直流回路の基礎と直流回路の解析で扱ったのは、電圧も電流も時間がたっても変わらない回路でした。建物のコンセントや分電盤に来ている電気は違います。1秒間に50回または60回、正と負のあいだを行って戻る交流です。値が刻々と変わる量を「100 V」「15 A」のように1つの数で言うにはどうするのか。2つの交流の山がずれているとき、そのずれをどう数えるのか。この記事はそこを扱います。どの公式も短いのですが、どんな波形に対して成り立つのか、どの区間で平均したのか、何と何を比べているのかを取り違えると、正しい公式から違う答えが出てきます。そのため、公式ごとに使える条件を書き添えました。
この記事で押さえること
- 瞬時値の式 v=Vm sin(ωt+θ) で、sinの前の数は最大値。括弧の中は角度で、1周期で 2π rad 進む。
- 周波数 f[Hz]と角周波数 ω[rad/s]は2π倍違う別の量。数字だけ書かず、単位で区別する。
- 実効値は「抵抗で同じ電力を出す直流の値」で、瞬時値を2乗して平均し、平方根をとったもの。Vm/√2 になるのは正弦波のときだけ。
- 平均値は、どの区間で平均したかで値が変わる。1周期の符号つき平均は0、正の半周期なら 2Vm/π。
- 位相差を一定の値として比べられるのは周波数が同じ波どうし。sinとcos、係数の負号をそろえてから引き算する。
- 周波数が同じ正弦波は、フェーザ(矢印・複素数)にすれば足し引きできる。実効値の数字をそのまま足してよいのは、同相のときだけ。
電気技術者試験センターが公表している理論科目の範囲は大まかな区分だけで、単元ごとの出題数や配点までは示されていません。ただ、このあとに続くRLC回路、交流電力、三相交流、電気計測は、どれもこの記事の瞬時値・実効値・位相の読み方を前提にしています。電力科目や機械科目でも、電圧・電流は実効値で、角度は位相差で書かれるのがふつうです。交流を扱う計算の入口と考えてください。
交流の電圧はなぜ正弦波になるのか
一様な磁界の中で、巻数 N、面積 S のコイルを一定の角速度 ω で回します。時刻0でコイルの面が磁界に垂直だった(磁束がいちばん多く貫いていた)とすると、コイルを貫く磁束は Φ=BS cos ωt と変わっていきます。Φ=BS cosθ の θ が変わる場合は電磁誘導とインダクタンスで扱ったとおりで、ファラデーの法則で時間変化をとると、次の起電力が出ます。
回転するコイルの起電力
e=NBSω sin ωt[V]
最大値は Em=NBSω。起電力の正の向きの決め方は1226のとおり。
面が磁界に垂直で、磁束がいちばん多いときに起電力は0。面が磁界と平行になり、磁束が0の瞬間に起電力は最大です。起電力を決めているのは磁束の量ではなく、磁束が変わる速さだからです。この式がきれいな正弦波になるのは、磁界が一様で、回る速さが一定のときに限られます。実際の発電機は、磁極の形や巻線の配置を工夫して、起電力ができるだけ正弦波に近くなるように作られています。
磁極が1組(2極)なら、1回転で1周期です。磁極が p 極あれば、1回転のあいだに p/2 周期ぶん進むので、回転速度を N[min−1]として f=pN/120 になります。発電機と電動機の回転速度の話は、機械科目の同期機の原理と特性で続きを扱います。
計算例1|コイルを回す速さを変えると、何が変わるか
設定。巻数80、0.10 m×0.15 m(面積 0.015 m2)の長方形コイルを、磁束密度 0.50 T の一様な磁界の中で、毎秒30回転(1,800 min−1)で回す。磁極は1組とする。
① 1回転で1周期なので f=30 Hz、ω=2π×30=188.5 rad/s
② 最大値 Em=80×0.50×0.015×188.5=113.1 V
③ 実効値 113.1/√2=80.0 V
回す速さを2倍(毎秒60回転)にすると、周波数は60 Hz、最大値は226.2 V、実効値は160.0 V と、周波数と電圧が同時に2倍になります。直流の発電機を速く回したときと違い、交流では周波数も一緒に動く。電圧を保ったまま周波数だけ変えたいなら、磁束の大きさのほうを変える必要があります。
