前のテーマ磁気の基礎と電磁力では、電流が磁界をつくり、その磁界が電流に力を及ぼすところまでを見ました。この記事はその続きで、磁束 Φ が変わったときに何が起こるかを扱います。発電機も変圧器も、電磁接触器を切ったときに接点が光るのも、漏電遮断器が動くのも、もとをたどればすべてこの1つの法則です。
この記事で分かること
- 誘導起電力は「磁束がある」ことではなく「磁束が変わる」ことで生じる。何を変えても同じ式で扱える。
- ファラデーの法則の負号は、正の向きを自分で決めて初めて意味を持つ。大きさだけ聞かれているのか、符号まで聞かれているのかを問題文で見分ける。
- レンツの法則は「自然は変化を嫌う」という気分の話ではなく、エネルギー保存の言い換えである。
- e=Blv sinθ は、導体が v と B の両方に垂直なときの式。この条件を落とすと答えが合わない。
- 自己インダクタンスは L=N2/Rm と書ける。前のテーマの磁気抵抗がそのまま使える。
- 相互インダクタンスは、和動接続と差動接続の2回測るだけで求められる。
- コイルに蓄えた ½LI2 は、抵抗の発熱と違ってあとから取り出せる。だから電流を急に切ると高い電圧が出る。
電気技術者試験センターの試験概要では、理論科目の範囲として「電気及び磁気」「電気回路」「電子回路」「電気計測及び電子計測」が挙げられています。電磁誘導はこの1つ目に含まれます。ただしどの分野から何問出るかは回によって変わるので、この記事では「毎回何問出る」という書き方はしません。実際の出題のされ方は、同センターが公開している過去の問題と解答で確かめてください。
電磁誘導は「磁束が変わったとき」だけ起きる
コイルのそばに磁石を置いたままにしても、電圧は出ません。近づける、遠ざける、回す。どれもコイルを貫く磁束が変わるという点では同じです。逆にいえば、磁束を変えるやり方はいくつもあるのに、出てくる式は1つで済みます。
Φ を変える3つのやり方
| やり方 | Φ=BS cosθ のどこが変わっているか |
|---|---|
| 磁石やコイルを動かす 手回し発電機、回転する発電機 |
コイルの位置での B が変わる。距離が変われば磁束密度が変わるため |
| 電流を変える 変圧器、自己誘導 |
B が変わる。磁石は動いていないが、電流がつくる磁界が変わっている |
| 面の大きさや向きを変える レールの上を滑る導体棒、回転するコイル |
S または θ が変わる。B は一様なままでも起電力は出る |
3つ目の θ は、面の法線(面に垂直に立てた矢印)と磁界のなす角です。面と磁界のなす角ではありません。磁界が面を垂直に貫くとき θ=0 で Φ=BS、磁界が面と平行にかすめるとき θ=90° で Φ=0 です。ここを取り違えると sin と cos が入れ替わります。
記号と単位をそろえておく
| 量と単位 | 意味と注意点 |
|---|---|
| Φ[Wb] | 1巻あたりの磁束。Wb=V・s でもある。この形で書くと「磁束の変化が電圧×時間」だと見えてくる |
| λ=NΦ[Wb] | 磁束鎖交数。巻数は無次元なので単位は Wb のままだが、区別のため「Wb・回」と書く教材もある |
| L、M[H] | 自己/相互インダクタンス。H=Wb/A=V・s/A。「1 A流したとき何 Wb鎖交するか」と読める |
| e[V] | 誘導起電力。この記事では、大きさだけを指すときは |e| と書く |
| l[m] | 長さ。運動起電力では導体の長さ、ソレノイドではコイルの長さを指す。同じ記号が二役なので、どちらの話かを毎回確認する |
ファラデーの法則|負号は「正の向きを決めてから」読む
ファラデーの電磁誘導の法則(平均値)
e=−N・ΔΦ/Δt=−Δλ/Δt [V]
