架空送電線路は「電線を空中に張る」だけの技術ではありません。同じ1本の電線が、電気を通し、自分の重さと風雪に耐え、空気だけで絶縁を保ち、落雷を受け流すという4つの役目を同時に果たしています。試験に出てくる数字は、どれもこの4つのどれかの条件から出てきます。
この記事では、たるみを自重だけでなく氷雪と風圧を合成した荷重から求め、実長のわずかな伸びがたるみをどれだけ動かすかを計算し、雷が鉄塔に落ちたときの電位上昇まで数字で追います。どの式も単位を付けたまま、途中の数字を残して進めます。条件はそのつど書き出してあるので、手元の電卓でも同じ答えにたどり着けるはずです。
架空送電線路が同時に満たす4つの条件
鉄塔と鉄塔のあいだに張られた電線を見ると、どれも同じように見えます。しかし設計する側は、次の4つを同時に成り立たせなければなりません。ひとつを良くすると別のひとつが悪くなる関係にあるのが、この分野の面白いところです。
| 役目 | 受け持つもの | ほかとぶつかるところ |
|---|---|---|
| 通す | 電線の材質と断面積 | 抵抗を下げようと太くすると重くなり、支える側の負担が増える |
| 支える | 鉄塔、たるみ、張力 | 張力を上げるとたるみは減るが、電線と鉄塔にかかる力が増える |
| 絶縁する | がいし、空気の離隔距離 | 電線を細くすると表面の電界が上がり、コロナが出やすくなる |
| 雷を逃がす | 架空地線、塔脚接地、アークホーン | 絶縁を強くしすぎると、系統に発生するサージ電圧そのものが大きくなる |
法令の側は、この4つを数値で細かく指定するのではなく、満たすべき状態を書く形をとっています。条文は電気設備に関する技術基準を定める省令(e-Gov法令検索)で読めます。第25条は「架空電線、架空電力保安通信線及び架空電車線は、接触又は誘導作用による感電のおそれがなく、かつ、交通に支障を及ぼすおそれがない高さに施設しなければならない」、第32条が支持物について「その支持物が支持する電線等による引張荷重、十分間平均で風速四十メートル毎秒の風圧荷重及び当該設置場所において通常想定される地理的条件、気象の変化、振動、衝撃その他の外部環境の影響を考慮し、倒壊のおそれがないよう、安全なものでなければならない」と定めています。風速40 m/sという値が出てくるのはここです。ただし同条には、人家が多く連なっている場所ではその2分の1の風圧荷重を考慮すればよいというただし書きも付いています。条件のほうがセットになっている、と読んでください。
もうひとつ、第21条は「低圧又は高圧の架空電線には、感電のおそれがないよう、使用電圧に応じた絶縁性能を有する絶縁電線又はケーブルを使用しなければならない」と定めています。この条文が対象にしているのは低圧と高圧で、特別高圧の架空電線は入っていません。送電線に裸電線が使えるのは、被覆ではなく空気と離隔距離で絶縁しているからです。がいしと離隔がここまで重く扱われる理由も、そこにあります。
電線:なぜアルミなのかを数字で確かめる
「銅のほうが電気をよく通すのに、送電線はアルミ」という説明はよく見ますが、そこで止まるとアルミにすると電線が太くなるという大事な事実が抜け落ちます。導電率と密度から確かめてみます。
硬アルミの導電率は、標準軟銅を100 %とするIACSという基準でおよそ61 %です。密度は、銅がおよそ8.89 g/cm3、アルミがおよそ2.70 g/cm3です。
同じ長さ・同じ抵抗にするための断面積の比
1 ÷ 0.61 = 約1.64倍(アルミのほうが太い)
そのときの質量の比
1.64 × (2.70 ÷ 8.89)= 1.64 × 0.304 = 約0.50倍(アルミのほうが軽い)
そのときの外径の比
√1.64 = 約1.28倍(アルミのほうが太い)
つまり、同じ抵抗にそろえるとアルミは銅の約半分の重さで済み、そのかわり外径が約1.28倍太くなります。軽さは鉄塔と基礎を小さくでき、長い径間を張るのにも効きます。そして太くなることは、あとで出てくるコロナ放電に対してはむしろ有利に働きます。不利に見える「太くなる」が、別の条件では利点に変わる――この分野ではこういう関係が何度も出てきます。