実効値の形に書き直しておく。Em=NωΦm=2πfNΦm(Φm=BS は磁束の最大値)を√2で割ると、E≒4.44fNΦm。今回の数値なら 4.44×30×80×0.0075=79.9 V で、③と(4.44の丸めの分を除いて)一致します。変圧器の原理で使う式はこれと同じ形で、インバータで電動機を回すとき電圧と周波数を比例させる(V/f一定)のも、この式から磁束を一定に保つためです(誘導電動機の始動法と速度制御)。
瞬時値の式を読む
正弦波の瞬時値
v=Vm sin(ωt+θ)[V]
| 記号 | 意味と単位 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| v | 瞬時値。時刻 t での値[V] | 負の値は、決めておいた正の向きと逆向きという意味 |
| Vm | 最大値(振幅)[V] | sinの前の数。実効値ではない |
| ω | 角周波数[rad/s] | 周波数[Hz]の2π倍。混同しない |
| θ | 初期位相。t=0 での角度[rad] | 度で書かれていたら、rad に直してから ωt と足す |
| ωt+θ | 位相。その時刻での角度[rad] | 1周期たつと、ちょうど 2π rad 増える |
瞬時値が負になるのは、電流でいえば、回路図に描いた矢印と逆向きに流れている瞬間です。直流回路の解析で「仮定した向きと逆なら答えが負になる」と書いたのと同じで、交流では半周期ごとにそれが起こります。だから交流でも、電圧の極性と電流の矢印を最初に決めておくことが欠かせません。
sinとcos、負の係数は、sinの形にそろえてから読む
問題によっては、cosで書かれていたり、係数に負号がついていたりします。そのままでは初期位相を読めないので、次の関係で「正の係数×sin」の形に直します。x=ωt+θ と置きます。
| 書かれている形 | sinの形に直すと |
|---|---|
| cos x | sin(x+π/2) (90°進める) |
| −sin x | sin(x+π) または sin(x−π) |
| −cos x | sin(x−π/2) (90°遅らせる) |
どれも、グラフを横にずらすと重なることを式にしたものです。cosの山は、sinの山より4分の1周期早く来ます。負号は波を上下に裏返すことで、正弦波では半周期ずらすのと同じ形になります。
周波数・周期・角周波数
f=1/T[Hz]
ω=2πf=2π/T[rad/s]
周期 T[s]は、波が1回くり返すのにかかる時間。周波数 f はその逆数で、1秒間に何周期入っているかです。角周波数 ω は、位相の角度が1秒間に何 rad 進むかを表します。1周期で 2π rad 進むので、ω は f の2π倍です。
Hz も rad/s も、組み立てると「1/s」です。それでも書き分けるのは、同じ現象を表したときに数値が2π倍違うからです。国際度量衡局のSI文書も、周波数の単位はヘルツ、角周波数と角速度の単位はラジアン毎秒として、両者を注意して区別するよう求めています。問題文に「314」とだけあったら、それが rad/s なのか Hz なのかを必ず単位で確かめてください。
| 50 Hz | 60 Hz | |
|---|---|---|
| 周期 T | 20.0 ms | 16.7 ms |
| 角周波数 ω | 100π ≒314 rad/s |
120π ≒377 rad/s |
| 4極の発電機・電動機の同期速度 | 1,500 min−1 | 1,800 min−1 |
| おもな地域 | 東日本 | 西日本 |
国内の商用電源は、おおむね静岡県の富士川と新潟県の糸魚川のあたりを境に、東が50 Hz、西が60 Hzです。境目の近くでは地域によって入り組んでいるので、実際の周波数は電力会社や設備の資料で確かめます。周波数を一定に保つことは、電気事業法第26条で一般送配電事業者の努力義務とされ、その値は電気事業法施行規則第38条第2項で「供給する電気の標準周波数に等しい値」と定められています。
実効値|抵抗で同じ電力を出す直流の値
交流の電圧を1つの数で言うとき、ふつうは実効値を使います。コンセントの「100 V」も、機器の銘板の「200 V」も、断りがなければ実効値です。定義は、同じ抵抗につないだとき、平均して同じ電力を消費させる直流の値です。
