誘導電動機の計算では、まず「どこを通る電力か」を確かめます。電源から受け取った電力は、一部が熱などの損失になり、残りがポンプや送風機を回す軸出力になります。
このページでは電力の流れからトルク・効率を求め、すべりとトルクの関係、比例推移、始動電流の比へ進みます。計算例は学習用の架空設定です。確認問題4問には、正解以外の選択肢にも理由を付けています。
同期速度やすべりが初めてなら、誘導電動機の原理と構造から読むと理解しやすくなります。演習は特性と計算ミニテスト第1回へ進めます。
1.計算の前に、速度と電力の名前をそろえる
基本の対象は、平衡した三相交流で動く誘導電動機の定常状態です。回転子側に別の電源を接続せず、磁界と同じ向きに回る通常の電動運転 0<s<1 を考えます。始動時の比率は、停止時の s=1 で比較します。
Ns=120f/p
s=(Ns−N)/Ns
N=Ns(1−s)
f は電源周波数 [Hz]、p は極数、Ns は磁界の同期速度、N は軸の回転速度です。速度の単位は min−1(r/min)。すべり s は無次元で、4%なら式には0.04を入れます。
| 記号 | 何を表すか |
|---|---|
| P1 | 一次入力。電源から固定子へ入る有効電力。 |
| P2 | 二次入力。空隙を介して回転子へ渡る電力。「同期ワット」とも呼ぶ。 |
| Pc2 | 二次銅損。回転子導体の抵抗で熱になる電力。 |
| Pm | 機械的発生出力。機械損を引く前に、回転の仕事へ変換された電力。 |
| Po | 軸出力。摩擦損・風損などを差し引き、負荷へ渡せる動力。 |
いずれも三相合計の電力で、単位は W または kW です。「機械出力」という語が機械損の前後のどちらを指すかは教材により異なるため、ここでは Pm と Po を分けます。軸出力が銘板の定格出力と等しくなるのは、定格出力で運転しているときです。軽い負荷で使っているときまで同じ値ではありません。
2.二次入力の「sの分」が銅損になる理由
↓ 一次銅損・固定子鉄損を引く
↓ 二次銅損 Pc2 を引く
↓ 摩擦損・風損を引く
上図は、回転子鉄損や漂遊負荷損などを省いた学習用の損失モデルです。実機の損失測定では省略した項目も含めます。問題に別の損失が指定されていたら、その扱いを確認します。
等価回路で抵抗を二つに分ける
等価回路は、電動機の働きを電気回路で表したものです。一次側に換算した回転子の1相分の抵抗を r2′ [Ω]、二次電流の実効値を I2′ [A] とします。「′」(プライム)は、一次側へ換算した値を意味します。
電源周波数にそろえた等価回路では、二次側の実効的な抵抗項は r2′/s です。これを次のように分けられます。
r2′/s=r2′
+ r2′(1−s)/s
最初の r2′ が導体の抵抗による損失、後半が機械的発生出力に対応します。後半は実際に追加した抵抗ではなく、回転の仕事を回路上で表した項です。各相の電流は同じなので、三相合計では、
- 二次入力:P2=3I2′2r2′/s
- 二次銅損:Pc2=3I2′2r2′
- 機械的発生出力:Pm=P2−Pc2
二次銅損を二次入力で割ると、電流と抵抗の項が消えて s が残ります。
Pc2=sP2
Pm=(1−s)P2
P2:Pc2:Pm
=1:s:(1−s)
この比の最後は、機械損を引く前の出力です。軸出力にそのまま置き換えられるのは、機械損などを無視できる条件のときです。巻線形で二次外部抵抗を使う場合、sP2 には回転子導体だけでなく外部抵抗の発熱も含まれます。以下の数値例では外部抵抗を使いません。
計算例1|20 kWを銅損と機械的発生出力に分ける
二次入力20 kW、すべり0.05です。二次銅損と機械的発生出力を求めましょう。
計算例2|二次銅損から逆算する
二次銅損600 W、すべり0.03です。二次入力と機械的発生出力を kW で求めましょう。
電力配分と機械損の扱いは、日本電気技術者協会の入力・出力と各種特性の解説でも確認できます。
3.トルクは、電力と速度を組み合わせて求める
トルクは軸を回そうとする働きで、単位は N·m です。機械的な電力は「トルク×角速度」。1回転は2π radなので、1分間の回転数 N を角速度へ直すには、60で割って2πを掛けます。
ω=2πN/60 [rad/s]
ωs=2πNs/60 [rad/s]
| 使う電力 | 対応する式と求まる量 |
|---|---|
| 二次入力 P2 | Te=P2/ωs 同期角速度で割ると、電磁トルク。 |
