磁気の式は、公式の数だけ見ると多く感じます。けれども落とし穴は数ではなく、「いま目の前の問題で、その式を使ってよいのか」を確かめないまま当てはめてしまうところにあります。直線電流なら分母に 2πr、円形コイルなら 2r。鉄心を入れると B が μr 倍。どれも正しい式ですが、導体が十分に長いか、中心を見ているか、鉄心が飽和していないかという前提が付いています。
この記事では、3つの磁界の式を別々に暗記せずに、アンペアの周回路の法則という1つの考え方から出します。そのうえで、コンデンサで扱った「材料を含む量と含まない量の分け方」が磁気でどう対応するかを確かめ、F=BIl sinθ がローレンツ力から組み立てられること、エアギャップ1 mmが磁気回路の性質をほとんど決めてしまうことまでを、単位と計算の途中を省かずに追います。
磁気は「磁石の性質」ではなく「電流のまわりの場」として扱う
磁石の力も、電流の力も、もとは同じ
磁石を2つ近づけると引き合ったり反発したりします。電線に電流を流しても、そのまわりに置いた方位磁針が振れます。この2つは別々の現象に見えますが、電験三種で扱う範囲では、どちらも「磁界という場が、そこに置かれたものに力を及ぼす」という1つの筋書きで説明できます。
そこで計算の進め方も、いつも同じ2段構えになります。まず「何が磁界をつくっているか」を見て磁界の大きさと向きを出す。次に「その磁界の中に何が置かれているか」を見て、受ける力や通る磁束を出す。式を選ぶ前にこの2段を分けておくと、直線電流の式とソレノイドの式を取り違えるような迷い方をしません。
使う量は4つだけ。先に単位で区別しておく
磁気の計算でつまずく原因の多くは、H・B・Φ の3つを同じ「磁界の強さ」としてひとまとめに覚えてしまうことです。単位が全部違うので、答えの単位を見れば、どれを聞かれているかは必ず判別できます。
| 量と単位 | 何で決まるか |
|---|---|
| 磁界の強さ H 単位:A/m |
電流の大きさと、導体やコイルの形・寸法だけ。まわりの材料には関係しない |
| 磁束密度 B 単位:T |
H に、その場所の材料の透磁率を掛けたもの。力や起電力はこちらで決まる |
| 磁束 Φ 単位:Wb |
B に、それが通り抜ける面積を掛けたもの。面の傾きが効く |
| 透磁率 μ0μr 単位:H/m |
材料の性質。真空(空気もほぼ同じ)が μ0、比透磁率 μr は真空の何倍かを表す |
答え合わせのときに単位を見る。「A/m と答えるべきところに T が出てきた」なら、μ0 を余計に掛けています。逆に「T のはずが A/m になった」なら、透磁率を掛け忘れています。数値が合っているかどうかより、この確認のほうが速く誤りを見つけられます。
磁界 H と磁束密度 B|「配置で決まる量」と「力が出る量」
B は、導体が受ける力そのものから決められる
磁束密度という名前は、いかにも「磁束の密度」に見えます。実際そのとおりなのですが、試験の計算で B を使う場面は、ほとんどが「力」か「起電力」の側です。そこで、力のほうから読み直しておくと扱いやすくなります。
一様な磁界の中に、磁界と直角に長さ l の導体を置き、電流 I を流したときに導体が受ける力を F とすると、B は次のように決まります。
磁束密度の、力による読み方
B=F/(Il) → 1 T=1 N/(A・m)
つまり1 T とは、1 Aの電流が流れる長さ 1 mの導体が、1 Nの力を受けるような磁界の強さです。0.5 T と言われたら、「1 Aを 1 m流して 0.5 Nか」と読み替えられます。数値の大きさの感覚がつかめると、計算結果が桁違いになったときに自分で気づけます。
H は電流と形だけで決まり、材料を含まない
これに対して磁界の強さ H は、電流の大きさと、導体やコイルの形・寸法だけで決まります。同じコイルに同じ電流を流すかぎり、中が空気でも鉄でも H は変わりません。変わるのは B のほうです。
H と B の関係
B=μ0μrH [真空・空気では μr≒1]
この「材料を含まない量」と「材料を含む量」の分け方は、静電気とクーロンの法則で出てきた電界 E と電束密度 D の関係と、役割が入れ替わった形で対応しています。電気では材料を含まないほうが D でしたが、磁気では材料を含まないほうが H です。名前の似ている量どうしを対応させると逆になるので、「材料を含むか含まないか」で覚えるほうが安全です。
単位は、定義の式からそのまま出てくる