抵抗 R に瞬時値 v がかかると、その瞬間の電力は v2/R。これを1周期で平均した値と、直流 V のときの V2/R を等しいと置くと、V は「v2 の平均の平方根」になります。英語の root mean square(RMS)は、この手順(2乗して、平均して、平方根)をそのまま名前にしたものです。
実効値の定義(どんな波形にも使える)
V=√(v2 の1周期平均)
正弦波なら V=Vm/√2≒0.707Vm
正弦波で√2が出てくる理由は、積分を使わなくても説明できます。sin2x+cos2x=1 はいつでも成り立ちます。そして sin2 と cos2 のグラフは、4分の1周期ずらせば重なる同じ形なので、1周期で平均した値は等しいはずです。足して1になる等しい2つの平均は、どちらも1/2。したがって v2=Vm2 sin2ωt の平均は Vm2/2、その平方根が Vm/√2 です。
√2で割ってよいのは、純粋な正弦波のときだけです。方形波や三角波、半波整流した波では係数が変わります(次の次の節の表)。
周波数の違う成分が重なっているときは、それぞれの実効値の2乗を足して平方根をとります。直流分 Vdc に正弦波(実効値 Vac)が乗っているなら V=√(Vdc2+Vac2)、基本波と高調波なら V=√(V12+V32+…) です。2乗を展開したときに出てくる「異なる周波数どうしの積」は、1周期で平均すると0になるからです。直流回路の解析では「重ね合わせで電力は足せない」と書きましたが、あれは同じ周波数(直流どうし)の成分の話で、周波数が違う成分どうしなら電力は足せます。確認1で実際に使います。
平均値|どの区間で平均したかを添える
正弦波をそのまま1周期で平均すると、正の半周期と負の半周期が打ち消し合って0になります。そこで「平均値」と言うときは、どの区間を、どう平均したのかを必ず確かめます。
| 平均のとり方 | 正弦波の値 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 元の波を1周期で(符号つき) | 0 | 0でなければ直流分を含んでいる。その値が直流分の大きさ |
| 正の半周期だけ | 2Vm/π ≒0.637Vm |
教科書で単に「平均値」と呼ぶもの。波形率の分母 |
| 全波整流したあと1周期で(整流平均値) | 2Vm/π (半周期と同じ) |
全波整流回路の直流出力。平均値形の計器が実際に測っている量 |
| 半波整流したあと1周期で | Vm/π ≒0.318Vm |
半波整流回路の直流出力。半周期は0なので全波の半分 |
2Vm/π は、山1つぶんの面積を幅で割った値です。Vm sinx を0からπまで積分すると 2Vm、幅はπなので、平均は 2Vm/π になります。実効値 0.707Vm より少し小さいのは、2乗してから平均する実効値のほうが、大きい値を重く数えるからです。
波形率・波高率と、計器の読み
波形率=実効値/整流平均値
波高率=最大値(絶対値)/実効値
どちらも「その波形が正弦波からどれだけ離れているか」を表す目安です。正弦波の値(1.11と1.41)だけを覚えていると、ほかの波形で使えません。最大値が同じ Vm の波で比べると、次のようになります。実効値と整流平均値の列は、最大値 Vm を1としたときの値です。
| 波形 | 実効値 | 整流 平均値 |
波形率 | 波高率 |
|---|---|---|---|---|
| 正弦波 | 0.707 | 0.637 | 1.11 | 1.41 |
| 方形波 | 1 | 1 | 1.00 | 1.00 |
| 三角波 | 0.577 | 0.500 | 1.15 | 1.73 |
| 半波整流波 | 0.500 | 0.318 | 1.57 | 2.00 |
| 階段波(計算例2) | 0.707 | 0.500 | 1.41 | 1.41 |
方形波は、いつも最大値のまま向きだけ変わるので、3つの値がそろって比はどちらも1です。とがった波ほど、実効値に比べて最大値が大きくなり、波高率が上がります。
