誘導電動機の始動では、電流を抑えながら、負荷を回し始める力を確保します。減電圧で電流が小さくなっても、トルクまで不足すれば加速できません。始動法は両方を比べて選びます。
このページでは始動時の比率、運転速度の変え方、減速時のエネルギーの行き先を順に整理します。電流は「どこを流れる電流か」、速度は「磁界と軸のどちらか」を確認するのが計算の出発点です。
すべりやトルクの基礎は誘導電動機の特性と計算、追加演習は始動法と速度制御ミニテスト第1回で学べます。以下の数値例・問題は学習用の独自設定です。
1.始動電流と、加速に必要なトルク
停止中の回転子では、すべり s は1です。二次回路が短絡された誘導電動機は、停止時に全電圧を加えると大きな電流が流れます。線形等価回路で考えると、電流を制限するのは巻線抵抗や漏れリアクタンスです。漏れリアクタンスとは、電力変換に直接寄与しない磁束による交流への妨げです。
始動電流を定格電流の「5〜8倍」と説明する資料もありますが、実際の倍率は機種・電圧・電源条件で異なります。銘板やメーカー資料で確認する値です。容量だけを見て「5.5 kW以下なら直入れでよい」とは決められません。
例えばビルの送風機を始動するときは、電源の電圧低下に加え、羽根を加速する時間と巻線の発熱も関係します。加速中は、電動機のトルクが負荷トルクを上回る必要があります。慣性が大きい機械は、同じトルク差でも速度が上がるまでに時間がかかります。
直入れ(全電圧)始動とは、電源へ直接つないで始動する方式です。その始動トルクを、速度範囲全体での「最大トルク」と同じものとして扱わないようにしましょう。
2.始動法を同じ基準で比べる
以下は同じ電動機・結線・周波数の停止時を、全電圧始動と比較した近似です。Y-Δだけは同じ巻線をΔで直入れした場合と比べます。磁気飽和などによる巻線インピーダンスの変化、投入直後の過渡現象は無視します。
I0 [A] を全電圧始動の電源側線電流、T0 [N·m] をその始動トルクとします。減電圧の比 k は「電動機端子の線間電圧/電源の線間電圧」で、0<k<1 です。
| 始動法 | 電源側線電流 | 始動トルク |
|---|---|---|
| 直入れ | I0 | T0 |
| Y-ΔのY始動 | I0/3 | T0/3 |
| 始動補償器 | k2I0 | k2T0 |
| リアクトル | kI0 | k2T0 |
補償器では電動機側の線電流は kI0です。表の k2I0 は電源側の値なので、混ぜて使わないでください。比率の理由は次の2節で説明します。
インバータは電圧と周波数を制御して加速します。周波数も変わるため、この表の固定周波数での電圧比だけでは計算できません。電流・トルクは制御方式、負荷、設定、機器の許容値に左右されます。
比較の原理と選定時の注意点は、日本電気技術者協会「誘導電動機の各種始動法の特徴」で確認できます。
3.Y-Δ始動|相電流と線電流を分ける
Y(スター)は三つの巻線の端を一点にまとめ、Δ(デルタ)は三つの巻線を環状につなぐ結線です。Y-Δ始動には、その電源電圧でΔ運転でき、巻線の端子を切り替えられる電動機が必要です。どの三相電動機でも使えるわけではありません。
線電流は電源の電線を流れる電流、相電流は各相の巻線を流れる電流です。電源線間電圧を V [V]、停止時の1相の巻線インピーダンスの大きさを Z [Ω] とすると、次の関係になります。
| 比較する量 | Δ直入れ | Y始動 |
|---|---|---|
| 巻線の相電圧 | V | V/√3 |
| 巻線の相電流 | V/Z | V/(√3Z) |
| 電源側の線電流 | √3V/Z | V/(√3Z) |
したがって、Y/Δの比は相電流が1/√3、線電流が1/3です。トルクは同じ周波数・すべり・回路定数では相電圧の2乗に比例するので、(1/√3)2=1/3 になります。
Yで十分に加速した後、Δへ切り替えます。切替後の電流とトルクは、その時点の速度と負荷で決まります。Δになった瞬間に定格電流・定格トルクへ落ち着くわけではありません。一般的な開路切替では一時的に電源から離れ、再接続時に電流やトルクの変動が起こることがあります。切替方式・時間も確認が必要です。
練習例1|Δ直入れ300 Aなら、Y始動は?