ACSRは役目を2つの材料で分担している
ただしアルミには弱点があります。引張強さが足りず、そのままでは長い径間を張れません。そこで中心に鋼線を入れて強度を持たせ、外側のアルミが電流を運ぶ構造にしたのがACSR(鋼心アルミより線)です。荷重は鋼が、電流はアルミが受け持つ、という分担になっています。
| 電線 | 中身と性格 | 主に使う場所 |
|---|---|---|
| ACSR | 中心が鋼線で強度、外周がアルミ線で導電。軽く、同じ抵抗なら太い | 架空送電線の主力 |
| 硬銅より線 | 導電率は高いが重い。同じ抵抗なら細くできる | 径間の短い区間や配電線 |
| OPGW | 架空地線の中に光ファイバを収めたもの。雷を受ける役と通信の役を兼ねる | 送電線の最上部 |
多導体は「電線を太くする」ことの延長線上にある
超高圧の送電線では、1相を1本の電線ではなく、2本・4本・6本といった束にします。これが多導体方式です。素導体どうしはスペーサで一定の間隔に保たれます。効果は次の3つですが、3つめは良いことばかりではありません。
- 電気的な等価半径が大きくなるので、電線表面の電界が下がり、コロナが出にくくなる。
- インダクタンスが小さくなるので、同じ電圧でも送れる電力が増える。
- 静電容量が大きくなる。送電容量には有利ですが、軽負荷のときは進み電流が増え、受電端の電圧が送電端より高くなるフェランチ効果を起こしやすくなります。この現象と分路リアクトルによる対策は電力系統の保護と安定で扱います。
たるみ(弛度):公式そのものより「Wの中身」が問われる
鉄塔間に張った電線は自分の重さでたるみます。このたるみ量が弛度(ちど)です。両端の支持点の高さが同じで、荷重が水平方向に一様にかかり、たるみが径間に比べて十分小さいとき、電線の形は放物線で近似できて、次の式になります。
弛度の近似式
D = WS2 / (8T) [m]
この式は近似です。電線の本当の形は懸垂線(カテナリー)で、支持点の高さが違う場合や、たるみが径間に対して大きい場合には誤差が出ます。試験では放物線近似で扱ってかまいませんが、「近似である」ことと「支持点が同じ高さ」という前提は覚えておいてください。
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| D | 弛度。径間の中央で、支持点を結んだ直線から電線までの距離 | m |
| W | 電線1 mあたりにかかる合成荷重。自重だけとは限らない | N/m |
| S | 径間。となり合う支持点の水平距離 | m |
| T | 電線の水平張力 | N |
Wは自重・氷雪・風圧を合成した値
試験でつまずきやすいのは、公式の形ではなくWに何を入れるかです。電線にかかる荷重は1種類ではありません。
| 荷重 | 向き | 効いてくる場面 |
|---|---|---|
| 自重 | 鉛直(下向き) | いつでもかかる。基準になる荷重 |
| 氷雪荷重 | 鉛直(下向き) | 着氷雪する地域の冬。自重に足し算する |
| 風圧荷重 | 水平 | 強風時。鉛直の荷重とは直角なので、ベクトルで合成する |
自重と氷雪は同じ鉛直方向なので単純に足せますが、風圧は水平方向です。向きが直角なので、足し算ではなく三平方の定理で合成します。これを忘れて3つを単純に足すと、答えは大きくなりすぎます。
計算例1|氷雪と風がかかったときの弛度
条件:径間 S=200 m、電線の自重 20 N/m、氷雪荷重 8 N/m、風圧荷重 15 N/m、水平張力 T=10,000 N。
鉛直方向:20+8=28 N/m/水平方向:15 N/m
合成荷重は次のようになります。
W = √(282+152) = √(784+225) = √1,009 = 約31.8 N/m
これを弛度の式に入れます。S2/(8T) = 2002/80,000 = 40,000/80,000 = 0.5 なので、
D = 31.8 × 0.5 = 約15.9 m
自重の20 N/mだけで計算すると 20×0.5=10.0 m にしかなりません。条件を読み落とすと1.6倍ずれる、というのがこの計算の要点です。
