結論から言います。火力発電の熱計算は、「どこに入る熱」と「どこで取り出す電力」を比べるかで決まります。燃料の発熱量だけでは熱入力になりません。燃料を使う速さを掛け、出力と同じ単位にそろえます。
まず汽力発電の水・蒸気の流れを確認し、発電端と送電端、コンバインドサイクルの順に計算します。本文の数値例と確認問題は、条件を明示した当サイト独自の学習用設定です。
火力発電の3方式|タービンを回す流体が違う
火力発電では、燃料の化学エネルギーを熱に変え、タービンなどの回転を通して発電機から電気を取り出します。ただし、すべての方式が「蒸気で回る」わけではありません。
| 方式 | 回転に使うもの | 熱の使い方 |
|---|---|---|
| 汽力発電 | 水から作った蒸気 | ボイラーで蒸気を加熱し、蒸気タービンへ送る |
| ガスタービン単独 | 高温の燃焼ガス | 圧縮した空気と燃料を燃焼器で燃やす |
| コンバインドサイクル | 燃焼ガスと蒸気 | ガスタービンの排熱を蒸気側の発電にも使う |
ガスタービン側の基本的な熱サイクルをブレイトンサイクル、汽力側をランキンサイクルといいます。ガスタービンでは回転力の一部を空気の圧縮機にも使うため、タービンが生む仕事を丸ごと発電出力にはできません。
ランキンサイクル|給水・加熱・膨張・凝縮
汽力発電では、水と蒸気を循環させます。次の表では、復水器を出た水を状態1として、一周の順序を付けています。
| 工程・状態 | 機器 | エネルギーの出入り |
|---|---|---|
| 給水 1→2 | 給水ポンプ | 仕事を使い、液体の水を高圧にする |
| 加熱 2→3 | ボイラー・過熱器 | 熱を受け取り、タービンへ送る蒸気を作る |
| 膨張 3→4 | 蒸気タービン | 蒸気のエネルギーから軸の仕事を取り出す |
| 凝縮 4→1 | 復水器 | 冷却水などへ熱を放出し、水に戻す |
復水器(ふくすいき)は、水を回収するだけの装置ではありません。蒸気を冷やして凝縮させ、タービン出口を低い圧力に保つ役割もあります。蒸気入口の条件が同じなら、出口の絶対圧力を低くすることは膨張で取り出せる仕事を増やす方向に働きます。「真空度を高める」は「絶対圧力を下げる」という意味です。
ただし、冷却水温度、熱交換器の大きさ、空気の漏入、蒸気の湿りなどの制約があります。真空度を無制限に高めたり、主蒸気の温度・圧力を設備の許容値以上に上げたりする運転を勧めるものではありません。
エンタルピーの差で、熱と仕事を分ける
比エンタルピー h[kJ/kg]は、流れる水・蒸気のエネルギー収支に使う、単位質量あたりの状態量です。上の状態1〜4の値を h1〜h4 とします。
単純な一流路のサイクルが定常運転しているとし、運動・位置エネルギーの変化と配管損失を無視します。ポンプ・タービンは外部と熱交換しないものとして、1 kgあたりの収支は次のようになります。
タービンの仕事:wt=h3−h4
ポンプの消費仕事:wp=h2−h1
水・蒸気が受ける熱:qin=h3−h2
サイクル熱効率 ηcycle=(wt−wp)÷qin
たとえば、h1=200、h2=210、h3=3,210、h4=2,310 kJ/kg と与えられたモデルでは、タービン仕事は900、ポンプ仕事は10、受熱は3,000 kJ/kg。したがって効率は(900−10)÷3,000=約0.2967、約29.7%です。
この分母は水・蒸気が受け取った熱です。燃料から出た熱のすべてが水へ渡るわけではなく、発電機などにも損失があります。この値を、そのまま燃料基準の発電端熱効率と呼ばないようにします。理想ランキンサイクルでは、さらにポンプとタービンを可逆断熱、加熱と凝縮を等圧の過程として扱います。
再熱と再生|「何を温めるか」で区別する
| 方法 | 温める対象 | ねらい・注意 |