定格出力15 kWの電動機で、Δ直入れ時の始動線電流を300 Aとします。同じ線間電圧・周波数・停止時の巻線インピーダンスで、Y始動の線電流を求めましょう。
4.補償器とリアクトル|同じ電圧でも電源電流が違う
始動補償器は、単巻変圧器で電圧を下げる
単巻変圧器は、入力側と出力側で巻線の一部を共用する変圧器です。始動時に低い電圧を取り出し、加速後に全電圧へ切り替えます。励磁電流と損失を無視すると、電動機側の線電流は電圧に比例して kI0。理想変圧器の入出力関係から、電源側はさらに k 倍になります。
電動機側:kI0
電源側:k×kI0=k2I0
始動トルク:k2T0
コンドルファ方式は、全電圧へ移る途中に巻線をリアクトルとして使う段階を設け、回路を開かずに移行する補償器始動の方式です。切替時の大きな突入電流を抑える工夫であり、「始動補償器」という名称すべてがコンドルファ方式を指すわけではありません。
リアクトルでは、電源と電動機に同じ線電流が流れる
リアクトルはコイルによる交流の妨げを利用する機器です。電動機と直列につないで端子電圧を下げます。電源側の電流も電動機側の電流も kI0、トルクは k2T0 です。
ここでの k は始動時に実際に得られる端子電圧の比です。「タップ比」とだけ覚えると、変圧器と取り違えます。また、加速すると電動機のインピーダンスが変わるので、リアクトルによる電圧比が始動から最後まで一定とは限りません。
比較例|端子電圧65%で、どれだけ電流が流れる?
全電圧始動で線電流420 A、トルク250 N·mとなる架空の電動機を考えます。第2節の条件で端子電圧を65%にしたとき、補償器とリアクトルの電流・トルクを比べます。
5.巻線形の二次抵抗始動と比例推移
巻線形は、回転子の巻線をスリップリングという接点を介して外へ取り出せます。その二次回路に外部抵抗を入れ、加速に合わせて抵抗を減らすのが二次抵抗始動です。通常のかご形には、この接続口がありません。
線形等価回路で電圧・周波数と他の回路定数を固定すると、二次の合成抵抗を m 倍にした場合、同じトルクになるすべりも m 倍へ移ります。これが比例推移です。抵抗を固定したままの「小すべりではトルクがすべりにほぼ比例する」という近似とは別です。
最大トルクとなるすべりを sm とすると、例えば0.25から抵抗を2倍にして0.50、4倍で1.00へ移せます。山が始動点 s=1 に近づく範囲では、始動電流を抑えながら始動トルクを増やせます。
抵抗を大きくすれば、いつまでも始動トルクが増えるわけではありません。さらに抵抗を増やして山が sm>1 に移ると、停止時のトルクは低下します。理想化した特性曲線の山の高さが不変でも、その山が通常の電動運転範囲 0<s<1 にあるかは別の問題です。
抵抗を残したまま速度を落とすと、二次側では回転子抵抗と外部抵抗に発熱が生じます。一定トルクで同じ安定側の動作点を比較するなら、抵抗を増やしてすべりが増すほど損失が増えます。始動だけに使う抵抗と、連続的な速度制御に使う抵抗では、熱の条件も異なります。
原理は日本電気技術者協会「始動方法、速度特性、制動方法」、比例推移の式は特性と計算の解説で確認できます。
6.速度を決めるのは、周波数・極数・すべり
Ns=120f/p
N=Ns(1−s)
f は電動機に加える周波数 [Hz]、p は極数、Ns は回転磁界の同期速度、N は軸の回転速度です。速度の単位は min−1(r/min)。すべり s は比率で、5%なら0.05を代入します。