ただし、この15.9 mは合成荷重の向き(鉛直から風下へ傾いた向き)に測ったたるみです。地面との距離に効くのは鉛直方向の成分なので、そちらは次のようになります。
15.9 × (28 ÷ 31.8) = 約14.0 m
電線の支持点が地上30 mにあるとすれば、径間の中央での電線の高さは 30-14.0=約16.0 mと見積もれます。省令第25条が求める高さを満たすかどうかは、この値と、使用電圧・場所ごとに定められた必要な高さとを比べて判断します。
計算例2|実長がわずかに伸びると、たるみは大きく動く
電線の長さそのものを実長と呼びます。放物線近似では、径間との差が次の式で表せます。
L = S + 8D2/(3S) [m]
ここが温度とたるみの関係を理解する鍵になります。無風で自重だけがかかる状態を考えます。
条件:S=200 m、W=20 N/m、T=10,000 N。
まず弛度は D=20×0.5=10.0 m。実長との差は、
8 × 10.02 / (3 × 200) = 800 / 600 = 約1.33 m (L=201.33 m)
ここで気温が上がり、電線が熱で伸びて実長が0.30 m だけ長くなったとします。L-S は 1.33+0.30=1.63 m です。式を D について解き直すと、
D = √{3S(L-S) / 8} = √(3 × 200 × 1.63 / 8) = √122.5 = 約11.1 m
実長がわずか0.30 m(元の長さの約0.15 %)伸びただけで、たるみは10.0 mから11.1 mへ1.1 mも増えました。実長の変化が、たるみでは何倍にも拡大して現れるのです。夏に電線が下がって見えるのは、このためです。
そして張力も変わります。T=WS2/(8D) で逆算すると、
T = 20 × 40,000 / (8 × 11.1) = 800,000 / 88.8 = 約9,000 N
10,000 Nから約1,000 N下がりました。たるみと張力はシーソーの関係にあります。だから設計では2つの状態を両方確かめます。ひとつは冬の低温に氷雪と風が重なったとき――たるみが最も小さく、張力が最も大きくなるので、電線と鉄塔が耐えられるかを見ます。もうひとつは夏の高温のとき――たるみが最も大きくなるので、地面や交差する物件との距離が足りるかを見ます。「たるみは小さいほうが良い」でも「大きいほうが良い」でもなく、両端で条件を外さないことが設計です。
がいし:絶縁を担うのは沿面距離
電線と鉄塔を電気的に切り離しているのががいしです。ここで効いているのは、単なる隙間の距離(空間距離)だけでなく、がいしの表面をたどった距離=沿面距離です。ひだ(かさ)が何段も付いているのは、限られた全長で沿面距離をかせぐためです。
| 種類 | 形と性格 | 主に使う場所 |
|---|---|---|
| 懸垂がいし | 直径250 mmのものを標準に、必要な数だけ連結して使う。電圧階級に応じて個数を変えられる | 架空送電線の主力 |
| 長幹がいし | 継ぎ目のない棒状。ひだのあいだに汚れがたまりにくい | 汚損の多い区間など |
| ピンがいし | 支持物の上のピンに固定する小型のもの | 配電線 |
懸垂がいしを何個つなぐかは、その線路の電圧階級と、汚損のきびしさで決まります。個数を固定値として覚えるのではなく、「電圧が上がれば増え、塩害地域ではさらに増える」という向きでつかんでください。
電圧の分担は均一ではない
がいし連の各個に加わる電圧は、等分されません。電線に近い側の1個目にいちばん大きく分担されます。がいしと鉄塔・電線とのあいだにできる浮遊静電容量のせいで、電流の流れ方が偏るためです。ここに集中したままだと、その1個だけが早く傷みます。そこで、がいし連の両端に金具(アークホーンやシールドリング)を付けて分担をならし、フラッシオーバが起きてもアークをがいしの表面ではなく金具のあいだで飛ばすようにします。