|---|---|---|
| 再熱 | 高圧タービンで一度膨張した蒸気 | 再熱器で温め直して次段へ送り、出口の湿りを抑える |
| 再生 | ボイラーへ戻す給水 | タービンから抜き取った蒸気で予熱する |
| 再熱再生 | 蒸気と給水の両方 | 2つの改善を組み合わせる。効率は設備条件による |
蒸気の湿り度は、湿り蒸気のうち液体の水が占める質量割合です。再熱で湿りを減らすことは、タービン翼が水滴で傷むのを抑えるうえでも重要です。再熱はサイクル効率の改善にも使われますが、効果は再熱圧力や温度に左右されます。「再熱すればタービン単体の効率が必ず上がる」と同一視はしません。
再生では、蒸気の一部をタービン途中から取り出す抽気(ちゅうき)を行います。給水の低温部分を内部の熱で温めるため、外部から熱を受け取る平均温度を高められます。一方、抽気した分はその先のタービンで仕事をしません。単に「給水を温めた分だけ出力も増える」のではなく、受熱と仕事の両方の変化で効率を判断します。
機器単体の復習はエコノマイザ・空気予熱器・過熱器へ。排ガスで給水を温めるエコノマイザと、抽気で給水を温める再生サイクルは、熱源を区別してください。
熱効率の基本式|kJとkWを混ぜない
ここからは、燃料を入口とする発電所全体の計算です。効率 η(イータ)はまず0〜1の小数で扱い、百分率で答える最後に100を掛けます。
| 記号 | 意味 | この式での単位 |
|---|---|---|
| B | 毎時の燃料消費量 | kg/h |
| H | 燃料1 kgの発熱量 | kJ/kg |
| Q̇in | 単位時間あたりの燃料熱入力 | kJ/s=kW |
| P | 電力出力 | kW |
Q̇in=B×H÷3,600[kW]
η=P÷Q̇in=3,600×P÷(B×H)
燃料消費量が最初から kg/s なら、発熱量との積が kJ/s になるので3,600で割りません。
換算の根は1 kW=1 kJ/s、1 kWh=3,600 kJです。kWは出力の大きさ、kWhは一定時間に得たエネルギー量。たとえば50 kWで2時間運転すれば100 kWhです。「出力50 kWh」という書き方はしません。
期間全体で求める場合は、同じ期間の燃料消費質量 M[kg]と発電電力量 E[kWh]を使い、η=3,600E÷(MH)とします。負荷が変わるときに、ある瞬間の出力を一日の燃料量で割ってはいけません。
発電端と送電端|所内で使う電力を引く
発電端出力 Pgは発電機端子で得る電力、送電端出力 Psはそこから発電所内で使う電力 Pa を差し引いた電力です。ポンプ・送風機などの補機も電気を使います。
ここでは定常運転で、所内消費以外の差引項目を無視するモデルとします。送電線を通って需要家に届くまでの損失を差し引いた値ではありません。
Ps=Pg−Pa
所内率 a=Pa÷Pg
発電端熱効率 ηg=Pg÷Q̇in
送電端熱効率 ηs=ηg×(1−a)
計算例|燃料24 t/h・発電96 MW・所内6 MW
発熱量36,000 kJ/kgの燃料を毎時24 t使い、発電端で96 MWを得ています。所内消費は6 MWとし、同じ発熱量基準で両方の効率を求めます。
- 質量をそろえる:24 t/h=24,000 kg/h。
- 毎時の熱入力:24,000×36,000=864,000,000 kJ/h。
- 出力と同じ単位へ:864,000,000÷3,600=240,000 kW=240 MW。
- 送電端出力:96−6=90 MW。
| 求める量 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 発電端熱効率 | 96÷240 | 0.40=40% |
| 所内率 | 6÷96 | 0.0625=6.25% |
| 送電端熱効率 | 90÷240 | 0.375=37.5% |