Δ を使った式は、Δt の間の平均を表します。磁束が一定の割合で変わっているなら、平均でも途中の値でも同じです。そうでない場合、ある瞬間の値は e=−N・dΦ/dt という微分の形になります。電験三種では「一様に変化した」と書かれた平均の問題がほとんどですが、問題文に「一様に」とあるかどうかは読み落とさないでください。
負号を使うなら、先に「正の向き」を決める
負号は、起電力が「磁束の変化を妨げる向き」に出ることを表しています。ただし向きは、基準がなければ言えません。ふつうは次の順で決めます。
- コイルを貫く向きのうち、どちらを磁束の正の向きとするかを決める(問題文の矢印に従う)。
- その向きに右ねじを進めるときにねじを回す向きを、起電力と電流の正の向きとする。
- この基準のもとで ΔΦ を符号つきで計算し、式にそのまま入れる。
この手順を踏まないまま負号だけ付けても、答えの符号は決まりません。逆に、問題が「大きさ」だけを聞いているなら、負号は外して絶対値で計算してかまいません。設問が「起電力の大きさ」なのか「基準の向きを正としたときの起電力」なのかで、やることが変わります。
計算例1|鉄心の磁束が落ちたときの起電力
設定。断面積 120 cm2の鉄心に150回巻きのコイルがあります。鉄心中の磁束密度が 0.80 T から 0.20 T へ、25 ms の間に一様に減りました。磁束は断面全体を垂直に貫き、漏れはないものとします。誘導起電力の大きさを求めます。
まず磁束に直す。120 cm2=1.20×10−2 m2 です(1 cm2=10−4 m2。長さの換算をそのまま使わないよう注意)。
Φ1=0.80×1.20×10−2=9.6×10−3 Wb=9.6 mWb
Φ2=0.20×1.20×10−2=2.4×10−3 Wb=2.4 mWb
鎖交数の変化で計算する。λ1=150×9.6×10−3=1.44 Wb、λ2=150×2.4×10−3=0.36 Wb なので、
Δλ=0.36−1.44=−1.08 Wb、e=−(−1.08)/(25×10−3)=+43.2 V
読み方。大きさは 43.2 V。符号が正になったのは、「磁束の正の向きに減った」ので、それを補おうとして正の向きの起電力が出たからです。もし正の向きを逆に取れば −43.2 V になります。符号は物理が決めるのではなく、自分が決めた基準との組合せで決まります。
面積の換算でつまずく人が多いところです。1 cm=10−2 m だからといって 1 cm2=10−2 m2 ではありません。2乗するので 10−4 です。体積なら 10−6。答えが100倍ずれたときは、まずここを疑ってください。
レンツの法則|「妨げる」のはエネルギー保存のため
誘導電流は、それを生じさせた磁束の変化を妨げる向きに流れます。磁束が増えようとすれば減らす向きに、減ろうとすれば増やす向きに流れる、というのがレンツの法則です。
ここで「自然は変化を嫌うから」と覚えても間違いではありませんが、理由はもっとはっきりしています。もし妨げるのではなく助ける向きだったら、エネルギーが無から湧いてしまうからです。
コイルにN極を近づける場面で考えます。実際には、コイル側にもN極ができて磁石を押し返すので、近づけるには手で仕事をしなければなりません。その仕事が電気エネルギーに変わります。もし逆に、コイル側にS極ができて磁石を引き込んだらどうなるか。磁石は勝手に加速しながら吸い込まれ、そのあいだ電流も流れ続けます。手は何もしていないのに、運動エネルギーと電気エネルギーが同時に増える。そんな装置は存在しません。
この「妨げる」性質は、身近なところでも見られます。強い磁石を銅やアルミのパイプの中に落とすと、ゆっくり落ちていきます。磁石が近づく側では磁束が増えるので増加を妨げる向きに、離れる側では減るので減少を妨げる向きに、パイプの中を渦電流が流れます。その結果、どちらの側からもブレーキがかかります。銅もアルミも磁石にはくっつかないのに、磁石の動きだけは止めるところが面白いところです。