計算例2|実効値は正弦波と同じでも、平均値が違う波
設定。1周期を4等分し、はじめの4分の1は+140 V、次の4分の1は0 V、次は−140 V、最後は0 V、をくり返す電圧(3段の階段波)を、20 Ω の抵抗につなぐ。簡易なインバータの出力には、これに近い形のものがある。
① v2 は、周期の半分の時間は 1402=19,600、残りの半分は0。平均は 9,800 V2
② 実効値 √9,800=99.0 V
③ 電力 99.02/20=490 W。検算:140 V のときの 1402/20=980 W が、時間の半分だけ出ている
④ 整流平均値:絶対値は半分の時間だけ 140 V なので 70.0 V
⑤ 波形率 99.0/70.0=1.41、波高率 140/99.0=1.41
最大値140 V の正弦波と比べると、実効値は 140/√2=99.0 V で同じ、波高率も同じです。違うのは整流平均値だけで、正弦波なら 2×140/π=89.1 V、階段波は70.0 V です。抵抗の発熱(490 W)は、実効値が同じなのでどちらも同じになります。
平均値に応答する計器で測ると、整流平均値を正弦波の波形率1.11倍して表示するので、70.0×1.11=77.8 V。本当の実効値99.0 V より約21%低く表示されます。
電圧計や電流計には、測っている量によって大きく2つの種類があります。平均値に応答し、正弦波なら実効値になるよう目盛ったもの(整流形の指示計器や、平均値応答形のデジタルマルチメータ)と、実効値そのものを求める「真の実効値」形です。正弦波ならどちらも同じ値を示しますが、波形がゆがむと前者は読み違えます。
| 波形 | 平均値形の表示÷本当の実効値 |
|---|---|
| 正弦波 | 1.00(誤差なし) |
| 方形波 | 1.11(約11%高く出る) |
| 三角波 | 0.96(約4%低く出る) |
| 階段波(計算例2) | 0.79(約21%低く出る) |
値は、どれも「整流平均値×1.11÷実効値」で計算したものです。真の実効値形でも、測れる波高率や周波数には上限があり、それは計器の仕様書に書いてあります。指示計器の動作原理ごとの違いは電気計測と測定器で扱います。
位相と位相差
ωt+θ を位相、そのうち t=0 での値 θ を初期位相と呼びます。周波数が同じ2つの波 Am sin(ωt+θa) と Bm sin(ωt+θb) の位相の差は (ωt+θa)−(ωt+θb) で、ωt が消えて時刻によらない一定値 θa−θb になります。これが位相差です。
位相差 φ=θa−θb
時間差 Δt=|φ|/ω=T×|φ|/360°
φ>0 なら a が b より進み、φ<0 なら a が b より遅れ
引き算の前に、次の4つがそろっているかを確かめます。
- 周波数が同じ。ωが違うと、差に ωt が残って時刻とともに変わるので、一定の位相差は決まらない。
- 同じ関数・正の係数。上の表でsinの形にそろえる。cosのままとsinのままを比べると90°ずれる。
- 同じ角度の単位。rad と度を混ぜない。
- −180°〜+180°の範囲で言う。「210°進み」は「150°遅れ」と同じ関係で、ふつうは後者で答える。
進んでいる波は、同じ点(たとえば正の最大)に先に到達します。位相差ごとに、片方が正の最大の瞬間、もう片方がどこにいるかを並べると次のとおりです。
| 位相差 | 呼び方 | 片方が正の最大のとき、もう片方は |
|---|---|---|
| 0° | 同相 | 同時に正の最大 |
| ±90° | 直交(90°進み・遅れ) | 0を横切っている |
| 180° | 逆相 | 負の最大 |
計算例3|cosと負号の混じった2つの式から、ずれを時間で言う
設定。電圧 v=150 cos(120πt−π/4)[V]と、電流 i=−6 sin(120πt+5π/6)[A]。電流は電圧に対して何度、何 ms ずれているか。
① ωはどちらも120π rad/s。同じ60 Hz なので比べてよい。周期は16.67 ms
② 電圧をsinに:150 sin(120πt−π/4+π/2)=150 sin(120πt+π/4)。θv=+45°