| 変える量 | 方法と適用条件 |
|---|---|
| 周波数 f | インバータなどで供給周波数を変える。かご形だけでなく巻線形にも原理上適用できる。実際の組合せは対応仕様による。 |
| 極数 p | 極数切替用の巻線・結線を持つ機器で切り替える。速度は段階的に変わる。 |
| すべり s | 巻線形の二次抵抗制御や二次励磁制御。電動機と負荷のトルクが釣り合う速度が変わる。 |
二次励磁制御は、二次回路へすべり周波数の電圧を加え、電力のやり取りも制御する方式です。静止セルビウス方式のように二次側から電力を回収する構成もあります。二次のエネルギーをすべて抵抗で消費する制御とは区別します。
練習例2|4極・40 Hz・すべり0.05の回転速度
インバータで4極の電動機へ40 Hzを供給します。すべりが0.05のとき、軸は毎分何回転でしょうか。
7.V/f制御は、磁束を保つための電圧調整
一般的な電圧形インバータ装置では、入力交流をコンバータで直流にし、直流回路を経てインバータ部で交流へ変換します。出力電圧 V と周波数 f の比をおおむね一定にするのがV/f制御です。
同じ巻線では、誘導起電力は周波数と磁束に比例します。巻線内の電圧降下が小さいとき、端子電圧を誘導起電力に近いとみなせるため、V/f一定で磁束もほぼ一定になります。周波数だけを下げて電圧を据え置くと、過大な磁束や磁気飽和を招きます。
| 周波数の範囲 | V/f一定を使うときの注意 |
|---|---|
| 低周波数域 | 巻線抵抗による電圧降下の割合が大きくなる。電圧補償(トルクブースト)などが必要になる。 |
| 基底周波数まで | 電圧降下を小さいとみなせる範囲で、電圧を周波数に比例させる。許容トルクは冷却・電流制限なども考慮する。 |
| 電圧上限より上 | 基底周波数を超えて電圧が上限に達すると、周波数と同じ割合では上げられない。磁束が弱まり、出せるトルクは低下する。 |
例えば基底60 Hzで230 V、出力電圧の上限も230 Vとする学習モデルなら、45 Hzでは 230×45/60=172.5 V。75 Hzで同じ比を保つには287.5 Vが必要ですが、上限が230 Vなのでそのままでは維持できません。
V/f一定は、電流・力率・すべりがすべて一定になるという意味ではありません。負荷変化への応答などを重視する制御には、磁束とトルクに関わる電流成分を扱うベクトル制御もあります。
低速域の補償は富士電機のV/f制御FAQ、高速域は三菱電機の基底周波数以上の運転FAQ、制御方式の違いは日本電気技術者協会「誘導電動機の可変速制御」を参照してください。
ビルのファンで省エネになる理由と限界
必要な風量が少ないとき、一定速で回してダンパを絞る代わりに、ファンの速度自体を下げる使い方があります。相似則が成立する遠心ファンなどで、効率や系統条件の変化を小さいとみなすと、軸動力は回転速度の3乗におおむね比例します。
例えば速度90%なら、軸動力の比は 0.93=0.729、約73%です。ただし、これは設備全体の消費電力が必ず27%減るという計算ではありません。電動機・インバータの損失、必要な圧力、ポンプの実揚程、運転点の変化などが影響します。搬送機などの一定トルク負荷へ、3乗則をそのまま使うこともできません。
実設備での比較は日本電気技術者協会「ポンプ・ファンの回転数制御による省エネの実際」で確認できます。
8.制動法|減速したエネルギーはどこへ行く?