運動起電力|導体が磁界を横切るとき
運動起電力(条件つき)
|e|=Blv sinθ [V]
一様な磁界 B の中を、長さ l の直線導体が速度 v で動く。θ は v と B のなす角。導体が v と B の両方に垂直であることが前提。
多くの教材が「θ は運動方向と磁界のなす角」とだけ書きますが、それだけでは足りません。導体そのものの向きも効きます。正しくは、導体の各点で v×B という向きに力が生まれ、そのうち導体に沿った成分だけが起電力になります。導体が v と B の両方に垂直なら、v×B がちょうど導体の向きを向くので、全部が起電力になって上の式になります。
試験問題は「導体・磁界・速度は互いに直角である」と書いてあることが多く、そのときは e=Blv です。書いていない場合は、図から3つの向きを確かめてから式を選びます。
右手は発電機、左手は電動機
| どちらの手か | 指の割り当て |
|---|---|
| 右手の法則 発電機。外から力を加えて電気を取り出す |
親指=導体の運動 v 人差し指=磁界 B 中指=誘導起電力 e |
| 左手の法則 電動機。電気を入れて力を取り出す |
親指=力 F 人差し指=磁界 B 中指=電流 I |
どちらの手かで迷ったら、「何を自分が与えて、何を取り出したいのか」で決めます。動かして電気がほしいなら右手、電気を入れて動かしたいなら左手です。左手の法則そのものは前のテーマで扱いました。
計算例2|レールの上の棒|手が使う力と、抵抗で消える電力は一致する
設定。間隔 0.80 m の2本の水平なレールが、抵抗 0.40 Ω で片端をつないであります。レール面に垂直な、磁束密度 0.25 T の一様な磁界の中で、レールに直角にのせた導体棒を 6.0 m/s で滑らせます。レールと棒の抵抗、摩擦は無視します。
①起電力。棒・磁界・速度が互いに直角なので、
|e|=Blv=0.25×0.80×6.0=1.2 V
②電流。回路は棒と抵抗だけなので、
I=|e|/R=1.2/0.40=3.0 A
③棒に働く力。電流が流れた棒は磁界の中にあるので、前のテーマの F=BIl が効きます。
F=0.25×3.0×0.80=0.60 N(向きは運動を妨げる側=レンツの法則)
④2つの電力を比べる。速度を保つには、この 0.60 N と同じ大きさの力で引き続ける必要があります。
手が出す仕事率=Fv=0.60×6.0=3.6 W
抵抗で消える電力=I2R=3.02×0.40=3.6 W
ここが要点。2つがぴったり一致します。発電とは、力学的な仕事を電気に置き換える作業であることが、この4行で確かめられます。レンツの法則が「妨げる向き」でなければ、この等式は成り立ちません。速度を2倍にすると e も I も F も2倍になるので、必要な仕事率は4倍です。
渦電流|塊の導体の中でも起電力は生まれる
ここまでは細い導線を前提にしてきましたが、磁束が変われば、太い金属の塊の中にも起電力が生まれます。塊の中には無数の閉じた道があるので、そこに渦を巻くように電流が流れます。これが渦電流です。
渦電流は、望む場合と望まない場合の両方があります。IH調理器は、なべ底に渦電流を流して抵抗で発熱させる装置です。渦電流ブレーキは、回転する円板に渦電流を流し、レンツの法則によるブレーキ力を取り出します。いっぽう変圧器や電動機の鉄心では、渦電流はただの損失(渦電流損)になります。
鉄損の2つの成分と、減らし方
| 損失と、よく使われる近似式 | 減らすには |
|---|---|
| 渦電流損 およそ (tfBm)2/ρ に比例 t=板厚、f=周波数、Bm=最大磁束密度、ρ=抵抗率 |
薄い鋼板を絶縁して重ねる(積層鉄心)。板厚の2乗で効くので、厚さを半分にすれば4分の1が目安。けい素を加えて抵抗率 ρ を上げるのも同じねらい |