磁気の単位は覚えにくいと言われますが、定義の式を書けばその場で導けます。暗記する量を減らせるので、一度は自分で確かめておく価値があります。
| 単位 | 出どころ | 言い換え |
|---|---|---|
| T(テスラ) | B=F/(Il) | N/(A・m)=Wb/m2 |
| Wb(ウェーバ) | Φ=BS | T・m2=V・s |
| A/m | H=NI/l | 起磁力を長さで割った形 |
| H/m | μ0=B/H | N/A2 |
Wb=V・s という言い換えは、あとで 電磁誘導とインダクタンス を読むときに効いてきます。磁束が 1 s あたり 1 Wb 変われば 1 V の起電力が出る、という関係が単位の中にそのまま入っているからです。
μ0 は2019年から「定義値」ではなくなった
真空の透磁率として覚えるのは 4π×10−7 H/m です。ただしこの値が「ぴったりそう決まっている値」だったのは2019年までで、いまは測定で決まる量になっています。2019年のSI基本単位の改定でアンペアの定義が電気素量に基づく形へ変わったため、μ0 は実験で求める値になりました。
アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が示す CODATA 2022 推奨値は 1.256 637 061 27(20)×10−6 N/A2 です。4π×10−7=1.256 637 061 4×10−6 なので、差は相対で 10−10 程度しかありません。したがって試験の計算では 4π×10−7 H/m を使って差し支えありませんし、実際に問題文でもその値が与えられます。
計算上の使いどころ。μ0/(2π)=2×10−7 という形を覚えておくと、直線電流や平行導体の計算で π が消えて暗算しやすくなります。この記事の計算例でも、この形を使います。
電気の量との対応は、どこまで成り立つか
磁気は電気と似た形の式が並ぶので、対応表で覚えると効率的です。ただし対応が成り立たないところが3つあり、そこがそのまま出題されます。対応表は、崩れる場所とセットで持っておきます。
| 電気 | 磁気 | 対応の状態 |
|---|---|---|
| 電界 E(材料を含む) | 磁界 H(材料を含まない) | 式の形は似るが役割は逆 |
| 電束密度 D(材料を含まない) | 磁束密度 B(材料を含む) | 同上。力が出るのは B |
| 誘電率 ε0εr | 透磁率 μ0μr | 対応する。ただし μr は一定ではない |
| 電荷 Q は単独で存在する | 磁荷 m は単独で取り出せない | 崩れる。磁束は必ず閉じる |
| 同符号の電荷は反発 | 同じ向きの電流は引き合う | 崩れる。別々に判定する |
| 絶縁物は導体の桁違いに大きい抵抗 | 空気の磁気抵抗は鉄心の数千倍程度 | 崩れる。磁束は漏れる |
磁荷とクーロンの法則|N極だけを取り出せない、という前提
磁石を割っても、N極だけは残らない
棒磁石を真ん中で切ると、切り口に新しいS極とN極が現れ、どちらのかけらも両極を持つ磁石になります。どれだけ細かく割っても同じで、N極だけ、S極だけを取り出すことはできません。電気では正電荷だけを帯びた物体を作れるのと、ここが決定的に違います。
この性質は、計算のうえでは「磁束は必ず閉じた輪になり、どこかで湧き出したり消えたりしない」という形で効いてきます。閉じた面を考えると、入る磁束と出る磁束が必ず等しくなります。磁気回路で分岐点の磁束の和を0とおけるのも、変圧器の鉄心で磁束が輪を描いて戻ってくるのも、もとはこの性質です。
それでも磁荷のモデルを使う場面がある
単独では存在しないのに、電験三種では磁極の強さ(磁荷)m [Wb] を使った計算が出てきます。棒磁石の両端のように、N極とS極が十分に離れていれば、それぞれを独立した「点の磁荷」とみなす近似が使えるからです。このとき、2つの磁極のあいだに働く力は電荷のときと同じ形で書けます。
磁気に関するクーロンの法則
F=m1m2/(4πμ0μrr2) [N]
電気のクーロンの法則で ε0 が入っていた位置に μ0 が入り、電荷 Q が磁荷 m に変わっただけです。この式から、磁界の定義も同じ道筋で書けます。ある点に m [Wb] の磁荷を置いたときに受ける力を F とすると、H=F/m です。単位も N/Wb=A/m と一致します(Wb=V・s=J/A なので、N/Wb=N・A/J=N・A/(N・m)=A/m)。
