誘導電動機は、回転子に電流を誘導し、その電流と磁界の作用で軸を回すモーターです。計算の出発点は、「磁界の回る速さ」と「軸の回る速さ」を分けること。この差を割合にしたものが、すべりです。
ビルの送風機やポンプを回す三相誘導電動機をイメージしながら、構造、回転磁界、同期速度、すべり、二次周波数の順に学びます。数値例は学習用の架空設定です。最後に確認問題4問を用意しました。
前テーマの変圧器の等価回路と計算を読んだ方は、固定子を一次側、回転子を二次側と対応させるとつながります。演習から始めたい方は誘導電動機の原理と構造ミニテスト第1回へ進めます。
1.固定子・回転子・空隙は、それぞれ何をするか
外側で動かない部分が固定子(ステータ)、内側で軸と一緒に回る部分が回転子(ロータ)です。両者の間には、接触せずに回れるように小さなすき間があります。これを空隙(くうげき、エアギャップ)と呼びます。
| 部分 | 構造と役割 |
|---|---|
| 固定子 | 鉄心の溝に三相巻線を収める。巻線へ交流を流して、回転する磁界を作る。 |
| 回転子 | 鉄心と導体棒、または鉄心と巻線で構成。誘導された電流に電磁力が働き、軸を回す。 |
| 空隙 | 固定子と回転子の間のすき間。主磁束は、鉄心とこの空隙の両方を通る。 |
鉄心には薄い電磁鋼板を重ねたものを使い、鉄心内を回り込む渦電流による発熱を抑えます。一方、回転子の導体はトルクを生む電流を流すために必要です。抑えたい鉄心の渦電流と、利用したい導体の電流を区別しましょう。
この記事では、平衡した三相交流で動く一般的な誘導電動機を中心に説明します。家庭用などの単相誘導電動機では、始動用の補助巻線を設けるなど、回転磁界を作るための工夫が必要です。
2.回転磁界は、動かない巻線から生まれる
三相巻線そのものが回るわけではありません。各巻線を流れる電流が順に変わることで、合成した磁界の向きが回ります。
- 空間の配置:三相巻線の磁気的な軸を、電気角で120°ずつずらす。
- 時間のずれ:大きさと周波数が等しく、位相が120°ずつ異なる三相電流を流す。
巻線が対称で磁束分布を正弦波とみなすと、合成した基本波の磁界は、大きさを一定に保って回転します。これが回転磁界です。不平衡な電流や高調波を含む実機の磁界まで、完全に同じと考えるわけではありません。
回転磁界を作る
起電力を誘導する
磁界との作用でトルクが生まれる
トルクとは、軸をねじって回そうとする力の働きです。起電力が生じても、回転子回路が開いていれば電流は流れません。かご形は両端の短絡環、巻線形は外部回路を含む接続によって、電流の通り道を作ります。
回転磁界の作り方とトルク発生の関係は、日本電気技術者協会の三相誘導電動機の回転原理を参照できます。
「120°」は電気角。見た目の角度とは分ける
機械角は、円を一周すると360°になる普通の角度です。電気角は、磁極のN・S一組で生じる変化の1周期を360°と数える角度です。
極数を p とすると、N・Sの組の数である極対数は p/2。両者の関係は次のようになります。
電気角=(p/2)×機械角
2極では両者が同じですが、4極では電気角が機械角の2倍です。したがって、4極で電気角120°に対応する間隔は、機械角60°です。実際の巻線は複数の溝に分布するので、「コイルを見た目で120°ずつ並べる」とだけ覚えないようにします。
極数と角度の対応は、日本電気技術者協会の巻線配置と回転磁界の解説にも、2極・4極・8極の図があります。
3.同期速度の式「120f/p」はどこから来るか
回転磁界の回転速度を同期速度といい、Ns で表します。電源周波数 f の単位は Hz、極数 p はN極とS極を合わせた数です。「4極」は2組であり、式には4を入れます。
回転磁界が機械的に一周する間に、電気的な変化は p/2 周期進みます。そのため、毎秒の回転数は f/(p/2)。1分は60秒なので、
Ns=60×f/(p/2)
=120f/p [min−1]
min−1 は、ここでは1分間の回転数です。r/min、rpmとも書きます。次の表は軸の実測速度ではなく、磁界の同期速度です。
| 極数 | 50 Hz [min−1] |
60 Hz [min−1] |
|---|---|---|
| 2極 | 3,000 | 3,600 |