| ヒステリシス損 およそ fBmn に比例 n はおおむね 1.6〜2 で、材料による |
ヒステリシス曲線の輪が細い材料を選ぶ。方向性けい素鋼板を磁束の向きにそろえて使う |
どちらの式も、係数は材料・板厚・加工のしかたで変わる実験式です。桁を合わせる計算には使えますが、「この式で何 W と決まる」と言い切れるものではありません。材料ごとの損失は、メーカーが示す鉄損曲線(W17/50 のような表記)を見ます。磁性材料の種類は電気材料の種類と特性、変圧器での扱いは変圧器の等価回路と計算で詳しく見ます。
渦電流は、自分を生んだ磁束を打ち消す向きに流れます。その結果、交流の磁界や電流は導体の奥まで入りにくくなります(表皮効果)。太い電線を1本使うより細い素線をより合わせるほうが有利なのは、これが理由の1つです。周波数が高いほど効きます。
自己インダクタンス|コイルが「電流の変化」を嫌う度合い
コイル自身の電流が変われば、コイル自身を貫く磁束も変わります。すると自分で自分に起電力を出すことになります。これが自己誘導です。
自己インダクタンスの定義と、自己誘導起電力
L=NΦ/I=λ/I [H]
eL=−L・Δi/Δt [V]
定義の式は「電流 I を流したとき、鎖交磁束が λ になった」という意味です。ここで大事なのは、L が定数になるのは λ と I が比例するあいだだけだということ。鉄心入りのコイルでは、電流を上げていくと前のテーマで見た磁気飽和が起き、Φ が増えなくなります。そうなると L は小さくなり、カタログの値は当てになりません。「L=一定」は前提であって、いつでも成り立つ性質ではありません。
ソレノイドの式は、磁気抵抗から出せる
公式を丸暗記する必要はありません。前のテーマの磁気回路(Φ=NI/Rm)を定義式に入れるだけです。
L=NΦ/I=N/I×(NI/Rm)=N2/Rm
磁気抵抗が Rm=l/(μ0μrS) の形(十分に長いソレノイドや、漏れの少ない環状鉄心)なら、そのまま
L=μ0μrN2S/l [H]
になります。L は巻数の2乗に比例します。巻数を2倍にすれば4倍、ただし同じ太さの線を同じ密度で巻き足せば長さ l も2倍になるので、実際は2倍にしかなりません。「何を一定に保ったままの話か」で答えが変わるところです。
L=N2/Rm という形で覚えておくと、空隙(エアギャップ)を入れるとインダクタンスが激しく下がる理由がすぐ分かります。空隙は磁気抵抗をはね上げるからです。リアクトルでわざと空隙を設けるのは、飽和しにくくしてインダクタンスを安定させるためです。
計算例3|同じ L を2通りで出し、切ったときの電圧まで見る
設定。長さ 0.20 m、断面積 4.0 cm2 の鉄心に400回巻いたコイルがあります。鉄心の比透磁率は800で、この範囲では一定とみなせるものとします。漏れ磁束は無視し、真空の透磁率には 4π×10−7 H/m を使います。
①公式から。4.0 cm2=4.0×10−4 m2 です。
L=4π×10−7×800×4002×4.0×10−4/0.20=約 0.32 H
②磁気抵抗から。同じ答えになるはずです。
Rm=0.20/(4π×10−7×800×4.0×10−4)=約 4.97×105 A/Wb
L=N2/Rm=1.6×105/(4.97×105)=約 0.32 H (一致)
③蓄えているエネルギー。電流を 2.5 A 流しているとき、
W=½LI2=0.5×0.32×2.52=約 1.0 J
④スイッチを切ったら。この電流が 1.0 ms で0まで落ちたとすると、
|eL|=L・|Δi|/Δt=0.32×2.5/(1.0×10−3)=約 800 V