どちらのモデルで解いているかを意識する。磁荷を使う問題は「磁極の強さ m [Wb]」「2つの磁極が r [m] 離れて」という言葉で始まります。電流が出てくる問題では磁荷は登場しません。問題文に磁荷があるかどうかで、使う式の系統が決まります。
電流がつくる磁界|3つの式は別々に覚えなくていい
もとになるのは「囲んだ電流の合計」だけ
直線電流・円形コイル・ソレノイドの3つの式は、まったく別の公式のように並べられることが多いのですが、もとは1つです。アンペアの周回路の法則といい、次の1行で表せます。
アンペアの周回路の法則
(閉じた経路に沿った H の合計)=(その経路が囲んだ電流の合計)
言葉にすると、「ぐるっと一周まわる道を決めて、その道の上の磁界を足し合わせると、道が囲んでいる電流の合計になる」ということです。磁界の大きさが道の上でどこでも同じになるように道を選べれば、合計は「H×道の長さ」で済むので、割り算1回で H が出ます。3つの式の違いは、どんな道を選んだかの違いにすぎません。
直線電流|H=I/(2πr) が出る2行
十分に長い直線導体では、導体を中心とする半径 r の円の上ならどこでも磁界の大きさが同じで、向きは円に沿っています。そこでこの円を道に選びます。
H×2πr=I
H=I/(2πr) [A/m]
分母の 2πr は円周の長さそのものです。「π が付く」と丸暗記するより、「円周で割っている」と覚えるほうが間違えません。この式が使える前提は2つあります。導体が十分に長いこと(端の影響が無視できる)と、r が導体の外側であることです。
導体の内部では、中心に近いほど磁界が弱い
半径 a の導体の内部に半径 r の円を描くと、その円が囲んでいるのは電流の全部ではなく、面積の比だけの分です。電流が断面に一様に流れているなら、囲んだ電流は I×(r/a)2 になります。
導体の内部(r≦a、電流が一様)
H=Ir/(2πa2)
中心(r=0)で0、表面(r=a)で外側の式と同じ値になり、内側では距離に比例して増え、外側では距離に反比例して減ります。グラフに描くと表面が山の頂上です。「導体の中だから磁界はない」と考えてしまう誤りが定番なので、囲んだ電流を数え直す習慣をつけておきます。
円形コイルの中心|ここだけ π が消える理由
円形コイルの中心の磁界は H=NI/(2r) で、分母に π がありません。ここは周回路の法則では出せず、ビオ・サバールの法則という、電流を細かく刻んで足し合わせる考え方から出ます。
導線の微小な長さ Δl が、距離 r 離れた点につくる磁界は ΔH=IΔl/(4πr2)(電流と向きが直角のとき)です。円形コイルの中心ではどの部分から見ても距離が r で一定、向きもすべて直角なので、Δl をそのまま円周1周分だけ足せます。
H=I×(2πr)/(4πr2)
=I/(2r) → N 回巻きなら H=NI/(2r)
足し算で出てきた円周の 2π が、分母の 4π と約分されて消える。これが円形コイルだけ π が付かない理由です。なお、この式が表すのは中心の1点だけの値で、コイルの軸上でも中心を離れれば値は小さくなります。
ソレノイド内部|「十分に長い」が効いている
細長いコイル(ソレノイド)の内部は磁界がほぼ一様で、外部はほぼ0とみなせます。そこで、内部を通って外部を戻る長方形の道を選ぶと、合計に寄与するのは内部の辺だけになります。
H×l=NI(長さ l の区間が N 回の巻線を囲む)
H=NI/l [A/m]
ここで l はコイルの長さであって、導線の長さではありません。また N/l は「1 mあたりの巻数」なので、1 mあたり何回巻きという形で与えられたら、そのまま I を掛けるだけで H が出ます。この式は「十分に長い」ことを使っているので、端の近くでは成り立ちません(端では内部の値のおよそ半分になります)。
| 形状と式 | 成り立つ条件 |
|---|---|
| 直線電流 H=I/(2πr) |
十分に長い導体の外側。r は導体の中心からの距離 |
| 導体の内部 H=Ir/(2πa2) |
断面に電流が一様に流れている |
| 円形コイル H=NI/(2r) |
中心の1点のみ。r はコイルの半径 |
| ソレノイド H=NI/l |
十分に長いコイルの内部。l はコイルの長さ |
r の意味が式ごとに違う。直線電流の r は「導体から測った距離」、円形コイルの r は「コイルそのものの半径」です。同じ記号でも指すものが違うので、問題文の寸法がどちらなのかを先に確かめます。
向きは右ねじで決める