| 4極 | 1,500 | 1,800 |
| 6極 | 1,000 | 1,200 |
| 8極 | 750 | 900 |
周波数が同じなら、極数を2倍にすると同期速度は半分。極数が同じなら、周波数を変えると同期速度が比例して変わります。電圧や負荷を変えても、周波数と極数が同じなら同期速度は変わりません。
回転方向は相順で決まる
相順とは、三相の変化が現れる順番です。同じモーター端子に対して、給電する三相のうち任意の2相を交換すると相順が逆になり、回転磁界が反転します。
- U・V・W に対して R・S・T を接続:基準となる相順。
- U・V・W に対して S・R・T を接続:2相を交換したので逆の相順。
- U・V・W に対して S・T・R を接続:順番を一つずらしただけなので同じ相順。
電圧の上下や1線を外すことは、正しい逆転方法ではありません。ここで説明しているのは相順の原理です。実際の配線変更は、停止・電源遮断など設備の作業手順に従います。インバータ駆動では、機器の指示に沿った正逆転指令を使います。
4.すべりは「速度差÷同期速度」
回転子の速度を N とすると、回転磁界との速度差は Ns−N です。この差を同期速度で割った割合が、すべり s です。
s=(Ns−N)/Ns
N=Ns(1−s)
すべり自体には単位がありません。s=0.04 と「すべり4%」は同じです。式に代入するときは4ではなく0.04を使います。また、速度差の60 min−1と、割合の0.04は別の量です。
同期速度では「回れない」のか
通常の電動運転では、回転子が磁界より遅いために起電力が誘導され、負荷を回すトルクが生まれます。回転子が同期速度になると、基本波の磁界との相対的な動きがなくなり、それによる回転子の起電力・電流・トルクはゼロになります。
自分の誘導トルクで負荷や摩擦を支えながら、同期速度を保つことができないという意味です。外力でその速度に回したり、過渡的に通過したりすることまで不可能ではありません。以下は、回転磁界の方向を正に取り、二次側から別の電源を加えない通常の誘導機を考えた整理です。
| 回転子の状態 | すべりと意味 |
|---|---|
| 停止 N=0 |
s=1。通電して始動する瞬間に相当。トルクは生じ得るが、まだ軸は回っていない。 |
| 同方向に回り、磁界より遅い | 0<s<1。通常の電動運転の範囲。この全域が安定な連続運転範囲という意味ではない。 |
| 同期速度 N=Ns |
s=0。基本波による誘導トルクはゼロ。固定子の励磁電流までゼロになるわけではない。 |
| 同方向で同期速度より速い | s<0。外力で駆動すると、発電運転になる場合。磁界を作る励磁も必要。 |
| 回転磁界と逆向きに回る | N<0、s>1。回転中に相順を反転した直後などの制動領域。 |
たとえば、同期速度1,500 min−1の磁界と同方向に、外力で回転子を1,530 min−1にすると、s=(1,500−1,530)/1,500 =−0.02 です。発電時の考え方は、日本電気技術者協会の誘導発電機の解説で確認できます。
定格すべりを「2〜5%」と決めつけない
定格とは、メーカーが定めた使用条件です。定格時のすべりが数%になる機種はありますが、容量や設計で変わります。問題では指定値を使い、実機では銘板の周波数・極数・定格回転速度から計算します。
軸の負荷を外した無負荷運転でも、軸受の摩擦や送風などに必要なトルクが残ります。したがって実機の無負荷速度は、通常、同期速度よりわずかに低くなります。「無負荷だからすべりは厳密にゼロ」とも扱いません。
計算例1|4極・50 Hz・1,440 min−1
最初に磁界の速度を計算し、次に速度差を割合へ変えます。
- 同期速度:
Ns=120×50/4=1,500 [min−1] - 速度差:
1,500−1,440=60 [min−1] - すべり:
s=60/1,500=0.04、つまり4%。
分母を回転子の1,440にすると約4.17%ですが、それはすべりの定義ではありません。この例なら、50 Hz用の4極モーターに定格1,440 min−1という表示があっても、同期速度との不一致だけで故障とは判断しません。
計算例2|6極・60 Hz・すべり0.05