制動(せいどう)は、回転に逆らうトルクで減速させることです。「止める力」と「止まった後に保持する力」は区別します。
| 方式 | 仕組みと注意点 |
|---|---|
| 回生制動 | 電動機を発電状態にして、機械から電気へエネルギーを戻す。商用電源まで返すには、その経路が必要。 |
| 抵抗で消費する制動 | インバータの直流回路へ戻ったエネルギーを、制動抵抗器などで熱にする。電源への返送とは異なる。 |
| 直流制動 | 交流駆動をやめ、固定子へ直流を流して静止磁界を作る。回転子の運動エネルギーを主に回転子側の熱にする。 |
| 逆相制動 | 三相電源の相順を反転し、回転中の軸に逆向きのトルクを与える。電流と発熱が大きく、停止目的なら逆転を防ぐ処置が必要。 |
同じ正方向の回転磁界に対して軸が同期速度を超えると、s=(Ns−N)/Ns<0 となり、誘導機は発電側で働きます。インバータによる減速では、周波数を下げ、磁界の速度をまだ回っている軸より遅くすることで、この状態を作れます。
電動機からインバータへ戻ることと、商用電源へ返せることは別です。入力部が通常のダイオード整流器だけなら、直流側から電源へ電力を返すことはできません。電源回生に対応したコンバータや回生ユニットなどが必要です。対応する制動抵抗器で熱にする構成もあり、処理能力を超える回生は直流回路の過電圧につながります。
直流制動は、直流で作る止まった磁界と、動いている回転子との相対運動を利用します。回転が止まるとこの作用による制動トルクはなくなるため、機械ブレーキのような停止位置の保持を保証しません。「発電制動」という広い名称だけで、抵抗で消費する方式と直流制動を一律に同じ回路と考えないことが大切です。
逆相制動は、三相のうち2線を入れ替えると回転磁界が反転する原理です。同じ周波数のまま相順を反転した直後のすべりは、旧相順でのすべりを s として 2−s。停止を越えて通電すれば逆転へ移るため、単純に「急停止できる」とだけ覚えないようにしましょう。
直流制動の用途と保持の制約は富士電機の直流制動FAQ、抵抗消費と電源回生の機器の違いは富士電機の制動オプション案内で確認できます。
9.理解度チェック|条件を読んで答える4問
確認問題1|Y始動の「巻線」と「電源」
第2節の比較条件で、Y始動時の相電流と線電流を、それぞれΔ直入れ時の同じ種類の電流で割ります。正しい組合せはどれでしょうか。
- (1)相電流1/3、線電流1/3
- (2)相電流1/√3、線電流1/3
- (3)相電流1/3、線電流1/√3
- (4)相電流1/√3、線電流1/√3
- (5)相電流√3、線電流3
確認問題2|6極・45 Hz・すべり3%
6極の電動機を45 Hzで運転し、すべりは3%です。軸の回転速度 [min−1] を選んでください。
- (1)27
- (2)450
- (3)873
- (4)900
- (5)927
確認問題3|最大トルクの山を始動点へ移す
線形等価回路で、電圧・周波数と二次抵抗以外の定数を固定します。最初の最大トルクすべりは0.25です。二次の合成抵抗を何倍にすると、山が s=1 に移るでしょうか。
- (1)0.25倍
- (2)2倍
- (3)3倍
- (4)4倍
- (5)8倍
確認問題4|減速時の電力を電源へ返すには?
誘導電動機をインバータで減速させ、電動機から直流回路へ電力が戻っています。商用電源への返送について正しい説明はどれでしょうか。
- (1)インバータ駆動なら、入力回路に関係なく返送できる。
- (2)制動抵抗器で熱に変えると、その分を電源へ返送できる。
- (3)電源へ電力を戻せる回生回路と、対応する機器構成が必要である。
- (4)固定子へ直流を流せば、電源への返送と停止位置の保持が必ずできる。
- (5)相順を反転する逆相制動は、電源へ返送するための方式である。
10.復習する順番と、次の演習
まず始動の比較条件をそろえ、相電流と線電流を区別します。次に同期速度からすべり分を引いて軸の速度を出し、減速ではエネルギーの行き先をたどりましょう。V/f一定や比例推移にも、それぞれの適用条件があります。
- 始動法と速度制御ミニテスト第1回:このテーマの演習へ進む。
- 同ミニテスト第2回・第3回:追加問題で確認する。
- 前テーマ:誘導電動機の特性と計算・そのミニテスト第1回:電力の流れと比例推移を復習する。
- 次テーマ:同期機の原理と特性・そのミニテスト第1回:同期機との違いを学ぶ。
試験範囲は電気技術者試験センターの第三種試験概要、公表問題は同センターの問題・解答で確認できます。本文の表・数値例・確認問題は独自に作成したもので、公式問題の転載ではありません。
2026年10月15日確認・改訂。始動時の比較条件、速度制御の適用範囲、制動時の電力の行き先を見直しました。本文の一次資料で原理を確認し、数値は式から検算しています。運営者は資格を独学中の個人です。
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