日本電気技術者協会「送電線の雷異常電圧とその対策」によれば、がいし連の長さとホーン間隔の比(ホーン効率)は、一般の箇所でおよそ0.8にとられます。塩害対策でがいしの個数を増やして連が長くなっても、ホーン間隔のほうは変えないという運用も、同じ資料に示されています。個数を増やした分だけフラッシオーバ電圧まで上がってしまうと、その線路に発生するサージ電圧が大きくなり、変電所側の絶縁まで強くしなければならなくなるからです。
塩害は「ぬれる」と起きる
海沿いでは、風で運ばれた塩分ががいしの表面に付きます。乾いているうちは問題になりませんが、霧や小雨で表面がぬれると塩分が溶けて電気を通し、漏れ電流が流れます。漏れ電流で局所的に乾いた部分ができるとそこに電圧が集中して小さなアークが生じ、それがつながっていくとフラッシオーバに至ります。塩害が「雨で洗い流されて助かる」場合と「霧で悪化する」場合に分かれるのは、ぬれ方の違いです。対策は次のように、沿面距離を増やす方向と、汚れを取る方向に分かれます。
- 過絶縁:がいしの個数を増やして沿面距離をかせぐ。ただしホーン間隔は上で述べたとおり変えない。
- 耐塩がいし:ひだを深くするなどして、同じ全長でも沿面距離を長くしたものを使う。
- 洗浄:停電させて洗う、あるいは絶縁性の高い水を使って充電したまま洗う(活線洗浄)。
- はっ水性材料の塗布:表面に水の膜ができにくくして、漏れ電流の道をつくらせない。
コロナ放電:空気が絶縁をあきらめる電界の強さ
架空送電線は裸電線なので、絶縁は空気に頼っています。日本電気技術者協会「送電線路のコロナ放電現象と障害及び防止対策」によれば、気温20 ℃・気圧1,013.25 hPaの標準状態で、波高値で約30 kV/cm、実効値で約21.1 kV/cmの電位の傾きに達すると空気は絶縁力を失い、電線の表面から放電が始まります。これがコロナ放電です。
| 条件 | コロナへの効き方 | 理由 |
|---|---|---|
| 電線が細い | 起きやすい | 同じ電圧でも表面の電界が強くなる |
| 素線数が多い | 起きやすい | 表面の凹凸が増え、突起に電界が集中する |
| 雨・雪・霧 | 起きやすい | 水滴が突起になる。天候係数が晴天1.0に対し0.8になる |
| 標高が高い | 起きやすい | 気圧が下がって空気の密度が小さくなる |
起きると、電力が失われる(コロナ損)、電圧波形がひずんで奇数次の高調波が出る、電波雑音が出る、といった影響があります。同資料によれば雑音の周波数はおよそ15 kHzから380 MHzに及び、とくにAMラジオ放送帯(0.5〜1.5 MHz)が影響を受けやすく、周波数の高いテレビやFM放送への影響は小さいとされています。省令第42条が「電線路又は電車線路は、無線設備の機能に継続的かつ重大な障害を及ぼす電波を発生するおそれがないように施設しなければならない」と定めているのは、こうした障害を指しています。
対策は、電線表面の電界を下げることに尽きます。外径の大きいACSRを使う、多導体にする、金具の突起をなくして丸みを持たせる。先ほど「アルミにすると太くなる」と書いた性質が、ここでは利点として効いてきます。
架空地線と雷対策:遮蔽角と塔脚接地抵抗
鉄塔の最上部に張られた電線が架空地線です。雷を自分で受け止め、鉄塔を通じて大地へ流すことで、下にある送電線への直撃を防ぎます。ただし「張ってあれば守られる」わけではなく、2つの条件がそろって初めて効きます。
条件1|遮蔽角が小さいこと
架空地線から下ろした鉛直線と、架空地線と電線を結んだ線とがつくる角を遮蔽角といいます。この角が小さいほど、電線は架空地線の「傘の内側」に深く入り、直撃を受けにくくなります。前掲のJEEA「送電線の雷異常電圧とその対策」によれば、一般には架空地線を1条張って遮蔽角を45°程度以下に、高電圧の主要送電線では2条張って15°以下にしています。2条にするのは、鉄塔が高くなるほど遮蔽の効きが落ちるためです。
条件2|塔脚の接地抵抗が低いこと
遮蔽が十分でも、塔脚の接地抵抗が高いと別の経路で事故になります。雷が架空地線や鉄塔に落ちると、雷電流が鉄塔を通って大地へ流れます。このとき接地抵抗が高いと鉄塔の電位が大きく持ち上がり、がいし連の鉄塔側のほうが電線側より高い電位になって、鉄塔から電線へ放電します。これが逆フラッシオーバです。ふつうとは逆向きに絶縁が破れるので、この名前が付いています。