| 機械的発生出力 Pm | Te=Pm/ω 軸の角速度で割っても、同じ電磁トルク。 |
| 軸出力 Po | To=Po/ω 軸の角速度で割ると、負荷へ渡す軸トルク。 |
Te は電磁トルク、To は軸トルクです。機械損があれば、軸トルクの方が小さくなります。ここでの電力は W で代入します。kWの値をそのまま使うと、答えが1,000分の1になってしまいます。
なぜ二次入力には同期速度を使うのか
Pm=(1−s)P2 と ω=(1−s)ωs を組み合わせると、
Pm/ω
=(1−s)P2
÷ [(1−s)ωs]
=P2/ωs
分子と分母の 1−s が消えるからです。「トルクは必ず同期速度で割る」と覚えず、与えられた電力の位置を見ます。停止時は ω=0、Pm=0なので Pm/ω は使えませんが、P2/ωs では始動トルクを表せます。回転していなくても、回そうとするトルクは生じます。
計算例3|4極・50 Hzで二次入力15 kW
電磁トルクを求めましょう。二次入力が与えられているため、軸の実測速度は不要です。
4.通し計算|効率90%と力率0.866は別の意味
6極・60 Hzの電動機を考えます。一次入力12.0 kW、一次銅損と固定子鉄損の合計0.80 kW、すべり0.025、機械損0.12 kWとします。それ以外の損失は無視し、次の順で計算します。
| 求める量 | 計算 |
|---|---|
| 二次入力 | 12.0−0.80=11.20 kW |
| 二次銅損 | 0.025×11.20=0.28 kW |
| 機械的発生出力 | 11.20−0.28=10.92 kW |
| 軸出力 | 10.92−0.12=10.80 kW |
| 全体の効率 | 10.80/12.0=0.90 百分率では90%。 |
入力12.0 kW=軸出力10.80 kW+損失1.20 kWになっています。損失は 0.80+0.28+0.12=1.20 kW。この収支で、二次銅損や機械損を二重に引いていないか確認できます。
同期速度は 120×60/6=1,200 [min−1]、軸速度は 1,200×0.975=1,170 [min−1]。電磁トルクは 11,200/(40π)≈89.1 N·m、軸トルクは 10,800/(39π)≈88.1 N·m です。機械的発生出力から計算した 10,920/(39π) も、電磁トルクの約89.1 N·mになります。
効率は損失を見る。力率は入力側の電圧と電流を見る
効率 η は Po/P1 です。一方、正弦波の平衡三相電源では、線間電圧 VL [V] と線電流 IL [A] の実効値、各相の電圧と電流の位相差 φ を使い、
P1=√3VLIL cosφ
力率 cosφ=P1/(√3VLIL)
と表せます。この例で線間電圧400 V、線電流20 Aなら、皮相電力は √3×400×20≈13,856 V·A。力率は 12,000/13,856≈0.866 です。
効率90%は入力のうち軸出力になった割合、力率0.866は入力有効電力と皮相電力の比です。1−s=0.975を、全体の効率や力率に代入することはできません。軽負荷でも磁束を作る励磁電流が必要なので、一次電流がゼロになるわけでもありません。PWM波形など高調波を含む場合、総合力率を位相差のcosφだけで表せるとは限りません。
5.小すべりの比例近似と「比例推移」を分ける
同じ電動機で負荷を変えるとき:Tはsにほぼ比例
電圧・周波数・回路定数が一定で、同期速度に十分近い範囲では、電磁トルク T(前節の Te)はすべり s にほぼ比例します。例えば、すべり0.02で40 N·mなら、すべり0.03では約60 N·mという見積もりです。最大トルク付近や始動時まで、この直線近似を延長してはいけません。
小すべり側では、負荷が増えて軸速度が少し下がると、すべりが増えて電動機のトルクも増えます。一定の負荷トルクとつり合う点が戻ろうとする性質を持ちます。ただし実際の安定性は、負荷のトルクが速度とともにどう変わるかにも依存します。
二次抵抗を変えるとき:同じトルクとなるすべりが移る
比例推移は、二次回路の合成抵抗をk倍にすると、元と同じトルクを生むすべりもk倍になる性質です。電圧・周波数と他の回路定数を固定し、等価回路の r2′/s を一定にする操作です。単に「T が s に比例する」という意味ではありません。
巻線形なら、スリップリングを介して外部抵抗を追加できます。かご形は通常、回転子回路へ外から抵抗を追加できません。