ここが要点。もとの電源が 100 V でも 24 V でも関係なく、切り方しだいで数百 Vが出ます。この電圧が接点の間に加わるので、火花(アーク)が飛び、接点が荒れます。なお実際には、アークが発生した時点で電流の落ち方が変わるため、800 V はそのまま測れる値ではありません。「短く切るほど高い電圧が出る」という関係をつかむための概算として見てください。
相互インダクタンス|2つのコイルが磁束を分け合う
一方のコイル(1次)の電流が変わると、その磁束の一部が他方のコイル(2次)も貫いているため、2次側にも起電力が出ます。これが相互誘導で、その度合いが相互インダクタンス M です。
相互インダクタンス
M=N2Φ21/I1、 |e2|=M・|Δi1/Δt| [V]
M=k√(L1L2)、 0 ≦ k ≦ 1
Φ21 は「1次の電流がつくった磁束のうち、2次を貫いた分」です。ここから2つのことが分かります。
- k が1になるのは、漏れがまったくないときだけ。実際の変圧器は鉄心で磁束を閉じ込めて1に近づけますが、1にはなりません。空芯コイルを離して置けば k は0に近づきます。
- M は1次から見ても2次から見ても同じ値になります(相反性)。巻数が違っても、です。式の形を覚えるだけでなく、この性質があるおかげで「どちら向きに計算しても同じ」と分かります。
いっぽう、2次側のどちらの端子が正になるかは、M の大きさだけでは決まりません。巻く向きか、回路図のドット記号(●)が必要です。設問に極性を問う言葉がなければ、大きさだけ答えれば足ります。
2つのコイルを直列につなぐと
| つなぎ方 | 合成インダクタンスと、成り立つ条件 |
|---|---|
| 磁気結合がない直列 離して置いた、向きが直交している |
L=L1+L2 抵抗の直列と同じ形。M=0 のときだけ |
| 和動接続 直列。互いの磁束が助け合う向き |
L=L1+L2+2M 同じ鉄心に同じ向きに巻いた場合など |
| 差動接続 直列。互いの磁束が打ち消し合う向き |
L=L1+L2−2M 片方の巻く向きを逆にした場合など。k=1 かつ L1=L2 なら0になる |
| 並列 結合がない場合 |
L=L1L2/(L1+L2) こちらも抵抗と同じ形。結合があると式は複雑になる |
インダクタンスの合成は、コンデンサではなく抵抗と同じ形です(直列で和、並列で和分の積)。コンデンサは逆でしたから、ここで取り違えないようにします。
計算例4|2回測るだけで M が求まる
設定。同じ鉄心に巻かれた2つのコイルがあり、単体では L1=0.10 H、L2=0.30 H です。相互インダクタンスは M=0.080 H とします。直列につないだときの合成インダクタンスと結合係数を求めます。
和動接続:0.10+0.30+2×0.080=0.56 H
差動接続:0.10+0.30−2×0.080=0.24 H
結合係数。√(L1L2)=√(0.10×0.30)=√0.030=約 0.173 なので、
k=M/√(L1L2)=0.080/0.173=約 0.46
逆向きにも使える。上の2つの式を引き算すると 4M だけが残ります。
M=(L和−L差)/4=(0.56−0.24)/4=0.080 H
ここが要点。つなぎ替えて2回測れば、コイルを分解しなくても M が分かります。実験室で相互インダクタンスを測る定番の方法で、試験でも「和動と差動の測定値から M を求めよ」という形でよく問われます。ただしこの2回の測定だけでは k は決まりません。k を出すには L1 と L2 を別々に測る必要があります。
コイルに蓄えられるエネルギー|½LI2 はどこから出るか
電流を0から I まで増やしていくあいだ、コイルには L・di/dt の逆起電力が出ています。電源はそれに逆らって電流を押し込むので、そのぶんの仕事をしています。ある瞬間の仕事率は i×L・di/dt。これを電流が0から I になるまで足し上げると、
W=½LI2 [J]
