は、電機子電流による磁束が及ぼす作用を、電機子反作用と呼んでいます。無負荷で電機子電流が流れていなければ、起きません。
| 作用 | 中身 |
|---|---|
| 交差磁化 作用 偏磁作用 |
電機子の磁束は、 界磁の磁束と直角の向き。 合わさった磁束は傾き、 磁極の片側にかたよる。 |
| 中性軸の 移動 |
電気的中性軸がずれる。 発電機は回転の向きへ、 電動機はその逆へ。 |
| 減磁作用 | 磁束のかたよった側が 飽和すると、 全体の磁束が減る。 |
ブラシは、起電力が0になる位置の導体につながるように置きます。導体がこの位置を通るとき、導体の電流は向きが入れかわります。この入れかわりを整流といい、そのあいだ、コイルはブラシで短絡されています。無負荷なら、起電力が0になる位置は、主磁極と主磁極のまん中(幾何学的中性軸)です。負荷がかかると、合わさった磁束が傾くので、起電力が0になる位置(電気的中性軸)もずれます。ブラシを元の位置に置いたままだと、起電力の出ているコイルを、ブラシが短絡することになります。同じ講座は、困ることを3つ挙げています。
- 整流中のコイルに短絡電流が流れ、ブラシに火花が出る。
- 火花が、正のブラシと負のブラシのあいだをつないでしまうことがある(フラッシュオーバ)。
- 減磁作用で磁束が減る。発電機では電圧が下がり、電動機では回転速度が上がる。
3つ目を、計算例4の数字で見てみます。仮に、磁束が3%減ったとします。発電機は、同じ1,150 min−1 で回していても、起電力が 230×0.97=223.1 V に下がります。電動機は、電流が40 A のままなら逆起電力は210 V で変わらないので、回転速度が 1,050/0.97≒1,082 min−1 に上がります。同じ電流で出せるトルクも、3%減ります。
補極と補償巻線
対策は3つあります。
| 対策 | 場所と、働き |
|---|---|
| ブラシを 移す |
ずれた電気的中性軸に、 ブラシを合わせる。 負荷が変わるたびに 軸も動くので、 合わせ続けるのは難しい。 |
| 補極 | 主磁極と主磁極のあいだ (幾何学的中性軸)に置く、 小さな磁極。 巻線に電機子電流を流し、 その場所で、電機子の 磁束を打ち消す。 |
| 補償巻線 | 主磁極の表面の溝に 納める巻線。 電機子電流を流し、 磁極の前で、電機子の 磁束を打ち消す。 |
補極にも補償巻線にも、界磁電流ではなく電機子電流を流します。打ち消したい磁束が電機子電流に比例するので、同じ電流を流しておけば、負荷が変わっても、打ち消す量が自動でついていきます。発電機と電動機では電機子反作用の向きが逆になりますが、電機子電流の向きも逆になるので、つなぎ方は変えなくてすみます。試験センターの公開問題では、小形の機械では、補極と補償巻線のうち補極が一般的に使われる、とされています。
補極や補償巻線があれば、ブラシは幾何学的中性軸に置いたままで使えます。JIS C 4034-1 は、直流機が、無負荷から決められた過電流までの範囲で、整流子やブラシの表面を傷めず、有害な火花を出さずに運転できることを求めています(整流試験)。
取り違えやすい点の整理
| 話題 | 正しい見方 |
|---|---|
| 巻線の中の 電気 |
直流ではなく交流。 整流子とブラシが、 外の直流とつなぐ。 |
| ブラシの ある側 |
回らない。固定子の側。 回るのは整流子。 |
| 界磁と 電機子 |
直流機は界磁が固定子、 電機子が回転子。 同期機は逆がふつう。 |
| 式の60 | 1分あたりの回転を、 1秒あたりに直す数。 毎秒で書けば出てこない。 |
| 重ね巻と 波巻 |
並列回路数が極数と 同じなのが重ね巻、 2なのが波巻。 電圧が高いのは波巻。 |
| 式の符号 | 発電機は引き、 電動機は足す。 E と V の大きいほうが、 電流を押し出す。 |
| 逆起電力 | 回っている電動機には 必ず出る。 止まっていると0で、 始動の電流が大きくなる。 |
| トルク | 磁束と電機子電流の 積に比例する。 回転速度は式に入らない。 |
| 電機子 反作用 |
原因は電機子電流。 界磁電流ではない。 無負荷では起きない。 |
| 補極と 補償巻線 |
流すのは、どちらも 電機子電流。 |
理解度チェック
下の3問は、当サイトがこの記事に合わせて用意したものです。解答を開くと、外れの選択肢がどういう取り違えから出てくる値なのかも読めます。
確認1|波巻の起電力
6極で波巻の直流発電機がある。電機子の導体の総数は480本、1極あたりの磁束は0.012 Wb、回転速度は900 min−1 である。誘導起電力[V]に最も近いものを選べ。
- (1)43.2
- (2)86.4
- (3)130
- (4)259
- (5)518
確認2|発電機に切りかえる
他励直流機が、150 V の直流の母線につながっている。電機子回路の抵抗は0.40 Ω である。電動機として母線から25 A を受け取っているとき、回転速度は1,400 min−1 だった。界磁電流を変えずに、この機械を発電機にして、同じ母線へ25 A を送り出したい。回転速度を何 min−1 にすればよいか。最も近いものを選べ。ブラシの電圧降下と電機子反作用は考えない。