大きさが出たら、向きは別の手順で決めます。右手の親指を電流の向きに合わせると、残りの指が握る向きが磁界の向きです(右ねじの法則)。ねじを締める向きに回すとねじが進む、その進む向きが電流だと考えても同じことです。
コイルの場合は逆に使います。右手の4本の指を電流の流れる向きに沿ってコイルを握ると、親指の向きが内部の磁界の向き(コイルのN極側)になります。ソレノイドや電磁石の極性はこれで判断します。
計算例1|幹線の近くの磁束密度を出して、省令の 200 µT と比べる
設定。空気中に十分に長い1本の導体があり、100 Aの電流が流れています。導体の中心から 0.30 m離れた点の磁界の強さ H と磁束密度 B を求めます。μ0=4π×10−7 H/m とします。
磁界の強さ。導体の外側なので H=I/(2πr) を使います。
H=100/(2π×0.30)=100/1.885=53.1 A/m
磁束密度。空気なので μr≒1 として μ0 を掛けます。μ0/(2π)=2×10−7 を使うと、π を計算せずに済みます。
B=2×10−7×100/0.30=6.67×10−5 T=66.7 µT
検算。さきに出した 53.1 A/m に 4π×10−7 を掛けても 6.67×10−5 T になり、一致します。
実際の幹線は、行きと帰りの2本が組になっています。向きが逆の電流は、まわりにつくる磁界も逆向きなので、離れた場所ではほとんど打ち消し合います。上の条件で、2本の間隔を 20 mmとして同じ 0.30 mの点を見ると、磁束密度はおよそ 4.4 µT、1本だけの場合の約15分の1まで下がります。距離に反比例して減っていた磁界が、対になると距離の2乗に反比例する形に変わるためです。
省令が定めている数値と、その適用範囲
磁束密度の大きさを比べる相手として、電気設備に関する技術基準を定める省令(電技省令)の第27条の2があります。e-Gov法令検索で条文を確認すると、第1項は次のように定めています。
「変圧器、開閉器その他これらに類するもの又は電線路を発電所、蓄電所、変電所、開閉所及び需要場所以外の場所に施設するに当たっては、通常の使用状態において、当該電気機械器具等からの電磁誘導作用により人の健康に影響を及ぼすおそれがないよう、当該電気機械器具等のそれぞれの付近において、人によって占められる空間に相当する空間の磁束密度の平均値が、商用周波数において二百マイクロテスラ以下になるように施設しなければならない。」
(電気設備に関する技術基準を定める省令 第27条の2第1項。第2項は変電所・開閉所について同じ値を定めています)
ここで読み落としてはいけないのが適用範囲です。第1項は「発電所、蓄電所、変電所、開閉所及び需要場所以外の場所」に施設する場合の規定で、第2項は変電所・開閉所についての規定です。ビルの中の配線がこの数値で規制されているわけではありません。上で求めた 66.7 µT という値は、「この規制値と比べるとこのくらいの桁だ」という大きさの目安として並べているだけで、適合・不適合を判定した数字ではありません。
条文の値を覚えるときは、数値と一緒に「どこに施設する場合か」まで読むのが、法規科目にも共通する読み方です。電技省令の条文は電気設備技術基準・総則と電路の絶縁でも扱います。
電磁力|F=BIl sinθ の θ と、ローレンツ力との関係
力の向きは、電流にも磁界にも直角
磁界の中に置かれた導体に電流を流すと、導体は力を受けます。この力の特徴は、電流の向きでも磁界の向きでもなく、その両方に直角な向きに働くことです。モーターが回るのも、電磁接触器が吸い付くのも、もとはこの力です。
磁界中の導体に働く力(電磁力)
F=BIl sinθ [N]
l は磁界の中にある部分の導体の長さです。磁界からはみ出している部分は力を受けないので、長さを全部入れてよいとはかぎりません。θ は電流の向きと磁界の向きがなす角で、面と磁界の角ではありません。
フレミングの左手の法則
向きは左手で決めます。親指・人差し指・中指を互いに直角に開き、人差し指を磁界(B)、中指を電流(I)に合わせると、親指が力(F)の向きを示します。
| 指 | 意味 | 覚え方 |
|---|---|---|
| 親指 | 力 F | 太い指が「ちから」 |
| 人差し指 | 磁界 B | 2番目の指が「じかい」 |
| 中指 | 電流 I | 3番目の指が「でんりゅう」 |