になります。係数の ½ は、電流が0から I までだんだん増えたことから出てきます。最初から I が流れていたわけではないので、単純な LI2 にはなりません。コンデンサの ½ も同じ事情です。
コンデンサとの対応(と、対応が効かないところ)
| コンデンサ(電界に蓄える) | コイル(磁界に蓄える) |
|---|---|
| W=½CV2 | W=½LI2 |
| 電圧を急に変えられない 電流は一瞬で変えられる |
電流を急に変えられない 電圧は一瞬で変えられる |
| 直列で和分の積、並列で和 | 直列で和、並列で和分の積 ただし磁気結合があれば単純な和にならない |
| 切り離しても電荷が残る。放電してから触る | 切り離すと電流が続けられず、高い電圧が出る |
表の下2行のように、式はきれいに対応していても、現場での危なさの出方は違います。コンデンサは「つないでいないのに電圧が残っている」のが危険、コイルは「切った瞬間に電圧が跳ね上がる」のが危険です。
もう1つ大事なのは、この ½LI2 は抵抗の発熱と違って、あとから取り出せるということ。抵抗で消えたエネルギーは熱になって戻りませんが、コイルのエネルギーは磁界として蓄えられているので、電流を減らすときに回路へ返ってきます。計算例3で数百 Vが出たのは、この返ってくるエネルギーの行き場がなくなったからです。
ビルメンの現場では|電磁誘導が顔を出す場面
- 電磁接触器やリレーのコイルを切ったとき。計算例3のとおり、コイルの電流を急に断つと高い電圧が出ます。制御盤ではコイルと並列にダイオード(直流の場合)やサージ吸収素子を入れて、電流の逃げ道をつくります。これを省くと接点が荒れ、近くの電子回路が誤動作することもあります。パワーエレクトロニクスでも同じ考え方が出てきます。
- 漏電遮断器のZCT(零相変流器)。行きと帰りの電線をまとめて1つの鉄心に通すと、平常時は磁束が打ち消し合って0です。地絡があって行きと帰りに差ができると、その差だけの磁束が残り、鉄心に巻いた検出コイルに起電力が出ます。相互誘導で「差」だけを取り出す仕組みです。接地の話は接地工事で扱います。
- 変圧器。相互誘導そのものです。1次の交流電流が鉄心に磁束をつくり、2次に起電力を誘導します。動かない機械なのに電圧を変えられるのは、電磁誘導のおかげです。変圧器の構造と原理へ。
- 誘導電動機。回転磁界が回転子の導体を横切り、そこに誘導された電流と磁界のあいだに力が生まれて回ります。回転子と磁界に速度差(すべり)がないと磁束が変化しないので、力も出ません。誘導電動機の原理と構造へ。
- IH調理器と電磁調理器。コイルに高い周波数の電流を流し、なべ底に渦電流を流して発熱させます。なべが磁性体でないと効率が落ちるのは、鉄心と同じで磁束が集まらないためです。
- 計器用変成器を扱うとき。変流器の二次側を開けてはいけない理由は前のテーマで飽和の側から説明しましたが、そこで高い電圧が出るのは、飽和した鉄心の中で鎖交磁束が短時間に折れ曲がるように変わるためです。「危ないから開けるな」ではなく、Δλ/Δt が跳ね上がるから、と押さえておくと忘れません。
- 雷による誘導。近くに落雷があると、その電流がつくる急激な磁束変化で、離れた配線にも起電力が誘導されます。直撃でなくても機器が壊れるのはこのためです。
法令では|相互誘導が条文に顔を出す
送電線と通信線が長く並んで走っていると、送電線の電流がつくる磁束の一部が、通信線の作る回路を貫きます。2つの回路のあいだに相互インダクタンスがある、という状態そのものです。電流が変われば通信線に電圧が誘導されます。ここまで読んだ人なら、これが |e2|=M・|Δi1/Δt| の話だと分かるはずです。
この現象は、電気設備に関する技術基準を定める省令の第27条で扱われています。同条のうち、電磁誘導について述べている第2項と第3項を引きます。