検算は0.40×(1−0.0625)=0.375です。40−6.25=33.75%とはしません。熱効率の分母は燃料熱入力、所内率の分母は発電端出力で、基準が違うからです。
熱消費率|1 kWhを作るために何kJ使うか
熱消費率 HR[kJ/kWh]は、単位電力量を得るために必要な燃料の熱量です。効率が高いほど、同じ1 kWhに必要な熱は少なくなります。
HR=3,600÷η[kJ/kWh]
ηは小数です。効率を百分率の数値で使うなら、HR=360,000÷効率[%]となります。
先ほどの発電端では3,600÷0.40=9,000 kJ/kWh、送電端では3,600÷0.375=9,600 kJ/kWhです。同じ燃料を使っても、外へ送り出せる電力量は小さいため、送電端の熱消費率は大きくなります。発電端・送電端と発熱量基準をそろえて比較してください。
発電端・送電端の用語は、パワーアカデミーの電気工学用語集「熱効率」でも確認できます。熱消費率の式は、1 kWh=3,600 kJを熱効率の定義へ代入すると導けます。
高位・低位発熱量|効率の数字だけで比較しない
燃料の発熱量には、水蒸気が凝縮するときの熱を含めるかどうかで、2種類の基準があります。
| 基準 | 凝縮潜熱の扱い | 同じ発電量での見え方 |
|---|---|---|
| 高位発熱量(HHV) | 含む | 分母が大きく、効率表示は低くなる |
| 低位発熱量(LHV) | 含めない | 分母が小さく、効率表示は高くなる |
たとえば、同じ燃料の高位発熱量が40 MJ/kg、低位発熱量が36 MJ/kgで、低位基準の効率が40%なら、高位基準では0.40×36÷40=0.36、つまり36%です。燃料消費量も発電量も変わっていません。表示の基準を変えただけです。実際の発熱量の差は燃料によります。
潜熱の扱いは日本冷凍空調学会「高位発熱量と低位発熱量」で確認できます。性能表は発電端/送電端、HHV/LHV、定格/部分負荷を確認してから比べましょう。
コンバインドサイクル|排熱を分母にした効率を足す
コンバインドサイクルでは、ガスタービンの高温排ガスを排熱回収ボイラー(HRSG)へ導き、そこで作った蒸気で蒸気タービンを回します。燃料から一度に2つの同じ熱量を取り出すのではなく、最初の発電で残った熱を次に使う仕組みです。
燃料 → ガスタービン → 電力①
ガスタービンの排ガス
↓ 排熱回収ボイラーで蒸気を作る
蒸気タービン → 電力②
電力①と②を合計し、元の燃料熱入力で割る。
三菱重工のGTCC製品説明には、JAC形適用プラントの効率として64%以上・低位発熱量基準という例が示されています。これは特定設備の公表値であり、すべてのコンバインド設備が常時この値になるという意味ではありません。
また、ガスタービン単独の起動と、蒸気側も含むプラント全体の起動は分けて考えます。起動時間は停止後の温度や設備構成などに左右されるので、「コンバインドなら一律に短時間で全出力」とは決めつけません。
合成効率の式が使える条件
ηG を燃料熱入力に対するガスタービン側の効率、ηS を蒸気側が受け取る熱に対する蒸気サイクル側の効率とします。ηS は蒸気タービン単体の内部効率ではありません。各段で差し引く仕事や損失の範囲もそろえます。
追加燃焼なしで、ガスタービン側で出力にならなかった熱のすべてが蒸気側へ渡る、という簡略モデルなら、次の式になります。
ηc=ηG+(1−ηG)×ηS
理由は、元の熱を1とするとガス側出力がηG、残る熱が1−ηG、そこから作る蒸気側出力が(1−ηG)ηSだからです。効率同士を単純に足すと、蒸気側にも元の熱1が入ることになってしまいます。
残る熱のうち、実際に蒸気側へ渡る割合をrと定義するモデルでは、
ηc=ηG+(1−ηG)×r×ηS