左手と右手を取り違えないために。左手は「電流を流して力を得る」側、つまりモーターの向きを決めるときに使います。「磁界の中で導体を動かして起電力を得る」側は右手(フレミングの右手の法則)で、発電機の向きを決めるときに使います。こちらは電磁誘導とインダクタンスで扱います。力がほしいのか、起電力がほしいのかで手を選ぶと覚えると取り違えません。
ローレンツ力から F=BIl を組み立てる
F=BIl は、ときどき「ローレンツ力の式」と呼ばれますが、正確にはローレンツ力は電荷1個が受ける力のことで、この式は導体の中を動く電荷が受けた力を、導体全体で合計したものです。つながりを4行で確かめておきます。
電荷1個(電荷 q、速さ v、磁界と直角)が受ける力:f=qvB
断面積 S、数密度 n のとき電流は I=nqvS
長さ l の中にある電荷の数は nSl 個
合計 F=(nSl)×(qvB)=(nqvS)lB=BIl
並べ替えただけで、I の定義がそのまま現れます。この組み立てを知っていると、電荷1個の問題(サイクロトロン運動など)と導体の問題を同じ枠組みで扱えます。電荷1個が磁界の中を動く場合、力は速度に直角なので速さは変わらず、円運動になります。
sinθ の値は、電卓に頼れない
電気技術者試験センターは、試験で使える電卓について「数式が記憶できる電卓」「関数電卓」「印字機能を有する電卓」は使用できず、使用した場合は不正行為になると示しています。同時に、開平計算(√)が必要な問題があるため√機能付きの電卓を使うようにとも書かれています。
つまりsin30°や sin60°を電卓で出すことはできません。問題に出てくる角度は限られているので、値のほうを覚えておきます。
| θ | sinθ | F は最大の何倍か |
|---|---|---|
| 0°(平行) | 0 | 0(力は働かない) |
| 30° | 0.5 | 半分 |
| 45° | √2/2≒0.707 | 約7割 |
| 60° | √3/2≒0.866 | 約87% |
| 90°(直角) | 1 | 最大(F=BIl) |
電流と磁界が平行なら力は0です。「磁界の中に導体があるのだから何か力が働くはずだ」と考えてしまいがちですが、向きがそろっていれば力は出ません。磁気・電磁力ミニテストでも、角度の扱いを変えた選択肢が並びます。
平行導体間の力|同じ向きで引き合う理由を、手順で確かめる
式は、直線電流の磁界から組み立てられる
2本の平行な導体に電流を流すと、互いに力を及ぼし合います。新しい公式を覚える必要はなく、「1本目がつくった磁界の中に、2本目が置かれている」と読み替えるだけで出てきます。
1本目が距離 d の位置につくる磁束密度:B1=μ0I1/(2πd)
2本目(長さ l)が受ける力:F=B1I2l
単位長さあたり:F/l=μ0I1I2/(2πd) [N/m]
答えの単位が N ではなく N/m になっていることに注意します。平行導体の問題は「単位長さあたりの力」を聞かれることが多く、導体の長さが与えられている場合はそれを掛けて N にします。また力は電流の積に比例するので、両方の電流が2倍になれば力は4倍です。
電荷のときと逆に見えるのは、なぜか
同じ符号の電荷は反発するのに、同じ向きの電流は引き合います。逆だと覚えるのではなく、右ねじと左手で確かめられるようにしておくほうが確実です。手順は3段階です。
- 1本目の電流に右手の親指を合わせ、2本目がある場所での磁界の向きを読む。
- その向きに左手の人差し指を合わせ、中指を2本目の電流の向きに合わせる。
- 親指が指す向きが、2本目が受ける力の向き。
たとえば2本が横に並んでいて、どちらの電流も手前から奥へ流れているとします。1本目がつくる磁界は、2本目の位置では下向き(右ねじで確認)。左手の人差し指を下、中指を奥へ向けると、親指は1本目のほうを指します。これが引力です。片方の電流だけを逆にすると中指だけがひっくり返るので、親指も反転して斥力になります。
覚え方より、確かめ方を持っておく。「同方向は引力」は結論として覚えて構いませんが、試験本番で自信がなくなったときに30秒で確かめ直せる手順があると、迷いが答えを変えてしまうことがなくなります。上の3段階は、導体が3本以上ある問題でも同じように使えます。
計算例2|短絡電流が母線に与える力
設定。受電設備の2本の母線が 0.15 m離れて平行に並んでいます。短絡事故で、両方に 20 kAが逆向きに流れた瞬間を考えます。単位長さあたりに働く力を求めます。μ0=4π×10−7 H/m とします。
計算。μ0/(2π)=2×10−7 を使います。20 kA=2.0×104 A です。