第二十七条(架空電線路からの静電誘導作用又は電磁誘導作用による感電の防止)第2項・第3項
2 特別高圧の架空電線路は、電磁誘導作用により弱電流電線路(電力保安通信設備を除く。)を通じて人体に危害を及ぼすおそれがないように施設しなければならない。
3 電力保安通信設備は、架空電線路からの静電誘導作用又は電磁誘導作用により人体に危害を及ぼすおそれがないように施設しなければならない。
ここには数値がありません。同じ条の第1項には電界強度の具体的な値が書かれているのに、電磁誘導の側は「おそれがないように」という書き方で止まっています。理由は、誘導される電圧が M と電流の変化で決まるからです。M は線の間隔と並走する長さで変わり、電流は事故の種類で桁が変わります。1つの数字で線を引けない性質のものなので、満たすべき状態のほうが書いてあります。
磁束密度そのものについては、第27条の2に 200 µT という数値があります(前のテーマで読みました)。どの条文も対象は特別高圧の架空電線路などで、ビルの中の配線をしばるものではありません。数値は適用範囲とセットで覚えてください。送電線の側から見た誘導障害とその対策は架空送電線路、法令の全体像は電気設備技術基準・総則で扱っています。
理解できたか確かめる3問
どれも「公式を思い出せるか」ではなく、前提と符号をどう式に入れるかを見る問題です。電卓を出す前に、単位と基準の向きをもう一度確かめてください。
確認1|符号まで求める
250回巻きのコイルがあります。問題文の矢印を磁束の正の向きとしたとき、1巻あたりの磁束が −0.40 mWb から +1.60 mWb へ、8.0 ms の間に一様に変化しました。起電力の正の向きも同じ基準で定めるとき、e=−N・ΔΦ/Δt はいくらですか。
(1)−125 V
(2)−62.5 V
(3)−37.5 V
(4)+62.5 V
(5)−0.0625 V
確認2|巻数と長さを同時に変える
十分に長いソレノイドがあります。線を同じ太さ・同じ密度のまま巻き足して、巻数を2倍、コイルの長さも2倍にしました。断面積と鉄心の比透磁率は変わらず、比透磁率はこの範囲で一定、漏れ磁束は無視できるものとします。自己インダクタンス L と、同じ大きさの電流を流したときに蓄えられるエネルギー W は、それぞれ何倍になりますか。
(1)L は1倍、W は1倍
(2)L は2倍、W は2倍
(3)L は2倍、W は4倍
(4)L は4倍、W は4倍
(5)L は4倍、W は8倍
確認3|測定値から M と k を出す
2つのコイルを直列につなぎ、つなぐ向きを変えて2回測ったところ、合成インダクタンスは一方で 0.90 H、もう一方で 0.50 H でした。それぞれのコイル単体の値 L1、L2 は測っていません。相互インダクタンス M と結合係数 k について、正しい組合せはどれですか。
(1)M=0.20 H、k=0.29
(2)M=0.10 H、k=0.14
(3)M=0.10 H、k はこの測定だけでは決まらない
(4)M=0.40 H、k=0.57
(5)M=0.70 H、k=1
押さえどころと、次に読むところ
- 磁束が「ある」だけでは何も起きない。「変わる」と起電力が出る。何を変えたかにかかわらず、式は e=−Δλ/Δt の1つで済む。
- 負号を使うなら、先に磁束の正の向きを決め、右ねじで起電力の正の向きをそろえる。設問が大きさだけを聞いているなら絶対値でよい。
- Φ=BS cosθ の θ は面の法線から測る。面と磁界のなす角ではない。
- レンツの法則はエネルギー保存の言い換え。レールの上の棒では、手が出す仕事率 Fv と抵抗で消える I2R が一致する。
- e=Blv sinθ は、導体が v と B の両方に垂直なときの式。与えられていなければ図で確かめる。