今度はすべりから回転子の速度を逆算します。
- 同期速度:
Ns=120×60/6=1,200 [min−1] - 回転子の速度:
N=1,200×(1−0.05)
=1,140 [min−1]
すべりが5%なので、回転子の速さは同期速度の95%です。1,200×0.05=60 は速度差であり、回転子の速度ではありません。
5.二次周波数は、回転子から見た変化の速さ
固定子を一次側、回転子を二次側と呼びます。二次周波数 f2 は、回転子の導体に誘導される起電力や電流の周波数です。軸が1秒に何回回るかを示す値ではありません。
回転子が止まっているときは、磁界の変化をそのまま受けるので f2=f。回転子が同方向へ加速すると、磁界との速度差が小さくなり、回転子から見た変化も遅くなります。
停止〜通常の電動運転では:
f2=sf [Hz]
速度差が同期速度の s 倍だから、回転子から見た周波数も電源周波数の s 倍です。先ほどの4極・50 Hz・すべり0.04なら 0.04×50=2 Hz。同じすべりでも電源が60 Hzなら 0.04×60=2.4 Hz です。
発電領域まで含め、周波数を正の大きさで表す場合は f2=|s|f とします。負のすべりは、相対的な回転方向が逆になったことを表します。「負のHzで振動する」という意味ではありません。
計算例3|軸の回転数と二次周波数を比べる
6極・50 Hzで、回転子が980 min−1のときを考えます。
- 同期速度:
120×50/6=1,000 [min−1] - すべり:
(1,000−980)/1,000=0.02 - 二次周波数:
f2=0.02×50=1 Hz - 軸の毎秒の回転数:
980/60≒16.33 [回転/秒]
1 Hzは回転子に流れる電流の周波数、約16.33回転/秒は軸の動く速さです。6極では、回転子に対する磁界の相対回転が毎秒 20/60 回転で、それに極対数3を掛けると1 Hzになります。
二次起電力の大きさも、すべりで変わる
空隙の主磁束を一定とみなし、停止時の二次1相当たりの誘導起電力を E20 [V]とすると、電動運転中の起電力 E2s [V]は、次の関係になります。
E2s=sE20
同じ周波数・主磁束の条件で停止時160 Vなら、すべり0.02で 0.02×160=3.2 V です。これは誘導起電力の比較で、短絡された二次端子にそのまま現れる端子電圧とは異なります。固定子電圧が同じでも、電圧降下などで主磁束が変わる実機では近似です。
二次周波数と起電力、変圧器との対応は、日本電気技術者協会の誘導電動機の基本原理・等価回路を確認先にしています。
6.かご形と巻線形は、回転子の電流の通り道が違う
| 種類 | 構造と使い分け |
|---|---|
| かご形 | 回転子の導体棒を両端の短絡環でつなぐ。回転子回路用のブラシ・スリップリングがなく、構造が簡単。一般的なかご形では、外から二次抵抗を挿入できない。 |
| 巻線形 | 回転子に絶縁された三相巻線を置く。スリップリングとブラシを介して外部抵抗を接続し、始動特性や速度を調整できる。 |
スリップリングは、回転する巻線と静止した外部回路をつなぐ環です。直流機の整流子のように、回転に合わせて接続先を切り替える部品ではありません。「誘導電動機ならブラシがない」ではなく、かご形の回転子回路には不要と覚えます。
かご形でも、固定子へ与える電源をインバータで変えれば速度を制御できます。「二次抵抗を外から変えられない」と「速度制御ができない」は別です。また、ブラシがなくても軸受や絶縁の点検は必要です。
深溝かご形と二重かご形
始動時はすべりが1で二次周波数が高く、通常運転ではすべりが小さくなって二次周波数が低下します。この違いを、回転子導体の設計に利用します。
- 深溝かご形:深い溝に導体棒を収める。始動時は電流が空隙に近い溝の上部へ偏るため、電流が使う断面が狭まり、実効抵抗が大きくなる。加速後は偏りが弱まり、導体の断面を広く使える。
- 二重かご形:外側に比較的高抵抗・低漏れリアクタンスのかご、内側に低抵抗・高漏れリアクタンスのかごを設ける。始動時は内側のリアクタンスの影響で外側へ電流が偏り、二次周波数が下がると低抵抗の内側にも流れやすくなる。