です。ここでのrは残余熱を基準にした学習用の回収割合で、メーカーが示す個別機器の「回収率」と同じ定義とは限りません。補機電力が与えられた場合は、各効率に含めているかを確認し、必要なら合計出力から別に差し引きます。追加燃焼があれば、その燃料熱も分母へ加えます。
計算例|38%・回収割合80%・蒸気側30%
追加燃焼と別途の補機損失を無視し、ηG=0.38、r=0.80、ηS=0.30とします。元の熱入力を100 MWと置くと、流れを確認しやすくなります。
- ガス側出力:100×0.38=38 MW。
- 出力にならなかった熱:100−38=62 MW。
- 蒸気側へ渡る熱:62×0.80=49.6 MW。
- 蒸気側出力:49.6×0.30=14.88 MW。
合計出力は52.88 MWなので、効率は52.88%です。r=1と仮定した場合の56.6%とも、効率を足した68%とも異なります。
ランキンサイクルの熱収支・再熱・再生と、合成効率の簡略式の確認先は、MIT OpenCourseWare「Thermomechanical Conversion II」(英語PDF・3、8、10、19枚目)です。上の数値例は資料の演習問題を転載せず、当サイトで設定しています。
理解度チェック|基準と条件を読み取る3問
各問で正しいものを1つ選び、「解答を見る」を押してください。公式を覚えたかだけでなく、分母を説明できるかも確かめます。
確認1|抽気蒸気はどこへ向かうか
汽力発電の再生サイクルについて、給水加熱器を設ける説明として適切なものはどれですか。
(1)タービン出口の蒸気を燃焼器の燃料にする。
(2)給水を冷やし、外部からの受熱を増やす。
(3)膨張途中の蒸気を再熱器へ戻して温め直す。
(4)全量の蒸気をタービン入口から給水側へ逃がす。
(5)途中で抽気した蒸気の熱を給水の予熱に使う。
確認2|送電端で計算する
燃料熱入力210 MW、発電端出力84 MW、所内消費4.2 MWで定常運転しています。他の差引項目はないとき、送電端熱効率はいくらですか。
(1)35%
(2)35.8%
(3)38%
(4)40%
(5)42%
確認3|排熱の回収割合を含める
簡略コンバインドモデルで、ガス側効率36%、残余熱から蒸気側へ渡る割合75%、蒸気側効率32%とします。追加燃焼と別途の補機損失はありません。合成効率はいくらですか。
(1)36%
(2)51.36%
(3)56.48%
(4)60%
(5)68%
まとめと次の学習先
- ランキンサイクルでは、タービンの仕事からポンプの消費仕事を引く。
- 再熱は蒸気、再生は給水を温める。効果はサイクル全体で見る。
- 燃料消費量と発熱量から熱入力を作り、出力と単位・時間をそろえる。
- 送電端は所内消費を差し引く。熱消費率は効率が高いほど小さい。
- 合成効率は残余熱の回収条件を確認し、発熱量の基準もそろえる。
ビルの設備仕様でも、発電効率と、排熱を給湯などに使うコージェネレーションの総合効率は分けて読みます。「電気と利用できる熱の合計」の割合を、そのまま発電効率と比較しないことが大切です。
このあと手を動かす
- 火力発電の仕組みと熱効率 ミニテスト第1回:基本の流れと熱入力の計算を確認。
- 水力発電の仕組みと計算:発電方式が変わっても、入力と出力を分ける練習。
- 原子力発電と新エネルギー:次の電力テーマへ進む。
- 電験三種の受験ガイド:科目構成と受験の準備を確認。
- 電気技術者試験センター「第三種試験の問題と解答」:公式公開問題で本番の形式を確認。
- ビルメン資格の学習ロードマップ:資格全体の学習順を整理。
内容・出典確認日:2026年9月7日。数値例は実在設備の仕様ではありません。問題に測定位置・効率の定義・損失条件が指定された場合は、その条件に合わせて式を立ててください。
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