計算例3|塔脚接地抵抗と鉄塔の電位上昇
条件:鉄塔に30 kAの雷電流が流れた。塔脚の接地抵抗は10 Ω。抵抗による電位上昇だけを考える。
30,000 A × 10 Ω = 300 kV
埋設地線を施工して接地抵抗を5 Ωまで下げられたとすると、
30,000 A × 5 Ω = 150 kV
電位上昇は半分になります。この値ががいし連のフラッシオーバ電圧より低ければ、逆フラッシオーバは起きません。接地抵抗を下げる工事が「念のため」ではなく直接の対策である理由が、この比例関係です。
※上の見積もりでは、接地抵抗のぶんだけを取り出しています。現実の鉄塔では、鉄塔自身と接地線がもつインダクタンス、雷電流が立ち上がる速さ、架空地線を伝わってとなりの鉄塔へ分かれていく電流も効くため、電位上昇はこの単純な積とは一致しません。ここでつかんでほしいのは、抵抗を半分にすれば上乗せも半分になるという比例の向きだけです。なお、変電所の保護装置 ミニテスト第1回の第5問では避雷器の公称放電電流2.5 kAで同じ形の計算をしています。直撃雷は kA の桁が一つ違うことに注意してください。
山岳地帯など、もともと大地の抵抗率が高くて接地抵抗を下げにくい場所では埋設地線(カウンターポイズ)を使います。前掲のJEEA資料によれば、鉄塔から線路に平行または放射状に亜鉛めっき鉄線を4本程度、深さ30〜40 cm、こう長40 mほど埋設するもので、雷電流が流れるときには埋設線と大地のあいだに放電が起きるため、常時測った値よりはるかに低い抵抗として働きます。常時の測定値だけを見ていると、この効果を見落とします。
それでもフラッシオーバを完全には防げないので、アークホーンでアークをがいしから引き離し、必要な区間には送電線用避雷器を付けます。接地工事の種別と抵抗値そのものの考え方は電気設備技術基準・接地工事で、変電所側で避雷器をどこに置くかは変電所の保護装置で扱っています。
ねん架と誘導障害:静電誘導は電圧に、電磁誘導は電流に比例する
三相の電線は鉄塔上で三角形などに配置されるので、各相と大地との位置関係は同じになりません。そのままだと相ごとにインダクタンスと静電容量が違ってしまい、平常時でも三相のバランスが崩れて、通信線への誘導障害の原因になります。そこで線路を区間に分け、各相が上・中・下の位置を順に受け持つように入れ替えます。これがねん架です。
日本電気技術者協会「電磁誘導障害と静電誘導障害」によれば、2つの誘導は何に比例するかが違います。この違いが、対策が分かれる理由です。
| 種類 | 何に比例するか | 主な対策 |
|---|---|---|
| 静電誘導 | 送電線の電圧(対地静電容量と相互静電容量を通じて) | 電線の地上高を上げる、遮蔽設備を置く、対象物を接地する |
| 電磁誘導 | 送電線の電流と、通信線と平行する長さ(相互インダクタンスを通じて) | ねん架を完全にする、事故を速く除去する、架空地線で分流させる |
電磁誘導でとくに大きくなるのは、地絡事故で零相電流が流れたときです。平常時は三相の電流が打ち消し合いますが、1線地絡ではその打ち消しが崩れます。事故を速く切ることが誘導障害の対策にもなる、という関係はここから来ています。
静電誘導のほうには、省令に具体的な数値があります。第27条は「特別高圧の架空電線路は、通常の使用状態において、静電誘導作用により人による感知のおそれがないよう、地表上一メートルにおける電界強度が三キロボルト毎メートル以下になるように施設しなければならない」と定めています(田畑や山林など人の往来が少ない場所についてのただし書きが付いています)。電線の地上高を上げることが対策になるのは、この電界強度を下げられるからです。たるみの計算が単なる力学の話で終わらないのは、こういうところでつながっているためです。
理解度チェック
3問用意しました。どれも「公式を思い出せるか」ではなく、条件のどれを式に入れるかを確かめる問題です。電卓を出す前に、与えられた荷重の向きと単位をもう一度見てください。
確認1|氷雪と風がかかったときの弛度