始動時に必要なトルクと、加速後の損失の低減を両立する工夫です。かご形と巻線形の名前だけで、どちらの始動トルクが必ず大きいとは決まりません。回転子の設計、抵抗、始動時の電圧・周波数も条件になります。
構造による始動特性の変化は、日本電気技術者協会の始動方法・特殊かご形の解説を参照しています。
7.変圧器と似ている点、違う点
「回転する変圧器」という呼び方は、一次側と二次側が磁束を介してエネルギーをやり取りする点に着目したものです。導線が空隙をまたいでつながっているわけではありません。
| 比較する点 | 変圧器と誘導電動機 |
|---|---|
| 一次と二次 | 変圧器:一次巻線と二次巻線。 誘導電動機:固定子巻線と回転子回路。 |
| 主磁束の通り道 | 変圧器:主に鉄心。 誘導電動機:固定子鉄心・空隙・回転子鉄心を通り、空隙を介して固定子側へ戻る。 |
| 二次周波数 | 変圧器:基本波は一次と同じ。 誘導電動機:回転子との相対速度で変化する。 |
| 外へ取り出す出力 | 変圧器:二次端子から電力を送る。 電動運転の誘導機:軸から機械的な動力を取り出す。 |
誘導機にも鉄心があります。空隙だけで磁路ができるわけではありません。空隙は鉄心より磁束を通しにくいので、励磁電流を考えるうえでも重要です。損失と出力の計算は、次テーマの誘導電動機の特性と計算で学びます。
8.理解度チェック|速さ・角度・構造を分ける4問
最初は解説を閉じて解いてみてください。計算問題は、何を分母にするか、単位は何かも書くと理解を確かめられます。
確認問題1|6極で電気角120°に対応する機械角
6極の回転磁界について、電気角120°に対応する機械角はどれでしょうか。
- (1)20°
- (2)40°
- (3)60°
- (4)120°
- (5)360°
確認問題2|8極・60 Hzで873 min−1の二次周波数
回転子が磁界と同方向に873 min−1で回っています。二次周波数はどれでしょうか。
- (1)0.45 Hz
- (2)1.8 Hz
- (3)14.55 Hz
- (4)58.2 Hz
- (5)60 Hz
確認問題3|同期速度について正しい説明はどれか
平衡三相の基本波で考え、回転子側から別の電源を加えない誘導機とします。
- (1)外力で回しても同期速度を超えることはできない。
- (2)すべりの分母には、回転子の実測速度を使う。
- (3)すべりがゼロなら、固定子の励磁電流も必ずゼロになる。
- (4)同期速度では、基本波による回転子の誘導トルクがゼロになる。
- (5)停止中は回転していないので、すべりもゼロである。
確認問題4|かご形と巻線形の違い
一般的な三相誘導電動機の構造について、正しいものはどれでしょうか。
- (1)かご形も、スリップリングを介して二次抵抗を追加する。
- (2)巻線形のブラシは、整流子に接触して電流を整流する。
- (3)かご形は、インバータを使っても速度を変えられない。
- (4)深溝かご形は、始動時より低すべり時のほうが電流の偏りが強い。
- (5)巻線形は、スリップリングとブラシを介して回転子回路を外へ引き出せる。
9.次に解く問題と、確認先
このページの式は、同期速度 → 速度差 → すべり → 二次周波数の順につながります。計算できたら、「磁界・軸・回転子電流のどれを求めたか」まで説明してみてください。
- 原理と構造ミニテスト第1回:このテーマの基本を5問で確認。
- 同ミニテスト第2回・第3回:二次周波数や構造などの追加演習。
- 誘導電動機の特性と計算・そのミニテスト第1回:すべりを使って、トルク・損失・出力の計算へ。
- 変圧器の等価回路と計算・そのミニテスト第1回:一次・二次や励磁回路を復習。
試験の概要は電気技術者試験センターの第三種電気主任技術者試験、出題の確認には同センターの問題・解答を使えます。この記事の図解・数値例・確認問題は独自に作成した教材で、公式の試験問題ではありません。
2026年10月11日確認・改訂。同期速度での回転を不可能とする表現、定格すべりの一律な範囲、かご形と巻線形の説明を見直しました。本文に示した電気技術者協会の資料で原理を確認し、計算例は記載した式から検算しています。運営者は資格を独学中の個人です。
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