F/l=2×10−7×(2.0×104)2/0.15
=2×10−7×4.0×108/0.15=80/0.15=約 533 N/m
読み方。逆向きなので斥力、つまり母線どうしが引き離される向きの力です。1 mあたり 533 Nは、54 kgほどの物をぶら下げたのと同じ大きさになります。母線が碍子でしっかり支持され、支持間隔が決められているのは、この力に耐える必要があるからです。
この数字の位置づけ。実際の短絡では電流が時間とともに変化し、直流分が重なって最初の半サイクルで波高値がさらに大きくなります。三相では3本の配置によって係数も変わります。ここで出した 533 N/m は「電流の2乗で効く」ことを確かめるための、直流とみなした概算です。実設計の値ではありません。短絡電流そのものの求め方は変電所の設備で扱います。
電流の2乗で効くということは、電流が10倍なら力は100倍ということです。通常運転で 200 Aしか流れていない母線でも、短絡時に 20 kAが流れれば力は1万倍になります。平常時に問題がないことは、事故時に問題がないことを意味しません。
磁気回路|電気回路と同じ形で解けるが、同じものではない
起磁力・磁束・磁気抵抗の対応
鉄心のように磁束の通り道が決まっている場合、電気回路とまったく同じ形で計算できます。これを磁気回路といいます。
| 電気回路 | 磁気回路 |
|---|---|
| 起電力 V [V] (流れを生む原因) |
起磁力 NI [A] |
| 電流 I [A] (通り道を通る量) |
磁束 Φ [Wb] |
| 抵抗 R=ρl/S (通りにくさ) |
磁気抵抗 Rm=l/(μ0μrS) |
| I=V/R (オームの法則にあたる式) |
Φ=NI/Rm |
磁気抵抗の単位は A/Wb です。抵抗の式で抵抗率 ρ が分子にあったのに対し、磁気抵抗では透磁率が分母にある点が違います。透磁率は「通りやすさ」を表す量なので、電気回路でいえば導電率に対応するからです。直列・並列の合成のしかたは電気抵抗とまったく同じで、直列なら和、並列なら和分の積です。
計算例3|エアギャップ 1.0 mmが、磁気抵抗の9割を占める
設定。平均磁路長 0.30 m、断面積 5.0 cm2、比透磁率 3,000(この範囲では一定とみなせるものとします)の環状鉄心に、幅 1.0 mmの空隙(エアギャップ)を1か所つくり、500回巻きのコイルに 1.0 Aを流します。磁束 Φ と、鉄心中の磁束密度 B を求めます。漏れ磁束と空隙での磁束の広がりは無視します。
鉄の部分の磁気抵抗。鉄の長さは 0.30−0.001=0.299 m、断面積は 5.0 cm2=5.0×10−4 m2 です。
Rm1=0.299/(4π×10−7×3,000×5.0×10−4)=約 1.59×105 A/Wb
空隙の磁気抵抗。空気なので μr は1です。長さは鉄の部分の約300分の1しかありませんが、透磁率が 3,000分の1なので、磁気抵抗は鉄の部分の約10倍になります。
Rm2=0.001/(4π×10−7×5.0×10−4)=約 1.59×106 A/Wb
直列なので足す。Rm=1.59×105+1.59×106=約 1.75×106 A/Wb
Φ=NI/Rm=500×1.0/(1.75×106)=約 2.86×10−4 Wb=0.286 mWb
B=Φ/S=2.86×10−4/(5.0×10−4)=約 0.57 T
ここが要点。空隙は磁路の長さでいえば全体の 0.33% しかないのに、磁気抵抗では全体の 約 91% を占めています。磁気回路の性質は、たいてい空隙が決めてしまいます。
空隙をなくしたらどうなるかも計算しておくと、対比がはっきりします。Rm=0.30/(4π×10−7×3,000×5.0×10−4)=約 1.59×105 A/Wb となり、Φ=約 3.1 mWb、B=約 6.3 T。磁束は11倍です。ただしこの 6.3 T は現実には出ません。次に説明する磁気飽和が先に起きて、比透磁率が 3,000 を大きく下回るからです。「μr が一定」という前提を置いた計算なので、結果が大きな B になったときは前提のほうを疑います。
μr は一定ではない|磁気飽和とヒステリシス
鉄心の比透磁率は、カタログに「3,000」のように書かれていても、どの磁束密度で使うかによって変わります。磁界 H を強くしていくと B は増えますが、ある程度から増え方が鈍り、やがてほとんど増えなくなります。これが磁気飽和です。