③ 電流の負号を外す:6 sin(120πt+5π/6+π)。5π/6+π=11π/6 から2πを引いて −π/6。θi=−30°
④ φ=θi−θv=−30°−45°=−75°。電流は電圧より75°遅れ
⑤ 時間差 16.67×75/360=3.47 ms
検算。それぞれが正の最大になる時刻を出して引きます。電圧は 120πt+π/4=π/2 より t=1/480 s≒2.08 ms。電流は 120πt−π/6=π/2 より t=1/180 s≒5.56 ms。電流の山が3.47 ms 遅れて来るので、④⑤と一致します。
フェーザ|同じ周波数の正弦波を足し引きする
長さ Vm の矢印を、原点のまわりに反時計回りに角速度 ω で回すと、矢印の先の高さは Vm sin(ωt+θ) を描きます(θ は時刻0での矢印の角度)。周波数の同じ波は、すべての矢印が同じ速さで回るので、矢印どうしの角度の差はいつまでも変わりません。それなら、ある瞬間(ふつうは時刻0)で止めた絵だけで関係が分かります。この止めた矢印がフェーザです。
電気の計算では、矢印の長さを最大値ではなく実効値にとるのが一般的です。計器が示すのも、電力の計算に使うのも実効値だからです。この記事でも、とくに断らない限りフェーザの大きさは実効値です。
極形式と直交形式
V∠θ=V cosθ+jV sinθ
戻すときは、大きさ √(実部2+虚部2)、角度 tan−1(虚部/実部)(実部が負なら180°を足す)
電気では電流の記号に i を使うので、虚数単位は j と書きます(j2=−1)。j を掛けることは、矢印を+90°回すことと同じです。足し算・引き算は直交形式で実部どうし・虚部どうし、掛け算・割り算は極形式で大きさを掛け割りし、角度を足し引きすると楽です。
フェーザで扱えるのは、周波数が同じ正弦波だけです。周波数が違う矢印は回る速さが違うので、止めた絵が1枚に決まりません。基本波と高調波が混ざった波は、周波数ごとに分けて計算し、実効値は2乗の和の平方根でまとめます(実効値の節の注意)。
計算例4|2つの電圧を直列に足す
設定。同じ周波数の v1=120√2 sin ωt[V]と v2=50√2 sin(ωt−π/3)[V]が直列に加わる。合計 v=v1+v2 の実効値と位相は。
① 実効値フェーザ:V1=120∠0° V、V2=50∠−60° V
② 直交形式:V2=50cos(−60°)+j50sin(−60°)=25.0−j43.3 V
③ 和:V=(120+25.0)+j(0−43.3)=145.0−j43.3 V
④ 大きさ √(145.02+43.32)=151.3 V、角度 tan−1(−43.3/145.0)=−16.6°
⑤ 瞬時値に戻すと v≒214.0 sin(ωt−16.6°)[V](151.3×√2≒214.0)
検算。ωt=90° の瞬間で比べます。v1 は 169.7 V、v2 は 70.7×sin30°=35.4 V、和は205.1 V。⑤の式では 214.0×sin73.4°=205.1 V で一致します。
実効値をそのまま足した170 V は誤りです。2つの電圧計で別々に120 V と50 V を読んでも、両端をまとめて測れば151 V です。三角形の余弦定理で √(1202+502+2×120×50×cos60°) としても同じ151.3 V が出ます。
同じ大きさ100 V の2つの電圧を足すとき、位相差で結果がどう変わるかを並べておきます。
| 2つの位相差 | 和の大きさ |
|---|---|
| 0°(同相) | 200 V |
| 60° | 173 V(100×√3) |
| 90°(直交) | 141 V(100×√2) |
| 120° | 100 V |
| 180°(逆相) | 0 V |
引き算は、引くほうの矢印を180°回して足すのと同じです。単相3線式で、中性線から見た2本の外線の電圧はどちらも100 V で逆相なので、外線どうしの電圧はその差で200 V になります。三相交流で相電圧と線間電圧が√3倍違うのも、この表の60°の行と同じ計算で、三相交流回路で扱います。
R・L・Cで電流の位相がずれる理由