例えば1相当たりの二次抵抗0.25 Ωを、外部抵抗0.50 Ωの追加で合計0.75 Ωにすると3倍です。元のすべり0.02に対応する同じトルクの点は、3×0.02=0.06 に移ります。ここでは抵抗をすべて同じ側の値でそろえています。
4極・60 Hzなら同期速度は1,800 min−1。元は 1,800×0.98=1,764 [min−1]、追加後は 1,800×0.94=1,692 [min−1]です。これは同じ電磁トルクの点を比較した計算です。負荷トルクが速度で変わるなら、実際の運転点は負荷曲線との交点で決まります。
この比較では二次入力も同じで、二次抵抗回路の発熱が二次入力の2%から6%へ増えます。回転子導体と外部抵抗の発熱を合わせた値です。速度を下げるために抵抗で熱を捨てるため、損失が増えます。
比例推移の定義は、日本電気技術者協会の速度・トルク特性の解説を参照できます。
6.最大トルクは「大きさ」と「出るすべり」を別々に見る
最大トルク(停動トルク)は、一定の電圧・周波数で得られるトルク曲線の山です。始動時のトルクとは区別します。ここでは正弦波・平衡三相のL形近似等価回路を用い、励磁枝を入力側へ移し、磁気飽和・温度変化・表皮効果による定数変化を無視します。
1相分の印加電圧の実効値を V1 [V]、一次抵抗を r1 [Ω]、一次と一次換算二次の漏れリアクタンスの合計を X [Ω] とします。X は電源周波数での値です。A=r2′/s、D=(r1+A)2+X2 と置くと、
T ≈ 3V12A/(ωsD)
と表せます。小すべりで A が r1 と X より十分大きければ D≈A2 なので、T≈3V12s/(ωsr2′)。前節の T∝s は、この近似から得られます。
最大となる条件を、分母の最小から読む
トルクの式を A で割って整理すると、分母の変化する部分は A+(r12+X2)/A です。正の A では、これが最小になるのは A=√(r12+X2) のときです。
B=√(r12+X2) と置けば、最大トルク時のすべり sm と最大トルク Tmax は次のようになります。
sm=r2′/B
Tmax ≈ 3V12
÷ [2ωs(r1+B)]
- 二次抵抗だけを変える:山の高さ Tmax は変わらず、山の位置 sm が抵抗に比例して移る。
- 周波数などを固定して電圧だけを変える:同じすべりでのトルクと山の高さは、電圧の2乗に比例する。電圧が90%なら 0.92=0.81、トルクは81%。
- 一次抵抗も十分小さいとする:B≈X となるので、さらに Tmax≈3V12/(2ωsX)。この条件で、最大トルクは合計漏れリアクタンスに反比例する。
最大トルクの式に二次抵抗がないことと、始動トルクが二次抵抗に無関係であることは別です。外部抵抗を調整して sm=1 に近づければ、停止時に大きなトルクを出せます。しかし抵抗を増やしすぎて sm>1 になると、山は通常の電動運転範囲の外へ移り、始動トルクはかえって下がります。
また、定負荷で電圧を下げると、運転点のすべりも変わります。「電圧90%だから実際の負荷トルクも必ず81%」とはいえません。ここでの比は同じすべり、または各曲線の最大値の比較です。式の前提と始動特性は日本電気技術者協会の各種始動法の解説で確認できます。
7.Y-Δ始動:相電流は1/√3、線電流は1/3
比較相手は、同じ電動機を同じ線間電圧・周波数でΔ結線のまま直入れ始動した場合です。始動直後の対称な交流成分を考え、1相の巻線インピーダンスの大きさ Z が同じと近似します。定格運転中の電流との比ではありません。
| 比べる量 | Δで始動 | Yで始動 |
|---|---|---|
| 巻線の相電圧 | VL | VL/√3 |
| 巻線の相電流 | VL/Z | VL/(√3Z) |
| 電源側の線電流 | √3VL/Z | VL/(√3Z) |
Δでは線電流が相電流の√3倍、Yでは線電流と相電流が同じです。この結線による違いも入れるため、Yの線電流はΔの1/3になります。トルクは相電圧の2乗に比例するので、(1/√3)2=1/3 です。
例えばΔ直入れ時の始動線電流が240 A、始動トルクが180 N·mなら、Y始動では約80 A、約60 N·m。電流を抑えると、加速に使えるトルクも小さくなります。負荷に必要なトルクを下回れば加速できません。
Y-Δ始動は、その電源電圧でΔ運転するための巻線と、結線切替が可能な端子を備えた電動機で使います。加速後にΔへ切り替えますが、切替時の過渡電流まで常に1/3に抑えられるという意味ではありません。方式の概要は三菱電機のスターデルタ始動FAQも参照できます。