径間250 m、電線の自重15 N/m、氷雪荷重5 N/m、風圧荷重12 N/mの条件で、水平張力を12,500 Nに保って架線しました。このときの弛度に最も近いのはどれですか。
(1)9.4 m
(2)12.0 m
(3)12.5 m
(4)14.6 m
(5)20.0 m
確認2|気温が上がって実長が伸びたときの弛度
径間250 m、自重20 N/mの電線を、水平張力12,500 Nで無風の日に架線しました。その後の高温時に、電線が熱で伸びて実長が0.40 m長くなりました。このときの弛度に最も近いのはどれですか。風はないものとします。
(1)10.9 m
(2)12.5 m
(3)12.9 m
(4)13.9 m
(5)37.1 m
確認3|塔脚接地抵抗と逆フラッシオーバ
送電線の鉄塔に40 kAの雷電流が流れました。この鉄塔の塔脚接地抵抗は15 Ωです。埋設地線を施工して接地抵抗を5 Ωまで下げた場合と比べて、鉄塔の電位上昇はそれぞれいくらになりますか。接地抵抗による電位上昇だけを考えるものとします。
(1)0.6 kV と 0.2 kV
(2)37.5 kV と 12.5 kV
(3)600 kV と 200 kV
(4)600 kV と 600 kV
(5)900 kV と 300 kV
押さえどころと、次に読むところ
- 架空送電線路は「通す・支える・絶縁する・雷を逃がす」の4つを同時に満たす。ひとつを良くすると別のひとつが厳しくなる。
- 同じ抵抗にそろえると、アルミは銅の約半分の重さで外径は約1.28倍。太くなることはコロナに対しては利点になる。
- D=WS2/(8T) は放物線近似。支持点が同じ高さで、たるみが径間に比べて小さいことが前提。
- W は自重・氷雪・風圧の合成。鉛直どうしは足し算、風圧は直角なので三平方の定理で合成する。
- 実長 L=S+8D2/(3S)。実長のわずかな伸びが、たるみでは大きく拡大して現れる。たるみと張力はシーソーの関係。
- がいしで効くのは沿面距離。電圧分担は電線側に偏るので、アークホーンやシールドリングでならす。
- コロナは電線表面の電界で決まる。細い電線・素線数が多い・雨天・高標高で起きやすく、太い電線と多導体が対策。
- 架空地線は遮蔽角(一般に45°程度以下、主要線路では2条で15°以下)と塔脚接地抵抗の2つがそろって効く。抵抗が高いと逆フラッシオーバが起きる。
- 静電誘導は電圧に、電磁誘導は電流と平行長に比例する。省令第27条は地表上1 mで3 kV/m以下と定めている。
手を動かして確かめる
- 架空送電線路 ミニテスト第1回:電線・がいし・たるみ・コロナを5問で通して確認する。
- 同 第2回と同 第3回:多導体・ねん架・実長・塩害など、角度を変えた追加の演習。
- 変電所の保護装置:ひとつ前のテーマ。リレーの整定と避雷器の置き場所へ戻る。
- 地中送電線路:次のテーマ。ケーブルにすると、たるみも風圧も雷も消えるかわりに何が問題になるか。
- 送電の電気的計算:電圧降下率と送電損失を、線路定数から求める。
- 電力系統の保護と安定:フェランチ効果と中性点接地方式、系統の安定度へ広げる。
- 電気設備技術基準・接地工事:塔脚接地の話とつながる、接地工事の種別と抵抗値の決まり方。
- 電気技術者試験センターが公開している第三種の問題と解答:過去の本試験で、たるみとがいしがどんな聞かれ方をしたかを原文で読む。
- 電験三種とは?日程・科目合格・合格率:試験日程と、科目合格を4科目の計画へどう組み込むか。
- ビルメン資格の学習ロードマップ:電気設備の仕事に就くまでに、どの資格をどの順で取るか。
出典と条文の確認日は2026年9月9日。この記事に出てくる径間・荷重・張力・接地抵抗・雷電流は、計算の道すじを見せるために置いた想定値で、実在の線路の設計値ではありません。導電率と密度は代表値なので、合金の種類や温度で変わります。遮蔽角の目安、ホーン効率、埋設地線の寸法は引用元が示す一般的な値で、実際の設計は電圧階級・地形・気象条件・電力会社の規程で決まります。問題を解くときは、そこに書かれた条件だけを使ってください。
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