位相差が実際に生まれる代表的な場所が、コイルとコンデンサです。ここでは理由だけ確かめ、組み合わせた回路の計算は次のテーマRLC回路とインピーダンスに回します。
正弦波のグラフの傾きは、0を横切る瞬間にいちばん急で、山の頂上では0です。だから「傾きの波」は、元の波より4分の1周期早く山を迎えます。式で書くと (sin ωt)の変化の速さ=ω cos ωt=ω sin(ωt+π/2)、つまり90°進んだ正弦波です。
| 素子 | 電圧と電流の関係 | 電圧に対する電流 | 電圧÷電流 |
|---|---|---|---|
| 抵抗 R | v=Ri | 同相 | R |
| コイル L | v は i の変化の速さ×L | 90°遅れ | ωL |
| コンデンサ C | i は v の変化の速さ×C | 90°進み | 1/(ωC) |
コイルでは、電流の「傾き」が電圧になるので、電圧のほうが90°進みます。言い換えると電流が90°遅れます。コンデンサはその逆で、電圧の「傾き」が電流になるので、電流が90°進みます。傾きには ω が掛かるので、コイルは周波数が高いほど電流を通しにくく(ωL)、コンデンサは周波数が高いほど通しやすく(1/(ωC))なります。周波数0の直流では、コイルは導線と同じ、コンデンサは切れた線と同じ扱いになり、これは過渡現象で「十分時間がたったあと」を考えるときに使います。ここでのコイルとコンデンサは、巻線の抵抗や漏れのない理想的なものとしています。
ビルメンの現場では、どこに出てくるか
- 電動機やポンプを50 Hz と60 Hz の地域のあいだで移設するとき。誘導電動機の回転速度は周波数にほぼ比例するので、50 Hz 用のポンプや送風機を60 Hz で回すと、回転が約1.2倍になり、流量と必要な動力が増えて電動機が過負荷になることがあります。銘板の周波数(50 Hz、60 Hz、50/60 Hz 共用)を先に確かめます。回転速度とすべりの関係は誘導電動機の原理と構造で扱います。
- インバータの出力側や、電子機器の電源線を測るとき。電圧や電流の波形が正弦波からずれているので、平均値形の計器では計算例2のように表示が大きく外れることがあります。真の実効値形の計器を使い、仕様書で測定できる波高率と周波数の範囲を確かめます。
- 絶縁や部品が耐えなければならないのは最大値。実効値100 V の電圧でも、1周期のうちに+141 V と−141 V の瞬間が1回ずつ来ます。直流回路の基礎で引いた電気事業法施行規則第38条第1項の上限107 V なら、最大値は約151 V です。コンデンサで平滑する整流回路では、負荷が軽いと直流側の電圧が交流の最大値近くまで上がることも、同じ理由です(半導体と電子回路)。
- 周波数は、発電と消費のつり合いを表している。使う電力が発電より多くなると発電機の回転が落ち、周波数が下がります。一般送配電事業者が周波数を標準周波数に保つよう求められているのはこのためで、大きく下がったときの系統の守り方は電力系統の保護と安定で扱います。
理解度チェック
3問とも、この記事で「使える条件」として書いたことを問う形にしてあります。解答を開く前に、どの条件を使う問題なのかを一言で言えるか試してください。解説では、5つの選択肢のそれぞれが、どの読み違いから出てくる数値なのかを示しています。
確認1|直流分の乗った電圧の実効値と電力
v=30+40√2 sin ωt[V]で表される電圧を、10 Ω の抵抗に加えた。この電圧の実効値と、抵抗が消費する平均電力の組合せとして正しいものはどれか。
(1)70 V、490 W
(2)50 V、250 W
(3)64.0 V、410 W
(4)40 V、160 W
(5)86.6 V、749 W
確認2|位相差を時間で答える
周波数60 Hz の電圧と電流が v=200 sin(120πt+π/9)[V]、i=−10 cos(120πt−2π/9)[A]で表される。電圧に対する電流の位相と、それに相当する時間差の組合せとして正しいものはどれか。
(1)電流が30°進み、1.39 ms
(2)電流が150°進み、6.94 ms
(3)電流が150°遅れ、6.94 ms
(4)電流が60°遅れ、2.78 ms