始動補償器では、電源側と電動機側を分ける
単巻変圧器で電動機端子の電圧を直入れ時の k 倍(0<k<1)にするとします。周波数・結線・停止時インピーダンスが同じで、変圧器の損失や励磁電流を無視すれば、電動機側の線電流は k 倍、電源側の線電流は k2倍、トルクは k2倍です。
電動機側の電流が k 倍になり、変圧器の電圧比に対応して電源側ではさらに k 倍になるためです。タップ比0.70なら、電動機側は0.70倍、電源側とトルクは0.49倍。240 A・180 N·mの直入れ条件なら、電動機側168 A、電源側117.6 A、トルク88.2 N·mです。
直入れの始動電流が定格の何倍か、始動トルクが定格の何倍かは、設計や電源条件で変わります。一律の倍率を使わず、問題文やメーカー特性表の値を確認します。
8.速度制御では、周波数・極数・すべりのどれを変えるか
N=(120f/p)(1−s) から、速度を変える入口は三つあります。
| 変える量 | 方法と条件 |
|---|---|
| 周波数 f | インバータで同期速度を変える。かご形でも使える。軸速度は負荷によるすべりも含めて決まる。 |
| 極数 p | 極数変換用の巻線で接続を切り替える。対応した電動機が必要で、段階的な速度変更になる。 |
| すべり s | 巻線形の二次抵抗制御など。同期速度はそのままで、同じトルクとなる速度を変える。 |
V/f制御は、周波数に応じて電圧も調整する方法です。一次巻線の電圧降下が小さい範囲では、電圧/周波数を一定にすると磁束をほぼ一定に保てます。低周波数では抵抗による電圧降下を補う必要があり、基底周波数を超えて電圧が上限に達すると、V/f一定を維持できません。
したがって、どの速度でも同じトルクが保証されるわけではありません。低速域は富士電機のV/f制御FAQ、基底周波数より上の特性は三菱電機の基底周波数以上の運転FAQで確認できます。
9.理解度チェック|式の条件も答える4問
特に断りのない限り、第1節・第2節の平衡三相・定常電動運転と損失モデルを使い、二次外部抵抗は接続していないものとします。
確認問題1|二次入力25 kW、すべり0.04
二次銅損は何 kWでしょうか。
- (1)0.5
- (2)1.0
- (3)1.5
- (4)2.0
- (5)2.5
確認問題2|Y始動のトルクをΔ直入れと比較する
同じ巻線・線間電圧・周波数・停止時条件で比較します。巻線インピーダンスの変化を無視すると、Y始動のトルクはΔ直入れの何倍でしょうか。
- (1)1/√3
- (2)1/3
- (3)1/2
- (4)√3
- (5)3
確認問題3|最大トルクと電源電圧
同じ電動機で周波数を固定し、磁気飽和などによる回路定数の変化を無視します。電圧だけを変えたときの最大トルクについて、正しい説明はどれでしょうか。
- (1)二次抵抗に比例する。
- (2)電源電圧の1乗に比例する。
- (3)電源電圧の2乗に比例する。
- (4)どのすべりでも、トルクはすべりに比例し続ける。
- (5)周波数が同じなら、電圧が変わっても最大トルクは変わらない。
確認問題4|機械的発生出力19 kW、すべり0.05
19 kWは機械損を引く前の値です。二次銅損は何 kWでしょうか。
- (1)0.5
- (2)0.95
- (3)1.0
- (4)1.5
- (5)2.0
10.次の演習と、公式の確認先
電力の名前を確かめてから式を選び、最後に電力収支と単位を確認しましょう。トルク計算では、分子の電力と分母の速度が対応しているかをもう一度見ます。
- 特性と計算ミニテスト第1回:二次入力やトルクなどの演習。
- 同ミニテスト第2回・第3回:追加の計算練習。
- 前テーマ:誘導電動機の原理と構造・そのミニテスト第1回:同期速度・すべり・回転子の構造を復習。
- 次テーマ:誘導電動機の始動法と速度制御・そのミニテスト第1回:始動方式と速度制御へ進む。
試験の出題範囲は電気技術者試験センターの第三種試験概要、公表問題は同センターの問題・解答で確認できます。本文の図解・数値例・確認問題は独自の教材で、公式問題の転載ではありません。
2026年10月15日確認・改訂。比例推移の定義、電力とトルクの対応、始動時の電流比と近似条件を見直しました。本文中の一次資料で原理を確認し、数値例は式から検算しています。運営者は資格を独学中の個人です。
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