電磁鋼板では、おおむね 1.5〜2 T あたりから飽和の影響が強く出ます(材料や規格によって違うので、実際の値は材料のデータを確認します)。飽和した領域では B が増えないので、μr=B/(μ0H) は小さくなり、磁気抵抗は大きくなります。
さらに、H を増やしてから減らすと、B は同じ道を戻らず輪を描きます(ヒステリシス)。この輪の面積が1サイクルあたりの損失になり、変圧器や電動機の鉄損の一部になります。鉄損の扱いは変圧器の等価回路と計算、磁性材料の種類は電気材料の種類と特性で扱います。
電気回路と同じではない、3つの点
| 違い | 内容 |
|---|---|
| 漏れがある | 絶縁物の抵抗は導体の桁違いに大きいので電流はほぼ漏れませんが、空気の磁気抵抗は鉄心の数千倍程度しかありません。鉄心の外へ漏れる磁束は無視できない量になります |
| 定数が一定でない | 電気抵抗は(温度が同じなら)電流によらず一定ですが、磁気抵抗は磁束密度によって変わります。飽和すると、同じ起磁力でも磁束が増えなくなります |
| 流れてはいない | 電流は電荷が実際に動いてジュール熱を出しますが、磁束は何かが動いているわけではなく、磁気抵抗の中で熱を出すこともありません。鉄損はヒステリシスと渦電流によるもので、Φ2Rm のような式では出ません |
ビルメンの現場では|磁気が顔を出す場面
理論科目の磁気は抽象的に見えますが、設備の点検で出会う現象の多くがここにつながっています。
- 変圧器のうなり音。鉄心の材料は磁化されるとごくわずかに伸び縮みします(磁歪)。商用周波数で磁束の向きが変わるたびに伸縮するので、周波数の2倍にあたる音が出ます。音が急に大きくなったときは、電圧が高い、過負荷、鉄心の締め付けのゆるみなどを疑います。
- 電磁接触器が吸い付く力。可動鉄心が引き寄せられるのは電磁力です。接点が振動する、投入しても保持しないといった症状は、コイルの電圧が不足して起磁力 NI が足りない場合に起こります。
- 変流器(CT)の二次側を開放してはいけない理由。二次側を開くと二次電流による打ち消しがなくなり、一次電流のつくる起磁力がそのまま鉄心にかかります。深く飽和して高い電圧が発生するため、作業では必ず二次側を短絡してから切り離します。
- 電動機のトルク。回転子の導体に流れる電流と、固定子がつくる磁界から電磁力が生まれ、それが回転力になります。直流機の構造と原理や誘導電動機の原理と構造は、この記事の F=BIl を土台にしています。
- 磁束密度の規制値。上で引用した電技省令第27条の2のとおり、電線路や変電所については商用周波数で 200 µT 以下という基準があります。数値だけでなく、どこに施設する場合の規定かをあわせて押さえます。
理解できたか確かめる3問
ここまでの内容だけで解けます。数値は解き方を追いやすいように選んだもので、実在する機器の値ではありません。μ0=4π×10−7 H/m とします。
確認1|ソレノイドに鉄心を入れると H と B はどうなるか
巻数 750、長さ 0.25 mの十分に長いソレノイドに 0.40 Aを流しています。はじめ内部は空気でしたが、比透磁率 500(この範囲では一定とみなせるものとします)の鉄心をすき間なく挿入しました。挿入後の内部の H と B の組合せとして正しいものはどれですか。コイルの電流は 0.40 Aのまま変わらないものとします。
(1)H=1,200 A/m、B=1.5 mT
(2)H=1,200 A/m、B=0.75 T
(3)H=1,200 A/m、B=1.5 T
(4)H=3,000 A/m、B=1.9 T
(5)H=6.0×105 A/m、B=0.75 T
確認2|導体の内部の磁界
半径 5.0 mmの円形断面をもつ十分に長い導体に、60 Aの電流が断面全体に一様に流れています。導体の中心軸から 2.5 mmの点における磁界の強さとして正しいものはどれですか。
(1)0 A/m
(2)4.8×102 A/m
(3)9.5×102 A/m
(4)1.9×103 A/m
(5)3.8×103 A/m
確認3|電流と磁界が 30°のときの力
磁束密度 0.60 Tの一様な磁界の中に、長さ 0.40 mの直線導体が全長にわたって置かれ、12 Aの電流が流れています。電流の向きと磁界の向きのなす角は 30°です。導体に働く力の大きさとして正しいものはどれですか。
(1)0.72 N
(2)1.44 N
(3)2.49 N
(4)2.88 N
(5)4.8 N