(5)電流が150°遅れ、8.33 ms
確認3|節点に流れ込む2つの交流電流
ある節点に、同じ周波数の電流 i1=5√2 sin ωt[A]と i2=3√2 sin(ωt+2π/3)[A]が流れ込み、残る1本の線から流れ出している。流れ出す電流の実効値に最も近いものはどれか。
(1)8.0 A (2)2.0 A (3)5.8 A (4)4.4 A (5)7.0 A
まとめ
- v=Vm sin(ωt+θ) のsinの前は最大値。cosや負号は、sinで正の係数の形にそろえてから読む。
- f=1/T、ω=2πf。Hz と rad/s は数値が2π倍違うので、必ず単位を書く。
- 回転するコイルの起電力の最大値は NBSω。回転を速くすると、周波数と電圧が一緒に上がる。
- 実効値は2乗の平均の平方根。√2で割れるのは正弦波だけ。周波数の違う成分は、実効値の2乗を足して平方根。
- 平均値は区間を添える。符号つき1周期なら0、正の半周期と全波整流後は2Vm/π。
- 波形率と波高率は波形で変わる。平均値形の計器は、正弦波以外で読み違える。
- 位相差は周波数が同じ波どうしで、±180°の範囲で言う。時間差は周期×角度/360°。
- フェーザは同じ周波数の正弦波の足し算の道具。実効値の数字をそのまま足せるのは同相のときだけ。
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- 交流回路ミニテスト第1回:瞬時値の式の読み取り、平均する区間、位相差と時間差、フェーザの和、R・L・Cの電流の位相を5問で。選択肢25個それぞれに、何を取り違えた値かの説明がついている。
- ミニテスト第2回と第3回:角周波数、波形率と波高率の定義、公称電圧が何の値か、周期と周波数、初期位相を、1問1テーマで確かめる。
- 直流回路の解析:前のテーマ。キルヒホッフの法則と電流の向きの決め方。交流でも瞬時値でそのまま使う。
- RLC回路とインピーダンス:次のテーマ。R・L・Cを組み合わせた回路を、この記事のフェーザで計算する。
- 交流電力と力率改善:実効値と位相差から、消費される電力と力率を出す。
- 三相交流回路:120°ずつずれた3つの電圧を、フェーザで組み合わせる。
- 過渡現象:スイッチを入れた直後の、まだ正弦波の定常状態になっていない区間。
- 電気計測と測定器:実効値を測る計器と平均値に応答する計器の、動作原理の違い。
- 電磁誘導とインダクタンス:回転するコイルの起電力の元になっているファラデーの法則。
- 変圧器の構造と原理・同期機の原理と特性:4.44fNΦm と f=pN/120 を、機械科目で使う。
- 電験三種とは?日程と科目合格の仕組み:試験の年間日程と、合格した科目の扱い。
- 第三種電気主任技術者の試験概要(電気技術者試験センター):理論科目の範囲の区分と、解答の方式。
- 試験の問題と解答(同センター):本番の問題で、瞬時値の式が rad と度のどちらで書かれているかを確かめられる。
- SI文書(国際度量衡局):ヘルツは周期的な現象にだけ使うこと、角周波数はラジアン毎秒で表すこと、位相角が1周期で2π rad 増えること。
- 電気事業法(e-Gov法令検索):第26条、電圧と周波数を維持する努力義務と、測定・記録の義務。
- 電気事業法施行規則(e-Gov法令検索):第38条第2項、維持すべき周波数の値。
確認日:2026年9月29日。周波数・角周波数・位相角の単位の扱いは国際度量衡局のSI文書(第9版、2026年6月の版4.01)の本文と表の注で、電圧と周波数を維持する義務は電気事業法第26条と同法施行規則第38条の原文で確かめました。理論科目がどこまでを範囲とし、どんな形式で答えるのかは、電気技術者試験センターが公開している案内で確かめています。例題と確認問題に使った電圧・電流・周波数は、途中の計算を追いやすいように当サイトで決めた値で、実在の設備の測定値ではありません。計器を使うときは、その計器の取扱説明書で、平均値形か真の実効値形か、測定できる波高率と周波数の範囲を確認してください。
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