- (1)1,225
- (2)1,400
- (3)1,493
- (4)1,500
- (5)1,600
確認3|構造と電機子反作用
直流機についての次の5つの記述から、誤りを含むものを1つ選べ。
- (1)電機子鉄心は、回転につれて磁束の向きが入れかわるので、薄い電磁鋼板を重ねてつくる。
- (2)負荷がかかると、発電機では電気的中性軸が回転の向きへずれ、電動機では回転と逆の向きへずれる。
- (3)補極は主磁極と主磁極のあいだに置き、その巻線には界磁電流を流す。
- (4)補償巻線は主磁極の表面の溝に納め、電機子電流を流す。
- (5)並列回路数は、波巻では極数によらず2で、重ね巻では極数と同じになる。
まとめと次に読むところ
- 界磁は固定子、電機子と整流子は回転子。ブラシは固定子の側にあり、回る整流子の表面をすべる。
- 電機子巻線の中は交流。整流子とブラシが、外の直流とつなぐ。電機子鉄心は積層鉄心。
- 起電力は E=pZΦN/(60a)。導体1本の pΦn に、直列の本数 Z/a を掛けたもの。
- 重ね巻は a=p、波巻は a=2。巻き方で変わるのは電圧と電流の配分で、変換できる電力は同じ。
- トルクは T=pZΦIa/(2πa)。EIa=ωT で、電気の電力と機械の動力がつながる。
- 発電機は V=E−RaIa、電動機は V=E+RaIa。始動のときは逆起電力が0なので、始動抵抗で電流を抑える。
- 電機子反作用で、磁束がかたより、電気的中性軸がずれ、飽和すれば磁束が減る。補極と補償巻線に電機子電流を流して打ち消す。
演習と、前後のテーマ
- 直流機の構造と原理のミニテスト第1回:部品の役目、起電力の計算、逆起電力を確かめる5問。
- 第2回と第3回は、問題を足したいとき用:並列回路数、発電機と電動機の式、トルクと出力、始動の抵抗、巻き方を変えたときの起電力など。
- 電気材料の種類と特性:ひとつ前のテーマ。電磁鋼板の鉄損と、巻線の絶縁の耐熱クラス。
- 直流機の特性と計算:次のテーマ。他励・分巻・直巻・複巻の違い、速度の変え方、損失と効率。
- 磁気の基礎と電磁力:磁界の中の電流が受ける力と、左手の法則。
- 電磁誘導とインダクタンス:磁界を横切る導体の起電力と、渦電流。
- 直流回路の基礎:起電力と内部抵抗をもつ電源の、端子電圧の出し方。
- 誘導電動機の原理と構造:整流子もブラシも使わない電動機。
- 同期機の原理と特性:界磁を回転子に置く機械。
- パワーエレクトロニクス:直流電動機に加える電圧を変える装置。
- 電験三種の日程と科目合格:試験日と申込み、科目合格を持ち越せる回数。
- 電気技術者試験センターの、第三種の試験概要のページ:機械科目の内容は「電気機器」から始まる。
- これまでの問題と解答(同センター):直流機が、どんな文章と数値で問われてきたかを原文で読める。
- 「発電機と電動機(1)誘導起電力と電磁力」(日本電気技術者協会の講座):起電力とトルクの式の導き方。
- 「発電機と電動機(2)直流発電機、同期発電機」(同):発電機の回路と、電圧降下の内訳。
- 「発電機と電動機(3)直流電動機、同期電動機、同期調相機」(同):逆起電力、始動、制動。
- 「発電機と電動機(4)電機子反作用」(同):中性軸のずれる向きと、補極・補償巻線。
- 「半導体電力変換装置による直流電動機の速度制御」(同):直流電動機の長所と短所。
- JIS検索(日本産業標準調査会):C 4034-1、C 2801、C 2820 を番号で探せる。本文を読むには利用者登録が必要。
リンク先と引用した資料は、2026年10月4日に本文を開いて読みました。出題の回数は、試験センターが公開している令和4年度上期から令和8年度上期までの機械科目の問題9回分を読んで数えたものです。部品の配置、電機子鉄心を積層にする理由、巻線のつくり、補極と補償巻線に流す電流、発電機と電動機でつなぎ方を変えなくてよいこと、小形の機械で補極が一般的なこと、ブラシレス DC モータの説明は、この9回分のうち該当する問いを、公式の解答と照らして確かめました。問題文そのものは載せていません。起電力とトルクの式の導き方、並列回路数、発電機の電圧降下の内訳、逆起電力と始動、回生制動、電機子反作用の3つの作用と中性軸のずれる向き、直流電動機の長所と短所は、日本電気技術者協会の「音声付き電気技術解説講座」のうち、上にリンクした5本によります。整流子片の材料は JIS C 2801(1995年版)、ブラシ材料の説明は JIS C 2820(2008年版)、過電流に耐える構造と整流試験は JIS C 4034-1(1999年版)から取りました。JIS の本文は、転載している公開サイトで読んだものです。原文は、上の JIS検索から、利用者登録のうえで閲覧できます。改正で内容が変わることがあるので、仕事で使う場合は最新の版にあたってください。計算例の数値と、磁束が3%減ったときの試算は、本文の式から計算したものです。この記事の書き手は、電験三種を独学している受験者です。直流機の設計や保守の実務経験にもとづく内容ではありません。
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