- 渦電流損は板厚と周波数と磁束密度の2乗で効くので、鉄心は薄い板を重ねる。ヒステリシス損は周波数の1乗。どちらも係数は材料によるので、式は桁合わせに使う。
- L=N2/Rm。巻数の2乗に比例するが、長さも一緒に変わるなら効果は打ち消し合うぶんがある。飽和すれば L は一定ではなくなる。
- M=(L和−L差)/4。2回の測定で M は出るが、k を出すには L1 と L2 が別々に要る。
- インダクタンスの直並列は抵抗と同じ形。コンデンサとは逆。
- ½LI2 は取り出せるエネルギー。急に切れば行き場を失って高い電圧になる。
手を動かして確かめる
- 電磁誘導・インダクタンスミニテスト第1回:磁束鎖交数、運動起電力の極性、自己誘導の符号、相互インダクタンス、磁気エネルギーの5問。全25選択肢に誤りの理由がついている。
- ミニテスト第2回/第3回:短い設問で切り口を変えた追加演習。渦電流損の減らし方や結合係数の範囲など、用語の理解を問うものが多い。
- 磁気の基礎と電磁力:前のテーマ。この記事で使った F=BIl、磁気抵抗 Rm、磁気飽和はすべてこちらで扱っている。
- 直流回路の基礎:次のテーマ。オームの法則、合成抵抗、分圧と分流。計算例2で使った I=e/R の土台。
- 過渡現象:スイッチを入れた直後にコイルの電流がどう立ち上がるか。時定数 L/R はこの記事の L がそのまま出てくる。
- RLC回路とインピーダンス:交流では L が誘導性リアクタンス 2πfL として効く。自己誘導が交流回路でどう見えるか。
- コンデンサの基礎と計算:½CV2 と直並列の合成。コイルと逆になるところを見比べる。
- 変圧器の構造と原理/変圧器の等価回路と計算:相互誘導と鉄損が実機でどう扱われるか。
- 誘導電動機の原理と構造/直流機の構造と原理:誘導起電力が回転機のどこで働いているか。
- 電気材料の種類と特性:けい素鋼板や方向性電磁鋼板が、なぜ鉄損を下げられるのか。
- パワーエレクトロニクス:コイルの電流を切るときのサージと、その処理。
- 電験三種とは?日程と科目合格の仕組み:受験の流れと、科目合格をどう使うか。学習の順番を決めるときに。
- e-Gov法令検索(電気設備に関する技術基準を定める省令):上で引いた第27条第2項・第3項の原文。第1項との書きぶりの違いを見比べてほしい。
- 国際度量衡局(BIPM)「SI brochure」:Wb、T、H という組立単位が、どの基本単位から組み立てられているかの定義。
- 電気技術者試験センター(第三種電気主任技術者の試験概要):理論がどの範囲から出るか、解答はどの方式かの一次情報。
- 同センター(試験の問題と解答):本番の設問に「一様に変化」「互いに直角」がどう書き添えられているか、自分の目で見ておく。
出典の確認日は2026年9月20日です。条文はe-Gov法令検索の原文から引き、単位の組み立てはBIPMのSI文書、科目の範囲と解答方式は電気技術者試験センターの公表資料で確かめました。本文に出てくる巻数・寸法・比透磁率・電流・速度は、途中の数字を追えるように当サイトで決めた値であって、どこかの製品の仕様を写したものではありません。実物を扱うときは銘板と取扱説明書の値が優先します。鉄損の2つの式は実用上よく使われる近似で、係数は材料や加工のしかたで変わりますから、桁を合わせる用途にとどめてください。
※当サイトの画像にはAI生成のものが含まれており、実際の機器・器具とは外観が異なる場合があります。問題・解答の内容には細心の注意を払っておりますが、誤りが含まれる可能性があります。学習の参考としてご活用いただき、最終的な確認は公式テキスト・法令等で行ってください。当サイトの情報に基づく判断によって生じた損害について、一切の責任を負いかねます。
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