押さえどころと、次に読むところ
- H は電流と形だけで決まり、B は材料を含む。鉄心を入れて変わるのは B だけで、H は変わらない。力や起電力が出るのは B の側。
- 単位で区別する。H=A/m、B=T=N/(A・m)=Wb/m2、Φ=Wb=V・s。答えの単位を見れば、どの量を求めたかが分かる。
- 3つの磁界の式はアンペアの周回路の法則という1つの考え方から出る。直線は円周 2πr で割り、ソレノイドはコイルの長さ l で割る。円形コイルだけはビオ・サバールの足し算で π が約分され、中心の1点でのみ NI/(2r)。
- 直線電流の式は導体の外側でしか使えない。内部は Ir/(2πa2) で、中心からの距離に比例する。
- F=BIl sinθ の θ は電流と磁界のなす角。平行なら力は0。試験では関数電卓が使えないので、sin の値のほうを覚えておく。
- F=BIl はローレンツ力 qvB を導体全体で合計したもの。名前だけで覚えず、組み立てを追えるようにしておく。
- 平行導体の力は電流の積に比例するので、短絡時には平常時の何千倍にもなる。同方向で引力になることは、右ねじと左手の3段階で確かめられる。
- 磁気回路は電気回路と同じ形で解けるが、漏れる・μr が一定でない・磁束は流れではないという3点が違う。空隙があれば、磁気抵抗はほぼ空隙が決める。
- 電線路・変電所などの磁束密度は、電技省令第27条の2で商用周波数 200 µT 以下と定められている。数値とあわせて適用範囲まで読む。
手を動かして確かめる
- 磁気・電磁力ミニテスト第1回:直線電流の単位換算、ソレノイドと比透磁率、面の傾きを含む磁束、導体に働く力の大きさと向き、平行導体の力を、五肢択一の5問で試す。
- ミニテスト第2回/第3回:切り口を変えた追加の演習。単位の選び方、磁気回路の組み立て、磁気飽和の読み取りを、短い設問で重ねて確認できる。
- コンデンサの基礎と計算:前のテーマ。材料を含む量と含まない量の分け方、直列・並列の合成が、磁気ではどう対応するかを見比べる。
- 電磁誘導とインダクタンス:次のテーマ。この記事の Φ が変化したときに何が起こるか。フレミングの右手の法則もこちら。
- 静電気とクーロンの法則:クーロンの法則の形と、E と D の使い分け。磁気の対応関係の出どころ。
- 直流機の構造と原理/誘導電動機の原理と構造:F=BIl が回転力になる仕組み。
- 変圧器の等価回路と計算/電気材料の種類と特性:ヒステリシスと渦電流による鉄損、磁性材料の選び方。
- 電験三種とは?2026年度の日程と科目合格の仕組み:申込みから合格までの流れと、科目合格が何回まで持ち越せるか。学習の順番を決めるときに。
- NIST「vacuum magnetic permeability」:真空の透磁率の CODATA 2022 推奨値と、その不確かさ。
- e-Gov法令検索「電気設備に関する技術基準を定める省令」:第27条の2の原文。適用範囲がどう限定されているかを自分の目で確かめる。
- 電気技術者試験センター「第三種電気主任技術者の試験概要」:この記事で引用した、使用できる電卓の条件と科目ごとの出題範囲。
- 同センター「試験の問題と解答」:実際に出題された磁気の設問で、「十分に長い」「一様な」といった前提がどう書き添えられているかを確かめる。
この記事の根拠は、2026年9月20日に原文へあたって確かめています。透磁率の値は、NISTのサイトにあるCODATA 2022の推奨値、磁束密度の基準値とその適用範囲はe-Gov法令検索で読んだ電気設備に関する技術基準を定める省令 第27条の2、科目の出題範囲と電卓の条件は電気技術者試験センターの試験概要によります。いっぽう、計算例と確認問題に出てくる電流・寸法・巻数・比透磁率は、計算の途中を追いやすくするために当サイトで選んだ値です。特定の製品や設備を表したものではありませんから、現物を扱うときは銘板と取扱説明書に書かれた値を優先してください。
※当サイトの画像にはAI生成のものが含まれており、実際の機器・器具とは外観が異なる場合があります。問題・解答の内容には細心の注意を払っておりますが、誤りが含まれる可能性があります。学習の参考としてご活用いただき、最終的な確認は公式テキスト・法令等で行ってください。当サイトの情報に基づく判断によって生じた損害について、一切の責任を負いかねます。
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